Sunday, August 2, 2020

コロナウイルス問題と投機性を強める株式市場














1.7月の実績
7月の株式市場は、前半では新型コロナウイルスのワクチン開発の期待から回復基調が続きましたが、後半になるとトランプ政権に合意して経済活動再開に踏み切った幾つかの州で急激に感染者が増加、46月期GDP32.9%の大幅減少も加わり、下落傾向となりました。主要な動きは以下の通りでした。

71日:良好な米経済指標や新型コロナウイルスのワクチン開発が順調に進んでいるとの見方から買いが先行。但し、感染拡大への懸念は根強く、取引終了にかけて売りが優勢になり、78ドル安(0.30%減少)
72日:6月の雇用統計の市場予想以上の改善を好感した買いが優勢だったが、新型コロナウイルス感染再拡大の懸念は強く、買い一巡後は上げ幅を縮め、92ドル高(0.36%増加)
76日:ISMの6月非製造業景況感指数が前月比11.7%上昇の57.1となり、中国の上海総合指数も6日に5.7%上昇、世界景気の回復期待で買いが優勢で、460ドル高(1.78%増加)
77日:新型コロナウイルスの感染拡大で経済活動の再開の動きが緩やかになるとの警戒感が根強く、景気敏感株を中心に売りが優勢で、397ドル安(1.51%減少)
7月8日:新型コロナウイルス感染拡大への警戒感から前日終値を挟んでもみあったが、業績期待のハイテク株に買いが入り、177ドル高(0.68%増加)。
79日:米国の南西部の州を中心に新型コロナウイルスの感染拡大が続き、米経済活動の正常化が遅れるとの見方から、金融や資本財など景気敏感株が売られ、361ドル安(1.39%減少)
710日:新型コロナウイルスの治療薬やワクチンの研究開発の進展を示す報道が相次いだことから、投資家心理が改善し、369ドル高(1.44%増加)。
713日:新型コロナウイルスのワクチン開発が進むとの期待から買いが優勢であったが、午後に入り、ハイテク株を中心に利益確定売りが出て、急速に伸び悩み、11ドル高(0.04%増加)。
714日:出遅れていた資本財や石油など景気敏感株に多くの買いが広がったことやFRBの高官の緩和的な金融政策継続発言で、557ドル高(2.13%増加)
715日:新型コロナウイルスのワクチン開発への期待が高まり、コロナが逆風となる銘柄を中心に買いが優勢となって、228ドル高(0.85%増加)
716日:米新規失業保険申請件数が130万件と前週と変わらないことや新型コロナウイルス感染者数が6万人を超える水準のため、雇用回復遅れの懸念が強まり、135ドル安(0.50%減少)
717日:ミシガン大学の7月消費者態度指数が前月から4.9ポイント下落の73.2となり、米景気回復の勢いが鈍るとの懸念で売りが優勢で、63ドル安(0.23%減少)
720日:決算発表が近づき、業績期待の高い大型ハイテク株が買わえ、相場上昇をけん引したため、9ドル高(0.03%増加)。
721日:EUの首脳会議で新型ウイルスに関する復興基金案で合意、欧州の景気の持ち直しにつながるとの見方から投資家心理が改善、景気敏感株に買いが出て、160ドル高(0.60%増加)
722日:米製薬のファイザー社が新型ウイルスのワクチン臨床試験に成功すれば、米政府から大量に受注すると発表、実用化への期待が高まり、165ドル高(0.62%増加)。
723日:米国の週間新規失業保険申請件数が1416千件と市場予想の130万件を上回ったことに加え、アップルとマイクロソフトが大幅安で、354ドル安(1.31%減少)
724日:四半期決算と同時に最先端半導体の発売遅れを発表したインテルが急落、かつ相互に領事館閉鎖を発表した米中関係の悪化への懸念から、182ドル安(0.68%減少)
727日:米政府による追加の経済政策への期待やコロナワクチン開発の前進の報道に加え、アナリストの目標株価引き上げを受けた主要IT株も上昇、115ドル高(0.43%増加)。
728日:市場予想を下回る四半期決算を発表したスリーエムやマクドナルドが大幅安で、原油先物相場の下落を受けて石油株も売られ、205ドル安(0.77%減少)
729日:2829日のFOMCでゼロ金利政策と国債などの資産購入維持を決めたこともあり、金融緩和が長期化するとの見方が強まり、160ドル高(0.61%増加)
730日:米国の46月期もGDPが前期比32.9%減と過去最大の減少幅であったことや週間の米新規失業保険申請件数と失業給付の継続受給者が共に前週から増加したことを受けて、景気敏感銘柄である金融、資源、及び資本財が売られ、226ドル安(0.85%減少)。
731日:30日夕に市場予想を上回る46月期の決算を発表したアップルが10%高となり、他のハイテク株も好調で、115ドル高(0.44%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が71日に発表した6月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比4,800,000人の増加で、市場予想の3,000,000人をはるかに超えることになりました。4月の雇用者数の確定値は2,800,000人で100,000 人の減少、5月の改定値は2,700,000人で、200,000人の増加となりました。なお、6月の失業率は11.1%で、前月と比べて2.2%改善しました。労働参加率は61.5%で、前月から0.7%増加しましたが、2月の水準からは依然19%低い水準にあります。
6月の時間当たり賃金上昇率は前月比で35セント減少しました。部門別ではレジャー・観光業が2,100,000人の増加、飲食業関係が1,500,000人の増加、小売業が740,000人の増加、教育・ヘルス業関連が568,000人の増加となりました。


