Thursday, February 1, 2018

長期金利上昇で強まる投機的市場の不安定性













 
1.1月の株式市場
1月の株式市場は下旬までは世界経済の拡大や米企業の業績改善を背景に急騰を続けましたが、月末に長期金利の上昇が顕著になると、大きく下落する展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。

12日:米企業の業績拡大の期待から、幅広い銘柄に買いが入り、特に半導体などのIT関連株が買われ、105ドル高(0.42%増加)。
13日:世界景気の拡大を背景に米企業の業績改善を見込み ITや石油関連株を中心に買いが優勢で、99ドル高(0.40%増加)。
14日:ADPの全米雇用レポートで12月の非農業部門の雇用者数が25万人以上増加し、長期金利が上昇、JPモルガンやゴールドマン・サックス等が押し上げ、152ドル高(0.61%増加)。
15日:12月雇用統計は順調な労働市場の拡大を示し、賃金上昇の伸びは小幅であったために、緩やかな利上げに留まるとの見方が強まり、221ドル高(0.88%増加)。主要3指標が過去最高値。
18日:前週末まで3日連続で過去最高値を更新したこともあり、売りが優勢で、13ドル安(0.05%減少)。
19日:世界的な景気拡大と企業業績の改善の期待から、103ドル高(0.41%増加)。
110日:長期金利の上昇で、配当狙いの不動産や公益事業株を中心に売りが優勢で、17ドル安(0.07%減少)。
111日:世界経済の成長加速や原油高を背景に、航空機のボーイングや石油のシェブロンなどが大きく買われ、206ドル高(0.81%増加)。主要3指数が最高値を記録。
112日:JPモルガンなどの四半期業績が発表され、市場予想を上回るなど米主要企業の業績拡大への期待から、228ドル高(0.89%増加)。主要3指数が最高値を更新。
117日:米景気に関する楽観的な見方から、米企業の四半期業績の改善への期待が大きく、323ドル高(1.25%増加)。26,000ドル突破。
118日:前日に主要3指数が最高値を更新したことから、利益確定の売りが優勢で、98ドル安(0.37%減少)。
119日:米10年債利回りが一時2.65%へ34カ月振りに上昇したのを受け、利ざや拡大の期待が持てる金融株が大幅に上昇、54ドル高(0.21%増加)。
122日:28日までのつなぎ予算で米上院が合意したこが報じられ、幅広い銘柄に買いが入った他、原油先物相場の上昇で石油株も上昇し、143ドル高(0.55%増加)。
123日:四半期決算が不調であったジョンソン・エンド・ジョンソンやプロクター・アンド・ギャンブルが大きく売られ、好調であったトラベラーズなどを相殺し、4ドル安(0.01%減少)。
124日:米長期金利の上昇を受けて、JPモルガン等の金融株が上昇、41ドル高(0.16%増加)。
125日:四半期業績が好調であった3M31日に決算を発表予定のボーイングが大きく買われ、141ドル高(0.54%増加)。
126日:四半期業績が好調なインテルやスリーエムが大幅に上昇、224ドル高(0.85%増加)。
129日:前週後半に大幅上昇したため、利益確定の売りが優勢であったことや米金利の上昇や原油先物相場の下落も重なり、177ドル安(0.67%減少)。
130日:米長期金利の指標である10年物国債の利回りが一時2.73%まで上昇、投資家が運用リスクを回避する姿勢が強まったことや原油先物相場も下落したことで、目先の利益確定の売りが優勢となり、363ドル安(1.37%減少)。
131日:四半期業績が好調であったボーイングが相場を押し上げたものの、FOMC会合の結果発表後は長期金利やドルの上昇で、上昇幅が縮小し、73ドル高(0.28%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が16日に発表した12月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比148,000人の増加で、市場予想の190,000人増を下回りました。10月の雇用者数の確定値は211,000人で33,000人の減少、11月の改定値は252,000人の増加で24,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は204,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を上回りました。なお、12月の失業率は4.1%で、前月と同じ水準でした。労働参加率も62.7%で、前月と同水準でした。12月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.3%増加で、前年同月比では2.5%増となりました。部門別では製造業が25,000人の増加、建設業が30,000人の増加となりましたが、小売業が20,000人の減少となりました。

3.米連邦予算の失効と政府機関閉鎖
米連邦予算は120日の午前0時に、移民政策をめぐる与野党の対立から、つなぎ予算が成立せず、一部の政府機関が閉鎖状態に追い込まれることになりました。野党の民主党はつなぎ予算を成立させる見返りに、幼少期に親と一緒に不法入国した若者の滞在を認める「DACA」の制度の存続を求めているのに対し、共和党は移民政策と予算を切り離すことを求め、対立が解消していません。

