1.11月の株式市場
11月の株式市場は、11月6日の中間選挙まではトランプ政権の政策への期待が高く、株式市場は上昇傾向が続きました。しかし、選挙の結果、上院は過半数を維持したものの、下院は与党が約40の議席を失い、今後のトランプ政権の経済運営の厳しさを予想させることとなりました。但し、月末はFRB議長の利上げ慎重発言などから、上昇傾向が続きました。主要な動きは以下の通りでした。
11月1日:米中首脳が貿易摩擦問題の打開に向けて協議することで一致したとの報道に加え、化学のダウ・デュポンなど主要企業の四半期業績が好調で、ダウ価格は265ドル高(1.06%増加)。
11月2日:10月雇用統計で雇用者増加数が250,000人増で市場予想の190,000人増を大きく上回り(失業率は3.7%で同水準)、賃金上昇率も年率3.1%に上昇、長期金利上昇への警戒感が高まり、110ドル安(0.43%減少)。11月5日:IBMやシェブロンが買われ、相場を押し上げ、191ドル高(0.76%増加)。
11月6日:IBMやキャタピラーなどの銘柄が買われ、173ドル高(0.68%増加)
11月7日:中間選挙の結果が予想通りとして、投機性が高まり、545ドル高(2.13%増加)。
11月8日:前日に大きく上昇した反動やFOMCの声明文で段階的な利上げの継続方針が出たことで、利益確定の売りも多く出たが、年末に向けた株高への期待で、11ドル高(0.04%増加)。
1月9日:FOMCの利上げげ継続観測が重荷となり、さらに原油先物相場の下落を受けた世界景気の減速懸念から、投資家がリスク回避姿勢を強め、202ドウ安(0.77%減少)。
11月12日;販売減速懸念のアップルが5%下落、他のハイテク株も売られ、更にマレーシアでの資金流用問題が指摘されるゴールドマンサックスも7%強の下落で、602ドル安(2.32%減少)。
11月13日:飛行制御システムに問題があったボーイングが大幅に下落、原油先物相場も下落したため、101ドル安(0.40%減少)。
11月14日:中国景気の減速や原油先物相場の低迷で、売りが優勢となり、アップルや金融株の下げで、206ドル安(0.81%減少)。
11月15日:一時売りが先行し300ドル近く下げたが、米中貿易交渉の進展を期待させる報道から買いが優勢になり、208ドル高(0.83%増加)。
11月16日:米中貿易問題について、中国側が追加関税を課さない可能性を示唆したとのトランプ大統領の発言で、警戒感が薄れ、また長期金利も低下し、124ドル高(0.49%増加)。
11月19日:アップルを始め大手IT株が売り込まれたこと、米中貿易摩擦の先行き不透明感が増したこと、住宅関連の指標が落ち込んだことなどで、396ドル安(1.56%減少)。
11月20日:販売不振のアップルの売りが続いていること、原油安で石油株も下落、利ザヤ縮小で金融株の下落などで、552ドル安(2.21%減少)。年初来の騰落率で再びマイナス。
11月21日:一時大きく売られた銘柄を中心に買いが入ったが、米中貿易摩擦問題の行方や世界景気減速への懸念から、取引終了時にかけて伸び悩み、1ドル安(0.00%減少)。
11月23日:原油先物相場の下落で石油株が大幅に下げ、長期金利の低下で金融株も売られ、業績懸念のアップルも4日連続で下落、179ドル安(0.73%減少)。
11月26日:年末商戦が好調な滑り出しになったことや原油安が一服したことなどから、幅広い銘柄に買いが入り、354ドル高(1.46%増加)。
11月27日:米中貿易交渉の期待から、108ドル高(0.44%増加)。
11月28日:パウエル連銀議長の発言で、利上げ打ち止めが近いとの思惑や今月末に予定される米中会談で米中間の貿易摩擦問題に進展が見られるとの期待から、618ドル高(2.50%増加)。
11月29日:前日に急伸した反動で目先利益を確定する売りが優勢で、28ドル安(0.11%減少)。
11月30日:12月1日の米中首脳会談での貿易交渉進展への期待で、200ドル高(0.79%上昇)。
2.米国の雇用状況
米労働省が11月2日に発表した10月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比250,000人の増加で、市場予想の190,000人増を大きく上回りました。8月の雇用者数の確定値は286,000人で16,000人の増加、9月の改定値は118,000人で16,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約218,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を上回りました。なお、9月の失業率は3.7 %で、前月と同水準でした。労働参加率は62.9%で、前月から0.2%上昇しました。10月の時間当たり賃金上昇率は前月比5セント増加で、前年同月比では3.1%増となりました。部門別ではレジャー・ヘルスケアが42,000人の増加、建設業が30,000人の増加、製造業が32,000人の増加となりました。
3.中間選挙の結果-トランプ政権への厳しい批判
11月6日に中間選挙が行われ、直後にトランプ大統領は与党の共和党が上院で過半数を維持したことで大勝利と発言しましたが、時間が経過するにつれ、トランプ政権にとって極めて厳しい結果となりました。上院については、与党の共和党が53議席で選挙前の51議席から2議席増加したものの、共和党の非改選が42議席もあったことよりすれば、決して大きく議席数を増加させたとは言えない状況でした。
