Friday, June 1, 2012

矛盾が深まる欧州危機と不安定さが続く米国市場



 









1.5月の株式市場
5月の株式市場は、欧州でフランスの政権交代に加え、ギリシャでの政権与党が過半数を取れず、617日に再選挙になるなど政治的な混迷が広がったことや米国での経済指標に悪化要因が見られたことから下落傾向を強めました。市場の大きな動きは以下のようなものでした。

51日:4月の製造業景況感指数が市場予想に反して、3月の53.4%から54.8%に増加したことから、ダウ価格は66ドル高(0.50%増加)。
54日:政府発表の雇用統計によれば4月の失業率は8.1%に減少したものの、非農業部門の雇用者増が11.5万人で予想の17万人を下回り、景気の不透明感から、168ドル安(1.27%減少)。
57日:6日のフランス大統領選挙やギリシャ総選挙で、財政規律を重視する現政権への国民の反対が強いことが判明、今後の見通しが不透明になったことから、30ドル安(0.23%減少)。但し、欧州株式市場はギリシャを除き、すべて上昇。
58日:ギリシャの政局混迷で、再び欧州危機の懸念が強まり、75ドル安(0.59%増加)。
59日:ギリシャの政局混迷から欧州連合の金融支援が一部遅れるとの情報やスペインの金融システムへの懸念から、97ドル安(0.75%減少)。
511日:昨日の取引終了後、JPモルガンが金融派生商品への過剰な投資から、現時点で約20億ドルの評価損を発表したことやギリシャの混迷で、34ドル安(0.27%減少)。
514日:ギリシャの政局混迷やJP モルガン・チェースの巨額損失による金融規制強化の警戒から、125ドル安(0.98%減少)。
515日:ギリシャの再選挙で欧州連合離脱の観測が出るなど、欧州への懸念から、63ドル安(0.50%減少)。ギリシャの銀行からの預金引き出しが7億ユーロに達したとの報道。
517日:ギリシャ問題がスペインの金融機関の格下げなどスペインに波及したことや米国景気の先行き懸念が伝えられ、156ドル安(1.24%減少)。
518日:格付け機関がギリシャの金融機関の引き下げたこと等、欧州債務問題の懸念が強く、73ドル安(0.59%減少)。6日連続の下げで、週間では451ドル安。
521日:ギリシャの債務問題の警戒感が弱まったこと、中国の景気後退懸念が和らいだことなどから、7営業日振りに反発、135ドル高(1.09%増加)。
525日:スペインの金融システムへの警戒感が高まり、75ドル安(0.6%減少)。
529日:中国政府の景気刺激策への期待感やギリシャのユーロ離脱観測が和らいだこともあり、126ドル高(1.01%増加)。2週間振りの高さ。
530日:スペイン政府の資金調達難やギリシャ選挙懸念から、161ドル安(1.28%減少)。

また、多くの投資家の関心を引いていたフェイスブックが5月18日にナスダックに上場しました。欧州市場の混乱とJP モルガン・チェースの約2億ドルの投機取引損失等といった市場の悪条件もあり、終値は公開価格の38ドルを多少上回る38.23ドルで終わりました。しかし、それ以降は下がり続け、5月末の株価は29.60ドルドルまで下落(6%減少)、新規上場の難しさを改めて認識させました。

2. 矛盾が深まる欧州危機
56日に大統領選挙が実施されたフランスでは、社会党のオランド候補が51.67%、現職のサルコジ大統領が48.33%で、予想された通り、オランド候補の勝利となりました。オランド候補は財政規律を強化するEU新条約を見直し、成長を促進する条項を主張していますが、既に25カ国が署名済みの新条約を見直すことは現実的ではないと言えます。但し、欧州の成長戦略策定に対してはドイツのメルケル首相も前向きと言われ、問題はどのような政策を優先させるかにあると見られます。オランド候補は追加の財政政策が必要との立場であるのに対し、メルケル首相は労働市場の構造改革や規制緩和で成長を促進したいとの考えで、今後両国でどのように調整していくかが鍵になっています。

一方、ギリシャは欧州連合からの資金支援を条件に、緊縮財政政策を受け入れた全ギリシャ社会主義運動(PASOK)と新民主主義党(ND)の連立与党はNDが改選前の72議席から108議席へ増加させたものの、PASOKが改選前の129議席から41議席へ大幅に減少し、過半数を失いました。その後、最初に第一党となったNDが、次に第二党となった急進左派連合(SYRIZA)が、最後にPASOKが連立政権を試みましたが、多数派を形成することはできませんでした。これにより、ギリシャは617日に、再び総選挙を行うことになりました。総選挙の結果がどのようなものになるにせよ、ギリシャの根本的な問題はギリシャの経済力からして、共通通貨ユーロに留まることのマイナス面が大きすぎることにあります。元来経済基盤が弱く、国際競争力のないギリシャが共通通貨ユーロの導入により、一層経済力を弱めた結果、更なる財政赤字を招き、緊縮政策と引き換えに欧州連合やIMFからの資金援助が必要になったものの、返済はできず、再び緊縮政策の緩和と債務削減の追加を求めるなど悪循環を繰り返しています。同じような困難な状況にある欧州連合メンバー国のアイルランドが欧州連合からの資金支援に対して、緊縮政策を受け入れ、何とか改善を目指している状況を考えれば、ギリシャの選択は緊縮政策を受け入れるか、あるいは欧州連合を自ら離脱するしか打開の道はないように思われます。

加えて、5月後半には深刻な不動産向け不良債権問題に陥っているスペインの大手銀行に対する投資家の懸念が強まり、欧米市場に不安定な動きを与え続けています。525日にスペイン政府は経営危機に陥っている大手銀行バンキアに対して190億ユーロの国債注入による資本増強案を発表しましたが、この前提には欧州中央銀行の資金支援が必要であり、欧州中央銀行から否定的な反応を受け、未だに解決の見通しがついていません。スペイン政府の10年もの国債金利が7%に達している現状では、スペイン政府に自力で追加の国債調達をする余裕はなく、欧州中央銀行からの資金支援以外に方法がないのが実態です。

いずれにしましても、現在の欧州連合は共通通貨ユーロの導入による相互の経済発展を図るという当初の目的から離れ、メンバー国の自国内部の経済困難さから、他のメンバー国がユーロ維持のために救済措置を検討・実行する組織に変わってしまっているように見られます。この点、欧州連合のあり方について根本的な見直しが必要な時期に来ているように思われます。

3.ロム二―候補の経済政策(雇用拡大効果は?)
経済回復と雇用拡大を目指す現職のオバマ大統領の経済政策は、1月の一般教書や経済教書、さらに雇用拡大法案やインフラ投資法案などで、明らかにされています。しかし、ロム二―候補の場合、討論会やスピーチを聞く限り、減税や規制緩和などを通じた民間企業指導型の経済への転換を求めているものの、現在の米国のようにリーマン破綻後の深刻な住宅不況や急速なグローバル化による構造変化が進んでいる中で、どのように経済成長や雇用増加を図ろうとするのか具体的な提案がなされていません。大きな方向としては、財政支出をGDPの20%以内にしたり、軍事費をGDPの4%に引き上げるなどを提案しており、1981年に誕生したレーガン大統領の政策に近いと見られます。当時の状況はそれまでの政府指導型経済が結果として、高率インフレと経済停滞が並存するスタグフレーションをもたらしており、小さな政府による市場経済優先の経済政策がある程度の効果を与える状況にありました。

しかしながら、今回の金融不況は行過ぎた規制緩和が、大手金融機関による米国住宅不動産モーゲージの過度な証券化を生じさせ、それが崩壊した後の構造的住宅不況が主因となっています。そうした状況の中で、ロム二―候補がスピーチで主張するように、住宅の需給に徹した市場原理を導入すれば、住宅物件価値の一層の下落から、不況が一段と深刻化するリスクが高まります。これに関連して、511日のニューヨーク株式市場終了後、米国最大手商業銀行のJP モルガン・チェースがロンドンオフィスで、デリバティブ取引で約20億ドルの損失を生じたことを発表しましたが、商業銀行には投機的取引を制限させるボルカー・ルールの早期適用が極めて重要です(本来あるべき姿は、1999年に廃止された銀行業務と証券業務の分離を定めた1933年のグラス・スティーガル法の復活にあるかも知れません)。しかし、これについても、ロム二―候補は規制強化に反対の立場を取っています。

一方、雇用拡大策についても、コストの安い発展途上国に生産やサービスのグローバル化が進む中で、いかにして米国内の雇用を増加させるのかの具体的な政策がロム二―候補から示されていません。彼がビジネスで成功させたプライベート・エクイティのBain Capital社であれば、投下資本の最大効率化のために、リストラや生産設備の海外移転で効率化を図ることができますが、大統領や州知事は国や州の従業員の雇用確保と雇用拡大が優先課題であり、彼のBain Capitalでの実績は殆ど役に立ちません。ちなみに、彼が州知事を務めたマサッツセッツ州では彼の在任中、全米で雇用創出数が全米で37位から47位に後退したという事実があります。

共和党の支持者の多くは、ロム二―候補あるいはライアン下院議員が掲げる小さな政府に基づく企業減税や富裕層減税に賛成しているのかもしれませんが、マクロで米国が抱える現在の経済成長や雇用拡大問題は減税と規制緩和で改善できるものではなく、そうした政策を優先させれば、ブッシュ政権時に生じた同じ問題が繰り返されるように思います。

現在の米国経済にとって問題なのは、経済回復や雇用拡大には金融面だけでなく、財政面からの刺激策が必要であるにもかかわらず、連邦議会、特に下院があまりに古すぎる“小さな政府”をイデオロギーとして主張するティーパーティー・グループに強く影響され、オバマ政権の提案をことごとく拒否していることです。

4.両院での多数派を狙う共和党
2010年の中間選挙で共和党の躍進をもたらし、その後、連邦議会、特に下院に大きな影響を与えたティーパーティー・グループが今回は上院で穏健派とされる共和党議員の再選を阻止すべく、大きな運動を起こしています。最初にターゲットにされたのがインディアナ州選出のルーガー上院議員で、共和党穏健派の重鎮として、党派を超えた米国外交政策の課題に取り組んできたことがティーパーティーの強い批判を受け、510日の共和党候補選挙の指名を獲得できませんでした。また、ネブラスカ州では州の上院議員を務めたフィッシャー候補がティーパーティー・グループの支援を受け、共和党候補となりました。

加えて、共和党が多数派を占めている州の多くで、選挙民が実際の選挙を行うに際しては本人である公的証明書の提示を義務づける法案を可決するなど選挙資格を厳密化しており、結果において従来の民主党の基盤である貧困層の投票が制限される恐れが出てきています。

この点、仮に11月初めの大統領選挙で、現職のオバマ大統領が再選されても、両院が共和党の多数支配になる可能性もあり、米国政府の政策実行が現在以上に難しくなる懸念があります。本来、世界の民主主義の模範となるべき米国政治が急激に変わってきていることに対して、UC バークレーのライシュ教授(クリントン第1期政権の労働長官)が、最近“Beyond Outrage”という本を著し、少数のグループによる利益支配の構造が進んでいるのではないかとの強い懸念と米国民の自覚を呼びかけているのは大変興味深いことです。
            (201261日: 村方 清)



