1.7月の株式市場
7月の株式市場は米中貿易協議進展やと連銀の利下げへの期待から上昇傾向を強めましたが、月末の連銀の利下げが小幅なものに留まったために、株価は大きく下げて終わりました。主要な動きは以下の通りでした。
7月1日:6月29日の米中首脳会議で、閣僚級の貿易協議の再開を決めたこともあり、貿易摩擦の警戒感が後退し、ダウ平均は117ドル高(0.44%増加)。
7月2日:世界の主要主要中央銀行が金融緩和に前向きな姿勢を示しているところから、株式市場への資金流入が続くとの期待で、69ドル高(0.26%増加)。7月3日:米中貿易協議の進展と中央銀行の金融緩和姿勢が投資家の株投資選好が強まり、179ドル高(0.67%増加)。
7月5日:6月の米雇用統計で雇用者増加数が224,000人増で、市場予想の160,000人増を大きく上回り(失業率は3.7%で前月より0.1%増加)、連銀が利下げするとの観測が弱まり、44ドル安(0.16%減少)。
7月8日:FRBによる早期の利下げ期待の後退が相場の重荷になったこと、アップルやボーイングも売り材料が広がり、116ドル安(0.43%減少)。
7月9日:FRBのパウエル議長の議会証言を控えて様子見ムードが強く、方向感に乏しく、23ドル安(0.08%減少)。
7月10日:パウエル連銀議長の議会証言で7月末に利下げに動くとの期待が高まり、77ドル高(0.29%増加)。
7月11日:パウエル連銀議長が前日に続き、11日も議会証言で早期の利下げを示唆したことから、7月の利下げ観測が強まり、228ドル高(0.85%増加)。
7月12日:連日の連銀議長の議会証言で、早期の利下げを示唆する発言をして以降、株式市場に資金が流れやすい環境が続き、244ドル高(0.90%増加)。
7月15日:早期の利下げ観測が相場を支えたものの、今週からの米主要企業の決算発表を見極めたいとの判断から上値追いは限られ、27ドル高(0.10%増加)。
7月16日:JPモルガンなど金融大手の四半期業績は市場予想を上回ったものの、投資家の反応は鈍く、貿易摩擦の懸念から、23ドル安(0.09%減少)。
7月17日:トランプ大統領が米中貿易交渉について長期化の見通しを述べたことで、キャタピラーなど中国売上比率の高い銘柄が売られ、116ドル安(0.42%減少)。
7月18日:7月17日の決算発表で契約者数が伸び悩んだネットフレックスが急落、売りが先行したものの、NY連銀総裁が早期利下げを示唆したため、2ドル高(0.01%増加)。
7月19日:ボーイングなどが好決算で買いが先行したが、今月末のFRBによる金利引き下げが小幅との報道から、売りが優勢となり、69ドル安(0.25%減少)。
7月22日:四半期業績が好調であったアップルや半導体関連株が上昇したものの、ホルムズ海峡でのイランと米英との緊張が高まっており、上値は重く、18ドル高(0.07%増加)。
7月23日:米中両政府が来週に貿易協議を再開するとも報道やコカコーラなどの主要企業の4半期業績が好調であったことなどから、177ドル高(0.65%増加)。
7月24日:四半期決算が低調であったキャタピラーやボーイングが大幅安となり、79ドル安(0.29%減少)。
7月25日:米国の耐久財受注額が市場予想を上回るなど経済指標の改善から、FRBによる金融緩和への期待が少し弱まり、129ドル安(0.47%減少)。
7月26日:米政府発表の第2四半期GDPが2.1%で市場予測の1.8%を上回ったことで、米景気減速の過度な警戒感が和らぎ、51ドル高(0.19%増加)。
7月29日:FOMC会合の結果発表を31日に控え、様子見ムードが強く、投資家の慎重姿勢から、29ドル高(0.11%増加)。
7月30日:米中貿易協議の先行き不透明感の高まりから、投資家心理が重くなり、23ドル安(0.09%減少)。
7月31日:FOMCが10年半ぶりの利下げを決定したが、パウエル議長が記者会見で利下げ継続を否定したとの見方が広がり、幅広い銘柄に売りが広がり、334ドル安(1.23%減少)。
2.米国の雇用状況
