Monday, January 1, 2018

税制改革法案成立と市場への影響


 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1.12月の株式市場
12月の株式市場は1220日の税制改革法案の成立までは投資家の期待が依然高く、上昇相場が続きましたが、成立後は比較的に安定したものとなりました。主要な動きは以下の通りでした。

121日:フリン前大統領補佐官がロシア疑惑で訴追され有罪を認めたことで、トランプ政権の関与が証言されるとの見方が強まり、投資家心理が悪化、一時350ドル安まで下げたが、上院の税制改革法案成立に必要な票数が集まったとの報道も伝わり、ダウ価格は41ドル安(0.17%減少)。
124日:2日未明の上院での税制改革法案可決による市場の期待で、法人税引き下げ効果の大きな金融株が上昇、実効税率の低いIT株が売られ、58ドル高(0.24%増加)。
125日:税制改革の実現期待から大きく買われた金融株や通信株が売られたこと、更にディズニーが大きく下落したことで、109ドル安(0.45%減少)。
126日:税制改革期待で買われた銀行株などに利益確定の売りが出て、40ドル安(0.16%減少)。
127日:前日までの下落の反動と原油先物相場の上昇によるエネルギー関連株の買いで、71ドル高(0.29%増加)。
128日:米政府発表の11月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比228,000人増で、市場予想の200,000人増を上回ったことで(失業率は4.1%で同水準)、118ドル高(0.49%増加
1211日:出遅れていたアップルやマイクロソフト等のIT株が上昇し、57ドル高(0.23%増加)。
1212日:前日に増配と自社株買いを発表したボーイングが上昇、加えて長期金利の上昇で金融株が買われ、119ドル高(0.49%増加)。
1213日:FOMC会合で、利上げペースが緩やかになるとの見方が意識されたことや税制改革法案の進展が期待され、81ドル高(0.33%増加)。
1214日:連日過去最高値を更新する中、一部与党議員の反対による税制改革法案の議会通過に不透明感が出て、利益確定の売りが優勢で、77ドル安(0.31%減少)。
1215日:税制改革法案の進展への期待と前日に下落した反動からハイテク中心に多くの銘柄が買われ、143ドル高(0.58%増加)。
1218日:税制改革法案が週内に上下両院で可決される見通しとなり、法人税減税の期待から、140ドル高(0.57%増加)。
1219日:連日の過去最高値の更新から利益確定の売りが優勢で、加えて長期金利の上昇もあり、37ドル安(0.15%減少)。
1220日:税制改革法案が米上下院で可決され、約30年振りの抜本的な税制改革が成立となったが、税制改革実現により金融株などで利益確定の売りが優勢となり、28ドル安(0.11%減少)。
1221日:税制改革法案の米議会通過による相場押し上げ期待と、原油高による石油関連株や金利の高止まりによる金融株の大幅上昇で、56ドル高(0.23%増加)。
1222日:税制改革法が成立したが、法人税引き下げの期待感から2か月近くの相場上昇のため、買いは乏しく、クリスマス休日の3連休前で、利益確定売りが優勢で、28ドル安(0.11%減少)。
1226日:販売低調とされたアップルの売りが膨らみ、部品提供メーカーにも波及、8ドル安(0.03%減少)。
1227:長期金利の低下で不動産や公益事業関連株が買われ、28ドル高(0.11%増加)。
1228日:ユナイテッドヘルスなど業業績拡大を期待した買いが優勢で、63ドル高(0.26%増)。
1229日:年末休暇で積極的な取引が見送られたが、懸念材料が生じたアップルなどが売られ、118ドル安(0.48%減少)。今年1年間の上昇率は25%で4年振りの大きさで、上げ幅は約5000ドル(4957ドル)でした。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が128日に発表した11月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比228,000人の増加で、市場予想の200,000人増を上回りました。9月の雇用者数の確定値は38,000人で20,000人の増加、10月の改定値は244,000人の増加で、17,000人の減少となりました。今回の結果は過去2カ月間の雇用者の平均増加数は236,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000を大きく上回りました。なお、11月の失業率は4.1%で、前月と同じ水準でした。労働参加率も62.7%で、前月と同水準でした。11月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.2%増加で、前年同月比では2.5%増となりました。部門別では製造業が31,000人の増加、建設業が23,000人の増加となりました。

 
3.FOMC会合と利上げ
FOMC会合が121213日に開催され、会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は堅調に拡大している。ハリケーン関連の変動をならすと雇用増は堅調で、失業率はさらに低下した。家計支出は緩やかなペースで拡大し、企業の設備投資もこの数四半期上向いた。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、低い状況が続いて入る。ほとんどの調査に基づく長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

