Tuesday, May 1, 2012

緊縮財政政策で内部対立が高まる欧州連合と米国経済の現況















1.4月の株式市場とアップル社の業績発表

 4月の株式市場は、欧州でスペインの財政危機に伴う国債入札の懸念、中国やブラジルなどの新興国の景気後退に加え、米国でも一部の経済指標に悪化要因が出てくるなど、不安定な動きとなりました。市場の大きな動きは以下のようなものでした。

4月3日:13日に予定される連銀公開市場委員会の議事説明要旨で、追加金融緩和策の後退が伝わったことから、65ドル安(0.49%減少)。
4月4日:スペインの国債入札が不調であったことや前日の連銀の追加金融緩和策後退の観測から、125ドル安(0.95%減少)。
4月9日:4月6日に発表された3月の失業率は8.2%に減少したものの、非農業部門の雇用者増が12万人で予想の20万人を下回り、131ドル安(1%減少)で、13000ドル割れ。
4月10日:財政危機のスペインの国債利回りだけでなく、イタリアやポルトガルの国債利回りも上昇し、214ドル安(1.65ドル減少)。ナスダックも56ドル安で3000ドル割れ。
4月11日:スペインやイタリアの国債金利の上限が見え、欧州での株式市場全面高およびアルコアの第1四半期業績が市場予想を上回り、6日振りに反発、89ドル高(0.70%増加)。
4月12日:欧州危機への警戒感が後退したことや中国の経済成長への期待から、今年2番目上昇の181ドル高(1.41%増加)。
4月13日:欧州財政問題への警戒感や中国景気の後退懸念から、再び137ドル安(1.05%減少)。週間ベースで210ドルの下げで、今年最大の下げ幅。
4月17日:コカコーラなどの米国企業の業績が好調であったことやスペインの国債入札が順調であったことから、194ドル高(1.5%増加)。
4月18日:インテルやIBMなどの業績が予想を下回ったことや19日に実施する中長期のスペイン国債入札の警戒感から、82ドル安(0.63%減少)。
4月23日:ドイツなどの欧州景気低迷予測やフランス大統領選挙の結果による緊縮政策継続の懸念から、102ドル安(0.78%減少)。
4月24日:AT&Tなどの企業業績が好調で、74ドル高(0.58%増加)。
4月25日:アップルの業績が大半のアナリストの予想を大幅に超え、IT関連株を中心に買いが増加、89ドル高(0.69%増加)。ナスダックも68ドル高(2.30%増加)。
4月26日:3月の仮契約住宅販売指数が大幅に増加したことや25日の連銀議長の記者会見でおける追加金融緩和の可能性への言及から、114ドル高(0.87%増加)。
4月27日:2012年第1四半期のGDP推定値は2.2%で予想の2.5%を下回ったものの、4月の消費者信頼度指数の改善から、24ドル高(0.18%増加)で、4月2日以降の高値更新。
4月30日:3月の個人消費が前月比0.3%増で予想を下回り、15ドル安(0.11%減少)。この結果、月間としては2006年7月以来5年振りに、7ヶ月連続の上昇。

今月は米国の大手企業で四半期の業績発表がありましたが、市場予想を超える実績を示した企業が多かったようです。2月末に時価総額ベースで5000億ドルを達成、4月初めには 一時6000億ドルを越えたことで注目されたアップル社でしたが、4月24日の業績発表前数日間、急激に下がり始め、下落率で8%以上、株価も560ドルまで下がりました。この理由は米国市場において最大手携帯電話運営会社であるVerizon社とAT&T社によるiPhone製品の売り上げが前四半期に比べ、数量ベースで1200万台から750万台まで低下したことでした。しかし、24日の実際の業績発表を見ると、米国や欧州では販売が不振であったものの、中国を始めとするアジア市場で急速に伸び、台数ベースで前四半期の3700万台には届かなかったものの3510万台に達しました。また、3月半ばから新製品を売り始めたiPad製品も1180万台となったことが明らかになりました。この結果、今期の売上高もEPS(一株当たり利益)も市場予想を大きく上回り(其々、予想の368億ドルと10.04ドルに対して、392億ドルと12.30ドルの実績)、翌日の25日には株価は8%以上の上昇となり、再び600ドルを越えました。アップル社の今期の業績発表は多くの米国株のアナリスト達の予想を大きく異なる結果となり、アップルの製品販売については米国市場を過度に注視するのではなく、世界市場全体で評価することの重要性を教えたようです。


