1.4月の株式市場
4月の株式市場は、前半期では原油先物相場の上昇や中国経済減速の影響が和らいだことから上昇傾向が見られたものの、後半期は米国経済指標の低調さと四半期業績発表によりアップルなど不振が目立つ企業も多くなり、再び下落相場となりました。主要な動きは以下の通りでした。
4月1日:米政府発表の3月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比215,000人増で市場予想200,000人を少し上回ったことで(失業率は5.0%に上昇)、108ドル高(0.61%増加)。
4月4日:原油先物相場が下落したことや前週末に4ヶ月ぶりの高値を付けたことから、当面の利益確定の売りが優勢で、56ドル安(0.31%減少)。
4月5日:原油先物相場が下落したことや2月の貿易赤字が予想を上回ったことで、米国の景気減速を警戒した売りが優勢で、134ドル安(0.75%減少)。
4月6日:原油先物相場が上昇したことやFOMCの3月議事録要旨で利上げのペースが緩やかになるとの見方が確認され、113ドル高(0.64%増加)。
4月7日:原油先物相場が1バレル36ドル台後半まで下落したことや欧州主要株が軒並み下落したことで、米国株式も目先の利益確定の売りが優勢で、174ドル安(0.98%減少)。
4月12 日:原油先物相場の急伸でエネルギーや金融株が上昇、165ドル高(0.94%増加)。
4月13日:JPモルガンの1-3月期決算は減収減益であったが、1株利益が市場予想を上回った結果、金融株が軒並み大きく上昇、相場全体を押し上げ、187ドル高(1.06%増加)。
4月18日:主要産油国の原油増産凍結の合意がなく原油先物相場の下落があったが、下げ渋ったことやディズニーなどの四半期業績が好調で、107ドル高(0.60%増加)。
4月19日:大手医療保険のユナイテッドヘルスや大手医薬品・日用品のジョンソン&ジョンソンなどの決算や業績見通しがよかったことで、49ドル高(0.27%増加)。
4月20日:原油先物相場が上昇したことや四半期業績を発表したゴールドンサックスなどの金融株が大幅な上昇を示したことで、43ドル高(0.24%増加)。
4月21日:業績不振であった大手保険のトラベラーズと大手通信のベライゾン・コミュニケーションズが大きく下落、加えて最近の上昇相場の反動から、114ドル安(0.63%減少)。
4月27日:原油先物相場が上昇したことやFOMCで政策金利が据え置かれ、追加の利上げにも明確でなかったことで、投資家の安心感が広がり、51ドル高(0.28%増加)。
4月28日:1-3月期GDPは前期比年率換算0.5%減で市場予想0.99%を下回ったものの、前日業績不振で大きく下落したアップル株について著名投資家の売却発言により更に下落したことから、IT関連株から他の業種にも売りが波及、211ドル安(1.17%減少)。
4月29日:欧州主要国の株式市場が軒並み下落、更に3月の米個人消費支出は前月比0.1%増と市場予想の0.2%増を下回ったことで、57ドル安(0.32%減少)。
2.米国の雇用状況
米労働省が4月1日に発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比215,000人の増加で、市場予想の200,000人増を少し上回りました。また、1月の雇用者数の確定値は168,000人で4,000人の減少、2月の改定値は245,000人で3,000人の増加となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者数の平均増加数は209,000人で、依然として目標の200,000人を上回っています。なお、8月の失業率は前月より0.1%上がり、5.0%になりました。労働参加率は63%で、前月より0.1%上昇しました。時間当たりの賃金上昇率は0.3%の上昇となりました。部門別では小売業が47,700人、建設業が37,000
人増加した一方、製造業が29,000人、鉱山業が12,000人の減少となりました。
3.パナマ文書
2016年4月3日に米国ワシントンDCにある国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は世界の4大オフショア法律事務所の一つであるパナマのモセック・フォンセカ法律事務所が関わった2.6テラバイトに及ぶ文書の分析結果を発表しました。ICIJによると、この法律事務所は1977年から2015年にかけて21万のペーパーカンパニーを設立、半数以上の約11万3千社は英領バージン諸島に、4万8千社がパナマに、1万6千社がバハマにあったとしています。ペーパーカンパニーの設立を依頼したのは金融機関やコンサルティング会社で、金融機関ではソシエテ・ジェネラル、クレディ・スイス、UBS、HSBCなどの欧州主要銀行の系列会社が名を連ねていると言われています。
今回の文書では2つのケースが問題になると指摘されています。1つは深刻な財政赤字にある国の政治指導者が個人として課税逃れに走ってよいのかという道義的な責任問題です。既に夫妻で資産隠しをしていたとされるアイスランドのグンロイグソン首相は辞任に追い込まれました。また、英国のキャメロン首相も亡父の関与が、アルゼンチンのマウリシオ・マクリ大統領もバハマにある貿易会社の役員をしていたことが指摘されています。
もう1つは資金洗浄(あるいはテロ資金の供与)にペーパーカンパニーが使われていなかったという犯罪絡みの問題です。この文書には発展途上国の首脳だけでなく、ロシアのトップリーダー関連者や中国共産党最高幹部の親族なども名も連ねており、私的利益追求のための資産隠しでなかったかとの疑念も持たれています。
