1.2月の株式市場
1月末から始まった新型肺炎の感染拡大の影響が2月の第4週目に大きく広がり、週間の下落幅は約12%で、2008年の金融危機以来の規模となりました。主要な動きは以下の通りでした。
2月3日:新型肺炎の感染拡大の懸念から前週末に大きく下げた反動で、自律反発狙いの買いが入ったが、肺炎拡大への警戒感も強く、144ドル高(0.51%増加)。
2月4日:中国政府による積極的な経済対策への期待から、新型肺炎の感染拡大による実体経済への懸念が和らぎ、408ドル高(1.44%増加)2月5日:新型肺炎の治療薬の発見に関する報道や中国政府の景気試案策への期待が続き、感染拡大への懸念が和らぎ、483ドル高(1.68%増加)。
2月6日:中国政府が6日、米国からの一部輸入品の関税引き下げを発表し、米中貿易交渉の進展を期待した買いが入り、89ドル高(0.30%増加)。
2月7日:2月の米雇用統計は雇用者増加数が225,000人増で、市場予想の160,000人増を大きく上回り(失業率は3.6%で前月より0.2%増加)、過去3か月分の雇用者数が200,000人を超えたが,高値警戒感からの売りの勢いが強かったことや新型肺炎感染拡大の懸念の大きさから、277ドル安(0.99%減少)。
2月8日:前週に出た米国経済指標が好調であったことや決算発表を終えた米主要企業の業績が堅調であったことなどから、買いが優勢で174ドル高(0.60%増加)。
2月11日:新型肺炎の感染拡大の勢いが弱まりつつあるとの見方から買いが先行したが、パウエル連銀議長の議会証言で金融緩和を示唆する発言がなく、利益確定売りが優勢となって、0高。
2月12日:新型肺炎拡大の勢いが落ち着きつつあるとの見方から投資家がリスク選好姿勢を強め、幅広い銘柄が買われ、275ドル高(0.94%増加)。
2月13日:新型肺炎の認定基準の変更で、中国の感染者数が急増、問題収束に時間がかかるとの懸念からリスク回避姿勢が強まり、128ドル安(0.43%減少)。
2月14日:中国での感染者数の増加が続き、景気への悪影響を懸念した売りが優勢となり、25ドル安(0.09%減少)。
2月18日:新型肺炎の影響で、1-3月期の売上高目標を達成できないと発表したアップルが下落、半導体関連株や中国関連株が大きく売られ、166ドル安(-0.56%減少)。
2月19日:中国政府の積極的な景気支援策で新型肺炎の経済的な悪影響が和らぐとの見方が広がり、116ドル高(0.40%増加)。
2月20日:新型肺炎の拡大に終息の兆しが見られず、中国を中心に景気や企業業績の下押し要因になるとの懸念から、株式の売りが優勢で、128ドル安(0.44%減少)。
2月21日:新型肺炎の感染が中国以外に広がっていることへの懸念や、21日に発表の2月の米企業の景況感も大幅に悪化したことで、多くの株式銘柄が売られ、228ドル安(0.78%減少)。
2月24日:新型肺炎の感染拡大の懸念が急激に拡大し、アジアや欧州が大幅安となった影響を受け、米国株も運用リスクを回避する売りが加速し、幅広い銘柄が売られ 1,032ドル安(3.56%減少)。下げ幅は過去3番目。
2月25日:新型肺炎の感染が米国など世界各地に拡散するリスクが意識され、運用資金が安全資産である米国債に向かい、879ドル安(3.15%減少)。ダウ2日間の下げ幅は1,911ドルとなり、2018年2月に記録した1,840ドルを超え、過去最大。
2月26日:午前中は一時461ドル高になる場面もあったが、ブラジルや米国で感染が拡大し、感染が収束に向かう時期は予測不可能との見方から、124ドル安(0.46%減少)。
2月27日:新型肺炎の急激な感染拡大の懸念から、米企業の業績予想の相次ぐ未達状況や安全資産とされる米国債が買われ、長期金利が過去最低を更新、1191ドル安(4.42%減少)。下げ幅は過去最高。
2月28日:新型肺炎の感染拡大で世界経済が停滞するとの懸念が一段と強まり、一時1085ドル安まで下げたが、パウエル連銀議長が早期利下げの可能性を示唆したところから下げ幅を縮め、357ドル安(1.39%減少)。1週間での下落率は約12%で、2008年の金融危機以降で最大。
