Wednesday, December 2, 2020

バイデン候補勝利後のワクチン・バブル相場








1.11月の実績

11月の株式市場は113日の大統領選挙でバイデン候補の勝利が確実になるにつれ、大規模経済対策への期待から大きな上昇となりました。加えて、米英の3つの製薬会社の新型コロナウイルスのためのウクチン開発が最終の臨床試験で良好な結果とあったとの情報によって、更に相場を押し上げる形になりました。主要な動きは以下の通りでした。

112日:中国の製造業購買担当景気指数が99か月ぶりの高水準となったことや米国のISMの製造業景況感指数も21か月ぶりの高水準となり、投資家心理が改善し、ダウ平均は423ドル高(1.60%増加)

113日:米大統領選挙でバイデン候補が勝利し、上院でも民主党が過半数を獲得すれば大規模な経済対策が実施との思惑から景気敏感株を中心に買いが広がり、555ドル高(2.06%増加)

114日:米大統領選挙でバイデン候補の勝利が強まる中で、上院は引き続き共和党が維持すると見られ、ねじれ議会となる可能性から規制の強化はないとの見方から主要ハイテク株への見直し買いが広がり、368ドル高(1.34%増加)

115日:民主党のバイデン候補はネバダ州でリードを広げ、ここで勝利すれば、過半数に必要な270票に一段と近づくため、選挙結果は週内にも判明するとの見通しが強まったことやFOMCが現在の金融緩和策の維持を決めたことで、543ドル高(1.95%増加)

116日:コロナウイルス感染者数が急増していること、米大統領選挙の結果はバイデン氏の勝利が有力視される中、一部の混乱も予想され、67ドル安(0.24%減少)

119日:ファイザー社の新型コロナウイルスワクチンの承認が近いとの報道から、景気敏感株に買いが集まりアメリカン・エキスプレス、ボーイング、ウォルト・ディズニー、シェブロンなどが急上昇し、835ドル高(2.95%増加)。

1110日:新型コロナウイルスのワクチン普及への期待から、景気敏感株への買いが続き、263ドル高(0.90%増加)。ハイテク株の多いナスダック指数は続落

1111日:今月に入り、ダウ平均は2900ドル強上昇しており、短期的な過熱感を警戒した売りが優勢で、23ドル安(0.08%減少)

1112日:米国での1日のコロナ感染者数が10万人を上回る状態が続いており、FRBのパウエル議長が討論会で数か月は厳しい状況になるかもしれないと述べたことで、短期的に景気の下押し要因になる警戒感が強まり、317ドル安(1.08%減少)

1113日:前日にコロナウイルス感染拡大の懸念を受けた売りが一巡したことやワクチン普及への業績期待という投機的な買いが優勢で、400ドル高(1.37%増加)

1116日:米製薬のモデルナがコロナワクチンの臨床試験で94.5%の有効性が確認されたとのニュースで、経済正常化への期待が高まり、景気敏感株を中心に投機的な買いが強まり、471ドル高(1.60%増加)。

1117日:朝方発表の10月の米小売売上高が前月比0.3%増と市場予想の0.5%増に届かず、米景気の先行きへの不透明感が意識され、167ドル安(0.56%減少)

1118日:新型コロナウイルスの感染拡大による目先の景気の不透明感がくすぶり、最近上昇していた銘柄を中心に利益確定売りが優勢で、345ドル安(1.16%減少)

1119日:米新規失業保険申請件数が市場予想を上回ったこともあり、200ドル以上下落する場面もあったが、米議会の追加経済対策の協議が再開することも伝えられ、45ドル高(0.15%増加)

1120日:米国での新型コロナウイルスの感染再拡大で、行動制限を強化する動きが広がり、目先の米経済が停滞との懸念から景気敏感株を中心に売りが優勢で、220ドル安(0.75%減少)。

1123日:英製薬アストラゼネガもワクチンの臨床実験で90%の有効性が判明、ファイザーのワクチンの接種も12月中旬から始まるとの見通しとなり、11月の米購買担当者景気指数(PMI)も10月に比べ1.6%ポイント高で、328ドル高(1.12%増加)

1124日:バイデン次期政権への移行があ円滑に進むとの期待と新型コロナウイルス開発への期待も重なり、投機的な買いが優勢で、455ドル高(1.54%増加)。

1125日:前日に初めて3万ドル台を達成したことや米失業保険申請件数が前週から3万件増加したことで、景気敏感株を中心に短期的な利益確定売りが優勢で、174ドル安(0.58%減少)。

1127日:米政権の円滑な移行と新型コロナウイルスのワクチン普及への期待感から買いが優勢で、38ドル高(0.13%増加)。

1130日:相場が過去最高圏にあることや新型コロナウイルス感染拡大への警戒感から、月末を意識した利益確定や持ち高調整の売りが優勢で、272ドル安(0.91%減少)。



2.米国の雇用状況


米労働省が11月6日に発表した10月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比638,000人の

増加で、市場予想の530,000人を上回りました。8月の雇用者数の確定値は1,493,000人で4,000 人の増加、9月の改定値は672,000人で、11,000人の増加となりました。なお、10月の失業率は6.9%で、前月と比べて1.0%改善しました。労働参加率は61.7%で、前月から0.3%増加しました。10月の時間当たり賃金上昇率は前月比で4セント増加しました。部門別ではレジャー・観光業が271,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が208,000人の増加、小売業が104,000人の増加、ヘルスケア関連業75,000人の増加となりました。


