Wednesday, April 1, 2015

金融正常化を前に調整が続く高値相場












 

1.3月の株式市場
3月の米国株式市場は雇用情勢の改善を受けて、連銀がゼロ金利政策から金利引き上げによって金融正常化に向かう可能性を示していることから市場も不安定化、FOMC会合の時期を挟んで 調整が繰り返される展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。

32日:ISMが発表した2月の米製造業景況感指数が52.9で前月比0.6ポイント低下、1月の建設支出や個人消費も減少したにもかかわらず、米景気回復への期待からダウ平均価格は156ドル高(0.86%増加)。ナスダックは15年振りに5000ドル越え。
33日:イスラエルのネタニヤフ首相の米議会両院合同会議での演説で、イランをめぐる地政学リスクが意識されたことや前日までにダウ価格が過去最高値を更新したことから、売りが優勢で、85ドル安(0.47%減少)。
34日:2月のADPリポートで非農業部門雇用者数が前月比212000人増で、市場予想を下回ったことや高値圏での利益確定売りが優勢で、106ドル安(0.58%減少)。
36日:政府発表の2月の雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比295,000人増で市場予想の240,000人を大きく上回り(失業率は5.7%から5.5%へ低下)、FRBが利上げに動きやすくなったとの観測が広がり、279ドル安(1.54%減少)。
39日:前週末の大幅下落の反動で、戻りを見込んだ買いが優勢であったことやアルコアやサイモンの大型買収の動きを受け、139ドル高(0.78%減少)。
310日:ドルユーロや円/dx/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3E5EBE7E5E2E3E4E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NXなどの主要通貨に対して大幅上昇、米企業業績の圧迫懸念から売りが加速、333ドル安(1.85%減少)。下げ幅は今年最大(昨年10月9日以来の大きさ)。
312日:前日までの2日間での相場の大幅減少の反動と2月の米小売売上高が前月比で0.6%減少したことからFRBが利上げを急がないとの見方が浮上、260ドル高(1.47%増加)。
313日:原油先物市場での下落に加え、ドル高による海外事業の比率が高い企業への影響が懸念され、146ドル安(0.82%減少)。
316日:外国為替市場で先週のユーロ売り・ドル買いからユーロ買い・ドル売りが優勢となり、米企業業績への不安がやわらいだことにより、228ドル高(1.29%増加)。
317日:原油先物相場の下落に加え、18日からのFOMC会合を前に、目先の利益を確定する売りが優勢で、128ドル安(0.71%減少)。
318日:/dx/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3EAE2E2E4E2E3E4E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NXFOMC会合後の声明文やイエレン議長の記者会見を受けて、金利利上げの時期の遅れやペースが緩やかになるとの見方に変わり、大幅下落から227ドル高(1.27%増加)。
319日:原油先物相場の下落やドル高の基調、さらに昨日の大幅上昇の反動から売りが優勢で117ドル安(0.65%減少)。
320日:欧州市場で金融緩和策の継続から軒並み上昇したことや米連銀もゼロ金利解除後の金利利上げペースが緩くなるとの期待から、169ドル高(0.94%増加)。
324日:2月のCPIが前月比0.2%上昇したことや2月の新築住宅販売件数が大きく増加したことから、連銀の金利引き上げやドル高への懸念から、105ドル安(0.58%減少)。
325日:2月の米耐久財受注が市場予想に反する前月比1.4%減で、一部金融機関が1-3月期のGDP見通し引下げに動くなど米景気の警戒感が高まり、293ドル安(1.62%減少)。バイオ製薬株に高値警戒感が強まり、ナスダックは20144月以来の118ドル安。
330日:医療・製薬関連で大型の合併や買収の発表が相次いだことや前週の相場下落の反動から、264ドル高(1.49%増加)。
331日:原油安やドル高に加えて、前日の急伸の反動から利益確定の売りが優勢となり、200ドル安(1.11%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が36日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比295,000人の増加で、市場予想の240,000人を大きく上回りました。なお、12月の雇用者数の改定値は329,000人で変わらず、1月の改定値は239,000人と18,000人が減少しました。同時に、2月の失業率は前月の5.7%から5.5%へ下落、20085月の水準まで回復しました。また、フルタイムの職を見つけられず、パートタイムにある労働者を含めた広義の失業率は前月の11.3%%から11.0%へ低下しました。なお、労働参加率は前月の62.9%から62.8%へ減少しました。1月の賃金上昇率は3セントの上昇となりました。部門別では建設業が29,000人、製造業が8,000人の増加で、政府部門も7,000人の増加となりました。なお、この日の市場は雇用の著しい改善が連銀の金利引き上げ時期が早まるのと市場の懸念が高まり、279ドルの大幅安となりました。

3.FOMCと金融正常化への転換時期
317日と18日にFOMCが開かれました。会合の声明文では、1月の会合以降、経済成長がいくらか和らいだこと、労働市場の状況は雇用が堅調で、失業率が低下、未活用な労働資源が引き続き減少していること、インフレは主にエネルギー価格の下落を反映し、FOMCの長期的な目標からさらに低下したことを伝えました。しかしながら、インフレは短期的には低い水準に留まるものの、労働市場が改善し、エネルギー価格の下落やその他の要因がもたらす一過性の影響が消えるにつれ、インフレは2%に向かって徐々に上昇すると見込んでいるとしました。

