Wednesday, July 1, 2015

ギリシャ問題で大幅調整が続く株式市場















1.6月の株式市場
6月の株式市場はギリシャ支援をめぐるギリシャ政府とEUとの交渉状況によって上下の変動を繰り返しましたが、月末になりIMFからの借り入れが債務不履行の懸念が強まるにつれ、株式市場の悪影響が一段と拡大しました。主要な動きは以下の通りでした。

6月3日:ECBが定例理事会で緩和的金融政策を発表、ADPの5月民間雇用レポートで201,000人の増加、4月の貿易赤字が19%減少したこと等で、64ドル高(0.36%増加)。
6月4日:ドイツの長期金利が一時1.0%を越えるなど債券市場の不安定さから、欧州の株価指数が下落、米国の株式市場も売りが優勢で、171ドル安(0.94%減少)。
6月5日:政府発表の5月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比280,000人増で市場予想の210,000人増を大きく上回り(失業率は5.5%から5.6%へ上昇)、米連銀の金利引き上げが意識されたため、売りが優勢で、56ドル安(0.31%減少)。
6月10日:ギリシャへの金融支援の進展が期待されたことや原油先物相場が上昇したことで、236ドル高(1.33%増加)。
6月12日に:欧州連合とギリシャ金融支援をめぐる交渉が難航し、欧州市場で株式市場が大幅安となり、米国でも投資家が運用リスクが避けたことから、141ドル安(0.78%減少)。
6月15日: ギリシャ金融支援の先行き不透明感から欧州株が下落、米国株式市場も売りが優勢となり、108ドル安(0.60%減少)。
6月16日:17日のFOMC会合を前に、前日までの大きな下落相場を買戻しする動きが優勢で、113ドル高(0.64%減少)。
6月17日:FOMC会合後、年内の利上げ開始の可能性が引き続き意識される一方で、利上げペースは緩やかになるとの見方から、買いが優勢で、31ドル高(0.17%増)。
6月18日:FRBによる金融引き締めが緩やかになるとの期待から、幅広い銘柄に買いが入り、180ドル高(1.05%増加)。5月28日以来の水準を回復。
6月19日:連日上昇とギリシャ問題の不透明感で売りが優勢で、100ドル安(0.55%減少)。
6月22日;ギリシャの債務問題をめぐる協議が前進するとの期待が広がり、欧州市場が上昇。これを受けて、米国市場も投資家心理が改善、104ドル高(0.58%増加)。
6月24日;前日まで株価が連日上昇していたことやギリシャ支援合意の不透明感が増したことで、178ドル安(0.98%減少)。
6月25日:ギリシャ支援問題の財務相会議が結論を持ち越しで、76ドル安(0.40%減少)。
6月29日:ギリシャの金融支援をめぐる動きが難航、6月30日に期限が来るIMFへの借り入れ返済が不履行になる恐れが増し、世界的な大幅下落から、350ドル安(1.95%減少)。
6月30日:前日の大幅安から、ギリシャの新提案に対するEU側の反応が期待されたが、受け入れないことが決定され、23ドル高(0.13%増加)。IMFへの借り入れ返済は不履行。

2.米国の雇用状況
米労働省が6月5日に発表した5月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比280,000人の増加で、市場予想の210,000人増を大きく上回りました。なお、3月の雇用者数の確定値は119,000人で34,000人が増加、4月の改定値は221,000人で2,000人が減少しました。この結果、5月までの3ヶ月間の雇用者数は月平均207,000人となり、雇用目標の200,000人台を維持しました。5月の失業率は前月の5.4%から0.1%上昇して5.5%となりましたが、これは労働参加率が0.1%増加し、62.9%になったことが影響したためと見られます。また、フルタイムの職を見つけられず、パートタイムにある労働者を含めた広義の失業率は前月の同様に10.8%に留まりました。 時間当たりの賃金上昇率は2.3%で2013年以降最大となりました。部門別では民間のサービスセクターが63,000人、ヘルスケア関係が47,000人、建設関係が17,000人の増加となったものの、エネルギー関係では減少が続き、鉱山や採掘関係は17,000人の減少となりました。今回の雇用状況の改善を受けて、市場関係者の間では今後も改善が続けば、連銀は年内にもゼロ金利政策から金利引き上げに転換する可能性があるとの見方が出てきています。 5日の株式市場は雇用関係の改善を受けて、将来の金利引き上げの懸念から、ダウは56ドル安となりました。

3.FOMC会合の決定
6月16日と17日にFOMCが開かれました。会合の声明文では、米国経済は1-3月期にマイナス成長に陥った後は緩やかな拡大が続いているとし、雇用者数も上向き傾向にあり、労働資源の未活用は幾分低下したとしました。一方、インフレ動向についてはエネルギー価格および輸入物価の下落を背景に伸び率が低位にとの従来の認識を示しつつ、エネルギー価格の一層低下によるインフレ率低下への懸念は緩和されたとの見方を伝えました。

今後の中期見通しについては、15年のGDP伸び率は1-3月期に悪天候の影響を受けてマイナス成長に陥ったことに伴い、1.8-2.0%で、3月時点の予測であった2.3-2.7%を大きく下回りました。但し、16,17両年の成長率は上向きに微調整しました。なお、失業率は景気回復に伴って労働参加率が上昇する可能性を踏まえ、5.2-5.3%へ若干引き上げました。インフレ率は1.3-1.4%で前回予測と変わりありませんでした。