3FOMCの金利据え置き

FOMC1145日にFOMC会合を開き、金利据え置きと米国債を制限なく購入する量的緩和策などの維持を決めました。会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。FRBはこの試練のときに米経済を支え、雇用の最大化と物価の安定化の目標を推進するためにあらゆる手段を使うことを約束する。新型コロナウイルスの流行は米国と世界中に甚大な人的・経済的困難をもたらしている。経済活動と雇用はここ数カ月はやや持ち直しているが、依然として今年初めの水準を大きく下回っている。弱い需要と先の石油価格の下落が、消費者物価の上昇率を押し下げている。経済および米国の家計と企業の信用の流れを支える政策措置もあり、金融情勢は全般的に、依然として緩和的だ。

景気の動向は、ウイルスの拡大状況に大きく左右される。現在続いている公衆衛生の危機は、短期的には引き続き、経済活動、雇用、インフレにとって大きな重荷となり、中期的には経済見通しにとって深刻なリスクとなる。

FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。物価上昇率がこの長期目標を下回る状態が続いていることから、当面は2%よりやや上のインフレ率を目指す。そうすることで、インフレが長期的に平均2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする。

これらの成果が出るまで金融政策の緩和的なスタンスを維持することを予測している。

FOMCは(政策金利である)フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを00.25%に据え置くことを決定した。労働市場の情勢がFOMCの雇用最大化の判断と一致する水準に達し、インフレが

2%に上昇、当面2%をやや上回るところで軌道にのるまでこの目標レンジの維持が適切と予測する。

さらに今後、FRBは少なくとも現状のペースで国債、ローン担保証券の保有を増やす。そうすることで、円滑な市場機能を維持し、緩和的な金融情勢を促進し、家計と企業の信用の流れを支える。

金融政策のスタンスを調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは引き続き、景気見通しについて経済指標が示す意味を注視する。目標達成を妨げるリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する準備がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力・インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

決定はパウエル議長及びウィリアムズ副議長を含む10人のメンバー全員による。

今回の決定は、現状のゼロ金利政策と量的緩和策をともに維持すると同時に、新型コロナウイルスの感染再拡大が懸念材料として、景気リスクが高まれば、量的緩和を拡充する可能性を示唆しました。市場の反応は前向きで、景気拡大策を取ると見られるバイデン大統領候補の勝利する可能性が高まったことの要因もあり、ダウ平均価格はは543ドル高(1.95%増加)となりました。 

4. バイデン候補の勝利

113日に行われた大統領選挙で、民主党のバイデン候補は接戦州であったウイスコンシン州やミシガン州に加え、ペンシルベニア州でも現職与党のトランプ大統領に勝利し、117日に地元のデラウェア州ウィルミントンで勝利宣言の演説を行いました。

 その演説の中で、バイデン候補が強調したのは、自分が米国を団結に導くよう、自分に投票しなかった人々も含め、米国人の大統領として働くことでした。分断ではなく、結束を目指す大統領になることを誓ったことでした。

それに加え、バイデン候補が強調したのは、米国を可能性の国として、全ての米国人が夢を追求できる素晴らしい国であり、米国人の魂を取り戻し、米国が地球の指標として全世界の見本となることを目指していきたいとしました。

バイデン候補に先立ち、演説したハリス副大統領候補も、初めての女性副大統領の誕生の前に自分は初であろうが最後ではなく、今後続く少女たちに希望を与えると述べ、米国は可能性の国であることを改めて伝えました。

今回のバイデン候補の勝利は、直接的には新型コロナウイルスで、ベトナム戦争での米国人の死者を遥かに超える25万人以上の犠牲者を出しながら、有効な政策を出せない現在のトランプ政権への

米国民の不満や批判が強かったことにあります。同時に、米国の民主主義の仕組みを十分に理解することなく、強引に自分や特定のグループへの利益追求に走りすぎたトランプ大統領への不信が強かったことがあげられます。米国がトランプ政権下での多くの誤った政策を見直し、バイデン次期大統領の下で再び、米国が世界の民主主義国家のリーダーとして歩んでいくことを期待したいものです。


5.コロナウイルス感染拡大とワクチン開発によるバブル相場

113日の米国大統領選挙でのバイデン候補の勝利以降、米英の3つの製薬会社による新型コロナウイルス抑止のためのウイルス開発の臨床試験の結果がよかったことで、米政府による新薬への承認期待から株相場が大きく上昇することになりました。しかし、現在有力視される2つのワクチンについては保存方法の難しさや臨床試験の拡大による副作用の問題は依然残されており、急激な上昇相場を正当化するには無理があるように思われます。それよりも懸念されるのは冬のシーズンを迎え、コロナウイルス感染が再び急激に拡大、実体経済への深刻な悪影響が出てきているにもかかわらず、中央銀行の過剰な緩和政策が株式市場の投機的な動きを加速させていることです。バッフェ指数で知られるように、GDPに対する株価の時価相場総額があまりに大きくなりすぎたことに対して、超低金利状態の中で中央銀行が適切な対応策を取れなくなっている現在の株式相場の動きには大きな懸念を持たざるを得ません。

        (2020121日: 村方 清)


Monday, November 2, 2020

実体経済を反映しない政治的な投機相場

 

 















1.
10月の実績

10月の株式市場は追加の経済対策を巡るトランプ政権と与野党の協議の進展状況に振り回され、株価の変動が激しい不安定な相場となりました。加えて、終盤はコロナウイルス感染の急増となり、下落相場が続きました。主要な動きは以下の通りでした。

 

101日:追加の経済対策を巡って財務長官と民主党の下院議長が協議を続けたが、まだ隔たりがあることから景気敏感株が買い控えられ、9月の米製造業指数も55.4と前月比0.6低下して、ダウ平均は35ドル高(0.13%増加)。

102日:トランプ大統領のコロナウイルス感染が判明し、大統領選挙への影響を懸念した売りが優勢で、134ドル安(0.48%減少)