3.トランプ大統領のコロナウイルス対応の問題点
7月に入り、1日当たりの米国のコロナウイルス感染者数は6万人を超え、累計感染者数は4百万人を超える状況になっています。当初はニューヨークやロサンゼルスなど大都市での感染者数の増大が問題でしたが、今はテキサス州やフロリダ州など、トランプ大統領に迎合し、彼の政策に基づいて経済活動再開に積極的であった共和党が州知事であるところに感染者数が急増しているのが特徴です。トランプ大統領の問題点はこれまで行政経験ば皆無であることに加え、全ての言動が11月の大統領選挙の再選を目指す自己利益優先主義にあるために、物事を科学的かつ客観的に捉える力が著しく欠如、コロナウイルス感染拡大状況にもかかわらず、全米に適用すべき有効な対策を提言、実行できないことにあります。


4.米中間の対立は貿易・経済から政治・体制へ
米中間の対立は今年115日の貿易協議の第1段階の合意文書の署名となった時に対立改善に向かうと期待されました。しかし、昨年12月に中国の武漢で起きたコロナウイルス感染拡大がその後、米国にも深刻な悪影響を及ぼし始めたことから、対中強硬派の多いトランプ政権から多くの批判が中国の共産党政権に向けられるようになりました。

その代表的なものはポンペオ国務長官で、彼が723日にカリフォルニア州のニクソン元大統領記念図書館で演説は多くの注目を受けることになりました。ポンぺオ国務長官は、その中で、ニクソン元大統領ら米国の歴代政権が取り組んできた中国の経済発展を支援すれば、中国の民主化が促進されるという関与政策は失敗であったと位置づけました。その上で、現在の習近平国家主席は全体主義の信奉者であり、共産主義に基づく覇権への野望から、米中両国の根本的な政治的、イデオロギーの違いは無視できないと警告しました。また、中国共産党に行動転換を促すためには、民主主義国家が新たな同盟を構築して、共産主義の中国を変える必要があること、もしそれができなければ、中国が民主主義国家を変えてしまう結果になりかねないとの懸念も強調しました。

自由・民主主義国家による中国包囲網の構想は19896月の中国共産党による天安門事件でデモ隊への武力弾圧政策後にも見られましたが、その後の西側諸国の経済停滞が自らの政策を変えさせ、再び経済政策優先で中国への経済協力になってしまいました。特に、1980年代後半のバブル経済が崩壊した日本では、1992年に巧妙な江沢民主席の策略で天皇が中国訪問したことにより、日本政府の指導もあり日本企業による中国企業へ協力が急速に進む結果をもたらしてしまいました。そして、そのことが日本企業に対抗して、欧米企業の中国進出へ拍車をかけ、中国包囲網を崩れる結果になりました。その意味で、今回はポンぺオ国務長官の警告と提案にあるように、習近平による中国共産党独裁政権の覇権主義に厳しく対抗するには、強固な自由・民主義国家の同盟構築が不可欠であるように思われます。


5.FOMCの金利据え置き
FOMCは7月2829日に開催されたFOMC会合を開き、金利据え置きと米国債を制限なく購入する量的緩和策などの維持を決めました。会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。FRBはこの試練のときに米経済を支え、雇用の最大化と物価の安定化の目標を推進するためにあらゆる手段を使うことを約束する。新型コロナウイルスの感染拡大は、米国と世界中に甚大な人的・経済的困難をもたらしている。経済活動と雇用は大きく落ち込んだ後、ここ数カ月はやや持ち直しているが、依然として今年初めの水準を大きく下回っている。弱い需要と著しく低い石油価格が、消費者物価の上昇率を押し下げている。経済および米国の家計と企業の信用の流れを支える政策措置もあり、金融情勢は全般的に、ここ数カ月改善した。

景気の動向は、ウイルスの拡大状況に大きく左右される。現在続いている公衆衛生の危機は、短期的には経済活動、雇用、インフレにとって大きな重荷となり、中期的には経済見通しにとって深刻なリスクとなる。

こうした状況を考慮して、FOMCは(政策金利である)フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを00.25%に据え置くことを決定した。経済が足元の状況を乗り切り、最大雇用と物価安定の目標達成に向け軌道にのったと自信をもてるようになるまで、この目標レンジを維持すると予測している。FOMCは、公衆衛生関連の情報も含めた経済見通し、海外の動向、抑制されたインフレ圧力についての情報の監視を続け、経済を支えるために、その手段を用いて適切に行動する。
金融政策のスタンスを調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化と物価上昇率2%という目標との比較で経済情勢の実績と見通しを評価していく。労働市場の状況に関する指標や、インフレ圧力・インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
家計と企業の信用の流れを支えるために、FRBは今後数か月、少なくとも現状のペースで、国債、住宅および商業不動産ローン担保証券の保有を増やす。そうすることで、円滑な市場機能を維持し、より広範な金融情勢への政策の効果的な伝搬を促進する。加えて、公開市場デスクは、大規模なオーバーナイトおよびタームのレポ操作の提供を続ける。
FOMCは、市場情勢を注視し、適切にその計画を調整する準備をする。
決定はパウエル議長及びウィリアムズ副議長を含む10人のメンバー全員の賛成による。
今回の決定は、新型コロナウイルスの再拡大で、個人消費や雇用回復が減速してrいるとの懸念から、現状のゼロ金利政策と量的緩和策をともに維持すると同時に、次回の会合で追加策を検討する考えも示唆したこともあり、市場の反応は前向きで、ダウ平均価格はは160ドル高(0.61%増加)となりました。
         (202081日: 村方 清)