Thursday, June 1, 2017

米国政治の混乱と株式市場の不安定化












15月の株式市場
5月の株式市場は10日にトランプ大統領が政権とロシアとの関係問題でコミーFBI長官の解任したことに伴う政治的不透明感の高まりから17日にはダウが373ドルも下落しました。その後は企業業績の好調さを反映して反騰の動きを示していますが、政治的な混乱は依然続いており、株式市場も不安定性を示しています。 主要な動きは以下の通りでした。

51日:ボーイングやホームデポなど株価の上昇が続いていた銘柄に利益確定の売りが活発であったことや3月の個人消費支出が市場予想を下回り、ダウは27ドル安(0.13%減少)。
52日:3日のFOMC会合の結果を控えていたものの、3Mやホームデポの四半期業績が好調であったことで、36ドル高(0.17%増加)。
53日:FOMC会合で、13月期の成長鈍化は一時的との見方で、8ドル高(0.04%増加)。
55日:米政府発表の4月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比211,000人増で、市場予想の185,000人増を大きく上回ったこと(失業率も4.4%に改善)や原油先物相場が反発し、石油株などが買われ、55ドル高(0.26%増加)。
58日:著名投資家のバフェット氏がアップル株の積増しをしたことで、5ドル高(0.03%増加)。
59日:原油先物相場が下落、北朝鮮の核実験計画が伝えられて地政学リスクも拡大し、37ドル高(0.17%減少)。
510日:9日のトランプ大統領のコミーFBI長官の解任による米政治の不透明感に加え、ディズニーやボーイングが大きく下落、33ドル安(0.16%減少)。
511日:FBI長官の解任に伴うトランプ政権の政策運営への不透明感に加え、小売り大手のメ―シーズやコールズなどの四半期業績が不振で、24ドル安(0.11%減少)。
512日:JCペニーやノードストロームなどの四半期業績が不振で、小売株全体に売りが広がり、23ドル安(0.11%減少)。
515日:サウジとロシアの協調減産合意で原油先物相場が上昇、更に情報セキュリティ関連株も買われ、85ドル高(0.41%増加)。
516日:トランプ大統領がISに関する機密情報をロシアに漏らしたことが報道され、米国政治への不透明感が強まり、2ドル安(0.01%減少)。
517日:トランプ政権とロシアとの不透明な関係の深まりから、景気刺激策の実施が遅れるとの警戒感が強まり、多くの銘柄で売りが広がり、373ドル安(1.78%減少)。
518日:前日に急落した反動と四半期業績が好調であったウオールマートが買われて相場をけん引し、56ドル高(0.27%増加)。
519日:原油先物相場が上昇し、資源関連株が買われた他、農機大手のディアの四半期業績が好調で相場を押し上げ、142ドル高(0.69%増加)。
522日:前週半ばに急落した株の反動及びアマゾンやグーグルなどハイテク株やトランプ大統領が訪問中のサウジでの兵器売却合意による防衛関連株の上昇で、90ドル高(0.43%増加)。
523日:原油先物相場や長期金利が上昇、資源関連や金融株が買われ、43ドル高(0.21%増加)。
524日:523日のFOMC議事要旨の発表後に米国の金融政策の正常化が緩やかなペースで進むとの期待から、低金利が追い風の不動産や公益企業株に買いが入り、75ドル高(0.36%増加)。
525日:四半期業績が好調であった3M、ユナイテッドヘルス、トラベラーズが上昇、相場をけん引して、71ドル高(0.34%増加)。
530日:原油先物相場が下落、長期金利も低下して、石油株や金融株が売られ、更に先週6日続伸した反動で目先の利益確定の売りが優勢で、51ドル安(0.24%減少)。
531日:原油先物相場の下落によるエネルギー関連株の売りに加え、46月業績に慎重な見方の金融株も大きく下げ、ハイテク株も利益確定売りで、21ドル安(0.10%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が55日に発表した4月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比211,000人の増加で、市場予想の185,000人増を大きく下回りました。2月の雇用者数の確定値は232,000人で13,000増加、3月の改定値は79,000人で19,000人の減少、合計として6,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は178,000人で、好調さの目安とされた200,000人を下回りました。なお、1月の失業率は4.4%で、0.1%改善し、20075月以来910か月ぶりの低水準となりました(広義の失業率も8.6%0.3%の改善)。労働参加率は62.9%で、前月と同じ水準でした。2月の時間当たり賃金上昇率は年率2.5%増加で、前月の2.7%増より減少しました。部門別では建設業が5,000人の増加、製造業が6,000人の増加、ヘルスケア・レジャー業が55,000人の増加、小売業も6,300人の増加となりました。