Tuesday, May 1, 2012

緊縮財政政策で内部対立が高まる欧州連合と米国経済の現況















1.4月の株式市場とアップル社の業績発表

 4月の株式市場は、欧州でスペインの財政危機に伴う国債入札の懸念、中国やブラジルなどの新興国の景気後退に加え、米国でも一部の経済指標に悪化要因が出てくるなど、不安定な動きとなりました。市場の大きな動きは以下のようなものでした。

4月3日:13日に予定される連銀公開市場委員会の議事説明要旨で、追加金融緩和策の後退が伝わったことから、65ドル安(0.49%減少)。
4月4日:スペインの国債入札が不調であったことや前日の連銀の追加金融緩和策後退の観測から、125ドル安(0.95%減少)。
4月9日:4月6日に発表された3月の失業率は8.2%に減少したものの、非農業部門の雇用者増が12万人で予想の20万人を下回り、131ドル安(1%減少)で、13000ドル割れ。
4月10日:財政危機のスペインの国債利回りだけでなく、イタリアやポルトガルの国債利回りも上昇し、214ドル安(1.65ドル減少)。ナスダックも56ドル安で3000ドル割れ。
4月11日:スペインやイタリアの国債金利の上限が見え、欧州での株式市場全面高およびアルコアの第1四半期業績が市場予想を上回り、6日振りに反発、89ドル高(0.70%増加)。
4月12日:欧州危機への警戒感が後退したことや中国の経済成長への期待から、今年2番目上昇の181ドル高(1.41%増加)。
4月13日:欧州財政問題への警戒感や中国景気の後退懸念から、再び137ドル安(1.05%減少)。週間ベースで210ドルの下げで、今年最大の下げ幅。
4月17日:コカコーラなどの米国企業の業績が好調であったことやスペインの国債入札が順調であったことから、194ドル高(1.5%増加)。
4月18日:インテルやIBMなどの業績が予想を下回ったことや19日に実施する中長期のスペイン国債入札の警戒感から、82ドル安(0.63%減少)。
4月23日:ドイツなどの欧州景気低迷予測やフランス大統領選挙の結果による緊縮政策継続の懸念から、102ドル安(0.78%減少)。
4月24日:AT&Tなどの企業業績が好調で、74ドル高(0.58%増加)。
4月25日:アップルの業績が大半のアナリストの予想を大幅に超え、IT関連株を中心に買いが増加、89ドル高(0.69%増加)。ナスダックも68ドル高(2.30%増加)。
4月26日:3月の仮契約住宅販売指数が大幅に増加したことや25日の連銀議長の記者会見でおける追加金融緩和の可能性への言及から、114ドル高(0.87%増加)。
4月27日:2012年第1四半期のGDP推定値は2.2%で予想の2.5%を下回ったものの、4月の消費者信頼度指数の改善から、24ドル高(0.18%増加)で、4月2日以降の高値更新。
4月30日:3月の個人消費が前月比0.3%増で予想を下回り、15ドル安(0.11%減少)。この結果、月間としては2006年7月以来5年振りに、7ヶ月連続の上昇。

今月は米国の大手企業で四半期の業績発表がありましたが、市場予想を超える実績を示した企業が多かったようです。2月末に時価総額ベースで5000億ドルを達成、4月初めには 一時6000億ドルを越えたことで注目されたアップル社でしたが、4月24日の業績発表前数日間、急激に下がり始め、下落率で8%以上、株価も560ドルまで下がりました。この理由は米国市場において最大手携帯電話運営会社であるVerizon社とAT&T社によるiPhone製品の売り上げが前四半期に比べ、数量ベースで1200万台から750万台まで低下したことでした。しかし、24日の実際の業績発表を見ると、米国や欧州では販売が不振であったものの、中国を始めとするアジア市場で急速に伸び、台数ベースで前四半期の3700万台には届かなかったものの3510万台に達しました。また、3月半ばから新製品を売り始めたiPad製品も1180万台となったことが明らかになりました。この結果、今期の売上高もEPS(一株当たり利益)も市場予想を大きく上回り(其々、予想の368億ドルと10.04ドルに対して、392億ドルと12.30ドルの実績)、翌日の25日には株価は8%以上の上昇となり、再び600ドルを越えました。アップル社の今期の業績発表は多くの米国株のアナリスト達の予想を大きく異なる結果となり、アップルの製品販売については米国市場を過度に注視するのではなく、世界市場全体で評価することの重要性を教えたようです。


2.スペイン、イタリア、そしてフランスに広がる欧州危機

4月10日に、スペインの国債金利が危機ラインと言われる6%に近づき(16日には一時6%越え)、また、イタリアやポルトガルの国債金利も上昇、欧州危機の再燃の懸念から、ダウ価格は約214ドル安となりました。この下げ幅は昨年11月23日以来の規模で、欧州危機が再び米国株式市場に大きな影響を与えることになりました。

スペインの経済規模はGDPベースで、欧州連合の中で、ドイツの20%、フランスの16%、イタリアの13%に次いで、4番目の9%を占めています。しかし、リーマンショック後、時価会計への移行もあり、不動産不況が深刻となり、大手金融機関の不良債権が急増、資本不足問題から信用収縮が始まりました。このため、景気後退による経済の低迷、これに応じて財政赤字が急速に悪化しています。2011年の財政赤字はGDPの6.6%で、基礎的財政収支でもマイナス4.5%で、欧州連合ではアイルランドに次いで高い水準にあります(但し、スペインの累積公的債務はGDP比約66%で、ギリシャの159%やイタリアの120%に比べれば低い水準にあります)。加えて、スペインでは社会主義政党が政権を取っていたこともあり、既存の従業員の労働条件が過度に保護されており、労働市場が極めて硬直的です。このため、欧州連合ではスペインの失業率はギリシャと同程度の約23%で、特に25歳以下の若者の場合には49%に達しています。本来、民間部門の経済が収縮している時には、財政による景気刺激策が不可欠ですが、欧州連合では共通通貨ユーロの維持のために、メンバー国の財政規律の達成が重要であるため、積極的な刺激策を取れない状況にあります。

また、4月19日と20日に開かれた20カ国の財務相、中央銀行総裁会議はIMFの融資能力の拡大のために、日本を含む10数カ国が資金協力の方針を示し、4300億ドル強の調達で合意しました。当初目標では5000億ドル以上となっていましたが、米国が国内の政治状況から資金協力に積極的でなく、目標に達することはできませんでした。ギリシャに次いで、スペインも財政赤字が拡大している中で、IMFの追加の融資能力拡大は極めて重要ですが、その一方で欧州連合の共通通貨維持のために財政規律の強化が求められている状況では、経済収縮から、逆に公的債務が増加してしまうという悪循環があり、欧州連合やIMFの融資能力の拡大だけでは対応できないというジレンマが生じています。

 さらに、今後の欧州連合の動きに関連して、最も注目されるのはフランスの大統領選挙の行方です。4月22日に行われた投票では第一位が社会党のオランド前第一書記の28.63%で、第二位のサルコジ大統領の27.08%を上回りました。この結果、5月6日に両候補による決戦投票が行なわれる予定ですが、現時点では成長や雇用を重視するオランド候補の優勢が伝えられています。しかし、オランド候補が当選するようなことになると、欧州連合でドイツのメルケル首相がフランスのサルコジ大統領の協力を得て進めてきた財政規律優先政策が今後も続行できるのかという問題が生じます。また、5月6日にはギリシャの総選挙も予定されており、国民に不満が大きい現在の緊縮財政政策の継続が難しくなる事態も予想されます。加えて、欧州連合の優等生と言われたオランダで、緊縮政策をめぐる連立与党間の対立から、内閣が総辞職する事態に陥りました。いずれにしましても、5月6日のフランスの総選挙の結果によっては、財政規律を優先させてきた欧州連合の経済政策が従来のようには実行できないリスクを抱えるかも知れません(一部の米国アナリストは、メンバー国内で脱欧州連合を主張する右翼政党が台頭するよりは、成長優先を唱える左翼政権の誕生は、欧州中央銀行の役割強化など欧州連合の新たな共通政策導入に繋がるのではないかとの見方を取っています)。


 3.米国経済の鈍化とオバマ政権のバッフェット・ルール法案

4月27日に米国政府は2012年第1四半期のGDP推定値を発表しましたが、市場予想の2.5%を下回る2.2%に留まりました。GDPの約7割を占める個人消費は順調な伸びを示したものの、民間の設備投資が低調で、2012年第4四半期の3%から低下する結果になりました。第1四半期の経済鈍化は雇用状況にも影響を与え、3月の失業率は8.2%に下がったものの、非農業部門の雇用増は従来の20万人以上から12万人に低下しました。4月25日にバーナンキ連銀議長が追加の金融緩和の可能性に言及したのもこうした最近における米国景気の鈍化状況を反映したものでした。

オバマ大統領は4月10日と11日にフロリダとホワイトハウスで、米国では上位1%の富裕層が得る所得の比率が1920年代以降最高になっているものの、彼等が支払う税率は過去50年間で最低クラスの税率になっているとして、年間所得が100万ドルを超える富裕層は最低30%支払うべきとするいわゆるバッフェット・ルールの法案を議会に提出することを発表しました。特に、オバマ大統領は富裕層に税制上の優遇を与えれば経済発展が期待できるとの共和党の考え方を8年間のブッシュ前大統領時代の経験を引き合いに否定、経済発展はミドルクラスが強く、豊かになることによって生じるものであることを強調しました。さらに、富裕層からの増税分を教育、研究、医療、退役軍人への投資に使って、社会全体の向上を目指すべきことを提案しました。これに対し、共和党側は見せかけの増税を行うよりは、財政赤字の削減を図ることが何よりも重要とのコメントを出しました。富裕層への課税強化措置に対する世論の動向は、上院で採決が予定された4月16日の時点で、賛成が72%で、反対が27%で圧倒的に賛成が上回っていました。しかし、上院の投票結果は51票対45票で、承認に必要な60票に9票足りませんでした。特に、共和党議員では46名の内、1名のみの賛成に留まりました。世論の圧倒的な支持を得ながらも、議会で承認されない理由は、特定グループによる政党や議員への働きかけが強いためです。同じように、多大な利益を上げている大手石油会社への連邦政府からの補助金制度も、世論の74%が廃止に賛成しながら、上院で60票を得ることができませんでした。いずれにしましても、連邦議会の行動が世論の動きを反映せず、特定団体やグループからの影響力に左右されているのが米国政治の現状なのかも知れません。