105日:トランプ大統領の早期退院や追加経済対策の与野党協議の進展などの報道に投機的な動きが広がり、466ドル高(1.68%増加)。

106日:トランプ大統領が追加の経済対策の協議中止を指示したことで、景気の持ち直しが加速するとの見方が後退し、主力銘柄を中心に売りが広がり、376ドル安(1.34%減少)。

107日:トランプ大統領が空運会社や中小企業の支援など経済対策の一部を個別に実施することを議会に求めたことで、米景気を支えるとの投機的見方に影響され、531ドル高(1.91%増加)

108日:追加の経済対策への期待から引き続き投機的な買いが入り、相場を押し上げ、122ドル高(0.43%増加)

109日:追加の経済対策について、米政権が規模を18000億ドルに引き上げ、民主党に提案すると伝えられ、合意への期待が過剰に膨らみ、161ドル高(0.57%増加)

1012日:政策期待などで中国の上海市場の株式相場が大幅に上昇、米企業の決算内容が市場予想以上になるとの投資家の投機的な思惑から、251ドル高(0.88%増加)

1013日:ジョンソンエンドジョンソンがワクチンの治療薬の治験を中断したことや追加経済対策の与野党協議も停滞するなどで、158ドル安(0.55%減少)。

1014日:追加経済政策の早期合意は困難との見方が広がり、市場心理が悪化、投資家が運用リスクを回避する姿勢が強まり、166ドル安(0.58%減少)。

1015日:新型コロナウイルスの感染急増で、英仏が外出規制を強め、投資家心理を冷やしたが、米政府の追加経済対策への期待から景気敏感株が買い直され、19ドル安(0.07%減少)

1016日:朝方発表の9月の米小売売上げ高が前月比1.9%増と5カ月連続で増え、米経済の底堅さを意識した買いが優勢で、112ドル高(0.39%増加)

1019日:追加の経済対策で米与野党が何らかの合意に達するとの期待で高く始まったが、期待がしぼみ、次第に売りが優勢となり、欧米のコロナウイルス感染の再拡大も影響し、411ドル安(1.44%減少)。

1020日:追加経済対策を巡る米与野党協議で、ペロシ下院議長の発言で何らかの合意に達するとの期待で、113ドル高(0.40%増加)

1021日:ブラジルで実施されていた英国の製薬会社とオックスフォード大のコロナウイルスのワクチンの臨床試験で被験者が死亡したことから、ワクチン開発の不透明感が増し、投資家心理が悪化、98ドル安(0.35%増加)

1022日:週間の新規失業保険申請件数が2週間ぶりに減少したことや米国の追加経済対策への合意期待が再び高まり、153ドル高(0.54%増加)

1023日:追加の経済対策の与野党協議を巡る不透明感や低調な決算を発表したインテルが売られ、相場の重荷となり、28ドル安(0.10%減少)

1026日:米国で新型コロナウイルスの感染拡大が過去最大を更新したことや追加経済対策の合意も遠のき、米国の景気回復が遅れるとの懸念から、650ドル安(2.29%減少)。

1027日:欧米でのコロナウイルス感染が再拡大し、行動制限の強化による景気後退の懸念から売りが優勢で、222ドル安(0.80%減少)

1028日:欧米でコロナウイルス感染拡大が再び深刻化しており、世界景気への悪影響が懸念され、幅広い銘柄に売りが広がり、943ドル安(3.43%減少)

1029日:朝方発表の79月期のGDP速報値が前期比33.1%増と市場予想を上回り、新規失業保険申請件数も市場予想を下回り、139ドル高(0.52%増加)

1030日:米国の1日当たりの新型ウイルス感染者数が過去最高を更新したことや79月期のスマートフォンの売上高が大幅に減少したアップルが大幅安で、158ドル安(0.59%減少

 

2.米国の雇用状況

米労働省が101日に発表した9月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比661,000人の増加で、市場予想の850,000人を下回りました。7月の雇用者数の確定値は1,761,000人で27,000 人の増加、8月の改定値は1,489,000人で、118,000人の増加となりました。なお、8月の失業率は7.9%で、前月と比べて0.5%改善しました。労働参加率は61.4%で、前月から0.3%減少しました。9月の時間当たり賃金上昇率は前月比で2セント増加しました。部門別ではレジャー・観光業が318,000人の増加、小売業が142,000人の増加、ヘルスケア関連業108,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が89,000 人の増加となりました。

 

3.米国財政赤字の急増と今後への影響

米財務省は1016日に2020年度の財政赤字が前年度の3倍に達する3.1兆ドルになったと発表しました。これは金融危機直後の2009年度の1.4兆ドルを上回り、過去最大の規模となりました。これに伴い、2020年度の連邦政府債務は過去最大の約26兆ドルに膨らみ、GDP比率は126%と第2次大戦直後の最悪期の1946年の119%を超えることになります。今年3月の時点では2020年度の財政赤字を1730億ドルと見込んでいましたが、その後の大規模な新型コロナウイルス対策もあり、歳出が前年度の1.5倍の6.6兆ドルに達し、赤字幅が急拡大したものです。GDP比率で126%と言うのはIMFが予測する世界平均の96%を大幅に上回り、主要国では日本の252%、イタリアの156%に次ぐ規模となります。

 

2021年度は当初赤字幅が1.8兆ドルに縮小すると見られていましたが、現在議会は1兆ドル強の追加経済対策を検討しており、赤字幅の増加が避けられない状況です。これにより、2030年度の利払い費は6640億ドルと2020年度の3380億ドルの約2倍に膨らむ見込みです。現在は連銀のゼロ金利政策で、政府の利払い負担は少なくなっているものの、ゼロ金利政策の解除となれば、政府の利払い負担が増加し、米国財政を大きく圧迫することになります。

 