3.FOMC会合
523日にFOMC会合が開催されましたが、金融政策の現状維持を決定、追加の利上げを見送りました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。経済活動は減速したものの、労働市場は引き続き力強さを増した。雇用増も平均するとここ数か月堅調で、失業率も低下している。家計支出の伸びは僅かであったが、消費を持続的に支える基盤は依然堅調であった。企業の設備投資も安定していた。インフレ率はFOMCの長期目標である2%近くに来ている。エネルギーと食品の価格を除くと、消費者物価は3月には低下し、インフレ率は引き続き2%をやや下回った。

FOMCは法律で定められた使命を達成するために、雇用の最大化と物価安定の実現に努める。FOMC13月期の景気減速は一時的である可能性が高く、金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況もさらにいくらか引き締まり、インフレ率は中期的に2%付近で安定すると予測している。景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきている。引きつづきインフレ率や世界経済のと金融市場の動向を注視する。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.751%に据え置くことを決定した。FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。

米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。この政策はFF金利が正常化が十分に進むまで維持する(なお、525日に発表された議事録要旨によれば、会合参加者のほぼ全員が年内の資産縮小が適切であることやアプローチとして再投資を止める資産の規模の上限を3か月ごとに段階的に引き上げていくことが含まれることを確認したとしています)

今回の決定はイエレン議長を含む9人のメンバー全員一致による。

今回の金利据え置きの決定は市場で予想されたものであったことや13月期の成長率鈍化が一時的なものとの見方から、ダウは8ドル高に留まりました。

4.フランスの大統領選挙
423日の第1回投票で過半数を取れず、決選投票となったフランスの大統領選挙は第1位のマクロン前経済相と第2位のルペン国民戦線党首との間で7日に決戦投票が実施され、即日開票の結果、マクロン氏が予想を超える65%近い支持率を獲得し、当選しました。両候補とも、これまでフランス政治をリードしてきた社会党や保守党の2大政党に属していないという共通点をあるものの、主張は全く異なっており、マクロン候補がEUによる統合推進や移民に寛容な姿勢を主張したのに対し、ルペン候補はEU離脱と反移民を政策を掲げ、鋭く対立していました。今回、マクロン候補が支持票を増したのは第1回投票で保守党のフィヨン候補や社会党のアモン候補を支持した人たちだけでなく、ルペン候補への反発が極左のメランション候補の支持者の中に広がったことが大きかったように思われます。

今回の決選投票の結果、マクロン氏は首相や主張閣僚の指など組閣に向けた動きに入ることになりますが、最も注目されるのは6月の下院選挙、マクロン候補が率いる政治団体“前進”がどこまでの議席数を確保できるかにかかっています。特に議会での多数派を構成できるかどうかが鍵になると思います。

いずれにしても、今回のマクロン候補の勝利は、昨年6月の英国での国民投票によるEU離脱決定や11月の米国大統領選挙におけるトランプ候補の勝利に見られた自国第一主義が3月のオランダ下院選挙に次いで、敗れる点で大きな意味があったものと思われます。また、今回の決選投票の直前、マクロン候補陣営が外部からの不正なサイバー攻撃を受けたにもかかわらず、フランス国民が冷静であったことも評価されるべきであったと思われます。