ハリケーン関連の被害と復興がこの数カ月、経済活動、雇用、インフレ率に影響しているが、国家経済の見通しを大きく変えてはいない。このため、FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況も引き続き力強さを保つと予測する。インフレ率は短期的には依然として2%を下回るが、中期的にFOMCの目標である2%付近で安定すると予測している。

景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきているようであるが、インフレ率の動向を注視する。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.251.5%に引き上げることを決定した。緩和的な金融政策は維持し、力強い労働市場及びインフレ率の2%への持続的回帰を支える。

FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。FF金利は、FOMCが長期的に通常と見なされる水準以下に維持される可能性が高い。但し、実際のFF金利の上がり方はデータが伝える経済見通し次第だ。

今回の決定はイエレン議長を含む7人のメンバーの賛成による。シカゴ連銀総裁とミネアポリス連銀総裁は金利据え置きを求め、反対票を投じた。

今回、FOMCで政策金利の利上げはあったものの、金融正常化のペースは加速しないとの判断がなされたこともあり、ダウは81ドル高となりました。

 
4.米税制改革法案の成立と市場への影響
トランプ政権が選挙公約とし、与党共和党が長年の悲願としていた大規模な減税を含む税制改革法案が1220日に米連邦上院と下院で過半数の賛成で可決しました。今回の税制改革法案では、連邦法人税を2018年から従来の35%から21%へ大幅に引き下げる他、個人所得税も現在の39.6%の最高税率を37%へ引き下げることを主要な内容とし、10年間全体の減税規模は約1.5兆ドルに達しています。また、同時に米企業の海外所得への課税を原則として廃止し、海外留保資金を本国に戻させるような措置も導入しました。

今回の税制改革は1986年のレーガン政権第2期の1986年の税制改正以来31年振りですが、内容は著しく異なっています。1986年の税制改正はレーガン政権第1期の1981年の大型減税を含む税制改正が巨額の財政赤字を発生させ、深刻な財政危機となったため財政健全化をのために数多くの税制優遇措置を廃止したもので、今回とは全く逆の税制改正でした。今回の税制改革はどちらかと言えば、レーガン政権第1期の1981年税制改正に類似しており、大型の企業減税によって経済を活性化させ、成長を高めることによって、やがて税収を増加させるというものです(これはいわゆるラッファー理論によるサプライ―サイドエコノミクスの考え方に基づくものですが、実際の経験は前述したごとく、巨額の財政赤字を生み、失敗に終わっています)。

この点、今回の税制改革は1981年の税制改正による大規模な減税が巨額の財政赤字を発生させたことへの反省が極めて希薄であるように思われます(両院の議会合同調査チームは10年間で約1兆ドルの財政赤字増加となることを予測)。グリーンスパン元連銀議長などの多くの専門家も今回の税制改革による経済効果には否定的で、現在のような完全雇用状態で、しかも財政赤字が続く状況の中で新たな財政政策の必要性があるのかと強い疑問を投げています。加えて、グローバル化の進展に伴う企業従業員の経済不安定化や所得格差の拡大という状況の中で、今回のような大規模減税を中心とする税制改正は米国民の所得格差を一層拡大させるというマイナス面の影響も無視されるべきではないように思われます。こうして多くの反対があったにもかかわらず、今回の税制改革が進められた背景には、両院で多数派である共和党が彼らの選挙基盤である大企業や超富裕層の意向をより重視し、トランプ政権の公約を実現するために、野党との十分な議論もせずに一方的に大型減税案をまとめあげたことにあります。特に、オバマ政権の時に野党であった共和党では財政規律を重視したはずのティーパーティーグループ(現在のFreedom Caucus)が今回の税制改革案では10年間で1兆ドルの財政赤字をもたらすとされるにもかかわらず、いとも簡単に賛成してしまうという一貫性のない行動を取っていたことは理解不能と言えます。

なお、株式市場への影響については短期的には大幅な企業減税が企業の収益改善に貢献する点でプラスと思われますが、企業減税への過剰な期待感がここ数カ月でダウが1300ドルも上昇するほどの市場の投機的な反応は明らかに行き過ぎと見られます。また、今後についても今回の減税が中・長期的に米国の財政赤字構造や所得格差の拡大に与える悪影響についても意識しておくことが重要と見られます。
                  (201811日:  村方 清)