 4.共和党の大統領候補選び

共和党保守派の支持を得て、2位につけていたサントラム候補が4月10日に突然、選挙レースから撤退することを発表しました。理由として、サントラム候補は家族的な理由としましたが(子供の一人が重い病気)、あまりに巨額の選挙資金を使用するロムニー候補に対抗すべく、このままキャンペインを続ければ多額の借金を背負いかねないことがあったと見られます(4月11日付けのLA Times紙はサントラム候補の借金が92万ドルに達していることを伝えています)。加えて、サントラム候補の出身地であるペンシルベニア州における4月24日の予備選でロムニー候補に敗れれば、将来の政治生命に致命的な影響があるとの判断があったものと見られます。また、4月26日にはギングリッチ候補も選挙レースから撤退することを表明、この結果、共和党の大統領候補は必要代議員の半数を獲得したロムニー候補に対して、ポール候補が追う展開となりましたが、資金力と組織力に著しく欠けているポール候補が挽回することは極めて難しく、早ければ5月中にロムニー候補が過半数を獲得するものと見られています。

ロムニー候補の共和党大統領候補指名獲得が確実になった現在の状況では、次の焦点はロムニー候補が誰を副大統領候補に選ぶかに移ってきているように見られます。これに関連して、4月18日にCNNが行った共和党員による調査では1位がライス元国務長官の26%、2位がサントラム候補の21%、3位がクリスティー・ニュージャージー州知事とルビオ・フロリダ州選出上院議員が14%となっています。また、3月15日付のCNNインターネットニュースはロムニー候補の問題として以下の点を指摘しています。

1.共和党のエスタブリッシュメントがロムニー候補を選んだもので、伝統的な保守派の支持を得ていないこと。
2.フリップ フロッパー(風見鶏)で信用できないこと。
3.人を興奮させる魅力がないこと。
4.ビジネスの成功経験があっても、一般共和党支持者との間で共通の価値がないこと。
5.モルモン教で、共和党保守派の支持基盤であるキリスト教福音派との接点がないこと。

こうしたロムニー候補の弱点を補う意味では、副大統領候補には大統領候補指名争いをしたサントラム候補がベストな選択ですが、政策や主張があまりに異なる二人がコンビを組むことは極めて難しく、3位のクリスティー知事かルビオ上院議員、あるいはポルトマン・オハイオ州知事あたりに落ち着くのではないかと見られます。但し、誰が共和党の副大統領候補になるにせよ、11月初めに予定される大統領選挙前の数ヶ月間の米国経済が深刻な状況にならない限り、ロムニー候補に対するオバマ大領領の優位性は変わらないと思います。  

                                                 (2012年5月1日:  村方 清)

Sunday, April 1, 2012

スペインの財政危機と米国医療保険改革法の行方













1.3月の株式市場
3月の米国株式市場は、米国経済は比較的に順調であった反面、欧州でギリシャ問題は支援合意で一時的安定が見られたものの、スペインでの財政危機の深刻化、さらに中国の景気後退やイランへの経済制裁の強化などの要因が市場に悪影響を与えるようになりました。市場の主要な動きは以下の通りでした。

3月1日:前週の新規失業申請件数が予想より減少し、35万1000件になったことや2月の小売各社の売り上げ増加が予想以上だったことから、ダウ価格は28ドル高(0.22%増加)。
3月6日:ギリシャ政府向け債務削減をめぐる民間金融機関の参加度合いへの懸念、さらに中国やブラジルの経済後退が伝えられ、204ドル安(1.57%減少)。
3月7日:民間雇用サービス機関のADPによる2月の民間雇用者数が前月より21万6千人増加の発表や連銀による新たな金融緩和策の検討との報道から、78ドル高(0.61%増加)。
3月8日:ギリシャ国債債務減免に応じる民間金融機関が全体の75%以上になる見込みであること(実際は約95%)、9日発表の米国雇用統計で3ヶ月連続の増加が期待できることなどから、71ドル高(0.55%増加)。
3月9日:2月の失業率は8.3%に留まったものの、雇用数が22.万7千人の増加で、3ヶ月連続で20万人を超えたことで、微増の14ドル高(0.11%増加)。
3月13日:2月の小売売上高が前月比1.1%の高い伸びを示したことや連銀による米国金融機関のストレステストの結果、JPモルガンが20%の増配と150億ドルの自社株買いを発表したことから、218ドル高(1.68%増加)。
3月15日:米新規失業保険週間申請件数が前週比1万4000件減少の35万1000件であったことから、59ドル高(0.44%増加)。アップル株は一時600ドル越え。
3月20日:中国景気後退懸念から、69ドル安(0.52%減少)。
3月22日:米新規失業保険週間申請件数が4週間連続で減少したにもかかわらず、中国と欧州の製造業業績指数(PMI)が予想以上に悪く、78ドル安(0.60%減少)。
3月26日:景気回復と失業率引き下げのためには超低金利政策の継続が必要との連銀議長発言から、161ドル高(1.23%増加)。ナスダックも55ドル高で、11年4ヶ月振りの高値。
3月27日:1月のケース・シラー住宅価格指数が前月比、昨年同期比いずれも下落したことや3月の消費者信頼感指数も前月から下落したことから、44ドル安(0.33減少)。
3月28日:米国耐久財受注額が伸び悩みに加え、中国の景気後退やスペインの財政懸念から、71ドル安(0.54%減少)。
3月30日:米国個人消費支出の増加など景気回復の傾向が強まり、66ドル高(0.5%増加)。

2.ギリシャ債務削減合意とスペイン財政危機
3月8日にギリシャ政府と民間金融機関団とのギリシャ債務削減に関する条件が合意された後、注目された民間金融機関の参加率は自発的の83.5%に加え、ギリシャ政府の強制措置による参加も含めると、最終的な参加率は95.7%に達することになりました。これにより、ギリシャのGDPに対する債務額は目標の120%に近い約1000億ユーロの債務削減が可能となりました(なお、ギリシャ政府が強制措置を取ったことにより、約30億ドル分が国債スワップデリバティブ協会によってCDSのデフォルト条項に該当することが認定されましたが、金額が小さく市場に与える影響は限定的なものでした)。この結果、3月9日の欧州財務相による電話会議で、ギリシャに対する1300億ユーロの支援が正式に決定しました。また、3月15日にはIMFが4年間で総額280億ユーロの支援を行なうことも決まり、3月20日に償還期限がくる約145億ユーロの債務額が円滑に再編されることになりました。

しかしながら、ギリシャの債務問題が深刻になった2010年初め以降の支援の推移状況を見ますと、2010年5月の第一次支援で1100億ユーロの支援であったものが、2010年7月の第二次支援では1090億ユーロの追加支援に加えて、ギリシャ政府の債務額について21%の削減が求められました。さらに、2010年11月の第二次支援修正では支援額が1300億ユーロに増額することが必要になり、更に債務額の削減も50%が求められるように変更されました。そして、今回の合意では、支援額は第二次支援修正の1300億ユーロと変わらないものの、債務額削減は実質70%が必要であるとの状況に至りました。時間の経過と共に起きている支援額の拡大と債務額削減の増加がギリシャ危機の本質であり、ギリシャ経済の実態に合わない高価値のユーロ通貨導入とギリシャの加盟継続のために欧州連合が払った代償なのだと思います。そして、ギリシャの産業構造や欧州経済の停滞からして、ギリシャが欧州連合やIMFなどのトロイカから求められた緊縮財政政策を今後も実施したとしても、競争力のある産業を持たないギリシャの経済改善は難しく、再びGDPに対する債務比率が増加する結果になっていく可能性が高いものと見られます。

3月26日の週から、スペインの財政危機問題が米国の株式市場にも影響を与えるようになりました。スペイン経済の問題点は10年以上続いた不動産バブルが4年前に崩壊した後、デフレスパイラルが始まり、景気低迷による税収減少で財政赤字が増加傾向を強め、欧州連合の合意であるGDPの3%以内に収める見通しが極めて困難になっていることにあります。3月31日にスペイン政府としては2012年度について、財政赤字を一時的にGDPの5.3%へ圧縮する閣議決定しましたが、それは国内経済の回復をさらに遅らせる可能性が高く、最終的に欧州連合の金融支援が必要になる事態に発展するかも知れません。しかしながら、スペインは欧州連合メンバーの中で、ドイツ、フランス、イタリアに次ぐ、第4の経済大国であり、もしスペインやイタリアに対して金融支援が必要になれば、その規模はギリシャへの支援に比べてはるかに大きく、かつ欧州連合が用意している現在の支援の枠組みでは(30日の欧州財務相会議で、2013年半ばまでに安全網を8000億ユーロに拡大することで合意)、金額的に十分でないという問題が生じることになります

いずれにしましても、欧州連合はギリシャ問題を一時的に沈静化させたものの、スペインの財政危機という新たに深刻な問題を抱えることになりました。加えて、これまで欧州連合の根幹を支えてきたサルコジ大統領のフランスの大統領選挙が4月22日に、多くの国民の反対を押し切って緊縮政策を受け入れたギリシャの総選挙が5月6日に予定されることから、これらの結果によって欧州危機が新たな展開を迎えることもあるように思われます。

3.米国経済の改善とガソリン価格の上昇
2月29日に米国政府は2011年第4四半期のGDPを前月推定値であった2.8%から3.0%に上昇修正しました。この結果、米国経済は2011年の四半期毎のGDPの推移を見る限り、0.4%、1.3%、1.8%、そして今回の3.0%と順調に回復してきていることを示しています。これに伴ない、2月までの新規雇用は3ヶ月連続して20万人以上となりました(但し、2月の、失業率は8.3%で、前月と変わらず)。なお、2012年第1四半期のGDPは欧州やアジアの経済鈍化や米国での住宅市場の低迷から、2-2.5%になるものと予想されています。

一方、物価については、3月16日に政府は2月の消費者物価指数(CPI)が昨年4月以来,最も高い0.4%に上昇したことを発表しました。但し、この上昇は変動が激しいガソリンや食料品を除くと0.1%となり、ガソリン価格の上昇が大きな要因になっています。ガソリン価格はAAA(米国自動車クラブ協会)の調査では3月18日の価格はギャロン当たり3.87ドルで、2月に比べ27セント上昇しました。ガソリン価格の上昇は家計にも悪影響を与えており、そのことがオバマ大統領への4%近い支持率低下をもたらすようになっています。

このため、オバマ大統領は各地域への選挙キャンペーン演説で、原油価格は世界の需給バランスによって決まるもので、共和党候補者達が主張するように米国内の原油生産を拡大すれば、直ちに大きく下がるようなものではないこと、国内の生産量は過去8年間で最大となっていえると強く反論しています。MITのKnittel教授も、米国の原油生産量は世界の11%に過ぎず、仮に米国内で50%の増産に成功したとしても、ガソリン価格は10%も下がるものではないと説明しています。

原油価格が上昇している背景には、7月以降実施予定のイランへの経済制裁によるイランからの原油供給減少の懸念と中国やインドによる原油輸入の増加があります(中国については従来全輸入量の約5%を依存していた南スーダンが独立したことによって、供給停止されたため、世界市場で代替先を求めているとの話があります)。

