Monday, July 1, 2013

米連銀の量的緩和策縮小計画で揺れる金融投機市場(中銀バブル市場)の反応
















1.6月の株式市場
6月の株式市場で最も注目されたのは、619日のFOMC後のバーナンキ議長の記者会見でした。彼が言及した量的緩和策縮小計画は過熱状態にある米国市場のみならす、世界の株式市場に株価の大幅下落を与えることになりました。主要な動きは以下の通りでした。

63日:米サプライマネジメント協会の製造業景況感指数が4月の50.7から49に低下、連銀が量的緩和策の早期縮小が後退したとの見方から、138ドル高(0.92%減少)。
65日:ADPによる非農業部門の雇用者数が前月比135千人で、市場予想の17万人を下回ったことや、連銀の量的緩和策の先行き不透明感から、217ドル安(1.43%減少)。
67日:政府発表の非農業部門の雇用者数の伸びが前月比175,000人の増加となり、市場予想(160,000人)を上回ったものの、失業率は7.6%へ増加したことから、連銀の量的緩和策の早期縮小は遠のいたとの観測から、208ドル高(1.38%増加)。
612日:投資家の運用リスク資産を回避する動きから127ドル安(0.84%減少)。
613日:5月の小売売り上げが市場予想を上回る0.6%となったことや週間新規失業保険申請件数が予想に反して減少したことから、投資家心理が改善、前日までの大幅下落を買い戻す動きが強まり、181ドル高(1.21%増加)。
614日:5月の米鉱工業生産指数が市場予想の0.1%を下回ったことや6月の消費者態度指数が先月の84.5から82.7へ低下したことから、106ドル安(0.70%減少)。
617日:6月のニューヨーク連銀の景気指数がプラス7.84と前月のマイナスから大幅に改善、また全米住宅建設教会の住宅市場指数も大幅に上昇で、110ドル高(0.73%増加)。
618日:米国の住宅着工件数は市場予想の95万戸に対して、914千戸であったが、連銀が市場の懸念を抑制するとの見方が強まり、138ドル高(0.91%増加)。
619日:FOMC後の声明や連銀議長の記者会見を受けて量的緩和策の縮小時期が近いとの見方が広がり、206ドル安(1.35%減少)。
620日:米国の量的緩和策の早期縮小との見方が強まったこと、中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)が2ヶ月連続で50を下回り、354ドル安(2.34%減少)今年最大下落。
624日:中国の株価が5%以上下落、米長期金利の高騰で、140ドル安(0.94%減少)。
626日:ECBのドラギ総裁が当面、緩和政策が続くと述べたことや米国第1四半期のGDPが2.4%から1.8%へ下方修正、金利上昇の懸念が薄れ、150ドル高(1.02%増加)。
627日:5月の個人消費支出が前月比0.3%増加、5月の仮契約住宅販売指数も6.7%と大幅に増加、ニューヨーク連銀総裁が量的緩和策の縮小は経済見通しの結果次第と発言したことで、114ドル高(0.77%増加)。ダウは1週間振りに15,000ドルを上回る。
628日:シカゴ購買部協会景気指数(PMI)の悪化と消費者信頼度指数の上方修正が交錯したが、連銀理事の9月からの量的緩和策縮小発言もあり、115ドル安(0.75%減少)。

2.米連銀の量的緩和策縮小計画で揺れる金融投機市場(中銀バブル市場)の反応
米国の株式市場が過熱化する中で、注目されていた連銀のFOMC618日と19日に開かれました。19日のFOMCの声明によれば、経済活動は穏やかなペースで拡大し続けており、労働市場はここ数ヶ月更なる改善を示したが、失業率は依然高い水準にある。家計支出や民間設備投資も改善が進み、住宅部門はさらに強くなったが、財政政策が経済成長を抑制している。物価上昇はFOMCの長期目標を下回る水準を維持しており、長期インフレ期待は安定した状態を維持している。今後も適切な金融政策によって、FOMCの二大目標である雇用の最大化と物価の安定を整合的な水準に段階的に落ち着いていくと予想される。このため、FOMCは現行の400億ドルの住宅ローン担保証券と450億ドルの長期米国債購入を継続し、労働市場や物価上昇の見通しの変化に伴なって、資産購入のペースを増減する準備をしている。なお、雇用の最大化と物価の安定に向けた改善状態を維持するために、資産購入政策が終了した後も、相当な期間はフェデラル・ファンド金利の誘導目標の範囲を00.25%に維持するなどとしました。

