Wednesday, October 1, 2014

連銀による資産バブルの延命と不安定化
















1.9月の株式市場
9月の株式市場は16日-17日の連銀のFOMCで、金利の早期引き上げが決定されるとの警戒感から株価は低迷しました。FOMC会合で量的緩和策は終了させるが、早期の金利引き上げはないことが確認され、再び株価上昇となりました。しかし、同時に、ウクライナ、中東、香港での地政学リスク増大から不安定化しました。主要な動きは以下の通りでした。

92日:8月のサプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数は59で、20113 月以来の水準に上昇、米景気の回復観測は強まったことから、早期の金利引き上げの見方も出て、31ドル安(0.18%減少)。
95日:政府発表の8月雇用統計は非農業部門の雇用者数は前月比142,000人で市場予想の225,000人を下回ったことで(失業率は6.1%へ低下)、近い将来の連銀の金利引き上げはないとの見方が強まり、68ドル高(0.40%増加)。
99日:アップルの新製品発表などのニュースがあったが、連銀の早期金利引き上げの懸念から、98ドル安(0.57%減少)。
911日:前日のオバマ米大統領による「イスラム国」への空爆拡大声明や週間の米新規失業保険申請件数が前週比で11000件の増加などから、20ドル安(0.12%減少)。
912日:米連邦準備理事会(FRB)が将来の政策金利の引き上げ時期をいまの想定より前倒しするとの観測が改めて意識され、61ドル安(0.16%減少)。
916日:17日に発表されるFOMCの利上げ時期を巡る表現について、有力紙が基本的な文言が維持されると指摘。早期利上げ懸念が後退し、101ドル高(0.59%増加)。
917日:FOMCで政策金利の早期引き上げがないことが判明、22ドル高(0.15%増加)。
918日:米連銀が早期に利上げへ踏み切るとの懸念が後退。金融株を中心に買いが広がり、109ドル高(0.64%増加)。
922日:8月の米中古住宅販売件数が前月比1.8%減で、市場予想の1.0%増を大幅に下回ったことや中国の景気回復ベースの鈍化見通しなどから、107ドル安(0.62%減少)。
923日:シリア空漠の地政学リスクの拡大に加え、9月のユーロ圏購買担当者景気指数(PMI)が52.39カ月振りの水準に低下、更に米財務省による米企業が米国内での法人税軽減を目的とした海外企業の買収に対する対抗措置などから、117ドル安(0.68%減少)。
924日:8月の米新築住宅販売件数が前月比18%増と市場予想を大幅に上回ったことや/dx/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3EBE3EAE3E2E3E5E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NXシカゴ連銀のエバンス総裁が早期利上げに否定的であったことから/dx/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3E5E4EAE3E2E3E4E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NX154ドル高(0.9%増加)。
9月25日:アップルの新製品不具合問題、米区耐久消費財受注額大幅下落、ロシアの対抗措置言及、ダラス連銀総裁の早期金利引き上げ必要論などで、264ドル下落(1.54%減少)。
9月26日:26日発表の4~6月期の実質国内総生産(GDP)確定値は4.2%から4.6%へ上方修正されたこと、前日夕に発表したナイキの決算が好調で、167ドル高(0.99%増加)。
9月29日:香港で民主化を求める抗議活動が激化して香港株が下落。欧州株式相場も下落し、米市場でも投資家が運用リスクを避ける動きが優勢で、42ドル安(0.25%減少)。
9月30日:9月の米消費者信頼感指数が前月の93.4%から86%へ低下、7月のS&P/ケース・シラー住宅価格指数も市場予想を下回る6.7%増に留まり、28ドル安(0.17%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が9月1日に発表した8月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比142,000人の増加で、市場予想の225,000人を大きく下回りました。また、6月の実績値は267,000人と31,000人の下方修正、7月の改定値は212,000人と3,000人の上方修正をしました。なお、8月の雇用者数の伸び悩みは季節要因によるもので、上方修正される可能性があります。一方、8月の失業率については6.1%で、前月から0.1%の改善、労働参加率も62.8%で前月の62.9%より減少しました。なお、フルタイムの職を見つけられず、パートタイムについている労働者を含めた広義の失業率は12.0%で、僅かに減少しました。部門別では、サービス業が112,000人、建設業が20,000人、教育と医療関連で37,000人の増加となりました。一方、製造業の増加はなく、小売業は8,400人の減少となりました。