こうした状況の中で、オバマ大統領は3月22日にオクラホマ州で、共和党や石油会社が強く求めていたカナダからテキサス州のガルフ湾へのKeystone Pipeline プロジェクトの中で、環境問題が少ない南の部分について、連邦関連機関の承認を急がせるとのスピーチを行ないました。大統領としては国内増産に乗り気でないとの共和党側の強い批判の材料に使われていたKeystone Pipelineプロジェクトを前向きに進める姿勢を示すことで、こうした批判を減らしたいとの狙いがあったものと見られます。いずれにしましても、ガソリン価格がこのまま上昇を続けることは米国民のオバマ政権への不満を高め、11月初めの大統領選挙にも悪影響を与えるだけに、時期を見て、価格上昇に歯止めをかける具体的な措置、例えば、昨年夏のリビア危機の時に取られた米国政府による戦略備蓄石油(現在約695百万バーレル)の一部解除などの措置が取られる可能性があるように思われます。

4.オバマ政権の医療保険改革法に対する米国最高裁の審理
オバマ政権が2010年3月に連邦議会に承認を得て成立させた医療保険改革法に関連して、幾つかの州で憲法違反との判決が出ていることもあり、米国最高裁判所で3月26日から3日間の口頭審理が行われました。

米国の医療保険は65歳以上のシニアや貧困層を除けば、民間の保険会社が提供していますが、営利目的であるため、医療費高騰による保険料負担の急騰だけでなく、個人保険では保険会社の費用増に繋がる既往症者は排除するなど、先進国では最も遅れた制度の一つであり、全米の20%近い約5千万人が無保険状態となっていました。こうした状況を改善すべく、オバマ政権は既往症者の保険加入や26歳までの子供も親の保険の対象にさせるなどの条項に加え、医療費や保険料の高騰を抑制し、かつ無保険の人達の多くを加入させるべく、米国民に保険加入を義務付ける条項を含めた医療保険改革法を成立させました。

しかしながら、共和党あるいは保守的なグループは連邦政府が個人に保険加入を義務付けるのは米国憲法で保障された個人の権利を損なうものとして、幾つかの州で訴訟を起こしました。判決は州によって異なっており、違憲判決に対してオバマ政権が上訴したために、最高裁で争われることになりました。今回の審理を踏まえた最高裁の判決は6月に出る予定ですが、最高裁判事の構成は共和党寄りの判事が5名、民主党寄りの判事が4名となっており、口頭審理を聞く限り、違憲判断となるのではないかとの見方が強まっています。

この件に関する大きな問題として、米国における三権分立制度では最高裁の判事の選定は大統領の指名後、上院の承認が必要となるために極めて政党色が強く(判事に対する国民審査制も、任期制もなく、終身制)、しかもそうした政党色の分かれた9名の判事が大統領と議会という二権の機関が承認した法案について憲法判断を下すことに対する正当性の是非が生じるように思います(注)。また、個人の自由な権利は尊重されるべきにしても、医療費や保険料の高騰も重なり、米国民の20%近い人が無保険であるような深刻な社会問題になっている現在の米国医療保険制度を、200年以上も前の全く医療保険制度がなかった1788年憲法制定時の状況に照らさせることの妥当性の問題もあるように思われます。

(注)1929年の大不況後に、当時のルーズベルト大統領は米国社会を安定させるために連邦政府の年金制度など幾つかの社会保障制度を導入しましたが、保守的な最高裁の4名の判事(Four Horsemen) に違憲として阻止されました。このため、大統領は1937年に司法手続き改革法(Court-packing planと言われる)を成立させ、70歳6ヶ月を超えた判事に対して新たな判事を最大6名まで加えることで、危機を乗り切った経緯があります。

5.共和党の大統領候補者選び
資金と組織力に勝るロムニー候補が圧倒的な勝利になるかどうかが注目されていた3月6日の10州におけるスーパーチュースディの結果は、ロムニー候補が6州で、サントラム候補が3州で、ギングリッチ候補が1州で勝利を獲得しました。この中で、特に注目されたのは、3月6日の選挙において代議員数でジョージアに次いで2番目のオハイオでした。選挙前に劣勢であったロムニー候補はフロリダとミシガンで行ったのと同じく、本人及びロムニー候補系列のPAC(選挙活動委員会:今年の大統領選挙から、2010年の最高裁判決を受けて、無制限に政治資金を調達できるスーパー選挙活動委員会が認められた経緯があります)からの多額の資金(12.5百万ドルと言われています)を使って、10分の1の資金しか使えなかったサントラム候補に対するネガティブキャンペインを実行しました。しかし、結果はロムニー候補がサントラム候補に対して38%対37%と1%差の辛勝でした。

また、このようなロムニー候補の金権選挙戦略に対しては共和党内部から批判が出ており、それがスーパーチュースディでキリスト教福音派の影響が強いテネシーやオクラホマでサントラム候補に敗れることになりました。同様なことは10日のカンサス、12日のアラバマとミッシシッピ、24日のルイジアナの南部の州で起こり、サントラム候補が勝ちました。MSNBCによれば、共和党の予備選では2008年に比べ、殆どの州で参加者が少なく、年収10万ドル以上の富裕層はロムニー候補を選ぶ比率が高いものの、5万ドル以下のミドルクラスではサントラム候補が圧倒的に高くなっています。これがブルーカラーを基盤とする伝統的な共和党の中で、ロムニー候補の限界になっているように見られます。

しかしながら、代議員数からする限り、3月末時点でロムニー候補の566人に対し、サントラム候補の263人で、大きな差をつけています。その意味で代議員数の多い州に資金と組織力を集中させるロムニー候補の選挙戦略は大変優れていると言えます。こうした状況から判断する限り、サントラム候補の逆転は難しく、数ヵ月後にはロムニー候補が大統領候補指名に必要な代議員数1144人を獲得するものと見られます。
              (2012年4月1日:  村方 清)

Thursday, March 1, 2012

ギリシャ危機対応とイラン問題で影響される米国市場













1.2月の株式市場
2月の米国株式市場は、国内経済の順調な回復により企業業績の改善傾向が見られる中で、前半はギリシャ危機への対応の動きと、後半はイラン問題による原油価格の上昇に影響を受ける展開となりました。しかし、ギリシャ危機は問題やその対応が慢性化していることもあり、昨年に比べて、米国市場の変動幅は小さなものとなりました。市場の主要な動きは以下の通りでした。

2月1日:米国、ドイツ、中国などの製造業関連指標が好調であったことから、ダウ価格は5日ぶりに上昇、84ドル高(0.66%増加)。
2月3日:1月の非農業部門の雇用者数が予想を大幅に上回る24万3000人の増加で、失業率も過去3年で最も低い8.3%に低下したことから、157ドル高(1.23%増加)。ダウ価格はリーマン破綻前の2008年5月19日以来の高値を達成。ナスダックもITバブルでつけた2000年12月の高値を上回る2906ドルを達成。
2月8日:ギリシャ政府は連立与党3党との間でEU, ECB, IMFのトロイカが第2次金融支援の条件として要求していた財政緊縮策を合意したことを発表、7ドル高(0.05%増加)。
2月10日: 9日夜の欧州財務相会議でギリシャへの支援決定を持ち越しを決めたことから、ギリシャの債務問題の不透明感が強まり、89ドル安(0.69%減少)。
2月13日:ギリシャ議会による金融支援の条件である緊縮策の可決や欧州の主要株式市場の上昇により73ドル高(0.57%増加)。アプッルの株価も500ドルを超え、最高値記録。
2月14日:EUがギリシャ政府に要求した歳出削減の内容説明と財政削減に関する与党党首の誓約書提出がなく、15日予定の財務相会議は20日以降に延期。4ドル高(0.03%増加)。
2月15日:ギリシャの債務問題の見通しが不透明になったことから、97ドル安(0.76%減少)。アップルも中国市場の販売懸念から、約12ドル下がり、500ドルを再び割れ。
2月16日:1月の住宅着工件数が市場予想を上回る699,000戸となったこと、新規失業保険申請件数が2008年3月以来の低水準である348,000件に減少したこと、更にギリシャの追加支援交渉が進むとの期待から、123ドル高(0.96%増加)。
2月21日:欧州財務相会議でのギリシャ向け第2次金融支援合意にも拘らず、その実効性の疑問と原油価格の高騰で、微増の16ドル高(0.12%増加)。
2月23日:住宅価格指標が改善したことにより、46ドル高(0.36%増加)。
2月28日:2月の消費者信頼感指数が70.8と昨年2月以来の高水準になったこともあり、24ドル高(0.18%増加)で、3年9ヶ月振りに1万3000ドル台を回復。
2月29日:昨年第4四半期のGDP上方修正などにも拘らず、連銀議長の議会証言で追加緩和期待の後退から、53ドル安(0.41%減少)で、ダウ価格は再び1万3000ドル割れ。但し、株価続伸のアップルは米国株式市場で、史上6社目の時価総額5000億ドルを達成。

2.ギリシャ問題と欧州連合の対応
2月8日にギリシャ政府はEU ,ECB ,IMF のトロイカが要求する緊縮策を受け入れることで、連立与党3党との間で合意しました。その内容は①公共投資や国防費の圧縮などを通じ、今年の歳出をGDP 比で1.5%削減、②新就業者について、最低賃金を22%引き下げ、③公務員の1万5,000人の削減などです。これを受けて、欧州連合は21日の財務相会議でギリシャ向け第2次金融支援(追加支援)に合意しました。この合意では①欧州連合とIMFは総額1300億ユーロの支援、②民間債権者は保有する額面で約2000億ユーロの53.5%に当たる1070億ユーロを債権放棄、③欧州中央銀行(ECB)や各国中央銀行は額面で5000億ユーロとされるギリシャ国債保有に伴う利益を放棄、④欧州委員会がギリシャに常駐し、財政再建を監視等となっています。

財務相会議の合意事項の主要なポイントは現在約160%に達しているギリシャの公的債務をいかにして2020年までに120%にするかでした。このためには民間債権者の債権放棄額を当初の50%から53.5%にする増加する必要があり、追加の債権放棄額として70億ユーロの引き上げが求められ、同時にECBと各国中央銀行もギリシャの債務削減に協力することが不可欠になっていました。この合意により、3月20日に期限が来る約2000億ユーロのギリシャ国債償還は問題なく実行される見通しとなりました。

しかしながら、それ以降については、4月8日に予定されるギリシャ総選挙で、現在の連立与党であるギリシャ社会主義運動党と新民主主義党が過半数を維持できるかが問題になります。また、仮に過半数を得ても、共通通貨ユーロの価値維持のために、緊縮財政策で負の悪循環に陥っているギリシャ経済は景気悪化で公的債務が更に拡大するリスクが依然続くことになります。なお、2月25-26日に開催された20カ国の財務相・中央銀行総裁会議でも、欧州支援に対するIMFの資本増強の条件として欧州連合自体の安全網の拡大が重要との指摘があり、外部からの支援が容易でないことが明白になりました。

2.イラン問題と原油価格上昇
2月14日以降、イラン政府の核施設増強に対する米国と欧州による経済制裁強化計画の影響を受けて、原油価格の上昇が続いています。2月24日にはWTIベースの原油価格はバーレル当たり110㌦を越える状況になり、米国経済への悪影響も懸念されています。しかしながら、今回の上昇は実体経済における原油需給バランスの不均衡が増大したというより、イランをめぐる政治的対立の深刻化が投機マネーの原油買いに走らせている要素が強いこと及び急激な上昇に対してはサウジアラビアの増産の可能性があり、このまま大きな上昇を続けるリスクは少ないように見られます。