下院では多数派の共和党が既に118日に216日までのつなぎ予算を可決していますが、上院では予算については60票が必要で、51議席だけの共和党単独では成立しない状況でした。22日になり、上院の与野党は28日までのつなぎ予算の成立で合意、政府機関の閉鎖は一時的に解除されることになりました。しかし、「DACA」をめぐる与野党の対立は依然続いており、28日までにDACAに関する新たな法案が成立するかどうかが鍵となっています。

4.FOMC会合と金利据え置き
FOMC会合が13031日に開催され、会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。

労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は底堅く拡大を続けている。雇用増、家計支出、企業の設備投資も堅調で、失業率も低水準に留まっている。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、低い状況が続いている。殆どの調査に基づく長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況も引き続き力強さを保つと予測する。インフレ率は短期的には依然として2%を下回るが、中期的にFOMCの目標である2%付近で安定すると予測している。

景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきているようであるが、インフレ率の動向を注視している。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.251.5%に据え置くことを決定した。緩和的な金融政策は維持し、力強い労働市場及びインフレ率の2%への持続的回帰を支える。

FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。FF金利は、FOMCが長期的に通常と見なされる水準以下に維持される可能性が高い。但し、実際のFF金利の上がり方はデータが伝える経済見通し次第だ。

今回の決定はイエレン議長を含む9人のメンバーの賛成による。

今回のFOMC23日に任期が切れるイエレン議長の最後の会合となりましたが、2018年はインフレ率の上昇が見込まれるとして、FF金利の緩やかな引き上げを正当化されことを強調しています。、FOMCとしては、2018年も年3回程度の利上げに踏み切るシナリオを既に公表しています。こうしたことが理由となって、今日のダウはFOMC会合後に、上昇幅が縮小し、73ドル高に留まりました。

5.トランプ大統領の一般教書演説
トランプ大統領は30日に米議会上下両院本会議で、就任後初めての一般教書演説を行いました。

内容的には昨年128日の議会演説と同じで、世界のリーダーとしての中期的なビジョンは皆無で、米国第一主義の繰り返しでした。国内の経済面では大幅減税と規制緩和による米国経済の成長や雇用の促進と共に株価の上昇を自分の実績として誇張しました。特に法人税を35%から21%へ引き下げたことを歴史的な改革と位置付け、成長や雇用での経済効果を強調していました。その一方、今回の無理な大規模減税が米国政府の財政赤字を今後10年間で1兆ドルも悪化させることの言及は全くありませんでした(29日と30日に起きた株価の大幅下落の要因は財政赤字拡大の懸念による長期金利の上昇といった要因もあります)。

更に、トランプ大統領は米国における伝統的な製造業の復活の重要性を強く主張しましたが、米国などの先進国での生産コスト上昇圧力によって製造業からサービス産業の高度化と言った経済構造の変化をどこまで理解しているのかに疑問を持たざるを得なくなります。これに加えて、官民の資金による約1兆ドルのインフラ投資と国防費の大幅増加を再び主張しましたが、財源の裏付けがない無責任な提案のように見られました。また、対外的な経済面では、米国第一主義の下に2国間による公正で互恵的な貿易関係の構築を目指すとしていますが、現在NAFTAの見直し交渉が行き詰まっている状況の中で、どこまで実現可能であるかも疑問が生じます。

いずれにしても、トランプ大統領の提案や主張は彼の不動産ビジネスの経験から来ているものと思われますが、投機性の高い不動産ビジネスによって6回も破産状態に陥った状況からすると、米国経済の健全な発展より、今後は投機性を高める株式市場の不安定化になりはしないかとの懸念を感じざるを得ません。

6.トランプ政権の1年目の評価
120日はトランプ政権が成立してから1年経過したことになりますが、2017年全体を通じた米国の株価上昇率はダウ平均で21%、S&P50020%と極めて高い比率を示しており、これがウォール街を中心とする投資家達からの高い評価になっているようです。特に、彼が主張していた規制緩和や大型減税が実現したことが株価上昇に貢献したことは疑いがありません。

しかしながら、その一方で、投資家の過剰な期待を背景とする投機的要因もあり株価上昇のスピードが速く、株式市場の健全さの指標とされる対GDP比率のバフェット指数が130を超えていることや(歴史的には75から100までが健全とされる)、S&P500PERが健全さとされる16.3を大きく超えて21となっていることに警戒感を持つ必要があるかも知れません(現在アマゾンなどのネット企業のPER350を超えていますが、従来優良企業とされたジョンソン・エンド・ジョンソンやハネウエルも各々30075近くになっています)。こうした点からすれば、1月29日と30日に見られたように、今後は長期金利の上昇によって株式市場が大きく影響され、大規模な調整局面に入っていく可能性を考えておくことが求められているように思われます。

なお、移民政策や米国優先の貿易政策になどのトランプ政権の政策については評価が分かれていますが、彼の支持率が未だに戦後の米国大統領の中で37%と最も低い状態にあることを見ると、ロシア疑惑の進展などによっては政権の今後の安定性にかなりの疑問が提起されていると言えます。
                   (201821日: 村方 清)