Friday, May 1, 2015

実体経済の停滞と高値相場の不安定化















1.4月の株式市場
4月の株式市場は米国経済の回復が当初見込んだほど順調なものではなく、好不調の経済データや米主要企業の四半期業績が交錯する中で、高値相場にある株式市場の不安定さが目立つ展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。

4月1日:ADPリポートで3月非農業部門雇用者数が前月比18万9000人増で市場予想の22万5千人を大きく下回ったことやISM発表の3月米製造業景況感指数も51.5で前月比1.4ポイントと大きく低下、米景気の先行き不透明感が高まり、ダウ平均価格は78ドル安(0.44%減少)。
42日:週間の新規失業保険申請件数が市場予想に反して20,000件減少して268,000件となったことや2月の製造業受注も増加、前日まで続落した反動もあり、65ドル高(0.37%増加)。
4月6日:休日の3日に発表された3月の雇用統計の低迷を受けて、FRBによる利上げ開始が先延ばしとの見方や原油先物相場の大幅上昇から、買いが優勢で、118ドル高(0.66%増加)。
49日:原油先物相場の下げ止まりや欧州市場の株高を受けて、56ドル高(0.31%増加)。
410日:欧州市場が大幅に上昇したことや株主配分策を発表したGE10%強上がったことから、99ドル高(0.55%増加)。
413日:米主要企業の四半期決算発表を前に、ドル高による海外ビジネスが大きな企業の業績悪化が懸念され、81ドル安(0.45%減少)。
414日:原油先物相場の上昇を受けて米国石油大手企業の買いが増加したことやJPモルガンの四半期業績がよかったことから、60ドル高(0.33%増加)。
415日:欧州の株高や原油高に加え、インテルなどの米大手企業の四半期決算が好調で、ドル高懸念が和らいだこともあり、76ドル高(0.42%増加)。
417日:ギリシャの債務問題や中国政府の新たな措置による中国株の需給不安問題が重なり、279ドル安(1.54%減少)。
420日:中国人民銀行が預金準備率の引き下げによる金融緩和策を発表したことや原油先物相場が下げ渋っていることから、市場が好感し、209ドル高(1.17%増加)。
421日:四半期業績が不振だったデュポンやトラベラーズなどが大きく下落、ドル高による大手企業の業績悪化が意識され、85ドル安(0.47%減少)。
422日:3月の中古住宅販売件数が前月比で市場予想を上回ったことや中国市場の参入が認められたビザの収益期待などから、89ドル高(0.49%増加)。
427日:バイオジェンなどのバイオ関連株の下落に加え、28日からのFOMC会合を控え、当面の利益確保の売りが優勢で、42ドル安(0.23%減少)。
428日:FOMCの会合を前に製薬大手メルクの四半期決算が好調で、72ドル高(0.4%増加)。
429日:13月期GDP速報値は前期比年率で0.2%増加に留り、米国経済の回復をめぐる警戒感が強まったこと、FOMCの声明もほぼ予想通りだったことで、75ドル安(0.41%減少)。
430日:3月の個人消費支出が前月比0.4%増で市場予想を下回ったことや新製品の“アップルウオッチ”に欠陥があったアップル株が3%近く下がったことで、195ドル安(1.08%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省4月3日に発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比126,000人の増加で、市場予想の245,000人を大きく下回りました。なお、1月の雇用者数の改定値は201,000人で38,000人が減少、2月の改定値は264,000人と31,000人が減少しました。この結果、2015年第1四半期の雇用者数は197,000人で、2014年第4四半期の289,000人から大きく減少しました。なお、3月の失業率は前月の5.5%で変わりませんでした。また、フルタイムの職を見つけられず、パートタイムにある労働者を含めた広義の失業率は前月の11.0%%から10.9%へ低下しました。なお、労働参加率は前月の62.8%から62.9へ増加しました。部門別ではエネルギー関連が11,000人、鉱山関係が30,000人の減少で、ホワイトカラーのビジネスサービスが40,000人の増加でした。なお、3月の雇用統計を受けた週明け6日の株式市場は、連銀の金利引き上げが遅れるのではないかとの見方から、ダウは118ドル高となりました。

3.FOMC会合と連銀のジレンマ
4月28日と29日に開かれた連銀のFOMC会合では、1-3月期のGDP速報値が前期比年率0.2%増と急速に減速したことを受け、冬季の一時的要因による経済減速であるものの、労働市場の未使用もあまり変化していないとの認識を示しました。こうした状況を踏まえ、今後の金利引き上げの時期について、雇用に更なる改善が見られた時として、具体的な時期を明言しませんでした。このため、当初は6月に予定されていた金利引き上げについてはより慎重になっているようなスタンスが見えます。2008年11月以降に3回に渡って実施してきた量的緩和策は昨年10月に終了させましたが、ゼロ金利政策は続けており、マクロ経済面での改善が期待されていますが、実態は株価や不動産価格の高騰といった資産インフレ効果に留まっています。連銀が長期に、かつ大規模な金融緩和策を実施してきながら、実体経済の改善が限定的に留まっていることについては、従来から指摘してきたように、構造的な面を考えていく必要があるように思われます。

