11月の株式市場はトランプ政権が目指す税制改革法案に依然多くの問題がありながら、市場の期待が高く今月も高値相場の継続となりました。主要な動きは以下の通りでした。
11月1日:ISM発表の10月製造業景況感指数は58.7と前月比2.1ポイント悪化したが、依然高水準であることや9月の建設支出が0.3%増加したことで、買いが優勢で、58ドル高(0.25%増加)。なお、10月31日―11月1日に開催されたFOMCの声明内容はほぼ市場予想通りで、反応も限定的。
11月2日:トランプ大統領がパウエル理事を次期のFRB議長に指名、現行の緩やかなペースでの利上げや金融正常化が進むとの期待から、81ドル高(0.35%増加)。11月3日:米政府発表の10月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比261,000人増で、市場予想の310,000人増を下回ったものの、3ケ月平均では162,000人と堅調で(失業率も17年振りの4.1%に改善)、23ドル高(0.10%増加)。
11月6日:サウジ政府内部の対立やイエメンの内乱などで中近東情勢が悪化、更に原油価格の上昇でエネルギー関連株が買われ、9ドル高(0.23%増加)。
11月8日:バージニアなどの州知事選で民主党候補が勝利したり、与党共和党の減税法案が先送りされるなどのニュースが伝えられ、6ドル高(0.03%増加)。
11月9日:米税制改革の見通しが不透明で、投資家が運用リスクを避ける動きが広がったことや前日に株価が最高値を更新したこともあり、、利益確定の売りが優勢で、101ドル安(0.43%減少)。
11月10日:米上下院で税制改革の審議が難航するとの警戒感が広がり、40ドル安(0.17%減少)。
11月13日:米長期金利の上昇圧力が鈍いため、公益事業などが買われ、17ドル高(0.07%増加)。
11月14日:原油安や中国の低調な経済指標を受け、エネルギーや素材株が売られ、更に配当の半減を発表したGEが売り続かれ、30ドル安(0.13%減少)。
11月15日:主要国の株安や原油相場の下落などで、投資家心理が悪化、138ドル安(0.59%減少)。
11月16日:前日までの5営業日の売りの反動と四半期決算が好調であったウォールマートが70ドル近く押し上げ、187ドル高(0.80%増加)。
11月17日:前日に大きく上昇した反動で目先の利益確定の目的の売りが優勢だったことや税制改革法案の上院での審議の見通しが難航していることから、100ドル安(0.43%減少)。
11月20日:ドイツ政局の不透明感にもかかわらず、欧州株が上昇、米国の投資家のリスク選好姿勢が強まり、72ドル高(0.31%増加)。
11月21日:ECBの緩和的な金融政策の長期化の見通しとアップルなどのIT、ハイテク株を中心に買いが広がり、161ドル高(0.69%増加)。
11月22日:前日に過去最高値を記録したため、感謝祭の祝日を前に目先の利益確定の売りが優勢であったことや長期金利の低下を受けて金融株が売られ、65ドル高(0.27%減少)。
11月24日:11月23日の感謝祭に始まる年末商戦が好調との見方から、32ドル高(0.14%増加)。
11月27日:前週後半からの年末商戦の好調さが伝えられ、小売株に買いが入り、23ドル高(0.10%増加)。
11月28日:金融危機の際に導入された金融規制の緩和と税制改革の進展への市場の期待から、256ドル高(1.09%増加)。
11月29日:米国上院予算委員会が共和党の税制改革案を可決し、企業減税への期待が高まり、104ドル高(0.44%増加)。
11月30日:上院本会議での税制改革案の可決への市場の期待が強まったことや長期金利のによる金融株の買いで、332ドル高(1.39%増加)。
2.米国の雇用状況
米労働省が11月3日に発表した10月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比261,000人の増加で、2016年7月以来の大きさでしたが、市場予想の310,000人増を少し下回りました。8月の雇用者数の確定値は208,000人で39,000人の増加、9月の改定値は33,000人の減少から18,000人の増加となりました。今回の結果は過去2カ月間の雇用者の平均増加数は90,000人で、過去3カ月間の平均増加数の162,000を下回りました。なお、9月の失業率は4.1%で、0.1%改善し、2000年12月以来17年振りの低さとなりました。労働参加率は62.7%で、前月より0.4%低下しました。10月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.1%減少で、前年同月比では2.4%増と0.5%減少しました。部門別では製造業が24,000人の増加、建設業が11,000人の増加、小売業が8,300人の増加となりました。
3.FOMC会合とFRB新議長の指名
ハリケーンの被害は短期的に経済活動の影響するであろうが、中期的に国の経済の進路を大きく変える可能性は低い。このため、FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況もさらにいくらか引き締まると予測する。インフレ率は中期的に2%付近で安定すると予測している。
