1.3月の株式市場
3月の株式市場は引き続き米中貿易協議の行方が大きな株価動向要因になりました。同時に長期金利の低下による逆イールドカーブの発生が、投資家の世界経済後退への警戒感を起こさせました。主要な動きは以下の通りでした。
3月1日:米中首脳が3月半ばにも会談し、貿易協議が合意する可能性があるとの報道が伝えられ、投資家心理が改善し、金融株を中心に買いが優勢で、ダウは110ドル高(0.43%増加)。
3月4日:米中貿易合意が近いとの報道で一時買いが先行したが、その後、織り込み済みと見方から利益確定の売りが優勢となり、また医療保険大手のユナイテッドヘルスが医療保険改革の一環で大きく売られ、207ドル安(0.79%減少)。3月5日:今月下旬に予定される米中貿易交渉の合意内容を確認したいとする投資家が多く、相場は方向感に乏しく、13ドル安(0.05%減少)。
3月6日:2018年の貿易統計でモノの赤字が8787億ドルと12年振りに過去最大となり、米中の貿易協議がの先行きに警戒感が広がり、133ドル安(0.52%減少)。
3月7日:欧州中銀が年内の利上げを見送ったことを受けて、米長期金利が下げ、利ざや縮小の観測から、金融株が売られ、200ドル安(0.78%減少)。
3月8日:中国の輸出入の減速に加え、2月の米雇用統計で雇用者増加数が20,000人増で、市場予想の180,000人増を大きく下回り(失業率は3.8%で0.2%改善)、23ドル安(0.26%増加)。
3月11日:FRBが当面世界景気の動向を見守る姿勢を明確になり、投資家の安心感が広がり、幅広い銘柄に買いが優勢となって、201ドル高(0.79%増加)。
3月12日:ボーイング社製の墜落事故を受けえ、同型機の運航停止が各国に広がり、ボーイング株が6%安になり、96ドル安(0.38%減少)。
3月13日:1月の米耐久財受注額が市場予想に反して増加し、銀行や資本財などの景気敏感株の買いにつながり、148ドル高(0.58%増加)。
3月14日:米中の貿易協議を巡る警戒感が相場の重荷になったが、アップルなどのハイテク株の上昇が相場を支え、7ドル高(0.03%増加)。
3月15日:米中貿易協議が合意に向けて進展しているとの見方が広がり、投資家心理が改善して、
139ドル高(0.54%増加)。
3月18日:原油先物相場の上昇とFRBの利上げ慎重姿勢が示されるとの期待が大きく、石油と銀行株が買われ、65ドル高(0.25%増加)。
3月19日:前日までの上昇の反発と米中貿易交渉の進展への警戒感から、27ドル安(0.10減少)。
3月20日:トランプ大統領の記者会見での米中貿易交渉を巡る慎重発言に市場心理の悪化とFOM会合での2019年の利上げ予想回数がゼロとなり金融株が売られ、142ドル安(0.55%減少)。
3月21日:FRBが前日までに開いたFOMC会合で、年内の利上げを見送る方針を示したことに加え、アップルや半導体の上昇もあり、217ドル高(0.84%増加)。’
3月22日:米欧での製造業関連の経済指標が市場予想を下回り、世界経済の減速懸念が高まったことや長期金利の大幅低下で逆イールドカーブが発生、金融株が下落、460ドル安(1.77%下落)。
3月25日:前週末に生じた長短金利の逆転、逆イールドカーブの動揺が週明けも続き、景気の先行き不透明感から、投資家の慎重姿勢が見られ、15ドル高(0.06%増加)。
3月26日:石油株や金融株が買われ、相場を押し上げたが、米長短金利の逆転を受けての景気先行きへの警戒感も強く、上値は限られ、141ドル高(0.55%増加)。
3月27日:米長短金利の逆縁減少を受けて、世界情勢の警戒感から売りが優勢となり、32ドル安(0.13%減少)。
3月28日:米中貿易協議の進展や長期金利の低下により、投資家の買いが優勢で、92ドル高(0.36%増加)。
3月29日:米中貿易交渉が順調であったとの見方が広がり、投資家心理が改善、中国売上比率が高い企業を中心に幅広い銘柄が買われ、211ドル高(0.82%増加)。
2.米国の雇用状況