2.スペイン、イタリア、そしてフランスに広がる欧州危機

4月10日に、スペインの国債金利が危機ラインと言われる6%に近づき(16日には一時6%越え)、また、イタリアやポルトガルの国債金利も上昇、欧州危機の再燃の懸念から、ダウ価格は約214ドル安となりました。この下げ幅は昨年11月23日以来の規模で、欧州危機が再び米国株式市場に大きな影響を与えることになりました。

スペインの経済規模はGDPベースで、欧州連合の中で、ドイツの20%、フランスの16%、イタリアの13%に次いで、4番目の9%を占めています。しかし、リーマンショック後、時価会計への移行もあり、不動産不況が深刻となり、大手金融機関の不良債権が急増、資本不足問題から信用収縮が始まりました。このため、景気後退による経済の低迷、これに応じて財政赤字が急速に悪化しています。2011年の財政赤字はGDPの6.6%で、基礎的財政収支でもマイナス4.5%で、欧州連合ではアイルランドに次いで高い水準にあります(但し、スペインの累積公的債務はGDP比約66%で、ギリシャの159%やイタリアの120%に比べれば低い水準にあります)。加えて、スペインでは社会主義政党が政権を取っていたこともあり、既存の従業員の労働条件が過度に保護されており、労働市場が極めて硬直的です。このため、欧州連合ではスペインの失業率はギリシャと同程度の約23%で、特に25歳以下の若者の場合には49%に達しています。本来、民間部門の経済が収縮している時には、財政による景気刺激策が不可欠ですが、欧州連合では共通通貨ユーロの維持のために、メンバー国の財政規律の達成が重要であるため、積極的な刺激策を取れない状況にあります。

また、4月19日と20日に開かれた20カ国の財務相、中央銀行総裁会議はIMFの融資能力の拡大のために、日本を含む10数カ国が資金協力の方針を示し、4300億ドル強の調達で合意しました。当初目標では5000億ドル以上となっていましたが、米国が国内の政治状況から資金協力に積極的でなく、目標に達することはできませんでした。ギリシャに次いで、スペインも財政赤字が拡大している中で、IMFの追加の融資能力拡大は極めて重要ですが、その一方で欧州連合の共通通貨維持のために財政規律の強化が求められている状況では、経済収縮から、逆に公的債務が増加してしまうという悪循環があり、欧州連合やIMFの融資能力の拡大だけでは対応できないというジレンマが生じています。

 さらに、今後の欧州連合の動きに関連して、最も注目されるのはフランスの大統領選挙の行方です。4月22日に行われた投票では第一位が社会党のオランド前第一書記の28.63%で、第二位のサルコジ大統領の27.08%を上回りました。この結果、5月6日に両候補による決戦投票が行なわれる予定ですが、現時点では成長や雇用を重視するオランド候補の優勢が伝えられています。しかし、オランド候補が当選するようなことになると、欧州連合でドイツのメルケル首相がフランスのサルコジ大統領の協力を得て進めてきた財政規律優先政策が今後も続行できるのかという問題が生じます。また、5月6日にはギリシャの総選挙も予定されており、国民に不満が大きい現在の緊縮財政政策の継続が難しくなる事態も予想されます。加えて、欧州連合の優等生と言われたオランダで、緊縮政策をめぐる連立与党間の対立から、内閣が総辞職する事態に陥りました。いずれにしましても、5月6日のフランスの総選挙の結果によっては、財政規律を優先させてきた欧州連合の経済政策が従来のようには実行できないリスクを抱えるかも知れません(一部の米国アナリストは、メンバー国内で脱欧州連合を主張する右翼政党が台頭するよりは、成長優先を唱える左翼政権の誕生は、欧州中央銀行の役割強化など欧州連合の新たな共通政策導入に繋がるのではないかとの見方を取っています)。


 3.米国経済の鈍化とオバマ政権のバッフェット・ルール法案

4月27日に米国政府は2012年第1四半期のGDP推定値を発表しましたが、市場予想の2.5%を下回る2.2%に留まりました。GDPの約7割を占める個人消費は順調な伸びを示したものの、民間の設備投資が低調で、2012年第4四半期の3%から低下する結果になりました。第1四半期の経済鈍化は雇用状況にも影響を与え、3月の失業率は8.2%に下がったものの、非農業部門の雇用増は従来の20万人以上から12万人に低下しました。4月25日にバーナンキ連銀議長が追加の金融緩和の可能性に言及したのもこうした最近における米国景気の鈍化状況を反映したものでした。