米国などの先進国における実体経済の低迷やデフレ化は先進国の大手企業のグローバル化により、中国を中心に発展途上国に資本と技術が供与されたことによる世界的な供給過剰現象が生じていることが原因とされます。そして、当初段階ではグローバル化は先進国の大手企業に多くの恩恵をもたらしたものの、現在は中国政府などの長期に渡る巧みな外資導入政策(51%の支配権維持の継続など)により多くの恩恵が中国の企業や富裕層に移る反面、多くの先進国では経済不振による高率失業と巨額の財政赤字に苦しむ結果になっているように見られます。そして、米国ではサブプライムローンの証券化ビジネスが破綻した後に、連銀は金融市場の回復を主たる目的として2008年11月以降、ゼロ金利政策と同時に3回に渡る量的緩和策を導入しました。しかし、金融面に重点を置いた量的緩和策は株価と不動産価格の上昇という資産インフレ効果は大きく現れたものの、マクロ経済に与える効果は限定的で、加えて富裕層とそれ以外の層との格差の拡大を一層大きくさせてしまったように思われます。一部には所得格差の拡大が個人消費中心の先進国の経済停滞の一因になっているとの見方もあります。現在、米国のウオール街の投資家の中には、マクロ経済の弱さを理由に連銀によるゼロ金利政策の継続が必要と主張する人達もいますが、実体経済と株価の乖離が一層進んでしまっている今日の状況で、今後もゼロ金利政策の継続が本当に必要かどうかは大きな疑問とせざるを得ません。

グローバル化が中国の富裕層にもたらした恩恵と見られる最近の例は、米国の一部地域における中国投資家による不動産購入で、その影響を強く受けた私が住むArcadia市はBloomberg/Businessweek誌でも取り上げられたように、全く不動産市場が変わってしまいました。高額な物件は中国人投資家による現金買いで大半が決まってしまい、ローカルな米国住民が購入することが殆ど不可能な状況となっています。また、中国人投資家が古い家を購入後、建物を壊し、巨大な邸宅を建て、他の中国人に売っていくケースも少なくありません。マクロ経済の回復には限界的な主要国の中央銀行による金融緩和策が世界の株式市場のみならず、不動産市場も過熱させているともいえます。

3.ECBの量的緩和策とギリシャ問題
ECBは4月15日の理事会で月額600億ユーロの国債などを購入する量的緩和策の継続と同時に政策金利を過去最低の0.05%で据え置くことも決定しました。理事会後の記者会見で、ドラギ総裁は理事会後の記者会見で、量的緩和策について、企業の資金調達コストが下がり、資金需要が高まっていることを強調しました。また、量的緩和策によって、ユーロ安が持たされることから、EU内の成長率は0.2%から0.5%押し上げられるとの見方もあります(4月29日の欧州市場は、ドイツの4月消費者物価指数が前年比0.3%増と市場予想の0.2%を上回り、EU圏の購買担当者景気指数(PMI)も50を大きく上回っていることから、量的緩和策の縮小論も出るなどして、株安、債券安、ユーロ高が起きました)。

但し、EU内でドイツは経済が好調であるものの、フランスとイタリアの成長率は依然低い状態にあります。加えて、ギリシャ支援をめぐる動きも、当初は4月末までの合意を目指してきたものの、現時点では合意の着地点が未だに見えない状況です。

ギリシャ政府とEUとの支援条件の交渉が難航する中で、ギリシャ政府の資金繰りが極めて厳しくなっていることが伝えられています。4月20日にはギリシャ政府が地方自治体や政府機関に対し、予備財源などの余剰資金は中央銀行に移管することを命じる緊急政令を出しましたが、
これは4月分の公務員給与や国民年金の支払いに備えるためとされています。これに対し、地方自治体からは強い反対の声が出ています。ギリシャ政府は5月12日にIMFに対する7億700万ユーロの返済をしなければならず、前日に予定されるユーロ財務相会議で、ギリシャからの本格的な財務改革案が示されるかどうかが鍵となっています。

こうした中で、4月25日付けの英国エコノミスト誌は“On the Gredge”(崖ぶちに立つギリシャ)という記事の中で、3つの理由からギリシャのユーロ離脱は避けられないのではないかと見方を取っています。その1はEUメンバーの中で、ギリシャ新政権に対する不信が急速に高まっていること、2はギリシャの離脱に伴う市場の影響は限界的なものに留まると見られること、3は新政権の政治基盤が弱く、交渉しても実効性を確保できないことを挙げています。いずれにしても、ユーロという単一通貨は経済力が近い国々が構成して初めて成立するものであり、深刻な財政赤字を抱えていたギリシャが早い段階でEUメンバーになったことに根本的な問題があったように思います。
          (201551日:  村方 清)