もちろん、イスラエルによるイランの核施設攻撃などの新たな政治的緊張が高まれば、原油価格の高騰が予想されます。しかし、2月25日付の英国エコノミスト誌の分析記事が指摘するように、イスラエルによるイランの核施設攻撃は1981年のイラク攻撃や2007年のシリア攻撃に比べて戦略的に容易でないこと、加えてイスラエルはイランやその同盟国からの強い反撃も覚悟しなければならず、米国政府の了解がない限り、現実的なものにならないように見られます。また、オバマ政権としても中東で新たな戦争状態が起きることは現時点ではあまりにマイナス面が多く、決して望まないものと思われます。

3.オバマ政権の2013年度予算教書
オバマ大統領は2月13日に2013年度予算案を議会に提出しました。今回の予算案の特徴は短期的には改善している米国景気を下支えると同時に、長期的にはブッシュ減税の廃止による歳入増加を通じて財政健全化を目指したものです。但し、その結果として、2013年度の財政赤字は9010億ドル(GDP比率で5.5%)で、2012年度に見込まれる1兆3300億ドル(GDP比率で8.5%)に比べて大きく減少しているものの、依然として高い水準が続くことが見込まれます。また、政権誕生時にオバマ大統領が公約した任期末での財政赤字の半減を達成するとの公約も実現できなくなります。

しかしながら、財政削減に重点を置き過ぎれば、回復過程にある米国経済に悪影響を与えかねず、ブッシュ減税廃止による財源確保で、短期的に新たな景気刺激策と雇用対策を導入することは正しい方向と言えるように見られます。特にオバマ大統領が提案したブッシュ減税の廃止はミドルクラスに比べ、税の負担が少なすぎる富裕層への増税を目指したものであり、1月の一般教書で示した米国民の公平な負担の目標に合致するものでもあります。予算案の主要な内容は以下の通りです。

歳入面
(1)年収25万ドルを超える世帯について、ブッシュ減税を2012年末で打ち切り、最高税率を40%とする。配当税率を所得税の最高税率と同率とする。
(2) プライベートエクィテやヘッジファンドが受け取るCarried interestへの課税を強化し、税率を15%のキャピタルゲインではなく、所得税の最高税率とする。
(3) 企業が海外であげた収益や金額の大きな費用への優遇措置、及び石油・ガス会社への補助金を廃止する。
歳出面
(1) 防衛費として10年間で4870億ドルを削減する。
(2) 社会保障費として、10年間で3640億ドルを削減する。
(3) インフラ整備などにより、雇用促進のために3500億ドルを支出する。
(4) 教育関連投資として、600億ドルを支出する。

上記の中で、特に大きいのは富裕層への課税強化で、10年間で1兆4000億ドルの歳入確保を計画しています。しかしながら、ブッシュ減税の恒久化を狙う共和党、特にティーパーティーグループの影響が強い下院共和党はこれに強く反対することが予想されます(特に、共和党のロムニー候補はブッシュ減税の継続に加え、富裕層への税率を35%から28%に、低所得層の税率を10%から8%に引き下げることを提案しており、専門機関の調査ではその提案を実行した場合、米国の財政赤字は10年間で3兆4000億ドル拡大するとCNNが報じています)。共和党の主張はオバマ政権による大きな政府による歳出増加が財政赤字の主因としていますが、現在の財政赤字の主因はブッシュ前大統領の再選戦略のために取られた大幅減税やアフガンとイラクでの戦費拡大によるもので、ブッシュ減税で恩恵を受けている富裕層への権益擁護のために、議論のすり替えを行っているように思われます(勿論、オバマ大統領も認めるように、今後増加が予想される社会保障関連費用の対応策を現在から検討しておくことも必要になりますが)。

なお、昨年12月末にオバマ大統領と共和党支配の下院で大きな対立なった従業員減税や失業保険の延長等は米国民の反対を無視できなくなった共和党の同意で、2月17日に議会で承認されました。

4.共和党の大統領候補争い
共和党の大統領候補争いは、2月4日のネバダではロムニー候補が勝利したものの、2月7日のミネソタ、ミズリー、コロラドではサントラム候補が勝ちました。しかし、2月28日にはミシガンとアリゾナで、ロムニー候補が再び勝ちました。ロムニー候補の限界が見えてきた中で、サントラム候補にはその主張が共和党の伝統的な基盤であるブルーカラー層に受け入れやすいなどの強さがありましたが、政治と宗教の分離の必要性を説いたケネディ元大統領を批判したり、大学教育の必要性を否定したり、更に連邦政府は義務教育に一切関与すべきでないなどの極端な発言が目立ち、ミシガンでロムニー候補に勝てる機会を失いました。次の焦点は3月6日のスーパー・チューズディに予定される10州の選挙ですが、サントラム候補がこれらの州で過半数を取るとか、早い機会に同じ保守派のギングリッチ候補が降りてサントラム候補に一本化しない限り、資金力や組織力で優位に立つロムニー候補が勝つ可能性が高まるものと見られます。

ロムニー候補かサントラム候補のいずれが勝つかは今後の展開次第ですが、11月初めの大統領選挙で、現職のオバマ大統領に勝てるかについては、現時点での幾つかのメディアの調査を見る限り、オバマ大統領が5-10ポイント程リードしている状態です。その理由は昨年末からGDPや雇用実績で米国経済の改善傾向が強まっていること、これまでの共和党の大統領候補選びの党員集会や予備選挙で、サウスカロライナを除き、いずれも参加者が前回の2008年を下回っており(ネバダ、ミネソタ、ミズリーでは20%以上の減少)、盛り上がりに欠いていることが挙げられます。この点、今後、米国経済が急激に悪化するとかの予期しない事態が起きない限り、現職のオバマ大統領の優位性は変わらないように思われます。
             (2012年3月1日; 村方 清)

Wednesday, February 1, 2012

ギリシャ問題で再燃する欧州危機とオバマ大統領の一般教書演説













1.1月の株式市場
1月の米国株式市場は、1月中旬に欧州市場でギリシャ問題が再燃したにもかかわらず、経済指標の改善やIT関連の企業業績が比較的好調であったことから、上昇傾向を強めました。加えて、25日に連邦準備理事会が2014年後半まで現在の低金利政策の継続を表明したことも、市場に安心感を与えるものとなりました。1月の主要な動きは以下の通りでした。

3日:欧州や中国の12月の経済指数が上昇したことや米国の製造業景況感指数が6ヶ月振りに高水準となったことから、ダウ価格は180ドル高(1.47%増加)。
4日:欧州の懸念を米国経済指標が打ち消したことで、21.04ドル高(0.17%増加)。
6日:非製造業部門の雇用数が20万人増加(予定では15万人)で、12月の失業率は8.5%に低下したものの、欧州でスペインやイタリアの国債利回りが高水準であることやフランスの国国債格下げリスクなどの懸念があり、56ドル安(0.45%減少)。
10日:米企業アルコアの好調な業績発表や格付け会社フィッチがフランスの国債格下げはなしと発表したことにより、70ドル高(0.56%増加)。昨年7月以来の高値を記録。
12日:イタリアとスペインが実施した国債入札が好調であり、欧州危機の懸念が薄らいだが、米国の個人消費(12月は1%増加)や雇用情勢の指標(新規失業保険申請数は39万9千人で前週より2万4千人増加)が予想を下回ったことから、21ドル高(0.17%増加)。
17日:ドイツの景況指数の好調さや欧州主要国の格下げについては織り込み済みだったことから、60ドル高(0.48%増加)。
18日:住宅市場指数が前月比4ポイント増加し、2007年6月以来の高水準になったことなどから、97ドル高(0.78%増加)。
20日:ギリシャ債務削減をめぐるギリシャ政府と民間金融団との交渉が難航し、欧州市場が悪化したにも拘らず、米国市場はグーグルを除き、IBM、マイクロソフト、インテルなどの企業業績が好調で、97ドル高(0.76%増加)。
25日:ギリシャ危機再燃の懸念から、欧州市場が低迷する中で、米国市場は連邦準備理事会が超低金利政策を2014年後半まで続けることを発表したことから、81ドル高(0.64%増加)で、2011年5月10日以来の高値。アップルも増収増益決算で最高値を記録。
27日:2011年第4四半期のGDPは前期の1.8%に対し、2.8%と増加したが(但し、アナリスト予想の3%に届かず)、シェブロンなどの企業業績が悪く、74ドル安(0.56%減少)。
31日:1月の消費者信頼感指標が前月に比べ3.7%下落するなど市場の予想を下回ったことから、21ドル安(0.15%減少)。但し、1月全体では3.4%の増加で、4ヶ月間連続上昇。

2.ギリシャ問題で再燃した欧州危機
昨年11月1日に就任したドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁の下で、低金利政策や資金供給強化策などの新たな政策を展開、安定を示していた欧州市場でしたが、1月13日のS&Pによる9カ国の国債格付け引き下げ発表及び50%の債務削減をめぐるギリシャ政府と民間銀行団の交渉の難航で、再び不安定化要因が増す懸念が生じました。

今回の国債格下げはトリプルAの格付けだったフランスとオーストリアをダブルAプラスへ1段階引き下げ、イタリアをトリプルBプラスへ2段階引き下げ、スペインをシングルAへ2段階引き下げたことで、欧州連合全体の信用力が低下することになりました。特に問題とされたのは欧州連合の金融安定網と言われる欧州金融安定基金の対応力がフランスとオーストリアの引き下げで、4400億ユーロから、実質的な余力が700億ユーロに低下したことでした。また、格下げはイタリアやスペインの国債コストを上昇させるため、3月までに償還期限の迎えるこれらの国々の大量国債の借り入れ延長が円滑化に進むかに懸念も起こさせることになりました。

しかしながら、その後の動きを見る限り、国債格下げの影響は限定的で、フランスについては長期国債の利回りの上昇はなく、イタリアやスペインについても引き下げの影響は殆ど見られませんでした。その背景には今回の格下げは一機関だけのものであることに加えて、現在ドラギ総裁の下で取られている低金利政策や資金供給強化策などの新たな政策展開があげられます。民間金融機関が低金利による資金供給を受けられる限り、格下げによる影響は最小限度に留まるものと見られます。いずれにしましても、現在早急に求められているのは、1月30日の首脳会議で合意された3月初めの財政規律強化の新条約の署名及び今年7月までに約5000億ユーロの安定メカニズムを創設することに変わりありません。