4.米国大統領選挙最後の討論会

米国大統領選挙の最後の討論会が1022日にテネシー州ナッシュビルで行われました。前回の討論会では、トランプ大統領がバイデン候補の発言を何度も遮ったため、今回は1人の候補が話す2分間はもう1人のマイクのスイッチを切る措置を取ったため、議論は前回に比し、大方スムースに進みました。この日の討論会では、新型コロナウイルス、米国の家族、人種、気候変動、国家安全保障、リーダーシップのの6つのテーマで論戦が行われました。

 

新型コロナウイルスではトランプ大統領は全米各地における感染拡大は峠を越え、収束に向かっており、数週間以内に完成したワクチンが配布できれば、この問題は消えてなくなるとの超楽観的な見方を示しました。これに対し、バイデン候補は米国には未だにコロナを収束させる包括的な計画がなく、経済や学校再開の必要な国家的な統一基準を作るとしました。

 

次に、米国の家族では、特に、低所得者に医療保険加入を促す公的医療保険制度(オバマケア)の取り扱いが焦点になりました。司会者がトランプ大統領にオバマケアを廃止すると約2000万人が無保険者になることを指摘すると、オバマケアは個人に保険加入を義務付けるのは最悪だとしながらも、私的保険の活用を主張するだけで、オバマケアに代わる医療保険制度の代替案は相変わらず、提案できませんでした。これに対し、バイデン候補はオバマケアの拡大に加え、私的保険の継続的な活用を主張しました。

 

人種問題では、移民政策について、トランプ大統領が国境に400マイルの壁を作り規制が強化されれたことを誇示しましたが、バイデン候補は親と一緒に来た500名以上の子供が親と分離され、行き場所がなくなってしまったので犯罪ではないかと強く非難ししました。また、トランプ大統領は自分達は黒人を含むマイナリティへの地位向上に最も務めた政権としましたが、バイデン候補より人種間の対立を煽った最悪の政権との批判を受けました。

 

気候変動については、トランプ大統領が温暖化対策の国際ルールである「パリ協定」を米国内のビジネスを破壊するものとして、脱退を表明したことを正当化しました。これに対し、バイデン候補地球温暖化の科学性に基づき、米国は気候変動問題に取り組む道徳的な義務を負っているとしてパリ協定に復帰することを表明しました。

 

国家安全保障について、トランプ大統領が米国の鉄鋼産業の競争力低下に関し、中国への関税許可を正当化したのに対し、バイデン候補はその結果として、従来中国に穀物を輸出していた米国の農家が大きな被害を受け、不必要な巨額の補助金が発生していると非難しました。バイデン候補は中国に対し国際法を守らせることの必要性を強調しました。対北朝鮮政策を巡って、トランプ大統領が北朝鮮の金委員長と親密な関係を築き、戦争を回避していることを強調するのに対し、バイデン候補は北朝鮮がミサイル能力を向上させており、制裁措置の強化を主張しました。

 

これに関連して、トランプ大統領はバイデン候補の息子が父親の地位を利用して、ウクライナや中国で不正に金儲けをしていると非難しました。これに対し、バイデン候補は不正に金儲けをしていることはなく、逆にトランプ大統領が中国に設置している秘密口座の理由を求めました、更に、バイデン候補はトランプ大統領が納税報告書を未だに開示しないことについて強く批判をしました。

 

最後にリーダーシップの問題に関連して、司会者が大統領就任式で支持しなかった人に何を呼びかかけるかの質問に対し、トランプ大統領は経済の成功が結束させると曖昧な回答でした。これに対し、バイデン候補は共和党支持者と民主党支持者を分けることは望ましくなく、米国民が一体となって国を作っていく必要性を強調、リーダーの品格、信用、尊敬の回復の重要性を訴えました。

 

討論会を終えた後の評価では、CNNはバイデン候補の勝利が53%で、トランプ大統領の勝利が39%、一方保守系のFoxニュースでは、トランプ大統領が62%、バイデン候補が38%となっていま。一方、3大ネットワークの一つであるABCはバイデン候補が62%、トランプ候補が33%となっています。

          (2020111日: 村方 清)

 

Thursday, October 1, 2020

トランプの党が作り出す経済と政治の分断










1.9月の実績
9月の株式市場はコロナウイルス感染拡大の中でも、影響が少ないとされ、投資家の強い関心を集めてきた大型ハイテク株にも急速な株高への警戒心が高まり、調整局面を迎えることになりました(但し、月末には再び上昇傾向)。主要な動きは以下の通りでした。

