1.2月の株式市場
2月の株式市場は2月末に期限が来るギリシャへの金融支援に関するEU内の話し合い動向により市場が変動する一方、米国は議会証言で連銀議長の金融正常化への慎重姿勢から株価の更なる上昇が見られるなどバブル化が強まりました。主要な動きは以下の通りでした。
2月2日:原油先物市場で一時1バレル50ドル台を回復したことやエクソンなどの大手石油会社の四半期決算で純利益が市場予想ほど減少せず、196ドル高(1.14%増加)。
2月3日:原油先物市場でWTIが急伸し約1ヶ月ぶりの水準になったことやギリシャのチプラス政権がEUとの本格的な金融交渉を始める見通しとなり、305ドル高(1.76%増加)。
2月4日:取引終了の間際にかけて、ECBがギリシャ国債について金融機関への資金供給の担保受け入れを停止したと発表、投資家がリスク回避姿勢を強め、7ドル高(0.04%増加)。
2月5日:原油先物相場が上昇したことや週間の米新規失業申請件数が市場予想を下回ったことなどから、投資家心理が改善、212ドル高(1.2%増加)。
2月6日:政府発表の1月の雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比257,000人増で市場予想の230,000人を上回ったが(失業率は5.6%から5.7%へ上昇)、昨日までの上昇を受けて目先の利益確定の売りが優勢で、ギリシャ問題も意識され、61ドル安(0.34%減少)。
2月9日:ギリシャの金融支援についてEUとギリシャ政府の交渉の難航が伝えられたことや中国の貿易収支の縮小で、95ドル安(0.53%減少)。
2月10日:ギリシャの債務問題について、ギリシャ政府とEUとの交渉が進展するとの見方が浮上、投資家心理が好転し、140ドル高(0.79%増加)。
2月12日:ウクライナの東部地域の停戦に関する独仏ロとウクライナの4カ国首脳会議の合意で地政学リスクが和らいだことや週間新規失業保険申請件数の増加による連銀の早期金利引き上げが遠のくとの見方から、110ドル高(0.62%増加)。
2月17日:ギリシャがEUに対し融資延長を求めるとの見方が出て、28ドル(0.16%増加)。
2月19日:原油先物市場が下落したことや1月の米景気先行指標総合指数が先月から伸び悩んだことなどから、44ドル安(0.24%減少)。
2月20日:EUの財務相会議で2月末に期限が来るギリシャへの金融支援を4ヶ月延長することを合意したことで市場心理が好転、155ドル高(0.86%増加)。
2月24日:イエレン連銀議長の上院銀行委員会で、早期の金利引き上げに慎重な姿勢を示したと受け取られ、買いが優勢となり、92ドル高(0.51%増加)。
2月26日:原油先物相場の大幅下落で石油株などが売られ、10ドル安(0.06%減少)。
2月27日:米政府発表の2014年10-12月GDの改定値が2.2%へ低下したことやシカゴ購買部協会の2月PMIが45.8と市場予想を大きく下回ったことで、82ドル安(0.45%減少)。
2.米国の雇用状況
米労働省が2月6日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比257,000人の増加で、市場予想の230,000人を少し上回りました。また、11月と12月の改定値も423,000人と329,000人へ上方修正されました。また、12月の失業率は前月の5.6%から5.7%へ上昇しましたが、これは求職者の増加によるものと見られます。なおフルタイムの職を見つけられず、パートタイムにある労働者を含めた広義の失業率は前月の11.2%から11.3%へ増加しました。また、労働参加率も62.7%から62.9%へ増加しました。また、1月までの12ヶ月間の賃金上昇率は2.2%の上昇となりました。部門別では一番増加したのは小売業の45,900人で、次いで建設業の39,000人、製造業の22,000人となりました。なお、政府部門は10,000人の減少となりました。
3.2016年会計度予算教書
オバマ大統領は2月2日に2016会計年度の予算教書を議会に提出しました。それによると歳入総額は景気回復や増税の実行を見込んで3兆5250億ドル、歳出総額は3兆9990億ドルで、財政赤字は4740億ドルで15年会計年度に比べ2割の減少を見込んでいます。これに伴い、GDPに対する財政赤字の比率は15会計年度の3.2%から2.5%に低下、今後10年間は2.5%で安定的に推移するとしています(この前提となる経済見通しは15年の実質GDPを3.1%、16年を3.0%に置いています)。今回の予算の特色は大企業や富裕層への増税を盛り込む一方、教育や育児支援では中間層を後押しし、また企業の海外で得た利益の課税強化を図ることにより、インフラ投資拡充への財源としています。なお、これらの増税措置が認められた場合、法人税の実効税率を現行の35&から原則28%に引き下げることが可能としています。