一方、より深刻な状態にあるのはギリシャ債務の50%削減をめぐるギリシャ政府と民間金融団の交渉の難航です。ギリシャ政府は自立再建のために債務総額がGDPの約120%になることが必要として、民間金融機関に対して総額2000億ユーロに達する国債元本が実質65%から70%になるような自発的削減を求めています。加えて、償還期間についても30年で最初の10年間は4%以下の金利支払いのみを強く望んでいると言われています。一方、民間金融機関にとってはギリシャ政府の要求を受け入れれば、金融機関の財務内容を急激に悪化させるために、悪影響をできる限り少なくさせる条件が望ましいことになります。特に、今回の交渉結果は3月19日に期限が来る145億ユーロの国債が民間金融機関の協力を得て円滑に繰り延べられるかに影響を与えるだけに、合意の内容が注目されることになります。なお、民間金融機関による自発的な債務削減という形式を取っているのは、正式な債務不履行となれば、2008年のリーマン破綻に見られたような多数のCDS(Credit Default Swap)の取引に及ぶことになり、それを避ける意味があります。

ギリシャ債務削減問題の本質はギリシャにとって共通通貨ユーロの価値維持が自国の経済力に見合ったものではなく、高い通貨価値の維持のために取られた厳しい財政緊縮策と増税によって、経済が縮小、税収の減少、債務の増加、失業率の上昇、そして競争力の一層低下などを招いていることにあります。ギリシャの場合、欧州連合のメンバーでなければ、韓国などこれまで債務不履行となった国と同じように、IMFの管理下で財政緊縮政策の導入と同時に、より効果が高まる自国通貨の切り下げを実施したはずです。この点、ギリシャが共通通貨の価値維持が自国の大きな経済負担になっている時に、共通通貨統合体である欧州連合のメンバーであることが問題の解決を一層難しくさせているように見られます。本来、欧州連合が真の共通通貨統合体を目指すのであれば、自力で共通通貨ユーロの価値を維持できるメンバー国が自国の主権を超えた統合体に共通な金融・財政政策を実行していくことが必要で、逆に各メンバー国の主権維持を認めさせている今の欧州連合では常に運営が行き詰まることになります。特に、実質的に債務不履行状態にあるギリシャに対して、他のメンバー国や民間金融機関が支援をめぐって振り回されている状況は欧州連合がメンバー国の債務救済機関になっているようにも見られます。しかも現在実施されている緊縮措置はギリシャが抱える経済力の強化への根本的な解決にはならず、のような方法を続ける限り、欧州危機は次にポルトガルなどにも波及していかざるを得ないと思われます。

3.米国経済の現況とオバマ大統領の一般教書演説
米国政府が27日に発表した2011年第4四半期のGDPは2.8%の増加で、アナリストが期待していた3.0%増には達しなかったものの、前期の1.8%増を上回るものとなりました。また、連邦準備理事会が1月25日の公開市場委員会後に発表した声明でも①米国経済は緩やかな拡大を続けていること、②労働市場も改善傾向が見られているが、依然高い水準にあること、②家計支出部門の伸びがあるものの、住宅部門は引き続き低く落ち込んでいること、③物価上昇は安定した状態を維持していることなどを説明しました。そして、より強い景気回復を支援するために、超低金利政策を2014年後半まで続けることを伝えました。

これに先立ち、24日にはオバマ大統領が新年度の一般教書を発表しました。今回の一般教書は今年11月の大統領選挙を意識したものであり、共和党の大統領候補や共和党との政策の違いを強く強調しました。最初にオバマ政権の実績として、22ヶ月間で3.2百万人の民間部門の雇用を創出したこと、また、破綻寸前であった米国自動車産業に政府が支援した結果、GMが生産量で世界1になって自動車関連産業でも16万人の雇用確保になったことに触れました。その上で、米国の雇用増加に必要なのは製造業の再生であり、国内雇用を増加させる企業には税制上の優遇を与えることを伝えました。また、住宅債務の過大負担問題についても、金融機関のリファイナンスを通じた新たな負担軽減措置を提案しました。さらに、12月6日のカンサス シティでのスピーチに続いて、今回もミドルクラスが報われる社会的な公平さが米国社会の基本的な価値観であるとして、富裕層に対して「バッフェット・ルール」を適用、特に1百万ドル以上の高額所得層はミドルクラスと同じように30%以上の税金を払うべきことを求めました。外交・軍事面ではイラクからの撤退、アフガンからの縮小などを通じて、国防予算を削減、半分は財政再建に、半分は国内インフラを使う計画を示しました。なお、一般教書発表後の調査ではオバマ大統領の支持率が48%となり、不支持率の46%を上回りました。

一般教書発表後、共和党はインデイアナ州のダニエル知事が財政削減策に言及していないとのコメントを出しました(ダニエル知事は、ニュージャージー州のクリスティ知事やフロリダ州のブッシュ前知事と共に、共和党主流派が大統領候補に望んだ一人でした)。しかし、現在の米国財政赤字はブッシュ前大統領が再選戦略のために導入した大幅減税と2つの戦争による軍事費の大幅な増加に主因があるもので、当時OMB(大統領府予算管理局)の責任者であった彼のコメントに疑問を出すMSNBCテレビの政治解説者もいました。しかも、オバマ政権は財政赤字の改善をブッシュ前大統領が導入した一時的な大幅減税の廃止(特に富裕層への課税強化)と軍事費の大幅削減で実行しようとするもので、問題はティーパーティグループの影響による“小さな政府”の考えを建前にして、富裕層への課税強化や軍事費削減を阻止しようとする共和党、特に下院多数派の共和党の姿勢にあるように見られます。また、オバマ政権は一部の民主党議員の反対にも拘らず、今後増大する社会保障費への対応の必要性も認めています。

第2次大戦後に選ばれた米国大統領は、ブッシュ前大統領を除いて、現在の共和党候補達が理想とする“小さな政府”を主張したレーガン元大統領も含めて全員が増税を行なっています。レーガン元大統領は第一期では大規模な減税を実施しましたが、それが引き起こした大幅な財政赤字から1986年に増税のための全面的な税制改正を行っており、ブッシュ前大統領だけが自らの政策で大幅な財政赤字を出しながら、増税を実行しない唯一の大統領となりました(彼の父親であるブッシュ元大統領も財政赤字から1990年に増税を実行)。また、現在の米国経済回復の最大の障害になっている巨額の住宅モーゲージ不良債権化問題も、ブッシュ前政権の行き過ぎた持家奨励政策とウオール街金融機関による投機前提の住宅モーゲージ証券化にあったことは言うまでもありません。

4.共和党の米国大統領候補者選び
共和党の大統領候補選挙については、1月3日のアイオワ州の党員集会ではサントラム候補が第1位に、10日のニューハンプシャー州の予備選挙ではロムニー候補が第1位に、21日のサウスカロライナではギングリッチ候補が圧倒的な票を得て第1位になりました。また、31日のフロリダではロムニー候補の巻き返しが成功し、彼が第1位になりました。しかし、4州で獲得した代議員数がまだ少ないことやギャロップ社の全米支持率調査ではギングリッチ候補がロムニー候補を僅かにリードしており、暫くは選挙が続くことになります。

昨年末まで、資金力や組織力で他の候補を圧倒し、早い段階で指名争いに決着をつけると見られたロムニー候補がここまで苦戦しているのは予想外のことでした。ロムニー候補の問題はキリスト教福音派の支持が得られないモルモン教であることや、マサッツセッツ州知事としての実績が穏健派的な多くの政策を導入してきたことに加え、彼がBain Capitalというプライベート エクィティ(Vulture Capital、ハゲタカファンドと呼ばれることもあります)の会社の責任者として投資家利益の最大化に向かって強引なビジネスを展開してきたことがあげられます(1月18日付けのBloomberg/Businessweek誌は冒頭の記事でBain Capitalを含むプライベートエクィエィのビジネスの特徴を分析していますが、ロムニー候補が主張するような雇用創出が目的ではないと結論しています)。さらに、彼は多額の資産がありながら、税率の低い外国に23の銀行口座を保有したり、米国政府に対し14%程度の低い税金しか払っていないことが一般共和党員の支持を得にくくさせています(税率が低いのはBain Capitalなどのプライベート エクィティがロビー活動によって議会に認めさせたCarried Interest(繰越持分利益)に対する15%の低率というキャピタルゲイン税の存在があります)。それと同時に、ロムニー候補はビジネスマンとして成功者であっても、不況で苦しむ一ブルーカラーを中心とする伝統的共和党員との間で価値観を共有できないことも大きな弱点になっているように思います。

一方、ロムニー候補の最大のライバルとなっているのが元下院議長のギングリッチ候補です。ワシントンの政治や人脈に精通し、様々な角度からの議論が展開できる点で、オバマ大統領に対抗する候補として昨年12月から、急速に評価が上がりました。しかし、ギングリッチ候補には、下院議長時代に強引な政治手法から共和党議員を含めて多くの政敵を作ったことや金銭スキャンダル問題で議長職を失った経歴があります。また、議員を離れた後、政府系住宅金融機関のFreddie Macから160万ドルのコンサルタントフィーをもらい、ロビー活動をしていたのではないかとの批判を受けています。

その他の候補としては、一部の共和党候補の支持を受けているサントラム候補や徹底したリバタリアンの主張をするポール候補がいますが、いずれも考え方に偏りがあり、幅広い一般共和党員の支持を得るには至っていません。

なお、いずれの候補からのオバマ政権への批判が強く見られますが、1月23日付けのNewsweek誌に保守派の政治評論家として知られるアンドルー サリバン氏が“Why are Obama’s critics so dumb?(何故オバマ批判者達はそれほど無知なのか?) という記事を寄稿しています。オバマ政権が1930年代の大不況以来最大の不況に取り組んできた業績に加え、彼のイデオロギーに拘らない現実的な政治手法をもっと評価すべきことを主張しています。恐らく、共和党大統領候補の一部はオバマ政権の実績を認めながらも、オバマ大統領に対抗する共和党候補として、意図的に否定する姿勢を貫いているように思われます。
                (2012年2月1日: 村方 清)

Monday, January 2, 2012

一時的安定を示した欧州危機とオバマ大統領の再選新戦略













1.12月の株式市場
12月の米国株式市場は、米国経済改善の指標が相次いで発表されたにも拘らず、20日頃までは9日の欧州首脳会議合意の実行性への懸念に悪影響を受けました。その後、スペインやイタリアの財政規律策が其々の議会で承認されるにつれ、欧州に一時的安定が見られ、米国市場も改善傾向を強めることになりました。12月の主要な動きは以下の通りでした。