その上で、最大雇用と物価安定に向けた持続的な進展を支援するためにフェデラル・ファンド((FF)金利を現行の00.25%に維持することが妥当との見方を再確認、更にこの目標水準をいつまで維持するかの決定に際しては、労働市場環境の尺度やインフレ期待の指標、金融や国際情勢に関する諸指標を考慮するとしました。一方、4月のFOMC会合でFF金利の目標水準を引き上げる公算は少ないと判断していることも表明しました。

また、FOMCは保有する政府機関債と住宅ローン担保証券で元本の償還期限のきたものについて、償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する既存の政策を維持するとしました。

FOMC後のイエレン議長の記者会見での主要な質疑応答は以下の通りでした。
①.“忍耐強く”の文言削除の意味
FF金利の誘導目標の引き上げが正当化される可能性はあるが、そのタイミングはFOMCが今後入手する情報をどのように評価するかによっている。
②.ドル高と連銀の見通し
ドル高が輸出の伸びを鈍化させていることを確認している。また、ドル高は輸入物価抑制の一因ともなっている。その一方、ドル高は米経済の力強さを一部反映している。
③.インフレとエネルギー
インフレ率はエネルギー価格の下落を反映し、FRBの長期目標を下回る水準までさらに低下している。さらにドル高による輸入物価の下落もインフレ率の上昇を抑制している。しかし、こうした一時的な要因がもたらす影響が消失し、労働情勢の一段の改善に伴い、インフレ率は中期目標の2%に向け、緩やかに回帰すると想定している。
④.6月の利上げ可能性
本日に文言修正によるフォファードガイダンスの変更は、FOMCが利上げ開始時期を決定したことと解釈されるべきではない。文言変更は6月に利上げを開始することを意味しないが、その可能性も排除できない。
⑤.ポートフォリオの規模縮小
利上げを開始後、債券の再投資を縮小あるいは停止するまでどの程度時間がかかるかは現時点では決まっていない。状況の進展を見て、委員会があらためて検討し、後に決定する。
今後数年間でバランスシートから大量の国債が消えていく。向こう2年間に約8000億ドルが満期を迎えることになっており、この方法でポートフォリオの規模を縮小していくことを見込んでいる。

18日の株式市場は、FOMC会合の声明文発表やイエレン議長の記者会見前までは、100ドルを越える下落相場となっていたものが、議長の説明によって、ゼロ金利政策の転換時期の遅れや利上げペースの緩やかさが市場の安心感を誘い、取引終了時には228ドル高と大きく反転しました。

現在、米国の株式市場は2つの大きな不安定要因を抱えているように見られます。その一つは連銀の長期に渡る大規模な量的・質的緩和策によって、米国の経済実態を遥かにこえる高値相場が米国に形成されたことであり、二つは日本および欧州が大規模な量的緩和策を導入したことにより、金融正常化に向かうべき米国において、海外ビジネスの大きなウエートを占める大手企業にとってはドル高による業績悪化が懸念される状況になっていることです。これら二つは本来、連銀が200811月にバーナンキ連銀議長とイエレン副議長の下で量的緩和策が導入されて以降、予想されているべき性格のものであり、20135月にバーナンキ議長が記者会見で示唆したように、量的緩和策の縮小を早期に実施し、金融正常化への道を一歩踏み出していれば、今日ほどの警戒はなかったように思われます。いずれにしても、バーナンキ議長の後を継いだハト派のイエレン議長の下で行なわれるべき金融正常化には高値相場の下落調整が伴いますが、それは株式市場の健全化には避けて通れないものと思われます。

4.ECBの量的緩和策実施
ECB35日に理事会を開き、主要政策金利を現行の0.05%に据え置くと同時に、1月の理事会で決定した量的緩和策について9日より実施することを正式に決定しました。量的緩和策はユーロ加盟国19カ国が発行する国債やEU傘下の公的機関が発行する債券などの金融資産を月額600億ユーロ購入するもので、対象期間は今月から20169月までとしています。

また、量的緩和策が導入されたことによる経済見通しとして、EU内の成長率を2015年を1%から1.5%へ、2016年を1.5%から1.9%へ引き上げ、物価上昇率を2015年は0.7%から0%へ下がるものの(実績ベースで、2月はマイナス0.3%で、過去3ヶ月連続でマイナス)、2016年は1.3%から1.5%へ上昇するとしました。

しかしながら、デフレ脱却を狙う今回の量的緩和策が実際にどの程度の効果があるのかは、既に量的緩和策を実施した米国や日本の経験からすれば決して容易なことではないように思われます。その一方、量的緩和策がユーロ安をもたらすことは間違いなく、これがドイツやフランスの輸出を後押しし、成長率を引き上げる可能性はあります。その意味では量的緩和策は中央銀行間の通貨安競争を加速させ、量的緩和策終了を決めた米国にとってはドル高が米国企業の業績を悪化させるリスクが生じていると言えます。
        (201541日: 村方 清)