Monday, February 1, 2016

原油安と中国経済停滞に揺れる株式市場















1.1月の株式市場
1月の株式市場は原油先物相場の下落や中国の経済鈍化による通貨安と株安が米国だけでなく、世界の株式市場を著しく不安定化させました。主要な動きは以下の通りでした。

1月4日:中国の株式市場が経済指標の悪化を受け、上海株が急落、7%下落のサーキットブレーカー発動による取引停止になり、日本などのアジア株も急落、欧州市場も全面安、サウジとイランの国交断絶による地政学リスクも増加、更にISM 発表の12月米製造業景況感指数は前月比0.4%減の48.2%で悪化、ダウ価格は276ドル安(1.58%減少)。
1月6日:中国の12月サービス業購買担当者指数(PMI)が50.2に低下、原油先物相場の下落、北朝鮮の水爆実験、更に米国の12月非製造業景況感指標も55.3に低下するなど悪材料が重なり、252ドル安(1.47%減少)。ダウは2カ月半振りに17,000ドルを割り込み。
1月7日:中国の株価急落が続いたこと(サーキットブレーカー発動で約30分で取引停止)、更に原油先物相場の下落、12年ぶりの安さなどの影響で、392ドル安(2.32%減少)。
1月8日:米政府発表の12月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比292,000人増で市場予想の215,000人を大きく上回り(失業率は5.0%で変わらず)、買いが先行したものの、欧州市場の大幅安と原油先物相場の下落が続き168ドル安(1.02%減少)。
1月12日:原油先物相場が一時1バレル30ドルを割る動きがあったが、中国人民銀行介入で通貨安定への期待と昨年末からの大幅下落による買戻しで、118ドル安(0.72%増加)。
1月13日:原油安の警戒感が強く、原油需給の不均衡解消に時間がかかるとの見方が浮上、更にS&P500の株価指数が1900を割ると投資家心理が一段と悪化、365ドル安(2.21%減少)。
1月14日:原油先物相場の上昇で大手石油会社の株価が改善したことや前日の株価急落の反動による買戻しが優勢で、228ドル高(1.41%増加)。
1月15日:中国市場の下落に加え、原油先物相場が一時1バレル30ドルを切る水準まで下がり、投資家心理が悪化、500ドルを超える下落となり、終値は391ドル安(2.39%減少)。
1月19日:中国の2015年実質GDPが25年振りの低成長となる6.9%であったため、政策期待から上海株が上昇、しかし原油先物相場は下落したため、28ドル高(0.17%増加)。
1月20日:中国や欧州の株式市場が急落したことや原油先物相場が一時1バレル27ドルを割り込むなど、世界経済の先行き懸念が高まり、249ドル安(1.56%減少)。
1月21日:ECB理事会で現状維持の金融政策を決定したことや原油先物相場が大幅に上昇、一時1バレル30ドルを超えるなどで投資家心理が改善、116ドル高(0.74%増加)。
1月22日:欧州の株高や日本株の急騰、さらに原油先物相場が大幅に上昇したことを受けて、下げが大きかった株の買戻しが活発で、211ドル高(1.33%増加)。
1月25日:原油先物相場が大幅に下落、中国に対する警戒心も強く、投資家心理が再び悪化し、208ドル安(1.29%減少)。
1月26日:サウジやロシアの減産観測から原油先物相場が1バレル31.45ドルに急上昇、1月の米消費者信頼度指数も98.1と前月から1.8上昇し、283ドル高(1.78%増加)。
1月27日:アップルやボーイングの四半期決算が業績不振であったことやFRBの声明で、3月の利上げ観測を否定する内容でなかったため、売りが優勢で、222ドル安(1.36%減少)。
1月28日:産油国の減産協調との思惑で原油先物相場が上昇、投資家心理が改善し、石油関連株が上昇、125ドル高(0.79%増加)。
1月29日:米国の10-12月期GDPは前年比0.7%増で市場予想を下回ったが、日銀がマイナス金利を導入したことで日欧の株価が上昇、投資家の積極的買いから、397ドル高(2.47%増加)。1月はダウが958ドル下落(5.5%減少)、下げ幅は2015年8月以来5カ月振り。