91日:ISMの製造業景況感指数は56.03カ月連続で50を上回ったことや新たな会員サービスを発表したウォルマートが大幅上昇、アップルなどの大型ハイテク株も買いが優勢で、216ドル高(0.76%増加)。
92日:2日発表の米新車販売台数や雇用者数の増加を受けて、景気回復が続いているとの見方から、幅広い銘柄が買われ、455ドル高(1.59%増加)
93日:アップルやマイクロソフトなどコロナ禍での株高を牽引してきたハイテク株に過熱感が強まり、売りが膨らみ、808ドル安(2.78%減少)。ナスダックは5%減少
94日:8月の雇用統計で失業率が8.4%に低下したものの、前日に広がったハイテク株売りが4日も続き、159ドル安(0.56%減少)
98日:アップルなどの主要ハイテク株への売りが続き、素材や金融など景気敏感株の一角にも売りが広がり、632ドル安(2.25%減少)
99日:前日まで下げが目立った主力ハイテク株が買い直され、相場を押し上げ、製薬会社のファイザーにもワクチン開発の新たな進展報道があり、440ドル高(1.60%増加)
910日:アップルやマイクロソフトなどのハイテク株への売りが再び強まったことや米上院で追加の経済対策法案が否決され、景気回復が遅れるとの懸念から、406ドル安(1.45%減少)
911日:ナイキやキャタピラーなどの景気敏感株やJPモルガンなど金融株が割安感から上昇し、131ドル高(0.48%増加)
914日:エヌビディアが英半導体設計のアームを買収したり、オラクルが中国のTik Tokの米国事業を引き受けるととの観測が高まり、328ドル高(1.28%増加)。
915日:買いが先行して始まったが、アップルが午後に一時下げに転じると相場が伸び悩み、銀行株などの景気敏感株の下落も重荷となり、2ドル高(0.01%増加)
916日:FRB91516日に開催されたFOMC会合で、2023年末まで利上げを見送る方針を示したことで、景気敏感株を中心に買いが優勢となったが、ハイテク株からは資金が流出、引きにかけて急速に伸び悩み、37ドル高(0.13%増加)
917日:FOMCの会合が16日に終わり、様子見をしていた投資家が割高感の強い主力ハイテク株を売りに出したことやCDC所長が年内のワクチン供給は非常に限られると述べたことで、市場心理が悪化し、130ドル安(0.47%減少)
918日:アップルなど主力ハイテク株の売りがやまないこと、追加経済対策の成立が遅れ、景気を冷やしかねないとの懸念から、245ドル安(0.88%減少)
921日:欧州でのコロナウイルス感染の再拡大、ドイツ銀行やJPモルガンなどの大手金融機関のマネーロンダリング問題、最高裁判事の任命問題を巡る政治の不透明性などが原因で、売りが膨らみ、510ドル安(1.84%減少)。
922日:欧州でコロナ感染の再拡大が相場の重荷になったが、業績がコロナの盈虚を受けにくい主力ハイテク株が買われ、相場を主導、140ドル高(0.52%増加)
923日:追加の米経済対策成立の見通しが立たない中、主力ハイテク株の割高感からの下げ局面が続き、525ドル安(1.92%減少)
924日:取引開始直後は売りが先行したものの、終了にかけて下落基調にあった主力のハイテク株が上昇し、52ドル高(0.20%増加)
925日:9月に入って調整局面が続いていた主力ハイテク株のマイクロソフトやセールスフォースが上昇、景気敏感株の一角も買われ、359ドル高(1.34%増加)。
928日:追加の米経済対策への期待やアジア、欧州株高などを受けて、景気敏感株を中心に買いが優勢で、410ドル高(1.51%増加)
929日:欧米でコロナウイルスの感染が広がる中で、金融株やエネルギー株が売られて、相場を押し下げ、131ドル安(0.48%減少)
930日:追加経済対策で米与野党が近く合意するとの観測が強まり、主力ハイテク株や景気敏感株などに買いが広がり、329ドル高(1.20%増加)。

 

2.米国の雇用状況
米労働省が94日に発表した8月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比1,400,000人の増加で、市場予想とほぼ同様でした。6月の雇用者数の確定値は4,791,000人で10,000 人の増加、7月の改定値は1,734,000人で、29,000人の減少となりました。なお、8月の失業率は8.4%で、前月と比べて1.8%改善しました。労働参加率は61.7%で、前月から0.3%増加したものの、2月の時点から依然として低い水準にあります。8月の時間当たり賃金上昇率は前月比で11セント増加しました。部門別では小売業が249,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が197,000 人の増加、レジャー・観光業が174,000人の増加、教育・ヘルス業関連が147,000人の増加となりました。

 

3FOMCの金利据え置き
FOMC91516日にFOMC会合を開き、金利据え置きと米国債を制限なく購入する量的緩和策などの維持を決めました。会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。FRBはこの試練のときに米経済を支え、雇用の最大化と物価の安定化の目標を推進するためにあらゆる手段を使うことを約束する。新型コロナウイルスの流行は米国と世界中に甚大な人的・経済的困難をもたらしている。経済活動と雇用はここ数カ月はやや持ち直しているが、依然として今年初めの水準を大きく下回っている。弱い需要と著しく低い石油価格が、消費者物価の上昇率を押し下げている。金融情勢は全般的に、経済および米国の家計と企業の信用の流れを支える政策措置もあり、ここ数カ月改善している。
 
景気の動向は、ウイルスの拡大状況に大きく左右される。現在続いている公衆衛生の危機は、短期的には引き続き、経済活動、雇用、インフレにとって大きな重荷となり、中期的には経済見通しにとって深刻なリスクとなる。

FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。物価上昇率がこの長期目標を下回る状態が続いていることから、当面は2%よりやや上のインフレ率を目指す。そうすることで、インフレが長期的に平均2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする。

これらの成果が出るまで金融政策の緩和的なスタンスを維持することを予測している。

FOMCは(政策金利である)フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを00.25%に据え置くことを決定した。労働市場の情勢がFOMCの雇用最大化の判断と一致する水準に達し、インフレが

2%をやや上回るところで軌道にのるまでこの目標レンジの維持が適切と予測する。 

さらに今後、FRBは少なくとも現状のペースで国債、ローン担保証券の保有を増やす。そうすることで、円滑な市場機能を維持し、緩和的な金融情勢を促進し、家計と企業の信用の流れを支える。

金融政策のスタンスを調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは引き続き、景気見通しについて経済指標が示す意味を注視する。目標達成を妨げるリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する準備がある。公衆衛生、労働市場の状、インフレ圧力・インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

決定はパウエル議長及びウィリアムズ副議長を含む10人のメンバー全員の賛成による。

今回の決定は、現状のゼロ金利政策と量的緩和策をともに維持すると同時に、物価上昇率が暫くの間、穏やかに2%を超える水準を目指すとフォワード・ガイダンスを変更し、利上げのハードルを引き上げたことに特徴があります。市場の反応は前向きであったものの、ハイテク株が大きき憂く売られ、ダウ平均価格はは37ドル高(0.13%増加)に留まりました。

 

