1.7月の株式市場
7月3日:世界的に金融緩和の縮小に向かうとの見方から金融株が上昇、原油先物相場も上昇しエネルギーや資源株が買われ、ダウ平均は130ドル高(0.61%増加)。
7月6日:世界的な金利上昇により、米国市場でも金利上昇の恩恵を受けにくいハイテク株、通信株、不動産株に売りが広がり、158ドル安(0.74%減少)。
7月7日:米政府発表の6月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比222,000人増で、市場予想の179,000人増を大きく上回り(失業率は4.4%に悪化)、投資家の積極的な買う姿勢が強まり、94ドル高(0.44%増加)。
7月11日:重要日程控え方向感が乏しく、ロシア政府の米国大統領選挙への介入疑惑に関してトランプ氏長男のロシアの弁護士との昨年6月の会談報道も出て、僅か1ドル高(0%増加)。
7月12日:イエレン連銀議長の下院金融サービス委員会で証言で、追加利上げに慎重な発言をしたことで、幅広い銘柄に買いが広がり、123ドル高(0.57%増加)。
7月13日:FRBの利上げベースが緩やかになるとの見方が強く、21ドル高(0.10%増加)。
7月14日:米国政府発表の6月CPIは前月横ばいで、市場予想の0.1%を下回り、FRBの追加利上げ観測が後退し、85ドル高(0.39%増加)。
7月17日:ニューヨーク連銀が発表した7月の製造業指数はプラス9.8と前月を大きく下回り、米企業の改善の勢いが強くないとの見方から、利益確定売りもあり、8ドル安(0.04%減少)。
7月18日:四半期業績を発表したゴールドマンサックスが売買部門の業績悪化で大きく下げたことやオバマケア代替法案が再び上院で行き詰まり、先行き警戒感が強まり、52ドル安(0.25%減少)。
7月19日:原油先物相場が上昇、米国企業の4-6月期決算の期待感で、66ドル高(0.31%増加)。
7月20日:四半期業績を発表したホームデポが大きく下げ、高値警戒感からの利益確定売りが優勢で、29ドル安(0.13%減少)。
7月21日:GEなどの四半期決算が不調で大幅減となり、利益確定の売りが優勢で、32ドル安(0.15%減少)。
7月24日:ジョンソン・アンド・ジョンソンやゴールドマン・サックスへの業績懸念から、相場を押し下げ、67ドル安(0.31%減少)。
7月25日:四半期業績が好調であったキャタピラーやマクドナルドが上昇、長期金利の上昇で金融株も押し上げて、100ドル高(0.47%増加)。
7月26日:四半期決算を発表したボーイング、コカ・コーラ、AT &Tが大きく買われ、相場を押し上げたことやFOMCが金利引き上げを見送ったことで、98ドル高(0.45%増加)。
7月27日:ベライゾンやプロクター・アンド・ギャンブルなどの四半期決算が好調で、相場を押し上げ、86ドル高(0.39%増加)。
7月28日:四半期決算が好調なシェブロンや大手製薬のメルクが上昇、34ドル高(0.15%増加)。
7月31日:ボーイングなどの四半期業績が好調で、61ドル高(0.28%増加)、7月は2.6%の上昇。
2.米国の雇用状況
米労働省が7月7日に発表した6月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比222,000人の増加で、市場予想の179,000人増を大きく上回りました。4月の雇用者数の確定値は207,000人で33,000人の増加、5月の改定値は152,000人で14,000人の増加、合計として47,000人の大幅増加となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は194,000人で、好調さの目安とされた200,000人に近づきました。なお、1月の失業率は4.4%で、0.1%悪化しました(広義の失業率も8.6%で0.2%の悪化)。労働参加率は62.8%で、前月より0.1%増加しました。6月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.2%増加で、前年同月比では2.5%増と同じ水準でした。部門別では建設業が14,000人の増加、小売業も8,100人の増加となりました。
3.連銀議長の議会証言
イエレン連銀議長は7月12日と13日に上下両院で、定例の米国の経済情勢や金融政策について証言を行いました。今回の議会証言で最も注目されたのは2008年の金融危機の際に導入された量的緩和策について(連銀のバランスシートは危機前の9千億ドルから4兆5千億ドルまで悪化)、経済が想定通りであれば年内に保有資産の圧縮を開始すると述べたことです。
なお、質疑応答の中で、イエレン議長が追加利上げについては慎重に対応したいとしたことも注目されました。これは9月の会合では資産縮小の議論を優先させ、追加利上げは数カ月後に先延ばしするのではないかとの見方になっています。この日のダウ平均価格は、追加利上げについての連銀議長の慎重な発言から、123ドル高(0.57%増加)となりました。
4.FOMC会合
FOMC会合が6月25-26日に開催されましたが、金融政策の現状維持を決定、追加の利上げを見送りました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は緩やかに拡大している。雇用増も年初以降平均すると堅調で、失業率も低下している。家計支出と企業の設備投資も拡大している。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、鈍化し、2%を下回っている。アンケート調査では長期のインフレ予想はあまり変わっていない。
