1.4月の株式市場
4月の株式市場は米中貿易協議は継続しているものの、連銀の金融引き締め見直しが続いていることや製造業景況感指数、雇用者増加数、第一四半期のGDPなど景気指数が好調であったことから、投資家の期待値が依然高く、株価の上昇が続きました。主要な動きは以下の通りでした。
4月1日:米国のサプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数が市場予想を上回って上昇したこと、米中の貿易協議の進展も期待され、330ドル高(1.27%増加)。
4月2日:前日に半年ぶりの高値を付けたこともあり、売りが優勢で、79ドル安(0.30%減少)。4月3日:米中貿易協議が合意に近づいているとの期待感が広がり、39ドル高(0.30%増加)。
4月4日:米中貿易交渉の最終合意が近いとの期待が相場を支え、ボーイングなどが上昇、167ドル高(0.64%増加)。
4月5日:3月の米雇用統計で雇用者増加数が196,000人増で、市場予想の170,000人増を上回り(失業率は3.8%で変わらず)、米経済の勢いが依然弱くないとして、40ドル高(0.15%増加)。
4月8日:ボーイングが大幅安となったことや半年ぶりの高値で利益売りが出て、84ドル安(0.32%減少)。
4月9日:米国政府がEUからの輸入品に関税を課す方針を示し、貿易摩擦激化が世界経済の減速を招くとの懸念が強まり、190ドル安(0.72%減少)。
4月10日:デルタ航空や大手ジーンズのリーバイストラウスが好調で、7ドル高(0.03%増加)。
4月11日:医療保険の今後の不透明性から、ユナイテッドヘルスなどが大幅に下落し、14ドル安(0.05%減少)。
4月12日:四半期決算が増収増益となったJPモルガンなど金融株に大幅な買いが入ったことや動画配信サービスを開始することを公表したディズニーが上昇し、269ドル高(1.03%増加)。
4月15日:四半期業績が不調であったゴールドマンサックスが大きく下落、墜落事故の原因不明で懸念が続くボーインクも売られ、28ドル安(0.10%減少)。
4月16日:四半期業績が好調であったジョンソンアンドジョンソンが大きく上昇、長期金利の上昇で、金融株も買われ、68ドル高(0.26%増加)。
4月17日:四半期業績が不調で会ったIBMが4%近く下落、医療保険制度改革で悪影響が懸念されるユナイテッドヘルスなど保険会社株が売られ、3ドル安(0.01%減少)。
4月18日:市場予想を上回る米小売売上高や米主要企業の決算発表を受けて投資家心理が上向き、資本財関連株を中心に買いが優勢になり、110ドル高(0.42%増加)。
4月22日:23日以降の米主要企業の4半期決算をの発表を控え、結果を見極めたいとして、取引を見送る投資家が多く、48ドル安(0.18%減少)
4月23日:四半期業績が好調であったコカコーラやユナイテッドテクノロジーなどが大きく買われ、145ドル高(0.55%増加)。
4月24日:欧州の経済指標が弱く、世界景気の減速懸念が意識され、資本財や素材株を中心に売りが強まり、59ドル安(0.22%減少)。
4月25日:四半期業績が不振であった3Mが急落したことや前日の四半期業績の不振を発表したキャタピラーも売りが続き、135ドル安(0.51%減少)。
4月26日:2019年1-3月期のGDP速報値が3.2%で、市場予想の2.0%を大きく上回ったことから、米景気減速に対する警戒心が後退し、81ドル高(0.31%増加)。
4月29日:米個人消費支出が0.9%と市場予想を上回ったことから、米消費の底堅さがあると見なされたことや米長期金利の上昇で金融株が買われ、11ドル高(0.04%増加)。
4月30日:4半期業績が不振であったグーグルが約7.5%下落したが、業績好調であった製薬会社のファイザーやメルクを中心に買いが優勢で、39ドル高(0.15%増加)。
2.米国の雇用状況
米労働省が4月5日に発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比196,000人の増加で、市場予想の170,000人増を上回りました。1月の雇用者数の確定値は312,000人で1,000人の増加、2月の改定値は33,000人で13,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約180,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、2月の失業率は3.8%で、前月と同水準でした。労働参加率は63.0%で、前月比で0.2%低下しました。3月の時間当たり賃金上昇率は前月比4セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別ではヘルスケア業が49,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が34,000人の増加、建設業が16,000人の増加となったものの、製造業は6,000人の減少となりました。
3.予想を大幅に上回った第1四半期のGDP成長率
米国商務省が4月26日に発表した2019年第1四半期のGDPの速報値は年換算で前期比3.2%増と市場予想の2.0%を大きく上回りました。輸出と在庫投資の拡大を背景に経済成長が加速しましたが、個人消費や企業の設備投資の面では弱さが目立ちました。
項目別では、輸出が3.7%増(前期は1.8%増)と3期ぶりの高い伸びとなり、米中貿易摩擦を背景に、輸出業者が報復関税の応酬の影響を抑えるために先手を打ったものと見られます。また、在庫投資も第1四半期は1284億ドルと15年第2四半期以来の高水準をつけました。これは需要の弱含みが原因と見られます。
その一方、GDPの約7割を占める個人消費支出は1.2%増と3期連続で鈍化しました。これは1月下旬まで続いた連邦政府機関の一部閉鎖などの影響が大きいと考えられます。また、企業の設備投資も0.2%に留まりました。加えて、住宅建設投資も2.8%減と5四半期連続で減少しました。
今回の高いGDP成長率は一次的な要因で、今後はトランプ政権による1兆5000億ドルの減税政策の効果が薄れ、成長率が2.5%前後に低下していくことが予想されます。
4.半年延長となった英国離脱
4月10日から開催されていたEUの首脳会議は8時間を超える超激論の末に、英国の離脱を10月末まで延長することを決定しました。トゥスクEU大統領は英国が短期間の延期を繰り返してその度毎に首脳会議を開く事態を避けるために、最大1年間の延長を提案しました。ドイツはこれを支持したものの、英国は長期の延期は離脱撤回につながりかねないとして反対、離脱議論の長期化を望まないフランスも反対していました。こうした中で、ユンケル欧州委員長は対英交渉を担当するEUの欧州委員会の任期も10月末であることから、10月末案でまとまったものです。
この案では、英国が議会で承認を得た場合にはその時点で離脱できる条項も盛り込まれました。これは5月23日からの欧州議会選への参加を回避したいメイ首相にとってプラス材料となりました。しかし、既にEUとの合意案を3回も否決されたメイ首相にとって、英議会が短期間で可決できる見通しは依然としてありません。
(2019年5月1日: 村方 清)