3.FOMCの決定とその影響
9月16日と17日に連銀のFOMCが開催されました。会合の声明文では米経済活動は穏やかなペースで拡大している。労働市場はやや改善が進んだが、失業率は殆ど変わっておらず、活用されない労働資源が著しく残っている。家計支出は民間設備投資も改善しているが、住宅市場の回復は依然として遅い。物価上昇はFOMCの長期目標を下回る水準に留まっており、長期インフレ期待は安定した状態を保っている。そして、雇用の最大化と雇用情勢見通しの改善という目標達成への前進ぶりを考慮した結果、現在の量的緩和策の縮小規模を10月から更に100億ドル減額し、月額ペースで150億ドルとする決定になったことを伝えました(米国債を月額150億ドルから100億ドルへ、住宅ローン担保証券を月額100億ドルから50億ドルへ縮小)。なお、雇用情勢が改善し続け、物価も長期目標値に向かって上がっていくとの見通しが幅広く裏付けられるならば、次回の会合(10月16日と17日)で、現在の証券購入策を終了するとしました。

また、雇用の最大化と物価の安定に向かって改善していくためには極めて緩和的な金融政策を維持するのが適当であることを確認、現在の0.0-0.25%という異例の低水準であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を維持する期間の決定に際しては現在の前進振りと今後の予測の両方を評価していくこととしました。これらの要因の評価に基づき、長期インフレ期待がよく抑えられており、物価上昇率がFOMCの長期目標である2%を下回る水準に留まるとの予測が続くようであれば、証券購入政策を終了した後も相当の期間は現在のFF金利の誘導目標を維持するのが適切である可能性が高いことを確認したとしました。

FOMCによる今回の決定には2つの意味があるものと思われます。一つは株価や不動産価格の上昇を通じて資産インフレ効果を上げてきたものの、マイナス面の影響も大きくなっている量的緩和策を予定通り10月で終焉させることであり、雇用や成長と言った実体経済面の改善では未だに効果を上げていない状況の中で、早期の金利引き上げによる急激な資産価値の下落を避けるためにゼロ金利政策の維持を決めたことだと思います。現在のような経済の長期停滞に対して金融緩和策が有効でないにしても、一度作り上げられた資産インフレを延命させることが当面の金融安定化に資するという判断があったのかも知れません。しかし、グリードな投資家の多くは連銀のゼロ金利政策の維持を更なる株価上昇の機会と位置づけており、資産インフレ(バブル)が一段と進むような状況を作り出しています。

米国で進む所得格差の拡大に関連して、クリントン元大統領が9月23日にCNBCのインタビューで、格差拡大の是正に際しては、米国経済の健全な発展のために企業経営者が利益の配分について従業員やコミュー二ティーへの還元を優先させ、その後に経営者や株主に配分していくような政策を取っていくことが必要と述べていました(最近の調査で、米国の大手企業におけるCEOと従業員の報酬の差は350倍まで拡大していると言われています)。現在、UCバークレーのライシュ教授はクリントン政権の労働長官として、経営者と従業員の報酬比率の是正について多くの提言をしていました(その意味では、イエレン議長も彼女の雇用問題の専門性を生かすためには、高度な金融の専門性が必要とされる連銀議長職より、労働長官のポストの方が向いていたように個人的に思います)。

4.バフェット指数などに見る米国株のバブル度の大きさ
米国有数の投資家であるウォーレン・バフェットは2001年、フォーチュン・マガジンのインタビューで、株式市場時価総額対GDPはどの瞬間の評価額を見る場合でも、たった一つの指標で見ることのできる最高の基準となる指標であると述べています(常識的に考えても、一国の株式時価総額をその国のGDP値で比較して、時価総額がGDP値より上回っていないことを確認することは株式投資の健全性を確認するものと言えます)。これに基づいてバフェット指数の推移を、普通株の市場価値を示す連邦準備理事会のB.102 バランスシートに出てくる1951年以降のデータと四半期毎の名目GDPの数字で比較してみると、2014年9月までの60年間強の平均値は約68.6%であり、深刻なスタグフレーションが起きた1982-3年がボトムで32.2%、急激なドットコムバブルが生じた2000年がピークで153.6%となっています。また、2008年9月の金融危機後は2009年3月がボトムで62.6%、2013年3月には約100%を越え、現在は平均値を50%以上越える125.9%となっています。

バフェット指数と同じようなものとして、米国の普通株をカバーしているウィルシャー5000(Wilshire 5000 Full Cap Price Index)があります。データのある1970年以降の推移を見ると、平均値が71.0%、ボトムが1982-3年の45.6%、ピークが2000年の136.5%で、バフェット指数とほぼ同じ結果となっています。金融危機以降は2009年3月がボトムで56.8%、2013年3月が96.5%、現在は平均値を45%以上越える116.5%となっています。

いずれにしても、現在の株価がバフェット指数やウィルシャー指数からして、歴史的な平均値から50%近く上昇していることは大きな注意が払われるべきと思われます。結果的に見れば、バーナンキ前連銀議長が2013年5月に表明したように量的緩和策の縮小を昨年6月から始めて彼が退任する今年1月に終了させていれば、現在の株価の行きすぎた状況は避けられていたように思われます。なお、ちなみにウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハザウエィが抱える現金ポジションが8月1日の決算では過去最高の約554億ドルに達していることが報告されています。

