1.12月の株式市場
12月の株式市場は11月8日の大統領選挙後のトランプ・ラリーが12月中旬まで続きました。しかし、連銀が利上げを決定した14日以降は年末にかけて、調整の動きが目立つようになりました。主要な動きは以下の通りでした。
12月1日:OPECの減産合意による原油高と長期金利の上昇で、エネルギー関連株や銀行株が相場を牽引し、68ドル高(0.36%増加)。
12月2日:米政府発表の11月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比178,000人増で市場予想の175,000人増とほぼ同水準で(失業率は4.6%に低下)、長期金利の上昇が抑えられ、金融株を中心に利益確定の売りが優勢で、22ドル安(0.11%減少)。
12月5日:ゴールドマンサックスなど大手金融機関の目標株価引き上げが伝わったことから、金融株を中心に株価の上昇があり、46ドル高(0.24%増加)。
12月7日:トランプ次期大統領による規制緩和や景気刺激策への期待が、遅れていた通信株などの買いが勢いを得て、298ドル高(1.55%増加)。
12月8日:欧州中央銀行(ECB)が量的緩和策の9日月延長を決め、欧州株式市場が上昇、米国株にもトランプ・ラリーに出遅れたIT関連株に買いが入り、65ドル高(0.33%増加)。
12月9日:欧州株式市場が上昇したことに加え、遅れ気味であった消費やヘルスケア関連株を中心に買いが優勢となり、142ドル高(0.72%増加)。5日連続で最高値更新。
12月12日:10日にOPEC加盟国と非加盟国が減産で合意したことから、原油先物相場が一時1バレル54ドル台まで上昇、石油関連株を中心に買いが優勢で、40ドル高(0.20%増加)。
12月13日:欧州市場が金融株を中心に上昇、また出遅れていたIT株も買いが優勢で、120ドル高(0.58%増加)。
12月14日:FOMCが0.25%の利上げを決定、為替相場の影響を受けやすい素材関連、輸出関連企業を中心に売りが広がり、金融株も長短の差が少なくなったことから下落、119ドル安(0.60%減少)。下落幅は10月11日以来の2ヶ月ぶりの大きさ。
12月15日:長期金利が大きく上昇し、金融株に買いが優勢で、60ドル高(0.30%増加)。
12月19日:上げの鈍かったハイテク株が買われたことや長期金利の低下でREITや公益事業株の買い戻しが入り、40ドル高(0.20%増加)。
12月20日:イタリアの銀行救済策が決定したことから欧州の金融株も上昇、米国でもゴールドマンサックスやアマゾンなどのインターネット通販が上昇、92ドル高(0.46%増加)。
12月21日:20日に過去最高値をつけたことから、利益確定の売りが優勢で、33ドル安(0.16%減少)。
12月22日:欧州やアジアの株安から、高値警戒感が意識され、23ドル安(0.21%減少)。
12月27日:米国の消費者信頼度指数や住宅価格指数などは良好であったが、高値警戒感も意識され、11ドル高(0.06%増加)。但し、ハイテク株の多いナスダックは最高値更新。
12月28日:20,000ドルを間近に上値が重くなり、銀行株を中心に利益確定売りが優勢となり、111ドル安(0.56%減少)。
12月30日:年末で持ち高調整や利益確定の売りが優勢で、57ドル安(0.29%減少)。年間での上昇率は13.4%。
2.米国の雇用状況
米労働省が12月2日に発表した11月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比178,000人の増加で、市場予想の175,000人増とほぼ同水準となりました。しかし、9月の雇用者数の確定値は208,000人で11000人の増加、10月の改定値は142,000人で19,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者数の平均増加数は176,000人で、目標の200,000人を下回りました。なお、11月の失業率は4.6%で0.3%改善しました(広義の失業率は9.3%で0.2%の改善)。労働参加率は62.7%で、前月比0.1%減少しました。11月の時間当たり賃金上昇率は0.1%減少で、前年同期比で2.5%上昇となりました。部門別では建設業が前月に続き、19,000人の増加となりましたが、小売業は8,300人の減少となりました。製造業が前月に続き、更に4,000人の減少となりました。
3.イタリアで改憲法案が否決
今年7月に英国が国民投票でEUからの離脱を決め、11月には米国の大統領選挙で反エスタブリッシュメントのトランプ候補が勝利したのに続き、12月4日にイタリアで上院の権限を大幅に制限する憲法改正法案の国民投票で反対が約60%となり、レンツィ首相が辞意を表明しました。
改憲案は上院の定数を315人から100名に減らすと同時に、内閣承認や立法の権限を大幅に制限する内容でしたが、欧州連合懐疑派の5つ星運動などの野党が国会機能低下になると強く反対、財政規律の重視で景気低迷の影響を受けた多くの国民も野党に同調、憲法改正案は否決となりました。これにより、レンツィ政権が進めてきた改革路線が後退、政治不安が銀行の再建計画に支障が生じる恐れも出てきました。
