Wednesday, May 1, 2013

小康状態を保った欧州市場とバブル化が懸念される米国市場
















1.4月の株式市場
4月の株式市場は数多くの米国主要企業の4半期業績が発表されましたが、収益性は確保できたものの、景気停滞もあり、売上げ収入は市場予想を下回る企業が多いのが特徴でした。一方、欧州は経済の低迷が続いているものの、株式市場に悪影響は与えるような深刻な事態は起こりませんでした。市場の主要な動きは以下の通りです。

42日:欧州市場でドイツなど主要国の株価指数が上昇したことや2月の製造業受注額が前月比3%増加で、米景気の回復が順調との見方から、89ドル高(0.61%増加)。
43日:サンフランスコ連銀総裁による今夏にも量的緩和策の縮小発言に加え、ADPの全米雇用レポートで、非農業部門の雇用者数が158,000人で市場予想の200,000人を下回ったこと、更に北朝鮮による核攻撃命令の報道などから、112ドル安(0.76%減少)。
44日:日銀による大胆な金融緩和策が米国株式市場を押し上げるとの見方がある反面、5日に発表される雇用統計の様子待ちの動きもあり、56ドル高(0.38%増加)。
45日:米政府発表の3月雇用増加数は88000人で、市場予想の20万人を大きく下回り、雇用情勢の改善への懸念から(失業率は7.6%に減少)、41ドル安(0.26%減少)。
410日:欧州の株高に加え、日銀の金融緩和で資金が米国市場に流入するとの見方から、129ドル高(0.88%増加)。
411日:新規失業申請件数が市場予想を下回る346,000件であったことや世界の余剰資金が流入するとの期待感から、63ドル高(0.42%増加)。3日連続の最高値更新。
415日:全米住宅建設業協会の4月の住宅指数が前月比で2ポイント低下して42となったこと、ニューヨーク連銀の4月の製造業景況指数が前月比で市場予想の5.0に対して3.05となったこと、さらにボストンマラソンの爆破事件で、266ドル安(1.76%減少)。
416日:3月の住宅着工件数が年換算で前月比7%増の1036000戸であったことや金相場が反発したことを受けて158ドル高(1.08%増加)。
417日:インテルやバンク・オブ・アメリカなどの4半期決算を受けて、米企業業績への警戒感が強まり、売りが優勢で、138ドル安(0.94%減少)。
418日:雇用や製造業の関連指標が悪化に加えて、モルガンスタンレーなどの決算が低調であったことから、81ドル安(0.56%減少)。
423日:米新築住宅販売件数が前月比1.5%増だったことやデュポンやトラベラーズ等の四半期決算が良好であったことから、152ドル高(1.05%増加)。
426日:政府発表の第1四半期GDPは市場予想に反し、前期比2.5%の増加に留まったが、7割を占める個人消費が3.2%の増加になったことから、12ドル高(0.08%増加)。
429日:3月の仮契約住宅販売指数が前月比1.5%増加したことやイタリアの新政権発足の見通しから、106ドル高(0.72%増加)。

2.小康状態を保った欧州市場
キプロス問題で揺れた3月に比べ、4月の欧州市場は政治的混迷が続いたイタリア、緊縮措置に対する国民の反発が強まっているポルトガル等を除けば、比較的に安定していました。

224日と25日の総選挙以来、連立政権樹立が難航しているイタリアでは任期切れとなっていた大統領に現職のナポリターノ大統領が422日に再選されました。大統領は就任演説の中で、主要政党による新政権の早期樹立を求めると共に、欧州連合との間に合意した緊縮措置を守る必要があることを強調しました。市場はこれを受けて、イタリアの10年物国債は201011月以来の低水準となる4.06%まで低下しました。そして、24日には首相に中道左派連合のレッタ前民主党副書記長を指名、組閣を要請しました。レッタ氏は民主党に属するものの、以前中道右派の旧キリスト教民主党に属していたこともあり、中道右派・自由国民との大連立内閣を組閣、429日に下院、30日に上院で信任されました。この結果、総選挙から2ヶ月ぶりに新政権が発足することになりました。当初、レッタ大連立政権は緊縮策の緩和を求める中道右派勢力も参加したため、市場では新政権が緊縮策を放棄するのではないかとの懸念が持たれました。しかし、30日午後にドイツを訪問し、メルケル首相との会談では財政再建の公約を守ることを宣言すると同時に、成長促進にも取り組む姿勢を示し、メルケル首相も一定の理解を示したこことが伝えられています。

一方、ポルトガルについては、欧州連合がポルトガル政府の受け入れ可能な歳出削減や構造改革措置を提案するとの期待もあり、ポルトガルの10年物国債の利回りは今年1月末以来の6%を割り込みました。

また、経済情勢の悪化に歯止めがかからないスペインでは426日、景気低迷から脱するための経済計画を発表、GDPに対する財政赤字比を3%にする期限を2014年から2016年に延ばす一方、若者の企業や中小企業向けの規制緩和策を提案しました。欧州委員会は分析を進めた上で、529日に判断することになりました。