更に、午後の記者会見で、バーナンキ議長はインフレ率が目標である2%に近づき、今後発表される経済指標がFOMC’の目標と整合的であれば、現時点で年内に資産購入のペースを緩やかにし、その後も景気が予想通りに回復すれば、来年前半にかけてさらに資産購入のペースを緩め、来年半ばまでに終了させることを明らかにしました(その時点では失業率は当初目標の6.5%ではなく、7%程度になっていることを予想)。資産購入政策の段階的な縮小が可能と見ている理由として、経済指標の改善に加え、州政府の雇用削減の鈍化、最近における連邦政府の財政赤字縮小を伝えました。

今回のFOMCが従来以上に重要であったのは、量的緩和策の具体的な縮小・出口計画に言及したことにあります。この背景には前回、430日と51日に開かれたFOMCで多くの委員が、早ければ6月から資産購入規模を縮小したいとの意向を示していたことがあります。加えて、517日に開かれた諮問委員会で、市場に精通したメンバーの委員達が量的緩和の終わりは一時的に市場の混乱を招くことはあるにしても、緩和策を続ければ持続が不能なバブルが起きる恐れがあるとして、緩和を長引かせるべきではないことを連銀幹部に助言したことにあります。ある意味で、グローバル化による経済のデフレ化が進む中で、連銀の金融緩和策によるマクロ面の雇用や物価に与える影響が限定的になり、一方で、量的緩和策が株式市場の金融投機相場を形成していること(今年3月初めに、ダウ価格はリーマン・ブラザーズ破綻前の2007109日の最高値を更新するなど企業実績をはるかに越える株価の高騰と乱高下が繰り返される市場の不安定性)への警戒感が強まっていることの表れと言えます。

しかし、バーナンキ議長の説明に対する株式市場のネガティブな反応は予想以上に大きく、19日はダウ価格が202ドル下落、20日は中国のPMIの不振も重なかったことから353ドルの大幅な下落となりました。バーナンキ議長が経済の改善を前提として、異常な量的緩和策の出口方法を示したにも拘らず、市場がこれほどネガティブになっているのは現在の連銀の量的緩和策に依存し過ぎた中銀バブルとも言われる米国株式市場の歪みによるものと見られます。ちなみに、米国市場は経済指標の好調さが発表された24日にダウ価格は140ドルの上昇となりましたが、翌日には第1四半期GDPが当初の2.4%から1.8%に下方修正されたものの、これによって連銀の量的緩和策縮小の可能性遠のいたとして、更に150ドルの上昇となりました。経済が改善されているから、株価が上昇するのは理解できますが、悪化しても連銀が支えるから、株価が上昇するというのは米国の株式市場がいかに連銀の緩和策に依存しているか(中銀バブル市場)を示しています。

連銀が失業率を6.5%以下に下げたいとして、低金利政策に加えて異常とも言える大規模な量的緩和策を長期間に渡って続ければ、デフレ経済の進展で実需の借り入れが少ない状況では株式市場に過剰な資金が流れ、株価が高騰していくのは当然のこととなります。そして、多くのグリーディーな投資家にとっては株価高騰によるキャピタルゲインの持続のためには、実体経済以上に株価の高騰が続いても、連銀による量的緩和策の継続が不可欠であるとの考えが支配的になってしまいます。その結果、連銀の量的緩和策縮小計画に関する発言には株価の大幅下落が、それを受けて連銀関係者も直ちに訂正すれば再び株価が大幅上昇という過剰な反応の繰り返しになっています。問題はこうしたことを繰り返して、連銀による量的緩和策を転換する時期が遅れた場合、株バブルの崩壊による経済損失が甚大になるということだと思います。