12月11日に、イタリアのマッタレッラ大統領はレンツィ首相の後任にジェンティローニ外相を首相に指名、国内銀行の不良債権問題などに取り組みことになりました。
イタリアの反EUの動きは右派勢力が台頭する来年3月のオランダの議会選挙や4-5月のフランス大統領選挙にも悪影響を与える可能性が出てきました。
4.FOMCの利上げ決定
12月13-14日にFOMCが開催されましたが、1年ぶりに0.25%の利上げを全会一致で決定しました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。経済活動は今年中盤移行緩やかなペースで拡大、労働市場も引き続き力強さを増した。雇用増もここ数ヶ月堅調で、失業率も低下している。家計支出の緩やかに伸びているが、企業の設備投資は依然弱い状態が続いている。インフレ率は幾分高まったが、エネルギー価格及びエネルギー以外の輸入価格の低下もあり、FOMCの長期目標である2%wを下回っている。
FOMCは法律で定められた雇用の最大化と物価安定の実現という2大使命を達成することに努める。FOMCは金融政策の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場の状況も更に改善していくものと予測している。インフレ率も短期的に低く留まるが、一時的な影響が消え、労働市場が力強さを増すにつれ、中期的に2%に向かっていくものと予測している。FOMCは引き続きインフレ率や世界経済と金融市場の動向を注視する。
FOMCは労働市場情勢と物価上昇率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)の誘導目標を0.50-0.75%に引き上げることを決定した。FOMCはFF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、雇用の最大化と物価上昇率2%という目標との比較で評価ししていく。インフレ率が現時点で2%に達していないことから、目標達成に向けた実際の進捗と予想を注意深く観察する。FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げのみを許すような形で進むと予測している。FF金利は当面、FOMCが長期的に通常と見る水準以下に維持される可能性が高いが、実際のFF金利の上がり方はデータが伝える経済見通し次第となる。
米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。この政策はFF金利が通常の水準に戻るまで維持する。
なお、今回の決定はイエレン議長を含む10人のメンバー全員一致による。
今回の会合で0.25%の利上げを行なったのは7-9月期の経済成長が2年ぶりの高さとなったことや失業率も4.6%という9年ぶりの水準まで下がったことなどからして市場の予想通りとされています。しかしながら、注目されるのは今後の利上げ見通しについて、FOMCメンバーが2017年に3回、2018年に年3回を織り込んだことです。前回の9月時点の見通しでは17年が2回、18年が3回であっただけに利上げベースが加速する可能性があることを示しています。トランプ政権のインフラ投資などの財政拡張政策によりインフレ圧力が強まることが最大の要因と見られますが、利上げは一方でドル高となって米国企業の国際競争力を低下させる懸念もあります。また、FRBの利上げは世界のマネーを米国に向けさせる半面、発展途上国から資本流失や通貨安のリスクを拡大させる恐れもあります。
なお、12月14日はFOMCの利上げ決定後、為替相場の影響を受けやすい素材関連、輸出関連企業を中心に売りが広がり、金融株も長短の差が少なくなったことから下落、119ドル安(0.60%減少)となりました。
5.トランプ・ラリーに見る投資家の過剰な期待
11月8日の大統領選挙でトランプ候補が当選して以来、企業減税と規制緩和、更に大規模なインフラ投資への大きな期待感から、米国の株式市場は8%以上の上昇、しかも長期金利も上昇するという動きが続いています。トランプ候補の主張は1980年に当選したレーガン大統領の政策に近く、当時も株式市場が大きく上昇したこともあり、レーガン相場の再来と言う言葉も聞かれます。
しかし、レーガン相場は1970年代の超高金利現象下での低迷相場からの回復過程であったのに対し、現在は2009年3月のボトムから既に2.5倍上昇し、経済成長も上昇局面で、失業率も最低水準にあり、連銀は12月のFOMCで示唆したように2017年は利上げのペースを加速させる可能性があります。こうした時に、大規模な財政支出による景気刺激策はインフレと財政収支の赤字拡大を招くことになりかねません。この点、トランプ・ラリーと言われる現象は投資家による過剰な期待が株式相場を高騰させている側面も否定できません。これに関連して、株の動きを実況放送しているCNBCのゲストに出演したフィシャー・ダラス連邦銀行前総裁がレーガン大統領の時は就任前に8.5%上昇したものの、就任後は1年間で様々な問題が発生し、20%近い下落となったことと述べていました。トランプ新政権にも同様なことが起こりかねないリスクを考えておくことが必要ではないかと思われます。
(2017年1月2日:村方 清)