1.2月の株式市場
2月の株式市場は、サウジなど4カ国による増産凍結の合意を含め、原油先物相場の動向によって株式市場も大きく変動することになりました。主要な動きは以下の通りでした。
2月2日:原油先物相場が1バレル30ドルを再び割り込んだことや欧州市場の大幅下落を受けて、投資家心理が急激に悪化、ダウ価格は296ドル安(1.80%減少)。
2月3日:原油先物相場が大幅に上昇、前日比8%増となったことで、エネルギー関連株が幅広く買われ、183ドル高(1.13%増加)。
2月4日:雇用を含め米国経済指標の低調さを示すデータが相次いで発表され、FRBの金利引き上げのペースが遅れるのではないかとの見方が広がり、80ドル高(0.49%増加)。
2月5日:米政府発表の1月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比151,000人増で市場予想の190,000人を下回ったものの、失業率は4.9%に改善、賃金も5%の上昇であったため、早期の利上げ観測が再燃し、211ドル安(1.29%減少)。
2月8日:原油先物相場の下落に加え、石油・天然ガス開発大手のチェサピーク・エナジーが債務再編などエネルギー関連企業の不良債権拡大が懸念され、178ドル安(1.13%減少)。
2月10日:午前中は欧州市場の株高を受けて上昇したものの、原油先物相場の下げに伴い、エネルギー関連株が売られ、100ドル安(0.62%減少)。
2月11日:原油先物相場の下落に加え、欧州市場で主要銀行株が大幅安となったことから、米国の金融関連株の売りが膨らみ、255ドル安(1.60%減少)。2014年2月6日以来の安値。
2月12日:1月の米小売売上高が前月比0.2%増、昨年12月も上方修正され、個人諸費の底堅さが意識されたことや原油先物相場が1バレル29ドルまで上昇したことで、エネルギー関連や金融株が大幅が上昇、314ドル高(2.0%増加)。
2月16日:サウジやロシアなど4カ国が条件付で原油増産の凍結で合意とのニュースが伝えられ、先行きの原油安の懸念が和らいだこともあり、223ドル高(1.39%増加)。
2月17日:原油増産の凍結で供給過剰の解消期待から、原油先物相場で一時1バレル31ドル台に回復したことでエネルギー関連株が大幅に反発し、257ドル高(1.59%増加)。
2月18日:原油先物相場が軟調であったことや前日まで3日間で800ドル近く上昇した反動から、40ドル安(0.25%減少)。
2月22日:原油先物相場が上昇、一時1バレル32ドル台になったことや欧州・アジアの株式市場が上昇したことを受けて、229ドル高(1.38%増加)。
2月23日:原油先物相場が大幅な下落となったことで、エネルギー関連株や金融株の売りが拡大し、189ドル安(1.14%減少)。
2月24日:原油先物相場が取引終了時にかけて上昇に転じ、1バレル32ドル台に回復したことから、市場心理が改善し、53ドル高(0.32%増加)。
2月25日:原油先物増場の上昇や欧州市場の株高を受けて、212ドル高(1.29%増加)。
2月26日:米国の第4四半期GDPが1%へ上方修正され、買いが先行したものの、原油先物相場が下落するにつれて警戒感が増し、売りが優勢となり、57ドル安(0.34%減少)。
2月29日:2月のPMIが47.6と前月の55.6から大きく悪化、更に1月の仮契約住宅販売指数も市場予想に反して低下するなど米経済指標の悪化で、123ドル安(0.74%減少)。
2.米国の雇用状況
米労働省が2月5日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比151,000人の増加で、市場予想の190,000人増を下回りました。また、11月の雇用者数の確定値は280,000人で28,000人の増加、12月の改定値は262,000人で30,000人の減少となりました。この結果、1月の雇用者数は目標の200,000人を下回ったものの、過去3ヶ月間の雇用者数の平均増加数は231,000人で依然目標の200,000人を上回っています。なお、8月の失業率は市場予想の5.0%より改善、ほぼ完全雇用に近い4.9%となりました。労働参加率は62.7%で、前月より0.1%上昇しました。時間当たりの賃金上昇率は0.5%の増加となりました。部門別で小売業が57,700人、製造業が29,000人、建設業が18,000人、配達サービスが14.400人の増加でしたが、資源安が続く鉱山業は7,000人の減少で、ピークであった2014年9月から146,000人の減少となりました。