景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきているようであるが、インフレ率の動向を注視する。
FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.75-1%に据え置くことを決定した。FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。
FOMCは2017年10月に継続したバランスシートの正常化プログラムを継続している。
今回の決定はイエレン議長を含む9人のメンバー全員一致による。
今回、FOMCで政策金利の維持と10月からの金融正常化のペースは加速しないとの判断がなされたこともあり、ダウは58ドル高となりました。
なお、11月2日にトランプ大統領はパウエルFRB理事を次期の議長に指名しました。パウエル氏ン議長は穏健派とされており、現行の低金利政策と緩やかな金融正常化のペースを続けていくものと見られます。
4.米税制改革法案の行方
上院の共和党も12月2日未明)に税制法案を51対49の票差で可決しましたが、下院案とはかなり異なっています。第一に連邦法人税の引き下げを2019年に遅らせ、財政赤字の影響をより少なくさせる内容です、更に個人税制についても、最高税率を38.6%へ引き下げる一方、遺産税は維持しています。同時に、上院では財源確保のために、オバマケアの補助金を廃止を織り込む方向で検討しています。
11月30日午後に議会の合同調査委員会が提出した評価書によれば、今回の税制改革法が成立した場合、経済成長の貢献度は0.8%程度で、10年間で1兆ドルの財政赤字を拡大させるとしています。このため、財政赤字の拡大を懸念するコーカー議員などから、財政赤字を職掌させる措置を講じるべきとの意見が出されましたが、マコーネル院内総務は本会議の可決に必要な50票が集まったとの理由で、12月1日に採決しました。なお、上院案は既に承認された下院案と異なるため、今後両院協議会で両案の調整が図られることになります。
今回のトランプ政権と共和党が目指す税制改革法案については、法人への大幅減税や富裕層への減税措置で株式市場の投資家の期待が高いものですが、10年間で約1兆ドルの赤字増になる見込みであることやミドルクラス以下には実質増税になることで格差を拡大するもので、米国経済の健全な発展にとって望ましいと言えるものではないと思われます(グリーンスパン元連銀議長も、現在の米国の経済状況で減税は必要ではなく、財政赤字を拡大させるものとして反対)。
米国で大幅減税を含む税制改革案が導入されたのはレーガン大統領による1981年の例がありますが、その背景となったのは減税をすれば経済活動が活発化し、企業や個人の所得も増加、やがて税収の増加となってくるというラッファー理論によるものでした。しかしながら、実際には大幅減税による税収の落ち込みが深刻な財政赤字をもたらし、レーガン政権の第2期にあたる1986年の税制改正で税優遇措置は殆ど廃止されることになりました。本来、財政規律を重視してきた共和党のティーパーティーの流れを組むFreedom Caucus((共和党保守強硬派。下院に多いが、上院でもテキサス選出のクルーズ議員もその一人)の議員達が今回の減税案に賛成しており、彼らの豹変振りに驚かされます。これは保守強硬派を支援しているのがマーサ―ファミリーやコーク兄弟などの大富豪の連中であることと無関係でないかも知れません。
米国で大幅減税を含む税制改革案が導入されたのはレーガン大統領による1981年の例がありますが、その背景となったのは減税をすれば経済活動が活発化し、企業や個人の所得も増加、やがて税収の増加となってくるというラッファー理論によるものでした。しかしながら、実際には大幅減税による税収の落ち込みが深刻な財政赤字をもたらし、レーガン政権の第2期にあたる1986年の税制改正で税優遇措置は殆ど廃止されることになりました。本来、財政規律を重視してきた共和党のティーパーティーの流れを組むFreedom Caucus((共和党保守強硬派。下院に多いが、上院でもテキサス選出のクルーズ議員もその一人)の議員達が今回の減税案に賛成しており、彼らの豹変振りに驚かされます。これは保守強硬派を支援しているのがマーサ―ファミリーやコーク兄弟などの大富豪の連中であることと無関係でないかも知れません。
5.ドイツの連立政権不成立
このため、メルケル首相としては、少数与党で政権を運営するか、あるいは再選挙を実施するかの選択を迫られることになりますが、いずれも、ドイツだけでなく、EU全体の不安定化をもたらす恐れがあります。現在、前外相で社会民主党(SPD)出身のシュタインマイヤー大統領の仲介で、両党の大連立に向けた動きが出ていますが、その背景には、再選挙をした場合、両党の支持率は9月の総選挙時より更に低下するとの調査結果があることが理由となっています。いずれにしても、今後の動きが注目されます。
(2017年12月2日: 村方 清)