2日:米国の11月失業率は2009年3月以来の低水準である8.6%に低下、しかし欧州危機への警戒感から、ダウ価格は0.61ドル安(0.01%減少)。
6日と7日:9日の欧州首脳会議への期待から、其々78ドル高(0.65%増加)と52ドル高(0.43%増加)。
8日:欧州理事会において欧州中央銀行総裁が中央銀行による国債大量購入は出来ないとの発言や欧州共通債発行へのドイツの反対などが伝えられ、199ドル安(1.63%減少)。
9日:欧州首脳会議で、英国を除く26カ国が財政規律強化のための財政協定および欧州安定メカニズム(ESM)による5000億ユーロの支援基金設立で合意したことから,187ドル高(1.55%増加)。
12日:首脳会議合意の実行性懸念やインテル業績不振等から、183ドル安(1.34%減少)。
14日:イタリア国債の市場金利が危機ラインである7%を越えたことやドル高・ユーロ安から原油や金相場が大幅に増加したことから、131ドル安(1.1%減少)。
19日:欧州中央銀行(ECB)総裁が中央銀行による各国の国債購入に慎重な姿勢を示したことやIMFへの融資額が目標の2000億ユーロに達せず、100ドル安(0.84%減少)。
20日:スペインの国債入札が順調であったことや米国の新規住宅着工件数が1年7ヶ月振りの高水準であったことから、337ドル高(2.37%増加)。
22日と23日:新規失業保険申請数が36万4千件と2008年4月以来の低水準となったこと、11月の景気先行指標総合指数が0.5%上昇したこと、11月の米国新規戸建住宅が過去7ヶ月で最高であったこと等から、其々62ドル高(0.51%増加)と124ドル高(1.02%増加)。
28日:イタリア国債の入札懸念や株価高値の利益確定売りで、140ドル安(1.14%減少)。
29日:新規住宅販売件数が1年7ヶ月ぶりの高水準であったこと等、米国の経済指標がよかったことや欧州危機の懸念が薄らいだこともあり、136ドル高(1.12%増加)。
30日:イタリア国債10年物が危機ラインの7%以上となったり、年末越えの運用リスク回避の動きから、69ドル安(0.57%減少)。なお、2011年は世界の主要株式市場が大きく落ち込む中で、ダウ価格は1年全体として約5.5%の増加。

2.一時的安定を示した欧州危機
欧州危機については、12月9日の欧州首脳会議で、英国を除く26カ国が(1)財政規律強化のための新たな枠組みである「財政協定」、(2)新たな支援措置として、2012年7月稼動予定の欧州安定メカニズム(ESM)による5000億ユーロとIMFを活用した2000億ユーロの支援プログラムを導入することで合意しました。

まず、最初の点については、参加国は憲法や国の基本法で公的債務を対GDP比の0.5%までとする均衡予算の達成・維持を義務付けられ(例外的に、一時的な景気要因で債務がGDP比で3%までの赤字になることが認められる)、3%を達成しなかった場合には他の加盟国が欧州司法裁判所に訴え、制裁措置を課すことなどを内容としています(16日には新たな取り決めについての原案がまとまり、20日から英国を除く26カ国で本格的な協議の予定。なお、新たな取り決めの批准には欧州連合加盟17カ国の過半数である9カ国の合意で可能)。次に、第2のESMは, 本来2013年半ばに欧州金融安定基金(EFSF)を引き継ぐことを予定していたものを1年前倒して両者を併用させると同時に、欧州連合加盟国の中央銀行が総額1500億ユーロ、その他の国が500億ユーロをIMFに融資することにより、IMFからの2000億ユーロを緊急時の財源とすることを見込んでいます。

9日の米国株式市場は前日まで欧州首脳会議での話し合いに悲観的な見方もあったことから、この合意を強く好感し、ダウ価格は約187ドル高(1.55%増加)となりました。しかし、この合意については幾つかの懸念が生じています。(1)の「財政協定」については、欧州連合の共通通貨の維持には参加国の財政規律の確保が不可欠ですが、現時点で自国の財政運営責任を最終的に欧州会議に委ねることに其々の国民がどの程度納得するかがあります。また、財政規律を遵守できなかった国が制裁措置を受け入れるかという問題もあります。

次に、(2)の追加支援措置については既存の欧州金融安定基金(EFSF)にESMとIMFによる新たな制度を加えた支援可能金額は合計で1兆1400億ユーロに達します。しかし、この金額は2012年のPIIGSの債務償還額を上回っているものの、欧州連合第3位のイタリアの債務残高は現在1兆.8000億ユーロで、もしイタリア経済が深刻になれば、十分ではないとの指摘があります。支援措置の拡大からすれば、欧州中央銀行(ECB)によるメンバー国の多額の国債購入機能や欧州共通債の導入が望ましいのですが、インフレやメンバー国の財政規律責任の曖昧化を懸念するドイツの反対から、今回も実現できませんでした。

こうした状況の中で、ドラギECB総裁は8日の政策金利の1%への引き下げに加えて、21日には民間銀行への新たな政策として3年強の新流動性供給策を実施、523の金融機関から4890億ユーロの資金要請に応じました。これはECBがドイツなどの反対が強い域内国債の購入ではなく、金融機関への流動性供給拡大を通じて間接的に金融機関の国債投資の維持・拡大をさせ、当面の危機を乗り越えようとしているものと見られ、年末までの動きからする限り、市場の安定と言う点では一定の効果を上げました。

3.本命不在の共和党大統領候補選びとオバマ大統領の再選新戦略
米国経済については、給与税減税(厳密には社会保障税減税)や失業保険の1年間延長について、共和党は最初にこれを埋める財源の確保が前提との立場を取っていました。しかし、その考え方に固執すれば米国中間層の反発を受けるとの懸念から、上院は12月17日に財源問題を棚上げし、取り敢えず2ヶ月間の延長を行なうという法案を超党派(民主党50名と共和党39名)の賛成で承認しました。これに対して、ティーパーティーグループの影響が強い共和党多数の下院では上院案を拒否し、12月20日に幾つかの条件を付けられるのであれば、1年間の延長を認めるという法案を承認しました。このため、一時は法案の年内合意は難しいとの見通しが出るほどでした。しかし、オバマ大統領の強い要請と上院共和党院内総務から働きかけがあり、最終的に12月23日に下院でも上院案を承認することになりました。当初強気であった下院共和党が譲らざるを得なくなった背景には、8月初めの予算法案における国債発行限度額では議会に予算を認めてもらう行政府の大統領側に交渉上不利な面があったのに対し、今回の給与税減税や失業保険の延長ではその恩恵は米国の1億6千万人と言われる従業員や3百万人の失業保険受給者に直接およぶために、世論の動向を考慮せざるを得なかったという事情がありました。但し、今回の法案は2ヶ月間の延長であり、期限となっている2月に再び大統領・民主党対共和党、特に下院共和党との間で激しい議論が展開されることになると見られています。

共和党大統領候補の選定に関連して、1月3日に予定されるアイオワ州党員集会の選挙では、過去の下院議長時代の汚点やロビーイング活動が問題にされたギングリッチ候補の支持率が低下、彼に代わって本来穏健派でありながら、共和党保守派の支持を得るべく自分の主張や立場を次々に変えるFlip-flopper(風見鶏)と称されるロムニー候補がリードする中で、アイオワ州を最重点に置くポール下院議員や共和党保守派の支持を受けるサントラム元上院議員が急速に追い上げています。特にポール候補は自らをリバタリアンとして、連邦政府や連銀の過度な介入を嫌い、市場原理に任せるべきというのは共和党保守派やティーパーティーグループの主張とも一致しています。しかし、ポール候補が彼等と異なるのは外交や軍事においても国内優先主義を主張するのに対し、共和党保守派は世界、特に中東で同盟国であるイスラエルの権益保護のために米国の強い存在を誇示すべきとの立場を取っていることにあります(ポール候補の場合、12月20日前後から約20年前に出した出版物の人種差別表現が問題にされており、その背景にはポール候補が取る親イスラエルとは言えない立場が影響したかも知れません)。いずれにしましても、1月3日のアイオワ州の党員集会や1月10日のニューハンプシャー州の予備選挙で共和党大統領候補が絞られることはないものの、現在7名の候補者から撤退する候補が出てくる可能性は高いと思われます。

これに対して、オバマ大統領は2012年の大統領選挙における経済戦略を早期の経済回復から、ミドルクラスの利益擁護にシフトさせていると12月26日付のLA Times紙は伝えています。オバマ大統領の戦略転換の兆候は12月6日にカンサス シティーで行なわれた“岐路に立つミドルクラス”のスピーチで表れ始めましたが、それは100年前に共和党のセオドア ルーズベルト大統領が”ニューナショナリズム“のスペーチを行い、ミドルクラスの発展こそが米国経済に不可欠であることを述べた場所でもあります(セオドア ルーズベルト大統領は1905年の日露戦争の和平停戦を斡旋したことにより、1906年にノーベル平和賞受賞)。オバマ大統領の言葉を借りれば、”これは我々が取り組むべき極めて重要な課題であり、それはミドルクラスを発展させるか破壊させるかの瞬間でもある。危険に晒されているのは米国は勤労者が家族を育て、適度な貯蓄を行い、家を保有し、老後に備えることを可能にさせる国であり続けるかである“としています。そして、ミドルクラスの比率が戦後の50%から、1980年までに40%に低下、過去20年間の所得格差拡大の傾向が続けばその比率は3分の1に減少するとしています。これを改善するには米国の国民や企業による公平な負担が重要で、ミドルクラスの減税と高所得富裕層の増税を掲げました。

オバマ大統領の新戦略で効果が出たのは、12月末に期限が切れる従業員の給与税減税と失業保険の延長問題でした。前述したように、財政再建を求めながら富裕層減税が執着するティーパーティーグループの影響力が強い下院でも、米国民や世論の圧力から、最後はベイナー下院議長が超党派の上院案を受け入れざるを得ませんでした。この結果、オバマ大統領の支持率は一時の40%前後から現在は50%近くまで回復しています。オバマ政権の戦略転換が現在時点で成功しているものの、それが今後も持続するかどうかは来年11月の大統領選挙まで、米国経済の回復基調が続くかどうかにかかっているように思います(住宅不況の深刻さからして、来年中にリーマン破綻前の経済状態に戻ることは不可能にしても)。

来年11月の大統領選挙に関連して、もう一つ注目されているのがマサッツセッツ州の上院議員選挙です。マサッツセッツ州は従来民主党が強く、2名の上院議員とも民主党でしたがエドワード ケネディが亡くなった後の2010年1月19日の特別選挙で、ティーパーティーグループの影響を受け、共和党のスコット ブラウン下院議員が選ばれました。しかし、11月の選挙ではハーバード大学の法科大学院教授で、2010年7月のドッド・フランク金融改革及び消費者保護法の成立に尽力したハーバード大法科大学院のエリザベス ウオーレン教授が民主党から立候補することになりました。一時は消費者金融商品保護局の長官になる話も伝えられたウオーレン候補はウオール街の金融機関による行過ぎたビジネス方法を強く批判してきており、現在ウオール街占拠運動グループの広範な支持を得て、現職のブラウン議員を7%程リードしています。また、ウオーレン候補の動きはウオール街占拠運動グループの力が強いとされるニューヨーク、ニュージャージー、メリーランド、ロードアイランド州などの選挙結果にも影響を与えるものと見られています。
                (2012年1月2日:  村方 清)

Friday, December 2, 2011

負の連鎖が拡大する欧州危機と米国市場の動向












1.11月の株式市場
11月の米国株式市場も欧州市場の混乱を反映して極めて不安定な展開となりました。それと同時に、前半は大きく下落すれば、翌日あるいは翌々日に大きな反騰の動きがあったのですが、感謝祭の週では欧州市場の深刻化を反映して、6、7日間下落が続くという状況に発展しました。その後、11月30日の米国連銀を中心とする6つの中央銀行によるドル資金の安定供給措置は一時的に株式市場に大きな効果をあげましたが、欧州危機の沈静化には至っていません。この点、欧州危機への根本的な対応が早急に求められる事態に変わりはありません。なお、11月中のダウ価格を中心とする株式市場の主な動きは以下のようなものでした。