オバマ大統領は4月10日と11日にフロリダとホワイトハウスで、米国では上位1%の富裕層が得る所得の比率が1920年代以降最高になっているものの、彼等が支払う税率は過去50年間で最低クラスの税率になっているとして、年間所得が100万ドルを超える富裕層は最低30%支払うべきとするいわゆるバッフェット・ルールの法案を議会に提出することを発表しました。特に、オバマ大統領は富裕層に税制上の優遇を与えれば経済発展が期待できるとの共和党の考え方を8年間のブッシュ前大統領時代の経験を引き合いに否定、経済発展はミドルクラスが強く、豊かになることによって生じるものであることを強調しました。さらに、富裕層からの増税分を教育、研究、医療、退役軍人への投資に使って、社会全体の向上を目指すべきことを提案しました。これに対し、共和党側は見せかけの増税を行うよりは、財政赤字の削減を図ることが何よりも重要とのコメントを出しました。富裕層への課税強化措置に対する世論の動向は、上院で採決が予定された4月16日の時点で、賛成が72%で、反対が27%で圧倒的に賛成が上回っていました。しかし、上院の投票結果は51票対45票で、承認に必要な60票に9票足りませんでした。特に、共和党議員では46名の内、1名のみの賛成に留まりました。世論の圧倒的な支持を得ながらも、議会で承認されない理由は、特定グループによる政党や議員への働きかけが強いためです。同じように、多大な利益を上げている大手石油会社への連邦政府からの補助金制度も、世論の74%が廃止に賛成しながら、上院で60票を得ることができませんでした。いずれにしましても、連邦議会の行動が世論の動きを反映せず、特定団体やグループからの影響力に左右されているのが米国政治の現状なのかも知れません。


 4.共和党の大統領候補選び

共和党保守派の支持を得て、2位につけていたサントラム候補が4月10日に突然、選挙レースから撤退することを発表しました。理由として、サントラム候補は家族的な理由としましたが(子供の一人が重い病気)、あまりに巨額の選挙資金を使用するロムニー候補に対抗すべく、このままキャンペインを続ければ多額の借金を背負いかねないことがあったと見られます(4月11日付けのLA Times紙はサントラム候補の借金が92万ドルに達していることを伝えています)。加えて、サントラム候補の出身地であるペンシルベニア州における4月24日の予備選でロムニー候補に敗れれば、将来の政治生命に致命的な影響があるとの判断があったものと見られます。また、4月26日にはギングリッチ候補も選挙レースから撤退することを表明、この結果、共和党の大統領候補は必要代議員の半数を獲得したロムニー候補に対して、ポール候補が追う展開となりましたが、資金力と組織力に著しく欠けているポール候補が挽回することは極めて難しく、早ければ5月中にロムニー候補が過半数を獲得するものと見られています。

ロムニー候補の共和党大統領候補指名獲得が確実になった現在の状況では、次の焦点はロムニー候補が誰を副大統領候補に選ぶかに移ってきているように見られます。これに関連して、4月18日にCNNが行った共和党員による調査では1位がライス元国務長官の26%、2位がサントラム候補の21%、3位がクリスティー・ニュージャージー州知事とルビオ・フロリダ州選出上院議員が14%となっています。また、3月15日付のCNNインターネットニュースはロムニー候補の問題として以下の点を指摘しています。

1.共和党のエスタブリッシュメントがロムニー候補を選んだもので、伝統的な保守派の支持を得ていないこと。
2.フリップ フロッパー(風見鶏)で信用できないこと。
3.人を興奮させる魅力がないこと。
4.ビジネスの成功経験があっても、一般共和党支持者との間で共通の価値がないこと。
5.モルモン教で、共和党保守派の支持基盤であるキリスト教福音派との接点がないこと。

こうしたロムニー候補の弱点を補う意味では、副大統領候補には大統領候補指名争いをしたサントラム候補がベストな選択ですが、政策や主張があまりに異なる二人がコンビを組むことは極めて難しく、3位のクリスティー知事かルビオ上院議員、あるいはポルトマン・オハイオ州知事あたりに落ち着くのではないかと見られます。但し、誰が共和党の副大統領候補になるにせよ、11月初めに予定される大統領選挙前の数ヶ月間の米国経済が深刻な状況にならない限り、ロムニー候補に対するオバマ大領領の優位性は変わらないと思います。  

                                                 (2012年5月1日:  村方 清)