なお、ICIJはパナマ文書に出てくる企業や関連人物の全リストホームページに掲載するとしており、この問題が更に広がる可能性があります(注)。
(注)今回の文書では、米国の企業や資産家の名前が少ないとされていますが、これについては、米国ではデラウエアー州やワイオミング州で簡単にペーパーカンパニーを設立できる他、米国政府は外国の金融機関を使った租税逃れや資産隠しに対して、法律の厳格化を通じて、数々の訴訟や容疑者の逮捕に取り組んできたことを挙げています。
4.修復が容易でない米国とサウジの関係
オバマ大統領は4月20日にサウジを訪問し、イランの核合意をめぐる米国とサウジとの間のギクシャクした関係の改善を目指しました。しかしながら、2時間半に渡ったサルマン国王との会談では、IS掃討、イエメンの内戦、イランとの関係などが話し合われたものの、合意は少なく、両国の間に不一致があることの確認で終わったことが伝えられています。
米国とサウジの関係は原油と軍事を中心に70年間以上も続く特別なものですが、2011年9月11日の米同時多発テロへ関与したサウジ19人の実行犯の内、15人がサウジ国籍者であったことから、両者の関係が見直されることになりました。現在、米議会では同時テロの遺族や生存者がテロに加担した外国の政府や資金提供者を訴えることを可能にさせる法案を用意していますが、逆にサウジ政府からは法案が通過した場合には、米国の資産を売却するなどの警告を与えています。オバマ政権も、もしこの法案が成立すれば、米国が提訴されたり、国家主権による免責特権を奪われたりする恐れがあるとして、議会にこの法案を可決しないように求めているとされています。
もう一つの要素は、米国内のシェールオイルやガスの生産が急激に増加する中で、米国の外国からの原油依存度が低下、主要輸出国であるサウジとの経済的な結びつきが以前ほど強くなくっている状況です。これに関連して、原油価格の急激な低下にも関わらず、サウジが減産に応じない理由の一つは米国のシュールオイルやガス会社の経済的な破綻を意図したものとの見方が従来から出ています。
しかし、その一方、米国が進めるIS掃討作戦では、同じスンニ派の盟主であるサウジの協力が不可欠であることは間違いなく、中東で影響力を増すイランへの対抗心を強めるサウジとの間で今後どのような関係を作っていくべきなのか複雑な対応を迫られています。
5.FOMC会合とその影響
4月25-27日にFOMCが開催されました。会合後の声明文では以下のようなことを伝えました。経済活動は減速したように見えるが、労働市場は一段と改善した。家計支出の伸びは緩やかになったが、家計の実質所得は堅調に伸びており、消費者の景況感も依然良好である。住宅部門も一段と改善している。一方、企業の設備投資と純輸出は軟化した。労働市場は堅調な就業者数の増加などを通じて、さらに力強さを増している。インフレ率についてはエネルギー価格の低下とエネルギー以外の輸入価格の下落の影響もあり、FOMCの目標である2%を下回る水準で推移している。
FOMCは金融政策の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場の指標も引き続き力強さを増していくものと予測している。インフレ率もエネルギー価格の低下もあり短期的に低く留まるが、一時的な影響が消え、労働市場が力強さを増すに連れ、中期的に2%へ向かっていくものと予測している。FOMCは引き続き物価指標および世界経済と金融市場の動向を注視する。
こうした経済見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)の誘導目標を0.25-0.5%に据え置くことを決定した。経済情勢はFF金利の緩やかな引き上げを許すような形で進むとみているが、当面通常と見る水準以下に維持される可能性が高い。今後実際のFF金利の上げ方はデーターが伝える経済見通しによって決定される。
なお、米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する既存の政策を維持する。この政策はFF金利が通常の水準に戻るまで維持するとしました。
今回の声明文を読むかぎり、3月の声明文にあった「世界経済と金融環境がリスクをもたらしている」との文言を削除していますが、これは中国経済の過度な減速懸念が和らいだこと反映したものと見られます。その一方、インフレ率は労働市場の改善にも関わらず、2%の目標を下回る水準で推移しており、金融正常化のステップが揺やかに進まざるを得ないことを容認したものと言えます。加えて、米国の金利の引き上げは欧州や日本が金融緩和政策を続ける中では、ドル高となって米国の輸出企業の競争力を低下させることへの懸念も意識しているように見られます。なお、この日の株式相場は政策金利が現行水準に維持されたことや早期の利上げに慎重との見方が広がり、ダウ価格は51ドル高となりました。
しかしながら、翌28日は前日の業績発表で大幅な減収減益で6%以上の株価下落となったアップルが大手投資家の売却で更に3%以上の下落となり、それがIT関連株やその他の業種に波及し、ダウ価格全体を211ドル下げる結果となりました。
いずれにしても、米国経済は他の主要国の経済よりは悪くないものの、高い株価に見合う実体経済の裏づけがあるわけではなく(注)、株価の不安定性は暫く続くものと見られます。
(注)28日に発表された米国の1-3月期のGDPは前期比年率換算で僅か0.5%の増加で、原油安と海外経済の落ち込みによる民間設備投資の前期比5.9%減と輸出の前期比2.6%減が大きく影響したものとなりました。加えて、29日に発表された3月の米個人消費支出も0.1%増に留まり、市場予想の0.2%増を下回りました)。
(2016年5月1日: 村方 清)