米労働省が3月8日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比20,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく下回りました。12月の雇用者数の確定値は227,000人で5,000人の増加、1月の改定値は311,000人で7,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約186,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、2月の失業率は3.8%で、前月から0.2%低下しました。労働参加率は63.2%で、前月と同じ水準でした。2月の時間当たり賃金上昇率は前月比11セント増加で、前年同月比では3.7%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が42,000人の増加、ヘルスケア業が21,000人の増加となったものの、製造業は4,000人の増加に留まり、建設業は31,000人の減少となりました。
FOMC会合が3月19-20日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回1月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを保っているが、2018年10‐12月の底堅い伸びからペースが鈍化した。雇用者数は2月にはhとんど変わらなかったが、ここ数カ月を平均すると雇用増は堅調で、米失業率は低水準を保った。足元の指標は、1-3月期の家計支出と企業の設備投資の伸びの鈍化を示している。全般的なインフレ率は、主にエネルギー価格の低下で前年同月比ベースで下がったが、食品・エネルギーを除くインフレ率は2%付近で推移している。アンケート調査による測定では、長期のインフレ予想はあまり変わっていない。
法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。
この目標を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.25-2.5%に据え置くことを決定した。FOMCは引き続き、持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率がもたされるだろうと見ている。海外の経済・金融動向およびインフレ圧力が抑制されている点を考慮し、FOMCはFF金利の誘導目標レンジの調整を様子見する。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む10人のメンバー全員の賛成による。
なお、今回のFOMC会合では、今後3年間の金融シナリオを改めて議論し、19年中の想定利上げ回数はゼロとなり、18年12月時点の2回から、大幅に方針転換しました。また、同日の会合では米国債などの保有資産を縮小する「量的引き締め」を19年9月に停止することを決定しました。こうしたFOMCの利上げ観測の後退にもかかわらず、米中貿易交渉の不透明感から、ダウは142ドル安0.55%減少)となりました。
4.「合意なし離脱のリスク」が高まる英国
英議会下院は3月29日にEU離脱案の中で、離脱条件を定めた離脱協定案を切り離して採決、反対多数で否決しました。今回の投票では賛成286票、反対が344票で票差は58票で、1月の230票差や3月12日の149票差よりも票差は大幅に減少しましたが、与党からは40人程度の造反が出たとされています。29日の採決では過去2回と異なり、離脱案のうち通商協定など英・EUの将来の大枠を示す政治宣言案を分離し、離脱協定案の本体だけに絞り、3月29日までに英議会で可決すれば、離脱を5月22日までに延期することで合意していました。しかし、今回も合意が得られなかったことにより、英国政府は4月12日に今後の離脱方針をEUに示すことが求められ、合意なき離脱のリスクが高まったといえます。
これにより、英国政府は4月12日までに新たな方針を示すことが求められています。しかし、現在新たな代替案はなく、合意なき離脱に陥る可能性があります。一方で議会は3月13日に、「合意なき離脱を回避する」との動議を可決しており、4月1日にメイ首相の離脱案に代わる選択肢を議員主導で探す議論を再開することになります。議会では、EUとの関税同盟への恒久的な残留案や2回目の国民投票案を軸に調整を続けると見られますが、いずれもEUとの再交渉が必要な根本的な方針転換になり、英国の5月の欧州議会選への参加や5月22日以降の長期延期が欠かせなくなります。こうした状況を受けて、EU加盟国の間でも、4月12日に合意なき離脱となるシナリオの可能性への警戒感が高まっています。
(2019年4月1日: 村方 清)