この日のダウ価格は雇用者数が市場予想を下回ったものの、失業率や賃金上昇率は改善、FRBによる早期利上げ観測が再燃して、212ドル安(1.29%減少)となりました。
3.イエレン連銀議長の議会証言
イエレン連銀議長は2月10日に下院金融委員会で半期に一度の経済見通しと政策に関する証言を行ないました。議長は米国経済の現況について、現在見られる雇用増、および賃金上昇の加速により実質所得の伸びが支援され、結果的に消費支出も後押しされるとの認識を示しました。また、労働市場の改善が続き、インフレ率もFRB目標に向かって上昇すると予測している、経済活動は向こう数年間、緩やかのペースで拡大し、労働市場の各指標も引き続き堅調な内容となるだろうと述べました。主要な質疑応答は以下の通りでした。
(1)世界市場の混乱
年初来見られるストレス要因は中国の為替相場政策や原油価格をめぐる不透明感に関連しているように思える。しかし、市場で見られた急激な動きをもたらすほど顕著なシフトは確認していない。市場では景気後退リスクへの懸念が高まった結果、リスクプレミアムが上昇したようであるが、世界的にも米国でも成長急減速の兆候はまだ見られない。但し、
今後も世界市場の動向を注視する必要性を十分認識している。
(2)利下げの可能性
労働市場が堅調に推移し、改善し続けている。インフレを抑制している多くの要因は一時的なものだと引き続き考えている。景気後退のリスクは常に存在し、世界的な金融情勢が景気減速に繋がる可能性も認識している。しかし、今後米国経済を待ち受けるものについて、早まった結論に飛びつかないように注意したいと思う。
(3)利上げのペース
金融政策はあらかじめ決められたコースを辿るわけではない。景気見通しに与える公算が大きな影響さらに雇用やインフレ両方の目標を達成する我々の能力の評価が重要となる。これらが今後の金融政策のスタンスを左右する要因となる。
(4)連銀の資産売却
現時点で長期資産を売却すれば、経済に大きな支障をきたす恐れがある。バランスシートの改善は段階的かつ予測可能な方法で縮小していく方針である。
(5)マイナス金利の法的権限
政策を予想より速いスピードで引き締める場合でも、緩和する場合でも、用意周到な計画作りの精神で検討している。マイナス金利を拒むものがあるとは認識していないが、法的な側面は十分検証していない。今後そうしたことが必要になる。
なお、イエレン議長は11日には上院の銀行委員会で証言しましたが、マイナス金利については2010年にも検討したことがあったが、銀行の収益圧迫になるとかマネーマッケットファンド市場を混乱させるなどの問題があり、実行されなかったことを伝えました。そして、今後も慎重に検討を進めて行きたいと述べていました。
4.原油価格の下落と金融機関の財務圧迫問題
産油国のサウジ、ロシア、ベネズエラ、カタールの石油担当閣僚が2月16日にカタールの首都ドーハで協議し、各国の原油生産量を1月の水準で固定することに合意しました。今回の4カ国による合意は増産を凍結して供給過剰状態の緩和と価格の下支えに狙ったものですが、この合意には他の主要な産油国が同調することを条件にしているため、サウジと対立するイランがこの合意に従うかは疑問とされます。現時点で、イラン政府は欧米による制裁が解除されれば、従来失われたマーケットシエアを取り戻したいとしています。
これに関連して、2月22日に原油価格が5%以上増加するなどの動きがありました。この背景には原油価格の低迷から、米国の石油生産が2016年には日産60万バレル、2017年には更に20万バレル減産となる見込みであることを国際エネルギー委員会(IEA)が発表したことにあります。しかしながら、IEAは長期的には米国は原油生産のコスト効率を高めることにより、2015年には日産9.5百万バレルであったものが2021年には14.2百万バレルになることを予想しており、原油価格の上昇には限界が来るものと見られます。
加えて、原油先物相場の下落はバーナンキ前連銀議長の下で2008年11月以降に進められてきた大規模な量的緩和策などの過度な金融政策が過剰な投機資金が株や不動産だけでなく、原油に向けられ相場を吊り上げていたことが背景にあると言われています。一昨年12月の量的緩和策の終了や昨年12月の金利引き上げなどの連銀による金融正常化によって、原油への投機資金が急速に離れていっていることも主要な原因と見られています。
更に、現在大きな問題になっているのは原油価格が今後とも下落を続け、1バレル26ドル以下になった場合、経営的に行き詰まるシェールオイルの会社が多くなることから、大手金融機関の引当金の積み増しの必要性など経営内容の圧迫になってしまうことです。
(2016年3月1日: 村方 清)