1.2月の株式市場
2月の株式市場は1月末に大きく下落した後、2月には入っても10年物国債の利回りの低下と上昇で、再び大きく変動することになりました(ダウは2月全体で約1,120ドルの4.3%下落)。主要な動きは以下の通りでした。
2月1日:原油先物相場の上昇や長期金利の上昇でエネルギー株や金融株に買いが優勢となったが、10年物国債金利が3年10か月振りに2.79%まで上昇すると、相場の重荷となり、ダウ価格は37ドル高に留まった(0.14%増加)。
2月3日:1月雇用統計で雇用者増加数(200,000人)と賃金上昇率(前年同月比2.9%)が予想を上回り、米長期金利も10年物国債金利で一時4年振りの水準の2.85%となり、株価の割高感から幅広い銘柄で売りが優勢で、666ドル安(2.54%減少)。下げ幅は2008年12月1日以来の大きさ。
2月5日:米長期金利が10年物国債金利で一時2.88%と上昇、株式市場が調整局面に入ったとの見方が広がり、運用リスクが高い株だけでなく幅広い銘柄で急速な売りが強まり、1,175ドル安(4.60%減少)。下げ幅としては史上最大。
2月6日:前日に過去最大の下落を記録したことから、午後に短期的な戻りを見込んだ買いが優勢となり、567ドル高(2.33%増加)。但し、値動きは激しく、1日の高値と安値の差は1100ドル超。
2月7日:午後に長期金利が上昇したことから、リスク選好が強まり、19ドル安(0.08%減少)。
2月8日:米長期金利の上昇圧力が警戒され、PERが高いハイテク株を中心に多くの銘柄に急速な売りが強まり、1,032ドル安(4.15%減少)。下げ幅としては5日に次いで過去2番目。
2月12日:前週に急落した反動で、アップルやボーイングなどの銘柄をい中心に買いが入り、410ドル高(1.70%増加)。
2月15日:変動率の動きが少なくなったことから、アップルやボーイングなどの優良株を中心に買いが広がり、307ドル高(1.23%増加)。
2月16日:投資家心理が改善し、ヘルスケア株などが買い直されたが、FBIがロシア疑惑に関連してロシア人を起訴したとの報道から、不安定な動きとなり、19ドル高(0.08%増加)。
2月20日:四半期決算が不調であったウオールマートが急落した他、前週末まで6日続伸した反動で、255ドル安(1.01%減少)。2月22日:前日まで続落した反動から、目先の反発を期待した買いが優勢であったことや米長期金利が低下したことから、165ドル高(0.66%増加)。
2月23日:FRBの年2回の金融政策報告書で利上げペースが速まるとの見方でなかったことや10年物米国債の利回りが23日には2.8%台まで低下、市場心理が改善し、348ドル高(1.39%増加)。
2月26日:長期金利の指標である10年物国債の利回りが一時2.83%まで低下、株価への悪影響の警戒感が和らぎ、399ドル高(1.58%増加)。
2月28日:朝方は前日の反動から買いが先行したが、原油安でエネルギー関連株や3Mが下落、ダウ平均が50日移動平均を下回ったことで、売りが加速、381ドル安(1.50%減少)。2月は月間で1,120ドル下げ(4.3%減少)、11か月振りに前月比で下落。
米労働省が2月2日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比200,000人の増加で、市場予想の175,000人増を上回りました。11月の雇用者数の確定値は216,000人で36,000人の減少、12月の改定値は160,000人で12,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は192,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を少し下回りました。なお、1月の失業率は4.1%で、前月と同じ水準でした。労働参加率も62.7%で、前月と同水準でした。1月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.3%増加で、前年同月比では2.9%増となりました。部門別では建設業が36,000人の増加、製造業が15,000人の増加、ヘルスケアが21,000人の増加となりました。
3.1月のFOMC会合と次回利上げのタイミング
2月21日に、1月30-31日に開催されたFOM会合の議事要旨が公表されました。それによれば、多くの委員が米国と海外の経済指標が上向いていることに加え、金融環境が引き続き緩和的であることや昨年末の税制改革が短期的に個人消費と企業投資に与える影響が当初予測より大きい可能性があるとして、昨年12月の景気見通しを引き上げたことが判明しました。また、これに伴い、更なる利上げが必要になる可能性があるとして、会合後の声明で、段階的な引き上げが正当化されることとの表現で一致したことも明らかになりました。こうしたことから、市場ではFOMCが3月の会合で、利上げするのではないかとの観測が高まっています。
2月21日に、1月30-31日に開催されたFOM会合の議事要旨が公表されました。それによれば、多くの委員が米国と海外の経済指標が上向いていることに加え、金融環境が引き続き緩和的であることや昨年末の税制改革が短期的に個人消費と企業投資に与える影響が当初予測より大きい可能性があるとして、昨年12月の景気見通しを引き上げたことが判明しました。また、これに伴い、更なる利上げが必要になる可能性があるとして、会合後の声明で、段階的な引き上げが正当化されることとの表現で一致したことも明らかになりました。こうしたことから、市場ではFOMCが3月の会合で、利上げするのではないかとの観測が高まっています。