5.トランプ政権がもたらす米国政治の混乱の影響
トランプ大統領がコミーFBI長官を59日に突然解任したことは米国政治にみならず、株式市場に大きな不安定性をもたらすことになりました(517日にダウは前日比1.78%減の373ドル下落)。当初、ホワイトハウスとペンス副大統領は今回の解任を民主党のクリントン候補のメール問題へのコミー長官の対応の不適切さとするローゼンスタイン司法副長官の報告書を根拠にしたとしました。しかし、トランプ大統領は11日のNBCのホルト氏によるインタビューで自分がFBIによるトランプ政権とロシアとの関係の調査対象でないことを3回確認したが、それが覆されたことが原因であったことを明らかにしました。本来、独立性が保たれるべきFBIの捜査に対して、被疑者の可能性がある大統領が職権を行使して捜査責任者を解任することは司法妨害ではないかとの強い批判を起こしています。

トランプ大統領はコミー長官を解任した翌日の10日にこれまで敵対国とされたロシアのラブロフ外相と会談し(会談には米国のメディアの取材や写真は認められず、ロシアのタス通信のみが許可)、トランプ大統領よりISに関する第3国からの機密情報がロシア側に伝えられたことがワシントンポスト紙によって報道されました。機密情報の取り扱いは大統領の権限ですが、同盟国から得た情報は相手国の了解を得ることが必要で、その会談に同席したマクマスター大統領補佐官によれば、大統領はその情報のソースを確認することなく、伝えたとのことです。更に、18日にはニューヨークタイムズ紙が、トランプ大統領がラブロフ外相との会談に際に、コミー長官は頭がおかしい変人で、解雇したことにより自分が自由になったと伝えていたことも明らかになりました。

また、517日には、トランプ大統領が214日にコミー前長官と会談した際に、米国の利益を侵害し恐れのあるフリン補佐官の捜査を打ち切るようにコミー長官に求めたことがニューヨークタイムズ紙によって報道されました。

こうした一連のトランプ大統領の異常とも言えるロシア寄りの姿勢がどのような理由で起きているのかについて、米国の幾つかのメディアは1998年以降のトランプ不動産グループとロシアのオリガーク(注)との深い繋がりを指摘しています。彼らはトランプグループのソーホー・ホテルプロジェクトやフロリダの高級コンドミニアムプロジェクトに資金的な繋がりを持っているとされています。
(注)ロシアの経済自由化によって資産を築き上げた新興財閥で、中にはマフィアとのビジネス関係やマネーロンダリングを行っているとされている連中がおり、現在のプーチン政権とも深い関係を持っていることが指摘されています。

こうした状況を受けて、517日に司法省によって、元FBIのモラー長官が特別検査官に任命されたことは当然のことと思われます。今後、モラー特別検察官の下で、昨年の大統領選挙で炉ランプ陣営に有利なロシアの不適切な干渉の実態とその背景について捜査が進むことが期待されます

なお、517日には昨年8月までトランプ大統領の選挙責任者であり、ロシアのオリガークのためにキプロスの銀行を使ってマネーロンダリングをした疑いのあマニュフォート氏がトランプグループが保有するニューヨークの不動産に投資していることもありFBI、司法省、財務省が調査を始められたことが報じられています。なお、そのキプロスの銀行はトランプ政権で商務長官を務めるロス氏が巨額の投資を行い、2014年には一時的に副会長であったことも知られています。

また、525日にワシントンポスト紙は、米国の捜査当局がホワイトハウスの上級顧問でクシュナー上級顧問がロシアのセルゲイ・キスリャク駐米大使との接触について調査を始めることも報じています(報道によれば、彼は大使に対して秘密の通信回線を提案したとも言われています)。加えて、クシュナー氏はトランプグループの不動産プロジェクトに投資したロシアの資産家達に融資を行い、現在米国の制裁の対象となっているロシアの国営銀行である開発対外経済銀行(VEB)の頭取と話し合いを持った疑いも持たれています。、

いずれにしても、今後、モラー特別検査官の下で、及び連邦議会で上院と下院によるトランプ陣営とロシアとの不適切な対応をめぐる捜査が強まるにつれ、トランプ政権は選挙期間中にコミットした大幅減税やインフレ投資の実行がかなり遅れる見通しがでてきていることから、株式市場の不安定化が続くことも予想されます。
           (201761日: 村方 清)