FOMCは法律で定められた使命を達成するために、雇用の最大化と物価安定の実現に努める。FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況もさらにいくらか引き締まると予測する。インフレ率は中期的に2%付近で安定すると予測している。景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきている。引きつづきインフレ率の動向を注視する。
FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.75-1%に据え置くことを決定した。FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。
米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。この政策はFF金利が正常化が十分に進むまで維持する。FOMCは経済情勢がおおむね予測通りに推移すれば、比較的早期にバランスシートの正常化に着手する予定である。
今回の決定はイエレン議長を含む9人のメンバー全員一致による。
今回の金利据え置きの決定は市場で予想されていたこともあり、ダウは98ドル高となりました。
それと同時に、今回の会合で注目されたのは、金融危機後の量的緩和で増大した保有資産の縮小について、経済が予測通りに推移すれば、比較的早期に着手すると明示したことです。これはイエレン議長が7月12-13日に連邦議会で証言した内容と一致するもので、市場では9月のFOMC会合で資産縮小を正式に決めるのではないかとの見方が強まっています。一方、追加の利上げについては、インフレ率の鈍化が目立っており、数カ月間は見送る可能性が高いと見られています。
5.オバマケア代替法案の行方
6月22日に公表された上院共和党指導部が用意したオバマケアの代替法案は当初、7月4日の独立記念日前に上院で成立を目指していましたが、共和党の保守派とリベラル派の議員がそれぞれに数名が反対し、承認を受けることが困難になりました。このため、共和党上院のマコーネル院内総務は7月25日にオバマケアの改廃に向けた法案の審議入りを目指す動議を提出、採決は50対50で賛否同数で、議長のペンス副大統領が1票を投じてようやく可決となりました。
しかし、その後、オバマケアの改廃を目指す異なる内容の法案が3回も議決にかけられましたが、いずれも過半数を得られませんでした。第1回は25日で政府補助金の削減とメディケイドの大幅減少を目指した法案が43対57で否決され(CBOの試算ではこの法案が実施されれば約2200万人が無保険者になると予測)、第2回は26日でトランプ大統領が望んだオバマケアを最初に廃止し、2年後に代替案を採用するという法案が45-55で否決されました(CBOの試算では約3200万人が無保険者になると予測)。そして、マコーネル院内総務が27日に用意した最後の法案が“スキニー案”で、オバマケアの中で個人の保険加入義務廃止、雇用主に対する従業員の保険提供義務の廃止、そして医療機器メーカーに対する課税の廃止の3つを含むもので、上院で採決される可能性が最も高いとされていたものでした(CBOの試算では約1600万人が無保険者になると予測)。しかし、28日の採決では野党民主党議員の48の反対に加え、共和党からメイン州のコリンズ議員、アラスカ州のマコフシキー議員、そしてアリゾナ州のマケイン議員の3名が反対し、49対51で否決されました。特に印象的であったのは脳のガンの手術を受けて議会の採決に戻った共和党重鎮のマケイン議員が7月25日の演説でオバマケアの見直しはマコーネル院内総務など一部の共和党議員が秘密裏に用意する案ではなく、与野党の議員が参加し、其々の専門の参考人達を公聴会に来てもらい、本来の民主的な手続きで行うべきとの持論を展開していたことでした。
現在上院、下院とも議会多数派となっている共和党にとってオバマケアの廃止は7年越しの悲願ですが、共和党内部で意見が大きく割れている最大の理由は、公的医療保険制度のあり方について共和党内での考え方が一致していないことにあります。保守強硬派は医療保険は元来米国民の自由な選択に委ねるべきもので、富裕層からの過大な税金によって成立しているオバマケアは廃止されるのが当然と主張しています。これに対し、穏健派はオバマケアによって2000万人近くが新たな保険者となっている現状において、これを全面的に見直せば低所得層だけでなく、中間所得層から強い反発を招き(特に、オバマケアが認めた既往症患者の保険対象化)、2018年秋の中間選挙に悪い影響が出かねないと主張しています。
オバマケアが完全なものでないにせよ、多くの無保険者を保険加盟者にした貢献は大きく、本来はマケイン上院議員が提案するように、オバマケアの抱える問題点について野党の民主党議員を交え、多くの公聴会を開いて病院や医師の代表、保険会社 そして米国民の代表から幅広い意見を聞きながら、どのような解決方法があるかかを時間をかけて検討すべきであると思います。いずれにしても、公的医療保険制度に全力で取り組んだオバマ前大統領に比べ、政治的な駆け引きだけのトランプ大統領はあまりに不勉強であり、これでは与党の共和党議員からも多くの協力や支持を得ることができないはずです。
なお、オバマケアの代替法案の方向性が決まらなくなった現在の時点では、トランプ政権の公約であった大幅減税や大規模なインフラ投資も財源問題から今後の見通しが立たない状況です。
(2017年8月1日: 村方 清)