厳しい結果となったのは下院で、定足数の435議席が全て改選の対象となり、民主党は235議席で選挙前の195議席から40議席増加、共和党は200議席に留まりました。同時に州知事選挙についても、改選された36州の選挙で、民主党が議席数を伸ばし、改選前の16人から23人となる一方、共和党は33人から27人に減少しました。
今回の選挙の特徴は、投票率が47%と従来の中間選挙より大幅に増加、若者や女性の参加が激増したことでした。そうした中で、民主党が下院で大幅に躍進した理由は、下院の全議席が選挙の対象となり、米国民の意見がより反映されやすく、多くの女性票が反トランプに流れたこと、かつ米国民の関心は医療費関連が41%で最大、トランプが強調した移民問題は23%、経済問題は21%でしかありませんでした。この分野でトランプや共和党がオバマケアに対抗できるような魅力的な医療保険制度を提示できなかったことが下院の大敗になったと見られています。
民主党は下院で過半数を取ったことにより、全27委員会の委員長ポストを独占、トランプのロシア疑惑問題だけでなく、税申告問題、メインバンクであるドイツ銀行との取引の実態、トランプ所有のホテルの外国要人使用問題(憲法規定のEmoluments条項違反)などの調査が大きく進むものと見られます。
今回の選挙後、トランプ大統領はインフラ投資などで、下院で多数派となった野党の民主党と協調する姿勢を示しましたが、一番大きな問題は財源で、2019年度には1兆ドルを超えると見られる財政赤字の中で、両党の合意が得られるかは全く見通しが立ちません。最近の報道では、トランプ大統領は財政赤字の深刻さに懸念を抱き始め、議会関係者に歳出抑制を指示したと言われていますが、今回の財政赤字の主要な原因は昨年12月の企業や富裕層に対する大幅な減税であったことに対する認識が極めて低いことが大きな問題になります。。
4.FOMC会合とパウエル連銀議長の発言への反応
FOMC会合が11月7-8日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回9月のFOMC会合後に得た情報によれば、雇用増はここ数か月平均すると力強く、失業率は低下した。家計支出は力強く拡大したが、企業の設備投資は今年前半の高い伸びと比べ緩やかになった。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比ベースで2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じあまり変わっていない。法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジをさらに段階的に引き上げることは持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、中期的に目標の2%前後付近のインフレ率と整合すると予測している。景気見通しのリスクはほぼ均衡してきているようだ。
FOMCでは労働市場の情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.0-2.25%に据え置くことを決定した。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む9人のメンバーの賛成による。
連銀は8日のFOMC会合で金融政策の現状維持を決め、追加利上げを見送りました。その一方、米国経済は大型減税で成長率が3%台に高まり、物価上昇率も目標の2%に達しており、これを踏まえて、声明文では更なる利上げが正当化されるとして、改めて言及、12月の次回会合で追加利上げに踏み切る可能性を示唆しました。
なお、今回のFOMCの結果発表後は、金利を据え置いたことや前日に大きく上昇したこともあり、ダウは11ドル高に留まりました。
一方、11月28日にはパウエル連銀議長はニューヨークで講演し、当面の利上げの継続をにじませながら、政策金利が「中立金利」に近いと言及し、利上げの停止時期を慎重に見極める考えを示唆しました。市場はこの発言が利上げ打ち止めが近いとの思惑から、618ドル高となりました。
5.英国とEUの離脱合意
英国政府とEUは11月25日に英国のEU離脱交渉に関し、2つの点を中心とする合意案を正式に決定しました。それによれば、最初の離脱協定案では、離脱後も2020年末までは英国をEUの単一市場・関税同盟に残留させる「移行期間 を導入、さらに必要ならば最長2年、一回限りの延長を認めることを織り込みました。これにより、英国は移行期間中、EUとの間で関税同盟のメリットを受けられるものの、一方で英国はEUの法律やルールに従わざるをえず、更にEUへの財政負担を求められることになります。次に、2つめの政治宣言案は、離脱後の通商交渉について、包括的な自由貿易圏を目指すとしながらも、FTAを軸としたいEUとETAよりも深い関係を築きたい英国との間の溝は以前埋まっていない状況です。最後に、交渉が難航してたアイルランド国境問題も決着を先送りし、移行期間が終わるまでに具体策を見つけることになりました。
実質上、重要事項を先送りした今回の合意案は12月11日に予定される英国議会での承認が必要になりますが、与党・保守党の強硬派の立場からすれば、この合意案では離脱が名ばかりになる恐れがあります。一方、議会が承認しなければ、2019年3月以降は合意なく離脱となり企業活動や国民生活が大混乱する恐れがあります。いずれにしても、議会の承認が得られるかどうかによって、英国は以前として困難な状況が続くことになります。
(2018年12月1日: 村方 清)