2.米国の雇用状況
米労働省が1月8日に発表した12月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比292,000人の増加で、市場予想の215,000人増を大きく上回りました。また、10月の雇用者数の確定値は307,000人で11,000人の増加、11月の改定値は252,000人で41,000人の増加となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者数の平均増加数は284,000人と過去1年間で最も大きなものとなりました。なお、8月の失業率は前月と同じく、5.0%でした。労働参加率は62.6%で、前月より0.1%上昇しました。また、フルタイムの職を見つけられず、パートタイムにある労働者を含めた広義の失業率は前月と同じく9.9%に留まりました。 時間当たりの賃金上昇率は0%で増加は見られませんでした。部門別で専門会社の73,000人でしたが、その半分はテンポラリー従業員でした。その他では建設業の45,000人、ヘルスケアの39,000人などでした。逆に資源安が続く鉱山業は8,000人の減少で、年間ベースで131,000人の減少となりました。

この日のダウ価格は労働市場の改善が続いていることで、一時的に137ドル上昇しましたが、欧州株式市場の大幅安と原油先物相場の下落で、最終値は168ドル安となりました。

3.オバマ大統領の一般教書演説
オバマ大統領は12日夜に、大統領の任期の最後となる一般教書演説を行ないました。最初に今年が大統領選挙の年で野党候補から現状への批判が多いことを意識した上で、これまでの業績への擁護と未来へ明るい見通しを強調しました。

まず、経済の実績面では、雇用の大幅拡大によって金融危機時の失業率が半分に低下、財政赤字も年間赤字額が75%も減額したことを伝え、現在米国経済は世界で最も強く、堅固であることを強調しました。また、新たな医療保険制度を導入したことで、約18百万人が
新たに医療保険加入者になったことを伝えました。

その一方、経済成長の果実は富裕層に偏っており、米国全体に景気回復の恩恵が行き渡っておらず、中間層や貧困層が所得減に苦しむ中で、所得と資産が富裕層に集中していることの問題を指摘しました。このため、最低賃金の引き上げによる家計収入の増加や州のコミュニティカレッジの授業料の無償化など中間・貧困層への支援の必要性を訴えました。

更に、昨年12月に12カ国で大筋合意したTPPが中間層の所得引き上げに寄与するものであり、議会に早期承認を求めました。また、12月にパリで合意した気候変動への取り組みに米国が積極的に関わっていくことの重要性を呼びかけました。

国民が不安視するテロリストの脅威については、現在効果を上げている有志連合による作戦を更に強化し、最終的に壊滅するという強い姿勢を示すと共に、それが一般のイスラム教徒への排斥になってはいけないことを伝えました(共和党大統領候補であるトランプ氏
の入国制限発言を批判したもの)。

最後に、米国の政治が与野党の対立の場になっていることを危惧し、米国の将来や可能性に言及し、建設的な議論による米国の団結を強く呼びかけました。

その後、野党の共和党を代表し、サウスカロライナ州のヘイリー知事が反対演説を行い、大統領は崇高な理念を掲げているが、これまでの実績はそれを十分に示していないと批判しました。同時に、現在の状況を一層不安に煽りたて、極端な考えを主張するものもいるが、そうした誘惑に負けるべきでないと暗にトランプ候補を非難する演説を行ないました。

今回のオバマ大統領の最後の一般教書演説について、米国民の反応は極めてよく、CNNの調査ではこれまでで最高の53%が大変良かったとの回答でした。

4.原油安を加速させるサウジとイランの外交関係断絶
1月2日にイスラム教スンニ派の盟主であるサウジは、国内でテロに関与したとしてシーア派の有力宗教指導者ニムル師を含む47人を処刑しました。これに対しシーア派の大国であるイランが激しく反発、イランにあるサウジの大使館や領事館への抗議デモが発生、暴徒化する事態が起きました。これに対し、サウジはイランとの外交関係を断絶すると同時に、イラン外交官の国外退去を求めました。サウジに同調するバーレーンやスーダンもイランとの国交を断絶しました。

今回、サウジがシーア教の宗教指導者を処刑するという強硬な措置を取った背景には中東地域においてシーア派の影響がこれ以上増加することへの脅威があったものと思いますが、同時にイランが欧米との核合意に達し、今後イランが欧米との経済関係を強めることへの警戒心があったものと見られます。特に、イランに対する経済制裁が解除され、イランの石油収入が増加すれば、この地域のイランの影響力が強まることは避けられないことへの懸念が高まっていました。