米労働省が7月5日に発表した6月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比224,000人の増加で、市場予想の160,000人増を大きく下回りました。4月の雇用者数の確定値は216,000人で8,000人の減少、5月の改定値は72,000人で3,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約167,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、3月の失業率は3.7%で、前月より0.1%上昇しました。労働参加率も62.9 %で、前月より0.1%上昇しました。6月の時間当たり賃金上昇率は前月比6セント増加で、前年同月比で3.1%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が51,000人の増加、ヘルスケア業が35,000人の増加 建設業が21,000人の増加、製造業も17,000人の増加となりました。FRBは31日のFOMC会合で、政策金利を0.25%引き下げ、フェデラルファンド(FF)の誘導金利を
年2.25-2.50%から年2.00-2.25%に引き下げること決定しました。米経済が10年以上の拡大局面を続け、失業率も3%台後半の水準まで下がる中で、パルエル議長は今回の利下げを景気循環の途中の調整と述べ、緩和局面が短期で終わる考えを示唆しました。同時に、FOMCは量的引き締め策も予定を2か月間早めて、7月末で終わることも決定しました。
今回の決定の背景には米中の貿易摩擦問題が長期化する中で、株価の持続的な上昇を示すことで再選を果たしたいとするトランプ大統領の強い要請に応えることを意識しているように思われます。しかし、その反面、経済が好調な時に利下げを急ぎすぎれば、経済た停滞に陥った時に政策の幅が限定されることになり、より深刻な状況になってしまう恐れも出てきます。株式市場の動向に過度にセンスティブな大統領の要請に、本来独立性が要求される連銀がどのような対応していくのか今後の動きが注目されます。
今回の利下げについて、市場の反応はパウエル議長が、記者会見で、利下げはサイクル途中の政策の調整であって、長期の利下げ局面の始まりではないと発言したことから、株式市場への資金流入が続くと期待が大きく後退し、ダウは334ドル安(1.23%減少)となりました。
英国与党の保守党は7月23日の党首選挙で、メイ首相の後任にジョンソン前外相を選びました。約16万人の保守党党員による決戦投票で、強硬離脱派のジョンソン氏が9万票以上を獲得し、穏健離脱派のハント外相に2倍近い差をつけて当選しました。ジョンソン氏としては10月31日までの離脱期限までに、メイ首相がEUとの間でまとめた離脱協定案を再度交渉する必要がありますが、EU側は協定案の再交渉を拒否する姿勢を貫いています。EUとして、離脱延期を検討する動きもありますが、そのためには英国側に総選挙や再国民投票などの明確な理由が必要になるとされています。
ジョンソン氏としては離脱前の総選挙や再国民投票に強く反対、EUとの協定案の再交渉ができないのであれば、合意なしでEUを離脱するしかないとしています。ジョンソン氏は25日の組閣においても、最重要ポストになる外相と内相に強硬離脱派を起用、合意なしの離脱に備える体制を整えています。
こうした合意なき離脱のリスクに対して、英国産業界は十分な準備をしていない状況です。現時点ではドーバー港の通関や関税手続きや自動車産業におけるサプライチェーンの断絶性などに十分な対応が取られているとは言えず、離脱強硬派のジョンソン氏が選ばれたことにより、英国の経済が大きな混乱に陥るリスクが高まっているように見られます。
トランプ大統領は7月22日に今後2年間の連邦政府の歳出と債務引き上げについて、与野党が大筋の合意に達成したことを発表しました。報道によれば、2011年に成立した予算管理法の2年毎の見直しの中で、2020会計年度と2021会計年度の歳出上限を3200億ドルに引き上げるものです。合意案では裁量的経費のうち、国防費と非国防費を同額ずつ引き上げ、共和党と民主党の要求を同時に受け入れる妥協案となる見込みです。同時に、債務上限を2021年7月まで一時停止することについても合意しました。
今回の与野党合意は、2017年末に成立した大型減税の効果が薄れ、貿易摩擦による景気減速の懸念の中で、財政支出による景気刺激を図ろうとするトランプ大統領の意向に沿うものですが、2020年の財政赤字は1兆ドルを超える見通しで、米国の財政赤字が今後一層深刻になっていくことが予想されます。
(2019年8月1日: 村方 清)