現在の連銀メンバーの多数派の立場からすれば、量的緩和策の縮小・廃止に伴う市場の一時的な混乱より、放置すれば、2001年以降長期間に渡って連銀が低金利状態を続けたことが住宅不動産バブルを招き、最後はリーマン・ブラザーズの破綻となったような深刻な金融不況を再現してはならないと判断があるものと見られます。いずれにしても、連銀の量的緩和策はあくまでも一時的かつ異常な政策であり、適切な時期に通常の金融政策に戻ることが不可欠であるとの認識が強いものと思われます。

3.フランスの政権交代がもたらした欧州中央銀行の量的緩和策再開と矛盾の拡大
20125月のフランス大統領選挙で、現職のサルコジ大統領が社会党のオランド書記長に敗れたことは、フランス国内の経済政策のみならず、欧州連合内で財政規律派と成長重視派の対立関係にも大きな影響を与えることになりました。オランド大統領は社会党出身ということもあり、格差是正のために富裕層への課税強化や銀行の投機業務禁止などの政策を打ち出しましたが、これまでの実績からする限り、フランス経済の低迷に拍車をかける結果になりました。このため、フランスの財政赤字はGDP比で3%以内という欧州連合の財政再建目標を守れなくなり、2年間の延長が必要になる状況に追い込まれました。同時に、欧州連合の経済政策についても、低成長と高い失業率を抱えるギリシャ、スペイン、イタリアに同調し、ドイツなどが求める財政規律よりも成長優先を支持する形になっています。一方、盟友サルコジ大統領を失ったメルケル首相は欧州連合が成長優先策を取れば、財政規律が悪化し、問題国の債務増加によってドイツの負担が更に大きくなるとして、依然強い反対の立場を取っています(特にメルケル首相は9月に総選挙を控えている事情もあり)。

このことはECB(欧州中央銀行)の政策のあり方についても同様で、201111月に就任したドラギ総裁はイタリア出身ということもあり、欧州中央銀行の機能や権限の強化で南欧諸国の問題を解決しようとする立場を取ったため、中央銀行の役割拡大に反対するドイツの財務相や連邦銀行総裁と鋭く対立することになりました。元来、欧州中央銀行のトリシェ前総裁の後任にはドイツ連邦銀行のウエーバー総裁が最有力されていましたが、メンバー国の国債購入はインフレを加速し、中央銀行の政治的な独立性を損なうとして強硬に反対、次期欧州中央銀行の総裁候補から降りたため、イタリア中央銀行のドラギ総裁が選ばれたという経緯がありました。ウエーバー総裁の後を継いだバイトマン総裁も同様な立場であり、201282日の欧州中央銀行政策理事会で、ドラギ総裁との対立は決定的になりました。最終的には、従来ドイツの連邦銀行に歩調を合わせていたフランスの中央銀行も政権交代により、ドラギ総裁の方針に賛成することになり、欧州中央銀行による国債購入の再開が認められることになり、現在まで続けられています。

一方、今年621日の週末に世界の中央銀行の集まりである国際決済銀行(BIS)は年次報告書の中で、現在幾つかの中央銀行が行なっている量的緩和策について、市場の混乱を恐れて緩和策の解除を遅らせるべきでないとする見解を出しました。この見解はギリシャ、イタリア、スペインなど財政赤字問題が深刻化した際に、欧州連合の存続のためには欧州中央銀行はあらゆる政策を取る必要があるとしたドラギ総裁の従来の方針と異なっていました。これに対し、ドラギ総裁は625日にベルリンで、物価の安定は確保されており、全体的な経済見通しから緩和的なスタンスが依然として正当化される。出口議論はなお遠いと述べました。また、欧州中央銀行のクーレ専務理事も同じ日にロンドンで、成長促進とユーロ危機対応のために欧州中央銀行が取っている政策は必要な限り、維持される必要があると発言したことが伝えられています。