いずれにしましても、南欧諸国の経済困難は依然続いている状況ですが、新たな経済問題が米国の株式市場に大きな悪影響を与えることはありませんでした。

3.大統領の2014会計年度の予算教書
オバマ大統領は410日、財政赤字の削減と将来的成長の確保の両方を実現するものとして、37700億ドル規模の2014会計年度(201310月から20149月)の予算教書を議会に提出しました。今回の予算教書で、2014年度の財政赤字は2013年度の9730億ドルから7440億ドルに減少し、GDPに対する比率は4.4%に低下する見通しとなっています。また、31日に始まった強制的歳出削減に代えて、今後10年間で財政赤字を18000億ドル追加削減することを提案しました。歳入面では年収100万ドル以上の富裕層に最低30%の税率を課税したり(バフェット・ルールの適用)、年間25万ドル以上の世帯に税額控除の上限を設定したり、更にプライベートエクィティ会社の幹部が受取るキャリード・インタレストの税額控除廃止などで、5800億ドルの税収を得ることができるとしています。一方、歳出面では物価上昇の算定方式を変更することで、社会保障費の伸びを抑えたり、医療保険制度の改革を通じて4000億ドルの削減を目指すとしています。

今回の予算案について、オバマ政権側は歳入増と歳出削減のバランスがとれた手法と訴えていますが、共和党のベイナー下院議長は歳出削減を増税と抱き合わせる必要はなく、18000億ドルの削減の内、12000億ドルは強制削減によって実現されるので、実質的な削減は6000億ドルに過ぎないと批判しています。いずれにしましても、31日より強制削減が実施され、政府職員の解雇問題や景気への悪影響が出ているだけに、議会は今回の予算案を踏まえ、2014年度会計年度の予算案成立に向けて、早急に動き出すことが求められています。

4.日米の金融緩和策が助長する株式市場のバブル化
3月末以降、米国株が市場最高値を更新し続け、米国では連銀の量的緩和策について縮小や廃止という出口論が盛んになっています。 43日にはサンフランシスコ連銀のウイリアムズ総裁が月ベースの新規雇用者数が20万人を越える状態が今後数ヶ月も続くのであれば、米国連銀の資産購入措置は今夏から次第に縮小し、年末までに終了すべきと見解を明らかにしました。こうした中で、日本の中央銀行である日銀の黒田新総裁が44日に発表した大規模な金融緩和措置は米国市場でも様々な見方を呼ぶことになりました。今回の日銀の金融緩和は質的にも量的にも、従来の政策とは異なっています。第1に金融政策の目標を金利からお金の量(マネタリーベース)に変えると同時に、資産購入による資金供給量を2012年末の138兆円から2年間で約2倍の270兆円まで増加させると明言しました。加えて、長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍に拡大し、長期国債買い入れの残存期間を2倍以上に延長することを決定しました。こうした大規模な量的緩和政策は市場に大きな影響を与え、円が97円に低下したこともあり、株価も13000円台を回復しました。

日銀による今回の量的緩和策は米国の連銀が過去4年間行なってきた量的緩和策との比較で見れば何ら新しい措置はなく、違いを上げるとすれば日米の経済規模の比較からして、日銀の量的緩和策は大きすぎること、2年間は継続すると期間を明示したことにあります。これは日本での過去の経験から、規模の大きさと長期の期間を示し、市場への驚きを与える効果を狙ったものと見られます。その意味で、現時点で、それなりのインパクトを与えたということができます。

しかし、その一方で、債券市場では長期の国債金利が大幅に低下し、買い手が出にくくなるなどの悪影響を与えることになりました。また、翌週の米国市場では円安と金利安になった日本の債券市場から、外国の機関投資家のみならず、日本の機関投資家も海外シフトを強めるなどの期待から、米国の債券市場でも金利が低下、米国の株式市場が活況を呈するなどの効果をもたらしました。また、市場では日本が導入した長期間の大胆な量的緩和策により、米国の連銀も簡単に量的緩和策を変更できなくなったとの過度な期待感を招く結果になってしまいました。但し、ダラス連銀のフィッシャー総裁は44日に日銀が日本で導入した緩和策の如何にかかわらず、米国の連銀は量的緩和策の限界を認識した上で、あるべき方向へ持っていくことが必要との見解を述べました。

現在、米国で連銀の量的緩和策の継続について議論が分かれてきているように、量的緩和策の実体経済への影響は相当低下してきているのが実情です。グローバル化の影響による先進国経済の低迷で、米国内での実需が少ない時に、マネーサプライを増加させても、経済成長や雇用に与える影響は限定的で、株式市場だけが中央銀行による資金供給によって株価の高値が形成されているのは市場原則に基づく株式市場の動きを歪めているように見られます(短期間で株価が急騰した日本の株式市場も同様)。4月に米国企業の第1四半期の決算が発表されましたが、コスト削減効果による収益率の向上はあったものの、売り上げは市場予想を下回るところ企業が多く、56%の株価下落調整が必要との見方が強まる要因となっています。更に、もし中央銀行の行過ぎた金融緩和策によって、リスク投資商品とされる株式市場に安定利回りを求める一般の銀行預金や年金基金の資金が大量に流れるようなことがあれば株式市場は投機性が強まり、過去何回も経験してきたように、暴落の危険性も高まることになります(1980年代後半の日銀による低金利政策がもたらした1990年末のバブル経済の崩壊及び2000年代前半にグリーンスパン連銀議長が主導した低金利政策がもたらした20079月以降の住宅不動産バブル破綻による深刻な金融不況)

本来あるべきは、政府と議会が政治的な決断により根本的な構造改革を実行して、財政収支の健全化に向かって道筋をつけることであり、中央銀行の役割は伝統的な金融政策で株式や債券市場を安定化させていくことが求められています。その意味で、中央銀行による大規模な量的緩和策が通貨価値の下落や株式市場のバブル化を助長させたり、財政機能の一部を担うようなことは国全体の金融と財政のバランスの不健全性を導いているように見られます。その結果、後で生じるバブル崩壊という大きな副作用を避けるためにも、現時点から縮小、やがて廃止に向かうことが必要になってきているように思われます。
             (201351日:  村方 清)