その上で、最大雇用と物価安定に向けた持続的な進展を支援するためにフェデラル・ファンド((FF)金利を現行の0-0.25%に維持することが妥当との見方を再確認、更にこの目標水準をいつまで維持するかの決定に際しては、労働市場の更なる改善とインフレ率が目標の2%へ戻っていくという合理的な確信が得られた段階で行なうのが適切との見解を改めて示しました。イエレン議長の記者会見では、最初の利上げ時期を必要以上に重要視すべきでないこと、金利政策はかなり長く緩和的であり続けるとして、利上げペースが緩やかになることを重視すべきとしました。なお、会合後の株式市場は年内の利上げ開始の可能性が引き続き意識される一方で、利上げペースは緩やかになるとの見方から、株の買いが優勢で、31ドル高となりました。

3.米最高裁、オバマケアによる補助金支給を合憲判断
米連邦最高裁判所は6月25日にオバマケア(米医療保険制度改革法)に織り込まれた補助金支給の是非について争われた裁判で、支給継続を認める判決を言い渡しました。オバマケアは医療保険に未加入の低所得者が民間の医療保険購入者に政府が補助金を支給する制度ですが、法律では州政府の独自の保険取引所を通じた保険購入者が対象だったために、野党の共和党知事の34州が保険取引所を開設せず、その州の住民の多くは連邦政府が開設した取引所を通じて保険を購入し、連邦政府の補助金を受けていました。

このため、オバマケアの反対派は州政府の取引所を開設していない補助金は打ち切るべきと主張、最高裁に判断が委ねられていました。もし、最高裁が反対派の主張を認めれば、米連邦議会が法律を改正するか州政府が行動を起こさない限り、約640万人に対する補助金が打ち切られる恐れがありました。最高裁は6対3の多数意見で、オバマケアは州独自の保険取引所を開設した州の住民だけでなく、連邦政府の取引所を使っている34州の住民に対する支給も認めているとしました。この判決では、リベラル系の裁判官4人だけでなく、保守系のロバーツ長官と他の1人の裁判官も合法との判断を下しました。

この判決について、オバマ大統領は5年前に導入された米国の医療保険は少数の特権ではなく、全国民にとっての権利となったが、今回の判決で定着するとの見方を表明しました。同時に、共和党のミシガン州知事なども今回の判決で不透明さがなくなったとの歓迎するコメントを出したことをLA Times紙は伝えています。最高裁の判決を受けて、米国株式市場では病院経営やヘルスサービス、保険関連の銘柄が大きく上昇しました。

4.ギリシャ支援問題の破綻
ギリシャのチプラス首相は6月27日に同国に対する金融支援の条件をとしてEUから求められていた財政支援策について、7月5日に国民投票を実施することを発表、同時に6月末に迫った金融支援の延長を求めました。これに対し、EU側は同日に開催されたギリシャを除く18カ国の財務相会議でギリシャ側の延長要請を拒否、ギリシャが6月30日にIMFに支払うべき約15億ユーロが実質上、債務不履行となりました(IMFは“延滞”としました)。

ギリシャがEUに加盟したのは1981年ですが、統一通貨ユーロを使い始めたのは2001年以降で、ギリシャ国民にとっては自国通貨であるドラクマより価値が高いユーロを使用できることにより、EU内の高品質な製品を買えることになり、高い消費生活が維持されるなどのメリットがありました。一方、EU最大の経済国であるドイツなどにとっても、ギリシャなど通貨価値の低い国がメンバーになることによって、EU外の国々に対して共通通貨ユーロの価値が低下することによってドイツの製品の競争力が高められるなどのメリットがありました。しかしながら、自国通貨より価値の高いユーロを維持するためには、ギリシャ経済の生産性が上昇していくことが必要で、それがなければ、外国政府や金融機関からの借り入れが増えていくことになります。ギリシャの国民にとって不幸であったのは、自国通貨より高い価値のあるユーロを国内で使っていくことに伴う経済的な負担義務が十分に認識されないことでした。さらに、2004年にアテネで開催されたオリンピックで財政赤字が拡大、2009年10月までそれを隠すという粉飾を続けてしまいました(1993年11月に発効したマーストリヒト条約によって、ユーロの加盟国は一般政府の財政赤字をGDP比で3%以内に収めることが義務付けられています)。

これに対し、EU側はギリシャの財政赤字削減を前提として、2010年5月の1100億ユーロの支援を初めとしてこれまで総額2400億ユーロの支援を実行、財政赤字も次第に改善されていく状況にありました。しかしながら、財政削減に伴うギリシャ国民の犠牲も大きく(実質賃金は40%近く下がるなど)、これが今年1月の総選挙で、財政削減の全面的な見直しを求める急進社会主義政党SRIZAの大勝を引き起こし、チプラス政権の誕生となりました。チプラス政権の主張は年金など実質賃金を更に減少させる財政削減はこれ以上認められないというもので、追加の資金援助継続には更なる財政削減が必要とするEU側との交渉を6月末まで続けたものの、合意に達しませんでした。そして、チプラス政権は先週の27日に今後の交渉は国民投票にかけるとの声明を出すことになりました。

本来、競争力の強いドイツなどにとっては、ギリシャへ支援しても自国経済に戻る利益がそれを上回る限り、支援を継続は実施するという立場でしたが、最近は支援額が増加し続け、これ以上はギリシャ自身の更なる改善努力が必要との姿勢を強めることになりました。

これに加えて、チプラス政権が交渉上の戦略として使っているのがギリシャの地政学的重要性で、共産圏に対する安全保障や自由主義の砦としてEUはギリシャへの支援協力を行なうべきとの立場にあるとされます。この立場は現在ロシアと鋭く対立する米国政府の一部にもあるようです。しかし、難しいのは果たして現在のロシアにEUに代わってギリシャを支援するだけの財政余力があるのかという現実的な評価であると思います。

いずれにしても、EUとしては7月5日のギリシャの国民投票の結果を踏まえて、ギリシャ問題への対応を決める必要が出てきています。
        (2015年7月1日: 村方 清)