Monday, May 1, 2017

国際政治の動きに揺れた株式市場


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
14月の株式市場
4月の株式市場はシリアや北朝鮮の情勢緊張に伴う地政学リスクの拡大によって、後半はフランス大統領選挙の第1回投票結果など国際政治の動きに大きく影響されました。主要な動きは以下の通りでした。

43日:ISM3月米製造業景況感指数が57.20.5低下したことや米新車販売台数も低調で、長期金利が低下し、金融株が売りに出され、13ドル安(0.06%減少)。
44日:トランプ大統領が企業経営者との会合で、金融規制緩和やインフラ投資に言及したことで、景気刺激政策への期待から、39ドル高(0.19%増加)。
45日:3145日のFPMC議事録要旨で、メンバーの多くが年内の縮小開始が適切との見方が伝わったことからの金融株の下落やライアン下院議長による税制改革への時間の必要性発言から、41ドル安(0.20%減少)。
46日:取引終了にかけて金融株が買い戻され、エネルギー株も買われ、15ドル高(0.07%増加)。
47日:米政府発表の3月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比98,000人増と、市場予想の180,000人増を大きく下回ったこと(失業率は4.5%に改善)や米軍によるシリア攻撃で地政学リスクが高まったことで、7ドル安(0.03%減少)。+
411日:シリアや北朝鮮の情勢緊張.から投資家のリスク回避の動きで、7ドル安(0.03%減少)。
412日:シリアや北朝鮮をめぐる地政学リスクの拡大とトランプ大統領のドル高への懸念発言で59ドル安(0.28%減少)。
59ドル安(0.28%減少)。
413日:米軍のアフガン攻撃による地政学リスクの拡大で、139ドル安(0.69%減少)。
417日:米主要企業の四半期決算と景気刺激策への期待から、184ドル高(0.90%増加)。
418日:四半期決算を発表したゴールドマン・サックスやジョンソン・ジョンソンが大きく売られたこと、英国やフランスなど欧州政治の先行きへの警戒感が増し、114ドル安(0.55%減少)。
419日:20四半期減収を発表したIBMが大きく売られたこと、在庫増を反映して原油先物相場の下落から石油株も売られ、更に金融株も軟調で、119ドル安(0.58%減少)。
420日:ムニューシン財務長官などの税制改革に関する発言からトランプ政権への政策期待が再燃たことや金利低下が一服した金融株が上昇し、174ドル高(0.85%増加)。
421日:23日の仏大統領選挙第一回投票を前に結果を見極めたいとの様子見ムードが強く、原油先物相場が1バレル50ドルを割ったことなどから、31ドル安(0.15%減少)。
424日:フランス大統領選の第1回投票で、独立系中道派のマクロン元経済相がトップになり、フランスがEUを離脱する可能性が低下、投資家心理が強気に転じ、216ドル高。
425日:キャタピラーやマクドナルドなど米主要企業の四半期業績が好調であったことや26日に発表されるトランプ政権の税制改革への期待から、232ドル高(1.12%増加)。
426日:トランプ政権の税制改革案の発表があったが、前日までに大幅に続伸した反動で、利益確定の売りが優勢で、21ドル安(0.10%減少)。
428日:四半期決算が不振であったインテルが3.4%下落したことやゴールドマン・サックスなども利益確定売りが出て、41ドル安(0.19%減少)。4月全体で1.3%上昇。

2.米国の雇用状況
米労働省が47日に発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比98,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく下回りました。1月の雇用者数の確定値は216,000人で22,000人の減少、2月の改定値は219,000人で16,000人の増加で、合計として38,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は178,000人で、好調さの目安とされた200,000人を下回りました。なお、1月の失業率は4.5%で、0.2%改善し、20075月以来910か月ぶりの低水準となりました(広義の失業率も8.9%0.3%の改善)。労働参加率は63%で、前月と同じ水準でした。2月の時間当たり賃金上昇率は年率2.7%増加で、前月の2.8%増より減少しました。部門別では建設業が6,000人の増加、製造業も11,000人の増加となりましたが、逆に小売業が29,700人の減少となりました。

3.3月のFOMC会合要旨と今後の見通し
46日に発表された3145日のFOMC会合議事録要旨で、利上げを決定すると同時に、大半のメンバーが経済が予定通りに推移すれば、年内に45千億ドルに拡大したFRBのバランスシートの縮小に着手すべきと考えていることがわかりました。従来、FRBは資産規模の縮小について、金利引き上げが相当程度進んだ段階で、償還が来た国債の再投資を停止するとしてきました。しかし、3月のFOMCFRBはフェデラルファンド金利の誘導目標を年0.751.00%に引き上げ、年内にさらに2回の利上げがあることを示唆しました。この点、市場では6月と9月に利上げして、12月に資産縮小を開始するとの見方が出ています。なお、今回のFOMC会合では、金融市場の状況について、株価は標準的な評価方法と比べ、かなり高いとの警戒感も示されました。

6日の株式市場は、FOMC会合の議事録要旨を受けて、利上げに加え、資産縮小は二重の引き締め圧力となるとの理由で警戒感が強まり、ダウ平均価格は41ドルの下落となりました。