欧州中央銀行による国債購入の是非をめぐる欧州中央銀行幹部とドイツ中央銀行やBISとの対立は、財政困難を抱える南欧諸国にとって一時的な救済措置になっても、それが根本的な解決策になるのかどうかということだと見られます。現在までの状況をみる限り、欧州中央銀行によるメンバー国の国債購入が続けられても、問題国の財政状況が改善されたというような結果にはなっていません。逆に、財政再建が遅れ、構造問題の改善も進んでいないのが現状と見られます。その一方、イタリア、スペイン、そしてフランスなどの問題国の経済状態は悪化しているにもかかわらず、それらの国々において株価の上昇が見られることは欧州中央銀行の量的緩和策が、問題国の経済の実体以上に株価の高騰を招くなど弊害を大きくさせているように見られます。

米国連銀、欧州中央銀行、そして日銀等の中央銀行によって現在実行されている量的緩和策に関連して、1981年のレーガン第1期政権の予算局長で、昨年の大統領選では共和党候補であったロム二―氏のプライベート・キャピタル・ビジネスの経験を雇用創出に貢献していないとして強く批判したDavid A. Stockman氏は今年4月に”The Great Deformation”という本を出版し、話題を呼んでいます。Stockman氏は本の中で、米国連銀、欧州中央銀行、そして日銀等の中央銀行によって実行されている量的緩和策による世界的な金融バブルの危険性を1929年の大恐慌以来取られてきた米国政府の政策と比較しながら詳細に分析しています。特にグリーンスパン前連銀総裁時代に米連銀が取ってきた長期の超低金利政策による住宅不動産バブルが崩壊によって引き起こした深刻な金融不況との比較は大変参考になるように思われます。

いずれにしましても、世界経済のグローバル化によるデフレ化現象が進む中で、米国は失業率を6.5%までの引き下げを、欧州連合は矛盾が多すぎる共通通貨ユーロの維持を、日本はインフレ率を2%まで引き上げという容易に達成できない目的を掲げて、中央銀行が量的緩和策を続ける結果、現在は実体経済以上の株価高騰と株式市場の不安定性という副作用を起こさせているということができると思います。

4.中国の中央銀行による金融引き締めと流動性不足問題
米国、欧州連合、そして日本の中銀による量的緩和策が与えている功罪が注目を浴びる中で、GDPで世界2位の中国では、金融制度の後進性ともいうべきシャドーバンキングの存在が大きな問題になっています。中国の金融市場では規制が及ばないシャドーバンキングを通じて、地方都市の不動産・インフラ投資プロジェクトを対象にしたリスクの高い富裕層向け金融小口化商品の販売が活発化、既に残高が130兆円(GDPの約16%)に達していると言われています。

中国経済の鈍化が進めば、こうした高利回り・高リスク商品の不良債権化を通じて信用バブルの崩壊といった事態を起こしかねず、中国の中央銀行である人民銀行は6月中旬にそうした商品を対象にしたプロジェクトへの融資を抑制する措置を取りました。この結果、620日にSHIBOR(中国銀行間短期資金市場レート)は2桁に跳ね上がり、クレジットクランチ(流動性不足)の現象を起こしましたが、人民銀行は25日時点では現在の資金需給は適切として、新たな流動性の導入を受け入れませんでした。しかし、これが逆に準大手・中堅銀行の資金繰りの悪化から、こうした銀行の株が大きく売られ、24日の上海の総合株価指数が5%以上も下落する事態になりました。25日もそうした警戒感から、株が大きく売られましたが、午後になって金融当局が必要な資金は供給するとの決定を下したことにより、株式市場は一時的に落ち着きを取り戻しました。

しかしながら、中国政府は金融制度の近代化のためには中国人民銀行を通じてこうしたシャドーバンキングを無くさせたいとの強い意志で臨んでいることは間違いなく、中国株式市場の不安定性は今後も続くものと見られます。
             (201371日:  村方 清)