米労働省が2月7日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比225,000人の増加で、市場予想の160,000人増を上回りました。11月の雇用者数の確定値は261,000人で5,000人の増加、12月の改定値は147,000人で2,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約210,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を再び上回りました。なお、12月の失業率は3.6%で、前月と比べて0.1%上昇しました。労働参加率は63.4 %で、前月より0.2%増加しました。12月の時間当たり賃金上昇率は前月比で7セント上昇し、前年同月比では3.1%増となりました。部門別では建設業が44,000人の増加、ヘルスケアが36,000人の増加、レジャー・観光業が36,000人の増加、運輸・倉庫業が36,000人の増加となりました。一方、製造業は12,000人の減少となりました。
1月末に中国で発生した新型肺炎の感染拡大の影響は、中国本土だけでなく、日本や韓国、イラン、そして欧州のイランまで広がりを見せています。米国でも25日に疾病センターが新型肺炎が、米国でも広がる可能性を示唆したことから、前日のダウの1,032ドルの大幅下落に続き、879ドル安となりました。2日間の下げ幅は1,911ドルで、2018年2月に起きた1,840ドルを超え、史上最大となりました。
米国で株価の大幅下落調整が起きた原因としては、大きく3つの要因が考えられます。第1の要因は中国が現在、自動車や電子・電機製品など主要産業のの部品供給の上で、グローバルなサプライチェーンの中心的な役割を担っており、中国で約80,000人の感染者が出たことにより、当面、その役割が担えなくなったことです。特に感染者の増加が続き、多くの中国の工場で生産再開が遅れれば、中国からの部品が届かず、完成品の生産にも深刻な影響を与えることが予想されます。第2の要因は新型肺炎の感染拡大の影響が強まると、中国国民の消費需要が低迷し、中国市場で売上高の大きな米国企業にとっては売り上げの不振と業績の悪化が懸念されることになります。第3に、現在の異常に高い株価水準は連銀による長期の金融緩和策に加え、トランプ政権による株価引き上げ目的の大型減税など人為的な政策によって達成されています。それは、株価引き上げが政権維持の手段として使われ、実体経済との乖離が大きくなっていることを意味しています。以前であれば、実体経済を反映した適正株価収益率などを通じて、行き過ぎた株高には調整作用が働きましたが、現在は大規模な金融緩和策が続く中で、過剰な資金が株式市場に流入、歯止めのない株高水準が続いていることになります。今回の新型肺炎の患者数の急増はこうした人為的な株価誘導策に引き上げられた株価の高水準を調整に向かわせる可能性があります。
4.民主党の大統領候補指名争い
民主党は問題が多すぎる共和党のトランプ大統領の再選を阻止すべく、多くの候補者が名乗りを上げ、激しい指名争いを続けています。これまでのところ、アイオア州、ニューハンプシャー州、ネバダ州で、多くの党員の支持を獲得したサンダーズ候補がトップを走っています。特に、彼が主張する国民皆保険、公立大学の無償化などは、若者を中心に支持を集める要因となっています。
しかしながら、サンダーズ候補の主張には、国民皆保険や公立大学の無償化には巨額の財源が必要ですが、彼をそれを未だに示していません。彼がモデルとする北欧の社会民主主義には富裕層や大企業だけでなく、国民の大多数が高負担・高福祉の政策を支持している背景があるにもかかわらず、それを明示することなく、理念だけで米国民に訴えている状況です。この点、サンダーズ候補が指名されるかどうかは今後の展開次第であり、時期尚早と言えます。また、仮にサンダーズ候補が指名を受けても、財源の裏付けのない提案をし続ける限り、与党候補のトランプ大統領や共和党から直接大きな批判を受けることになり、民主党が大統領に返り咲く可能性は高くないように思われます。
(2020年3月1日: 村方 清)