4.トランプ政権の100日間の評価
トランプ大統領は429日に就任100日目を迎えました。トランプ大統領が選挙期間中に掲げた主要な政策は①大幅減税と巨額のインフラ投資、②保護主義的な通商政策、③オバマケアの見直し、④テロリスト国からの入国制限などでしたが、大統領令ではこれらに関する方向性を打ち出したものの、議会の承認を伴う立法や予算措置の面で見ると現時点では何一つ実現されていません。

トランプ大統領が選挙公約に掲げ、共和党が過去7年間廃止を目指して取り組んできた③のオバマケアの代替法案(ライアンケア)について、324日に下院本会議の法案が撤回されたことは今後に大きな影響を与えるように見られます。特に、トランプ政権の最重要政策である大幅減税と巨額のインフラ投資も議会との関係で難航することが予想されます。20日にムニューシン米財務長官が近く税制改革案を発表すると声明したことで株式市場は174ドルの上昇となりましたが、期待先行の感は否めません。特に、トランプ政権が主張する大幅減税は米国の巨額な財政赤字の中で、減税の財源をめぐって、財務省と議会、あるいは議会内部の意見の隔たりは大きく、実現は容易ではないと見られています。これに関連して、ムニューシン米財務長官は26日に税制改革概要を発表しました。内容は連邦法人税率を35%から15%へ引き下げたり、納税者の税率を現行の7段階から3段階にするなど減税を中心とするもので、減税分の詳細な補填財源措置が曖昧であり、LA Times紙は27日に米国の財政赤字を一層深刻化させるものと否定的なコメントを掲載していました。

また、②の保護主義的な通商政策についても、選挙期間中の公約であったNAFTAからの離脱は26日に電話でカナダとメキシコの首脳会談を行った後、当面現行の取り決めを続けることで合意、方針を転換しました。また、日米首脳会談での日米経済対話の新設であったり、米中首脳会談における対中貿易赤字是正の100日計画策定での合意に見られるように、話しあいによって現実的な解決を図る方向で進んでおり、公約通りに進んでいません。

なお、大統領令で実施できるテロリスト国からの入国制限については、2回の大統領令を出しましたが、実施機関との十分な話し合いがなされていなかったこともあり、第1回はワシントン連邦地裁から、第2回はハワイとメリーランドの連邦地裁から憲法違反との理由で、実行を停止されています。

いずれにしても、トランプ政権の100日の実績を見る限り、選挙期間中の公約は殆ど実現されておらず、これまでの政権と比べ、かなり低い評価になっています(現時点での支持率は41%で、不支持率が53%となっています)。。

5.英国の総選挙
英国のメイ首相は18日に2020年に予定していた総選挙を大幅に前倒しする意向を発表、これを受けて英議会下院は19日に賛成が522票、反対が13票で可決しました(68日に実施予定)。今回、メイ首相が意図したのは安定した政権を作った上で、離脱に対するEUへの交渉力を高めることにあるとされています。特に、メイ首相は強硬離脱(ハードクレジット)を主張、完全撤退した上で、関税や貿易協定についてEUと自由貿易協定(FTA)を締結したいとしています。これに対し、最大野党の労働党はFTAを簡単に結べる保証はなく、無関税の取り扱いなどを最優先して交渉し、経済や雇用への悪影響を最小限度に抑えるべきと主張、大きな対立点になっています。現在、メイ首相が率いる保守党は下院の議席が単独過半数を多少上回るだけであり、メイ首相が政権基盤を強化した上で、EUとの交渉に臨みたい意向は理解できるものの、選挙の結果が大きく伸びなければ、メイ首相の求心力が低下する恐れもあり、賭け的なリスクが存在しているように見えます。

6.フランス大統領選挙の結果
423日に行われたフランス大統領選挙の第1回投票は、即日開票の結果、EUとの協調を主張する中道・独立系のマクロン前経済相が23.9%で首位、EU離脱や反移民を掲げる極右政党・国民戦線のルペン党首が21.4%で2位、中道右派で共和党のフィヨン元首相が19.9%で3位、急進左派で左翼党のメランション元共同党首が19.5%で4位、現与党の社会党のアモン前教育相が6.3%で5位となりました。この結果、いずれも過半数に達しなかったため、上位2人の候補による決選投票が57日に行われることになりました。11人が立候補した今回の大統領選挙では、社会党と共和党の2大政党の候補者が決選投票に進めない状況となり、フランスの第5共和政が始まった1958年以来続けられてきた保革2大勢力の対立構図が崩れることになりました。

決選投票では、欧州の統合推進を訴え、移民の受け入れに寛容な姿勢を示すマクロン候補とEU離脱を問う国民投票の実施を掲げ、移民に厳しい制限を課すことを主張するルペン候補の対立構図が明確となり、第1回投票で敗れた他の候補者の票をどれだけ得らえるかが焦点となっています。現時点では、フィヨン候補とアモン候補はいずれもマクロン候補支持を表明していますが、メランション候補は誰を支持するかを明らかにしていません。調査会社イプソスの23日の支持率調査では、マクロン候補が62%、ルペン候補が38%で、マクロン候補が優位に立っています。

マクロン候補の優位性はEU加盟国や外国政府にも安心感を与えていますが、投資銀行出身で政治経験が浅いマクロン候補が大統領になっても、フランスが抱える低成長と高失業の問題(更にアラブ系住民の不満)は深刻であり、容易に解決できるものではありません。この点、選挙後の2日間に渡る株式市場の急激な上昇は投資家の過剰な期待による影響が大きかったと見られます。
           (201751日:  村方 清)