それと、見逃せないのは、シェアー確保を優先するサウジ王朝政府の原油生産量維持政策が原油価格低迷によるサウジの財政赤字の拡大を招き、これによる自国民の不満を対外的な強硬姿勢で乗り切ろうとするサウジ政府の意図もあると見られています。現在、サウジ政府は財政赤字の穴埋めをするために、外貨準備を切り崩しており、毎月120億ドル以上のペースで減少しています。 サウジの財政赤字は2016年予算で2年続けての赤字予算で、2016年は3262億リヤル(約10.5兆円)とされています。特に歳入は6080億リヤルから5138億リヤルに大幅に減少しており、防衛・安全保障面に多く配分する必要性から、エネルギー関連の補助金は削減することになりました。これにより、ガソリンは50-67%近い値上げとなる見込みとなっています。このため、国民の不満が高まっており、特にサウジのシーア派の大半が居住しているのはサウジ東部の大油田地帯で、ここのシーア派の不満を押さえ込む必要があり、その指導者とされるニムル師の処罰に踏み切ったとの見方が出ています。いずれにしても、イスラム教の2大大国であるサウジとイランが対立を続けることは、地域の政治・軍事的な緊張だけでなく、原油の安定供給の点でもマイナスとなっています。

5.中国経済の悪化と株式市場の不安定化
新年が始まったばかりの中国の上海株式市場で4日に次いで、6日も主要株式指数の下落率が7%を超えた場合、株式市場の売買取引を停止するという導入したばかりのサーキットブレーカー(CB)システムを使う事態が起きました。下落が続いている原因として言われているのは、中国景気の悪化で、4日に発表された15年12月の製造業購買担当景気指数(PMI)が49.7と景気判断の基準である50を5ヶ月連続で割ってしまったことです。更に6日には12月のサービス業購買担当者指数(PMI)が50.2と11月の51.2から低下、1年5ヶ月振りの水準になってしまいました。

これに加えて、人民元の下落が中国市場からの資金流出を一段と強めていることです。特に、7日に中国人民銀行が発表した人民元の対ドルレートの基準値は1ドル=6.5646元であり、2011年3月以来の安値水準となり、人民元の先安感が強まっています。

こうした株式市場の急落を受けて、昨年7月初旬に中国政府が株価対策の一環として上場企業の大株主や経営陣による6ヶ月間の保有株売却の禁止期間の延長を決めました。

いずれにしましても、中国政府が株式市場での安定的な売買取引を期待したはずのサーキットブレーカーが中国投資家にとっては、発動を前に売却に走るという悪循環になっており、不安定な市場展開が避けられない状況です。このため、中国政府当局は8日以降はサーキットブレーカー制度を停止することを決定したことが伝えられています。

6.FOMC会合とその影響
1月26-27日にFOMCが開催されました。会合後の声明文では以下のようなことを伝えました。労働市場は一段と改善したが、米国経済の成長は昨年終盤に減速した。家計支出と民間設備投資は過去数ヶ月間緩やかなペースで増加を続け、住宅市場も一段と改善した。一方、輸出は弱いままであるが、労働市場は雇用が継続的に増加し、未活用の労働資源も幾らか減少している。インフレ率についてはエネルギー価格の低下とエネルギー価格以外の輸入価格の低下の影響もあり、FOMCの目標である2%を下回る水準で推移している。

FOMCは金融政策スタンスの緩やかな調整によって経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場の指標も引き続き力強さを増すものと予測している。インフレ率もエネルギー価格の更なる下落もあり短期的に低く留まるが、一時的な影響が消え、労働市場が力強さを増すに連れ、中期的に2%へ向かっていくものと予測している。FOMCは世界経済と金融市場の動向を注視し、それが労働市場、インフレ率、経済見通しのリスク・バランスに及ぼす影響を評価する。

こうした経済見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)の誘導目標を0.25-0.5%に据え置くことを決定した。経済情勢はFF金利の緩やかな引き上げを許すような形で進むと見ているが、当面通常と見る水準以下に維持される可能性が高い。今後実際のFF金利の上げ方はデータが伝える経済見通しによって決定される。

なお、米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する既存の政策を維持する。この政策はFF金利が通常の水準に戻るまで維持するとしました。

今回の決定は12月のFOMCでゼロ金利政策を9年半ぶりに解除した後に、需給インバランスによる原油安や中国経済の鈍化など海外経済と金融環境の変化を意識したものですが、それは一時的なものであり、FOMCが前月に決定した金融正常化のステップに進むことに変わりないことを確認したものと言えます。このため、市場でもFOMCが3月の会合で金利を引き上げる可能性を否定したものではないとの受け止め方が多かったように見られます。なお、この日はアップルやボーイングの四半期業績が悪化したことも重なり、ダウ価格は222ドルの下落(1.36%減少)でした。
      (2016年2月1日:  村方 清)