この予算案に対し、共和党は大企業や富裕層への課税強化は小さな政府の政策に反するもので、民間活力を生かした独自の予算案を用意するとしています。但し、法人税の引き下げやイスラム国を始めとする新たな脅威に対抗する国防費の増額などでは一致できる点もあるとしています。
4.FOMCの1月議事録要旨とFRB議長の議会証言
米連銀は2月18日に1月27-8日に開催されたFOMCの議事録要旨を公表しました。それによると、底堅い米経済(注1)と弱含みの海外情勢をどのように見るかについて話し合いを行い、中国経済の減速と中東やウクライナの不安定な情勢が、米経済の成長身見通しにリスクになると言及しました。同時に米国のインフレ期待低下も不安視され、物価上昇率が依然として低いことが利上げ開始の判断にどの程度影響するかも議論されたとしています。いずれにしても、会合では利上げの開始時期は経済情勢次第との姿勢を維持、早い段階での利上げには慎重な声が上がり、議事録では多くの参加者は時期尚早の利上げが実体経済や労働市場の底堅い回復に水を差したり、物価と雇用の目標水準までの進展を妨げることがないようにしたいとしています。
(注1)米商務省が2月27日に発表した2014年10-12月期のGDP改定値は2.2%で速報値の2.6%から下方修正されましたが、これは企業の在庫積み増しの減少によるもので、引き続きGDPの約70%を占める個人消費は4.2%増であり、大きな懸念はないとの見方が一般的でした。
イエレン連銀議長は24日に上院の銀行委員会で、25日に下院の金融サービス委員会で半期に1度の議会証言を行ないました。その中で3月と4月の2回のFOMCでは利上げ判断は難しいこと、6月の会合あるいは7月の会合で利上げの決定は可能であるとしました。さらに、利上げ前にはFOMCの声明を修正するが、その後2回以内の会合で利上げを決定するとは限らないとして、声明の修正で早期利上げの憶測が広がらないように釘をさしました。いずれにしても、イエレン議長は経済指標を踏まえて適切と判断した場合にのみ、利上げに踏み切ることを示唆し、利上げ時期について明確な言質を与えることを避けました。
なお、注目されていた議会による連銀の監督強化については、上院の委員長や委員からその必要度が提唱されましたが、イエレン議長自身は現行の会計検査院の監督で十分ではないかとの回答でした。また、連銀の金融政策にテーラールールのような基準を用いてはどうかとの下院の委員長の質問に対しても現在のような経済状況では一つの基準ではなく、多くの角度からの判断が重要であるとのコメントでした(注2)。
(注2)これに対し、多くの基準を用いれば適切な金融判断が遅れ、資産バブルの拡大などマイナス面がより高まる恐れがあるとの金融専門家達の指摘があります。
5.ギリシャへの金融支援4ヶ月延長と改革案承認
2月20日に開かれたEU財務相会議で、ギリシャに対する現行の金融支援を4ヶ月延長することで合意したことを踏まえ、ギリシャ政府は財政構造改革の第1次リストがEU側に24日に提出しました。その内容は国内の富裕層への課税強化、脱税や租税回避の摘発、燃料・たばこの密輸入取り締まり強化などで、歳出削減は含まれていないとされています。
ギリシャ政府はこうした対策で年間で20億から25億ユーロの歳入増が見込まれるとしています。EU側は今回の第1次リストを承認しましたが、同時に24日のEU財務相会議ではギリシャ政府に対して、第1次リストに続き、4月末までに広範囲な財政改革策を合意することが必要との態度を取っており、今後厳しい交渉が予定されています。特に、最大の債権国であるドイツはギリシャ政府が従来の財政緊縮策を基本的に継続することが条件としており、全面的な見直しを選挙公約にして勝利したチプラス政権との間でどのように妥協していくのかは依然見通しが立たない状況です。
2009年に非公表の巨額公的債務がギリシャ政府にあることが判明して以来、何度も繰り返されてきたギリシャ問題は現在新たな局面を迎えているように思います。純粋に経済学的な視点からすれば、経済力の弱いギリシャがEUの統一通貨に加わったこと自体が間違いであり、その後問題のあるたび毎に救済措置を講じてきたものの、価値の高いユーロを維持するための条件はギリシャ国民の多くにとって負担が大きすぎるということだと思います。
その一方、EU発足の政治的な理由やギリシャの離脱に伴う混乱とEUの威信低下の観点から、ギリシャの残留を望む声があり、これが再び今回の一時的な合意となったように思います。
しかし、現在、政治的な状況という点ではギリシャやスペインだけでなく、EUの中心メンバーの一つであるフランスなどでも反EUを掲げる右翼政党やグループの影響力が拡大しており、今年に選挙を予定しているメンバー国の中には彼等の意向が強く示されてくる可能性があります。いずれにしても、EUはメンバー国間の経済格差が一層広がってきており、そうした状況下で共通通貨ユーロの価値維持のための自国民の負担が大きくなればなるほど、現行のEUの制度を守り続けることが一層難しくなってくるように思われます。
(2015年3月1日: 村方 清)