2月21日は議事要旨が公表された直後では市場の反応は前向きでしたが、その後、10年物国債金利が一時2.95%に近づいたこともあり、この日のダウは167ドルの下落となりました。
4.FRB新議長の議会証言
2月5日にFRB新議長就任したパウエル議長は、27日に下院金融サービス委員会で年2回の証言を行いました。その中で、米国経済は堅調なペースで成長している。雇用拡大のペースは失業率を十分に押し下げ、賃金も緩やかに上昇でしている。経済成長と労働市場の改善にも拘らず、物価上昇率は目標の2%を下回っている。しかし、物価の停滞は一次的なもので、繰り返すことはない。金融市場は緩和的な環境がいくらか反転したものの、現時点で景気や雇用、物価の見通しに大きな影響をもたらすものではない。内外の需要拡大が企業投資を押し上げるであろう。財政政策もより拡大的になる。こうした状況では物価上昇率は上向き、目標の2%近くで安定するであろう。今後、数年の金融政策の道筋は、景気の過熱を回避して、物価目標率を達成するというバランスを取っていくことになる。金融情勢は最近の変動にもかかわらず、引き続き緩和的である。FOMCとしては更なる段階的な利上げが最善の策となるであろう。
2月5日にFRB新議長就任したパウエル議長は、27日に下院金融サービス委員会で年2回の証言を行いました。その中で、米国経済は堅調なペースで成長している。雇用拡大のペースは失業率を十分に押し下げ、賃金も緩やかに上昇でしている。経済成長と労働市場の改善にも拘らず、物価上昇率は目標の2%を下回っている。しかし、物価の停滞は一次的なもので、繰り返すことはない。金融市場は緩和的な環境がいくらか反転したものの、現時点で景気や雇用、物価の見通しに大きな影響をもたらすものではない。内外の需要拡大が企業投資を押し上げるであろう。財政政策もより拡大的になる。こうした状況では物価上昇率は上向き、目標の2%近くで安定するであろう。今後、数年の金融政策の道筋は、景気の過熱を回避して、物価目標率を達成するというバランスを取っていくことになる。金融情勢は最近の変動にもかかわらず、引き続き緩和的である。FOMCとしては更なる段階的な利上げが最善の策となるであろう。
パウエル新議長が景気と物価見通しについて強気の見方を示したことから、長期金利が上昇、27日のダウは299ドルの下落となりました。
5.米国歳出上限引き上げ法案成立と財政赤字急増の影響
米国上下両院は2月9日に、インフラ事業や国防費を増額するために、2018会計年度の歳出上限を1430億ドルを、2019会計年度の歳出上限を1530億ドル引き上げる予算関連法案を可決しました。これにより、2018年度の裁量的経費の上限は1兆650億ドルから1兆2080億ドルへと13%引き上げられることになりました。
米国上下両院は2月9日に、インフラ事業や国防費を増額するために、2018会計年度の歳出上限を1430億ドルを、2019会計年度の歳出上限を1530億ドル引き上げる予算関連法案を可決しました。これにより、2018年度の裁量的経費の上限は1兆650億ドルから1兆2080億ドルへと13%引き上げられることになりました。
一方、昨年12月20日に米議会は10年間で1.5兆ドルとされる大規模減税を承認しており、年間で1000億ドル程度の税収が減少することになっています。これに今回増額された歳出予算が実行されると、2017年度で約6660億ドルであった財政赤字は数年後には軽く1兆ドルを超えるのではないかと見られています。財政赤字の急増は国債、特に10年物国債の金利を引き上げることになり、住宅ローンを含めて米国の経済活動、更に株式市場に悪影響を与えることが懸念されます。
6.連銀による金融引き締めと財政赤字拡大によるバブル相場の不安定性
米国経済は年間3%前後の成長が続き、雇用も失業率は4.1%と完全雇用の状況にあります。こうした状況の中で、連銀が金融正常化を目指して、金利引き上げと量的緩和縮小に向かっていることは当然のこととなります。
6.連銀による金融引き締めと財政赤字拡大によるバブル相場の不安定性
米国経済は年間3%前後の成長が続き、雇用も失業率は4.1%と完全雇用の状況にあります。こうした状況の中で、連銀が金融正常化を目指して、金利引き上げと量的緩和縮小に向かっていることは当然のこととなります。
連銀は既に2017年に短期金利の引き上げを3回行うと共に、2008年11月に導入され量的緩和の縮小策として保有する国債やモーゲージ債券の市場売却を四半期毎に100億ドルづつ増額させ、現在年間2400億ドルベースを2018年10月からは年間6000億ドルべースに拡大させることを計画しています(昨年9月末の保有額は約4.5兆ドルと巨額であったことからすれば、年間6000億ドルべースの減額は決して大きな金額ではないのかもしれません)。
しかし、問題はトランプ政権と議会多数派である共和党が成立させた10年間で1,5兆ドルの大型減税と2年間で3000億ドルという歳出増加が、景気の過熱とインフレが強めてしまう恐れがあります。こうした状況では連銀は金融引き締めのペースを速める可能性もあります。
いずれにしても、トランプ政権誕生以降、大型減税と大規模インフラ支出という大規模な財政政策への投資家の過剰な期待から、株式市場はダウで年間21%の上昇を記録しました。しかし、それが実現された今日、GDPに対する株価総額の比率は150%で、リーマン破綻前の137%を上回っていますし、シラー教授の調整済みPERも33.8で、通常の16.8を2倍以上も上回っています。そうした超高値水準にある株式市場の中で、現在はトランプ政権による財政赤字の急増と連銀の経済の過熱化への懸念が高まっています。こうした状況下では、今後長短金利の上昇が避けられず、株式相場も今後も乱高下を繰り返していくように思われます。
(2018年3月1日: 村方 清)
(2018年3月1日: 村方 清)