4.コロナウイルス感染拡大の中でのハイテク株の乱降下
コロナウイルス感染拡大の中で、その影響が限定的であったアップルやマイクロソフトなどのハイテク株の株価は先月まで急激な上昇を続けてきましたが、今月に入り急速に下落、調整局面を迎えています。その背景には、コロナウイルス感染拡大に伴い、実体経済が急速に落ち込む中で、政府の意向を受けて、中央銀行がゼロ金利や大規模な量的緩和などの過度な金融緩和策を続けた結果、実体経済の悪影響が軽微とされるアップルやマイクロソフトなどのハイテク株の急激な上昇に結び付くことになりました。しかし、ハイテク株と言えども、コロナウイルス感染拡大の影響を受けざるを得ず、株価が投機性を強めて上昇を続ければ、調整局面を迎えざるをえないといことだと思います。いずれにしても、完全に投機的要因に支配されている現在の株式市場は異常としか言いようがありません。

 

5. トランプの党が作り出す経済と政治の分断(民主政治の危機)
113日の米大統領選挙を控え、現職のトランプ大統領と野党の民主党のバイデン候補の第一回討論会が929日に実施されました。米国の大統領選挙では伝統的に民主党と共和党の2大政党がそれぞれの全国大会で党の綱領を採択し、それを基にして選挙戦を争い、討論会では両党の候補者が綱領に基づいて議論するのが習わしでした。しかし、今回の共和党大会は党の綱領を採択せずに、現職のトランプ大統領の再選させるための“アメリカファースト”という安易なスローガンと減税や規制緩和に力点を置く、トランプ党の人気取り政策を並べるだけのもので、両候補が政策を争う本質的な議論になりませんでした。特に、トランプ大統領の相手の主張を聞くことなく、中傷するだけの態度に司会者から何度も注意を受けなど従来に前例のない低次元の討論会となりました。

米国で最も深刻なコロナウイルス感染問題への対応についても、トランプ大統領はコロナウイルス感染問題の深刻さを早い段階で認識しながら、有効とされるマスクの着用を義務づけるなどのそれ対応策を講じることはせずに、再選に不可欠と考える株高状況を何とか維持すべく、トランプに近い共和党の州知事に経済活動の再開を優先させるように指示しました。その結果はフロリダ州やテキサス州での感染者や死亡者の急増を招くことになりました。また、コロナウイルス対策に必要ななワクチン開発や治療方法についても、株価上昇を意図すべく、現政権の努力で急速に進んでいることを必要以上に強調するだけで、十分な検証期間を経ていない性急なワクチン開発の副作用の大きさを含むリスクについては言及を避け続けています。現在、米国でのコロナウイルス感染による死者数は9月末で20万人を超えていますが、それは米国史上、南北戦争の66.5万人、1918年から流行したスペイン風邪の50万人、第2次世界大戦の40万人に次いで4番目であり、約8か月間の短期間で起きたことは例を見ません。 

コロナウイルス感染問題で極めて深刻は状況をもたらしながら、トランプ大統領が依然40%近い米国民の支持を受け、幾つかの遊説先で多くの傍聴人から熱い声援を受けていることに驚かされます。しかし、その光景は、1930年代初めに経済困難を抱えたドイツにおいて、排他的な民族主義を掲げて急速に勢力を伸ばしたナチス党のヒトラーを連想させるものがあります。トランプの演説に集まる聴衆の多くがどちらかと言えば超保守的な白人層であることでその類似性を感じさせます。

トランプ大統領の問題点は、2016年の大統領選挙の立候補以来、そのスローガンは多民族国家である米国民の融合ではなく、個人的な利益優先をベースとしながら、白人層を中心とする特定グループの利益保護や復活でした。彼がイニシアチブを取った2017年末の大幅減税に見られるように、それは米国民に富めるものと貧しいものの格差を拡大させ、経済の分断を強いることになりました。

また、政治の世界でも、こうした特定のグループの利益実現によって、彼の支持基盤が強固であるとして、米国民主主義政治に不可欠な三権分立を弱くさせ、大統領権限を最大限優先させる方策を取り続けています。更に問題なのは、米国の憲法上の存立基盤を死守する役割を持つべきはずの

バー司法長官がトランプ大統領に迎合し、大統領独裁制を擁護する立場を取っていることです。

その意味で、今回の大統領選挙は自己利益追求が目的で、デマゴーグの政治家であるトランプ大統領によって脅かされている米国の民主政治が守れるのかが試される重要な機会となっています。

       (2020101日:村方 清)

 

 


Tuesday, September 1, 2020

株価至上主義がもたらす米国の格差拡大とコロナ死者数急増


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1.8月の実績
8月の株式市場は追加経済対策への投資家の期待感から上昇相場となったものの、与野党の議論には大きな進展はありませんでした。同時に、急ぎすぎる経済活動再開に伴うコロナウイルス感染者や死者数の増加傾向が続く中で、コロナウイルスのためのワクチンや治療薬の超早期実用化を目指すトランプ政権への過剰な期待感が、投機的思惑による株価の上昇を招くことになりました。主要な動きは以下の通りでした。