11月1日:ギリシャのパパンドレア首相が欧州首脳会議の合意に基づく財政緊縮策を国民投票にかけることを内閣で承認させたことで、市場の懸念が高まり、ダウ価格は約297ドル安(2.48%減少)。
11月2日:前日の大幅反落の反動で、約178ドル高(1.53%増加)。
11月3日:ギリシャ首相が野党との話し合いで、国民投票回避で合意したことから、約208ドル高(1.76%増加)。
11月8日:ギリシャ首相の辞任発表に伴ない、約102ドル高(0.84%増加)。
11月9日:イタリア国債の市場金利が危機ラインとされる7%を越えたことから、約389ドル安(3.26%減少)。
11月10日:前日の大幅下落反動と一部米国企業の業績改善で、約113ドル高(0.96%増加)。
11月11日:イタリア議会で財政安定法案を承認したことから、約260ドル高(2.19%増加)。
11月16日:欧州危機の米国金融機関への影響懸念と欧州におけるドイツ国債と他の国々の国債の差拡大から、約191ドル安(1.58%減少)。
11月17日:イタリアとスペインの国債金利が7%に近づいたことから、約135ドル安(1.13%減少)。
11月21日:フランス国債の格下げ懸念や財政赤字削減をめぐる米国の超党派委員会の話し合い決裂などから、約249ドル安(2.11%減少)。
11月23日:ドイツ国債入札で売れ残りが出たことや中国製造業の鈍化などから、約236ドル安(2.05%減少)。
11月25日:下落幅は小さかったものの、感謝祭週の業績としては1932年以来最悪。ナスダックもS&P500も連続7日間の下落で、下落幅は6%以上。
11月28日:感謝祭直後のブラックフライデイでの売り上げ増加と欧州連合メンバー国の財政規律政策への承認制度導入について独仏の合意が進むなどの動きが出て、約291ドル高(2.59%増加)。
11月30日:米国連銀、欧州中央銀行、日銀など6つの中央銀行が市場へのドル資金供給を容易にするための措置を取ったことにより、約490ドル高(4.24%増加)。

2.負の連鎖が拡大する欧州危機
欧州危機については、ギリシャやイタリアで政権交代があり、首班に実務経験者がなったことで期待感が高まりましたが、ギリシャでもイタリアも財政緊縮政策に対する一部野党や国民の反発は依然として強く、それが完全に履行できるかは不透明です。スペインについても、2003年以来政権にあった社会党に変わって国民党が多数を占めましたが、財政緊縮政策への国民の不満は大きく、実効性に問題を抱えています。これに加えて、欧州連合の2大強国の一つであるフランスの国債金利がドイツ国債に比べ、一段と高くなるなどの動きが見られ、フランスに対する市場の懸念も生じています。

こうした状況の中で、市場価格の下落が続く国の国債購入に対する欧州中央銀行のあり方をめぐるドイツ政府とフランスを含む他の国々の政府の考えの対立が目立ってきています。ドイツのメルケル首相は国債価値の下落はその国の財政政策に問題があるからで、そうした国は自国の財政支出削減にもっと強く取り組むべきであるとの従来の立場を変えていません。またメルケル首相は欧州中央銀行によるメンバー国の大幅な国債購入に否定的で、欧州連合条約にはそうした機能は規定されていないとしています。これに対して、民間金融機関がイタリアやギリシャなどの国債を大量に保有するフランスなどは自国の財政赤字問題もあり、欧州中央銀行の機能を拡大させ、メンバー国の国債購入に大きな道を開くべきとしています。

欧州連合創設の経緯からする限り、メルケル首相の主張が正しく、財政悪化に陥った国は自国の努力で改善に努めることが望まれます。しかし、共通通貨ユーロの価値維持が第一の目的とされている現在の欧州連合では、為替価値の下落による市場調整メカニズムに委ねることができず、国の資産売却あるいは公務員の削減や給与や年金の大幅削減と言った政府の人為的財政支出削減策に依存せざるを得ません。しかし、こうした資産売却や財政支出削減策は国の経済活動を縮小させ、その結果更なる税収の減少、そして新たな支出削減が必要になるなど悪循環に陥ることになります。そして、このことがギリシャ、イタリア、スペインのように、全体の経済における財政支出依存が高い国々では国民の現政権への不満が高まり、政権交代を求めるなど政治の不安定化が増すことになります。また、欧州連合内部でメンバー国の民間金融機関が他国の国債を保有する度合いが高い状況では、一国の財務問題が民間金融機関の他国の国債保有を通じて、金融機関が属するメンバー国の財務問題に波及するなど負の連鎖が拡大することになります。

11月21日付けのビジネスウィーク誌は、現在の欧州通貨統合を1930年代の厳格な金本位制に例え、金本位制がもたらした1929年の大不況あるいはドイツやイタリアにおけるファシスト政権誕生等と言った悲劇的な出来事を再び起こさないための提言を行なっています。それによれば、共通通貨の維持が困難な国は欧州連合からの離脱が望ましいものの、それが直ぐに出来ないのであれば、金本位制でもあったように連合内の黒字国は赤字国と同じように負担をすることが必要であるとしています。具体的には欧州金融安定基金に銀行の信用創造機能を拡大し、赤字国に対して一定の条件を付けながら、金額に制限のない融資を行なうべきとしています(現在、欧州連合で議論されているのは欧州中央銀行による重債務国の無制限の国債購あるいは欧州共通債です)。こうした提案は現在財政赤字問題を抱えている南欧諸国の政府などの主張に見られるもので、財政緊縮政策だけでは根本的な経済状況の改善にならず、国民の強い反発から一層の政治不安定化が高まるとの懸念に基づいています。

欧州連合の設立の経緯や通貨統合の目的からすれば、ドイツの主張が正しいと見られるものの、現在のように統一通貨維持のためにメンバー国の間の負の連鎖が生じている状態を放置すれば、欧州連合は完全に行き詰まってしまう恐れがあります。現在、欧州中央銀行の国債購入や欧州共通債の発行に強く反対しているドイツにしても、欧州連合の共通通貨維持が自国経済に多胎のメリットをもたらしてきたことを考えれば、そうした提案を容認せざるを得ないように思われます。但し、欧州中央銀行による無制限の国債購入や欧州共通債の発行はドイツが懸念するインフレ誘発や重債務国の安易な財政政策を導くリスクもあり、メンバー国の財政規律の共通化といった厳しい条件設定が必要になっています。

これに関連して、現在メルケル首相とサルコジ大統領の間で、12月9日の欧州連合首脳会議に合わせてトリプルAの格付けを維持する6カ国(ドイツ、フランス、オランダ、オーストリア、フィンランド、ルクセンブルグ)による財政統合と共通債発行を可能にさせる欧州連合の条約改正を進める話し合いが進んでいるとも伝えられています。しかし、この構想は他の欧州連合メンバー国の反発やフランスの格下げのリスクもあり、それほど容易ではないように見られます。いずれにしましても、欧州中央銀行の国債購入や欧州共通債の発行は重債務国の財政問題を一時的に軽減させるのは事実ですが、重債務国の中には経済実態に合わない共通通貨システムを採用している自体が再建の大きな障害になっている面も否定できません。この点、現在の制度にはないものの、深刻な重債務国は欧州連合を離脱させ、直接IMFの管理下で、為替調整を含めた総合的な再建策を実行させる取り決めを組み込むなど根本的な見直しが必要であるように思われます。

3.政治的な対立が招く米国経済の停滞
次に、米国については、国内の政治的対立が株式市場に悪影響を与えています。特に財政再建をめぐる民主党と共和党のイデオロギー的な対立は本来あるべき米国経済の回復過程に大きな障害になっているように見られます。11月23日までに新たな財政削減措置を目指していた議会超党派委員会の協議は民主党と共和党の代表が其々自分達の従来の立場を変えず、合意に至りませんでした。この背景には財政赤字の改善には富裕層の高率課税復活が必要とする民主党と医療保険や年金などの社会保障費の削減が不可欠であると共和党の根本的な対立があり、加えて来年11月の大統領選挙を控え、双方とも安易な譲歩は支持者の離反を招く恐れがあるとの立場を貫いたことにあります。この結果、トリガー条項により、2013年1月から10年間に渡って1.2兆ドルの歳出削減が強制的に行なわれることになりますが、来年11月の大統領選挙の行方によっては、新たな歳出削減策が出される可能性がないでもありません。むしろ、近い将来にとって、より重要なのは今年12月末に期限が切れる従業員給与の一時的減税措置や失業保険の延長措置で、これらが通らないと米国経済への悪影響が懸念されます。

共和党の大統領選挙候補による争いは、女性問題を抱えるケイン候補の支持率が低下する一方、保守的な姿勢を貫く元下院議長のキングリッチ候補の支持率が上昇、一部のメディアは支持率が伸び悩むトップのロムニー候補に並んだと伝えています。11月22日の夜に開かれたCNN主催の共和党大統領候補による外交問題の討論会でも、ギングリッチ候補はこれまでの保守的な対応策を変え、メキシコからの不法移民で家族と共に25年以上米国に滞在している人達には教会活動などのコミュニティーに同化している限り、恩典を与え米国での滞在を認めるべきと発言し、他の候補者との差を位置づけていました。しかしながら、ギングリッチ候補は政府系住宅金融機関であるFreddie Macより多額の報酬をもらって(一部の報道では約180万ドル)、その機関の存続のために、共和党議員を中心連邦議会の議員達にロビー活動を行なったとの批判を受けています。この批判に対して、ギングリッチ候補は得意の詭弁によって、自分は歴史家としてその機関のあるべき姿を助言したにすぎないとの自己正当化の抗弁を繰り返しています。

また、11月22日の討論会は共催者が共和党のシンクタンクといわれるThe Heritage FoundationやAmerican Enterprise Instituteであったことから、前のブッシュ政権の要人達(例えば、ネオコンの代表者の一人とされるウォルフォウィッツ元国防次官補)が質問を行なっていました。その中で、ある質問者はイスラエルがイラクへの攻撃を始めた時に米国はイスラエルを支持するかを聞いていましたが、これに明確に反対したのはポール議員だけで、多くの候補者は支持を表明していました。ポール議員の立場は国内の経済事情が大変な時期に米国の負担が大きすぎる外国への関与はこれ以上すべきでなく、防衛予算についてもブッシュ政権時にアフガンやイラク戦争で拡大し過ぎた防衛費の大幅な削減は当然であるとして、共和党の他の候補とは一線を画していました。いずれにしましても、共和党の大統領候補の選定は来年1月3日のアイオワ州の党員集会や8日のニューハンプシャーの予備選挙まで本命がないまま、ロムニー候補対反ロムニー候補者達の対立を軸に続いていくものと見られます。
               (2011年12月2日: 村方 清)