5.アリババの上場
中国のネット通販最大手のアリババが9月19日にニューヨーク証券取引所にADR(米預託証券)として新規株式公開で上場、予定価格の68ドルを約38%上回る93.89ドルでその日を終えました。約30兆円と言われる中国のネット通販市場で8割のシェアを持つアリババが米国の投資家から多くの注目を読んでいただけに、予定価格を大幅に越えた上場は大きな成功と見られます。しかし、アリババには中国の外資規制をかいくぐるために作られた中国国内のVIE(Variable Interest Entity)とケイマンに作られたAGHの関係が単に契約であるため、どの程度の法的拘束力があるのかという企業構造、27人のパートナーが議決権の大半を握る統治形態、さらに中国固有の模造品販売による訴訟リスクなど透明性に大きな問題が指摘されています。また、アリババが中国市場で躍進した背景には現在の共産党政権の強い後押しがあったとの話も伝えられており、今回のニューヨーク証券取引所の上場が後押してきた共産党政権の利益に繋がるものではないかとの疑問も生じています。いずれにしても、統治形態の問題から香港市場での上場が出来なかったアリババがニューヨーク市場に上場できたのは、2000年初めのドットコムバブルと同じように、過熱化している現在の米国の株式市場を象徴しているようにも思われます。

6.ECBの金利引下げと量的緩和策の一部導入
84日に、ECB理事会は政策金利を従来の0.15%から0.05%へ0.1%引き下げることを決定、同時に10月から資産担保証券(ABS)の買い入れを行なうことを決定しました。今回の決定は8月のEUの消費者物価が昨年同月に比べ、0.3%しか上昇せず、今年4月に記録した0.7%から縮小していることがあるとされます。しかしながら、今回の措置によってEU経済がどこまで立ち直るかは疑問とされます。一つの原因はEU経済の低迷にはウクライナを巡るロシアとの経済制裁措置の応酬がEU経済に与えている影響が今後も続かざるをえないことが上げられます。もう一つは金利引下げによる実体経済への効果がどの程度あるのかが不明だということです。実体経済がデフレ化状態に陥っている時に金利引下げを行なっても企業も家計も新たな借り入れを行なうことは少なく、経済活動への刺激策としては限界があることです。

ドラギ総裁としては今回の措置に加え、更なる緩和策としてメンバー国の国債などを購入する大規模な量的緩和策を考えているようですが、それも米国で見られるように株や不動産などの資産価値の上昇効果をあるものの、成長や雇用に与える影響は限定的です。EUの根本的な問題はメンバー国の間で経済力や生産性に大きな差が出てきているにもかかわらず、共通通貨ユーロ維持のために中央銀行であるECBの金融緩和という救済措置で問題解決を遅らせていることにあります。このことが、本来、メンバー国が自立で解決すべき財政赤字や債務累積の問題についても国内の政治的事情から先送りされ、安易にECBに頼りすぎる風潮を生んでいるように見られます。EUで救済機関となったECBへの依存度合いが高まれば高まるほど、EU内の経済低迷と対外的競争力の低下で、状況は一層悪化していくように思われます。

7.欧米による対ロシア制裁強化とオバマ政権のイラク・シリア空爆
米国は912日に、ロシアの主要産業である石油や防衛産業に加え、6金融機関全てを対象に米国の債券・株式市場での30日以上の資金調達を禁止する措置をとりました。その中には資金規模で、ロシア最大のスペルバンクも加えられています。エネルギー産業向けでは国営天然ガス企業ガスプロムや国営石油会社ロスネフチなどが、防衛産業向けではロシアの国防防衛企業5社の資産を凍結する他、ロシアンテクノロジーズによる期間30日以上の債券発行を禁止しています。これに先立ち、EUもエネルギー産業や国防防衛関連の企業に対する資金調達の制限措置を実施しています。

一方、中東では、オバマ大統領が従来続けてきた米公館の施設や要員の保護、あるいは人道支援を目的として限定的な空爆に変えて、910日にイスラム国の壊滅を目指した作戦に本格的移行することを宣言、915日にバクダッド近郊で初めてイスラム国への空爆を行ないました。加えて、923日にはシリア内のイスラム国の拠点とされる北東部の都市ラッカをサウジアラビアなど中東5カ国の参加を得て空爆しました。オバマ政権は当初シリアへの空爆に否定的でしたが、国境を無視して移動するイスラム国を打倒するにはシリア側にも打撃を与えることが不可欠との判断だったと見られています。さらに、25日にはイスラム国の資金源とされるシリア北部の石油精製施設も中東の5カ国と協力して空爆しました。現時点の状況を見る限り、オバマ政権のイラクやシリア空爆は一定の効果を上げているようですが、地上戦でイラク軍の参加が期待できるイラクと異なり、シリアには有力な地上軍が存在しないだけに、十分な目的を達成できるかどうかには疑問も出ています。
        (2014101日: 村方 清)