8月3日:マイクロソフトなど主力ハイテク株がM&Aなどを材料に買われ、追加の米経済対策の協議進展への期待もあり、236ドル高(0.89%増加)。
84日:追加の経済対策を巡る与野党協議を見極めたいとムードの中で、共和党上院の院内総務が米政権と民主党幹部が支援策で合意すれば案を支持と報じられ、164ドル高(0.62%増加)
85日:ISM5日発表の7月の米非製造業景況感指数が58.1と市場予想の55.0を上回り、かつコロナワクチンの開発進展への期待が広がり、374ドル高(1.39%増加)
86日:アップルやマイクロソフトなど主力ハイテク株が買われたことや米新規失業保険申請件数が前週から減少したことなどから、185ドル高(0.68%増加)
87日:7月の米雇用統計は雇用者増加数が1,760,000人増で、市場予想の1,600,000人増を上回り(失業率は10.2%で前月より0.9%改善)、景気敏感株を中心に買いが優勢で、47ドル高(0.17%増加)。
810日:トランプ大統領が8日に失業給付の増額を含む追加の経済政策を大統領令を発動したことで米景気に対する懸念が後退、景気敏感株を中心に買いが優勢で、358ドル高(1.30%増加)
811日:ワクチン普及で世界経済が正常化に向かうとの期待から買いが先行したが、アップルなど主力ハイテク株を中心に利益確定売りが加速、下げに転じて105ドル安(0.38%減少)
812日:トランプ大統領が11日夕方にモデルナ社から1億本のコロナワクチンの購入を発表、ワクチン実用化の期待から市場心理が改善、290ドル高(1.05%増加)
813日:コロナウイルスに関する追加の経済政策を巡るトランプ政権と米議会の与野党の協議に進展はなく、前日まで続いた高値警戒感から、80ドル安(0.29%減少)
814日:朝方発表の7月の鉱工業生産指数が前月の改定値から3%上昇したことで、米経済の底堅さが意識されたが、15日米中貿易協議を控えているこっともあり、34ドル高(0.12%増加)
817日:追加経済政策を巡る米与野党協議の停滞に加え、米中閣僚級会議が無期延期となったことによる米中対立の懸念から、86ドル安(0.31%減少)。
818日:追加の経済対策に関する米与野党の協議に進展がなく、米景気の悪化させかねないとの懸念が相場の重荷になり、67ドル安(0.24%減少)
819日:午後に発表したFOMCの議事要旨を受けて、コロナウイルス感染による米経済への悪影響が中期的にかなり深刻なリスクになる見解で一致していたことがわかり、米景気回復の遅れが懸念され、85ドル安(0.31%減少)
820日:米新規失業保険申請件数が市場予想以上に増え、景気懸念から売りが優勢になったが、アップル等の主力ハイテク株が買われ、47ドル高(0.17%増加)
821日:米中古住宅販売件数の増加など経済指標の改善に加え、アップルなど大型ハイテク株への買いが続き、191ドル高(0.69%増加)。
824日:FDAがコロナから回復した人の血漿を投与する治療法に特別の許可を与えたことで、経済が正常化に向かうとの過剰な期待感が優勢で、378ドル高(1.35%増加)。
825日:前日に最高値をつけたアップルが利益確定売りに押され、ダウの構成銘柄から除外されたエクソンモービルも売られ、60ドル安(0.21%減少)。
826日:バイオ製薬のモデルナがコロナワクチンの臨床試験で良い結果が出たとの報道で、市場心理が好転し、83ドル高(0.30増加)。
827日:FRB議長が物価が明確に上昇するまで、利上げを見送る考えを強調したこともあり、長期的な低金利政策への期待で、160ドル高(0.57%増加)。
828日:FRBのゼロ金利政策の長期化を背景に、株式市場への資金流入が続くとの思惑から半導体などの景気敏感株を中心に買いが入り、162ドル高(0.57%増加)。
831日:ダウ平均は8月に入り2000ドル超上昇しており、月末最終日に景気敏感株を中心に利益確定売りが優勢で、224ドル安(0.78%減少)。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が87日に発表した7月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比1,700,000人の増加で、市場予想の1,600,000人を超えることになりました。5月の雇用者数の確定値は2,725,000人で26,000 人の増加、6月の改定値は4,791,000人で、9,000人の減少となりました。なお、7月の失業率は10.2%で、前月と比べて0.9%改善しました。労働参加率は61.4%で、前月から0.1%減少し、2月の時点から依然として低い水準にあります。7月の時間当たり賃金上昇率は前月比で7セント増加しました。部門別ではレジャー・観光業が592,000人の増加、小売業が258,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が170,000人の増加、教育・ヘルス業関連が126,000人の増加となりました。

 
3.コロナウイルス感染問題の米国の悲惨な状況
昨年12月に中国の武漢でコロナウイルス感染問題が発生して以来、感染拡大は世界的規模で広がっています。その中で、最も驚くのは医療技術面では世界で最も進んでいると言われる米国の感染者と死亡者数がそれぞれ約600万人と約18万人で、いずれも世界の総数の20%を超えて群を抜いていることです。米国にとって戦後最大のベトナム戦争での死者数が93カ月で約58,000人であった事実からすれば、約7カ月間で3倍以上の死者数が出ていることについては、世界有数の先進国とされる米国の異常さを感じさせます。

米国のコロナウイルス感染問題がここまで悲惨な状況になっている最大の原因は、国のリーダーであるトランプ大統領が科学的な知識に欠けており、初期の段階から、誤った指示を出してきたことが大きいと見られます。コロナウイルスの深刻さから専門家グループから何度も、日常生活において外部との距離を保つことやマスクの着用が必要との勧告を受けていたにもかかわらず、そうした警告を軽視して、従来通りに経済活動や日常生活の維持を奨励してしまったことが多数の感染者と死者を発生させてしまったと思います。それと同時に、深刻なコロナウイルス感染問題に対して、無知、無能、無責任なトランプ大統領の誤りを正すことなく、追随してしまう州政府や州民が多いことも米国でのコロナウイルス感染者数や死者数を加速させる原因になっていると思います。

 
4.株価至上主義がもたらす格差拡大とコロナ死者数急増
更に、米国で感染者数や死者数が急増している背景には、米国の資本主義に特有の株価至上主義に象徴される富裕層や大企業を優遇する政策を当然視する風潮があり、それに基づく所得格差や医療格差を容認してしまう考えが米国民の多くに受け入れられていることにも大きな問題があるように思います。特に、こうした傾向は20089月のリーマン破綻後、米国の株式市場が実体経済を反映せず、中央銀行である連銀の低金利政策や量的緩和策による過度な過剰流動性に支配される投機相場となり、20171月に成立したトランプ政権下で、株式市場の投機性が一段と高まってしまったように見られます。今の株式市場は理論がある程度成り立つ業績相場とは異なり、中央銀行や政府のアナウンスメント効果によって、より大きく変動する完全な投機相場の様相を帯びています。

ビジネス経験が長いとされるトランプ大統領ですが、その多くはホテル、高級コンド、ゴルフ場などの投機性の高い不動産の開発プロジェクトであり、彼自身も6回の破産に追い込まれています。不動産開発プロジェクトで失敗したトランプ氏が最後に頼ったのはドイツ銀行を通じてオリガーキと言われるロシアの新興財閥の違法性のある資金でした。こうした投機性の高いビジネスを中心に展開してきたトランプ大統領の経験からすれば、経済優先、特に株価上昇を優先させる政策が最重要となってしまいます。また、彼の考え方の中には常に自己利益を最優先する主義があり、約2000万人の無保険者に道を開いたオバマケアの撤廃だけでなく、究極的にはソーシアルセキュリティーシステム(公的年金制度)も廃止していく方向が示されています。

そして、今は113日の大統領選挙を控え、バイデン候補にリードされている状況の中で、ワクチンの開発に多額の予算をつけたり、安全性が十分確保されていない治療薬について、政府機関に圧力をかけ、早期使用を認めさせるなどを要求しています。実体経済との関係が薄れた株式市場の投資家もそうした表面的なニュースを歓迎し、投機性を一層高め、人命が深く関わっているコロナウイルス感染問題の深刻さを軽視する結果になっているように思われます。

 
5.バイデン氏を正式指名した民主党大会とトランプ党になった共和党大会
817日から20日まで行われた民主党全国党大会で、最終日の820日にバイデン前副大統領は113日の大統領選挙の民主党候補として正式指名を受託しました。今回の民主党全国党大会は本来は7月にウイスコンシン州のミルウォーキーのFiserv Forumで従来と同じように行われる予定でしたが、コロナウイルス感染拡大問題が深刻になっていることもあり、サイズを縮小し、Wisconsin Centerでライブと録音を併用しながら、全米に放送される形で行われました。

バイデン候補の指名受託演説はデラウェア州のウイルミントンのChase Centerからほぼ無観客で行われましたが、演説の中で、トランプ大統領の下で、米国民が感染拡大や経済苦境に翻弄されているのは国家的災厄として強く非難、現職大統領は国に対する最も基本的な責務を怠っており、自分が当選すれば大統領として米国を守ると約束すると明言しました。また、現職のトランプ大統領は米国を長きにわたり、暗黒で覆い隠したとして、自分が当選すれば暗闇ではなく、光の同盟に属すると強調、当選すれば、全ての米国民の代表になると訴えました。

米国のコロナウイルス感染者数と死者数は現在600万人と18万人を超え、世界最悪であることに関連して、トランプ氏が再選されれば米国の感染状況や経済的苦境が長引くことになると警告、トランプ氏がウイルスが消えるであろうと言い続けているが、奇跡は起きない。トランプ大統領には未だに克服するためのプランがないと強く批判しました。バイデン氏は自分が当選すれば、初日に独自のコロナ対策プランを実行に移し、流行抑制を目指して全米でマスクの着用義務化や迅速な検査体制を導入する他、国内に医療物資を備蓄し、学校が安全に再開できるようにすると述べました。
更に、バイデン氏は経済成長の促進に向けた道路や橋、ブロードバンドなどのインフラ建設計画など幅広い政策課題を掲げ、社会保障制度の保護拡大への方針を示し、さらに気候変動問題への取り組みがクリーンエネルギーで世界をリードする機会になるとも述べました。

なお、オバマ大統領はトランプ政権の下で米国の民主主義が危機的な状況になっており、これを正すには米国民が自らの責務で投票することが必要で、コロナウイス感染拡大で郵送投票者数が過去最高になる見通しを踏まえ、早期に投票するように呼びかけました。
一方、825日から開催された共和党は第一日目に現職のトランプ氏とペンス氏を今年113日の大統領候補と副大統領候補に指名しましたが、従来実行してきた共和党の綱領の採択を見送りました。また、ゲストスピーカーにこれまでのように、ブッシュ父子を含めて共和党出身の大統領が出ることもなく、共和党という党の実態が大きく変化してしまったことを窺わせるものでいした。更に、827日に、米国民全体の資産とされるホワイトハウスのローズガーデンで、自らの指名受託演説を行うなど前代未聞の不祥事を起こしました。加えて、2000人近い観客の大半がマスクをせず、ソーシャルディスタンスを守らない無責任な集会となりました(翌日のニューハンプシャーのトランプ遊説演説でも同じことが起きていました)。

ニールセンの調査によれば、民主党大会と共和党大会では4日間の内3日間でテレビの視聴者数は民主党大会が上回り、最終日の両候補の指名受託演説でも、バイデン候補が2460万人で、トランプ候補の2160万人を300万人以上多かったとしています。
なお、共和党内部で、従来共和党の主流派を支えてきたグループが現在ではリンカーンプロジェクト・グループを作り、トランプ候補ではなく、バイデン候補を支援しているなど、今までに前例のない出来事となっています。

いずれにしても、113日の大統領選挙で人命より表面的な株価動向を重視するトランプ大統領にノーを突き付けらえるかという点で、これからの2か月間、コロナウイルス感染問題の行方と共に、投機的な株式市場離れがどの程度進むかのが大統領選挙の鍵になっていくものと見られます。
          (202091日:村方 清)