1.1月の株式市場
1月の株式市場はバイデン政権への政策期待もあり株価上昇傾向が続きましたが、その一方、個人投資家の投機的な取引が引き起こしている面も指摘され、市場の警戒感から月末に大きく下落することになりました。主要な動きは以下の通りでした。
1月4日:5日のジョージア州の上院決戦投票を前に、持ち高調整や利益確定売りが優勢だったこと及び新型コロナウイルス感染拡大から、383ドル安(1.25%減少)
1月5日:5日発表の米サプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数が60.7と前月より改善したことや新型コロナウイルスワクチンの普及を受け、景気敏感株を中心に買いが優勢で、168ドル高(0.56%増加)。
1月6日:ジョージア州の米上院決選投票で民主党候補が2議席を獲得し、上下両院の過半数を制するとの見方が強まり、経済拡大策が見込まれることで、438ドル高(1.44%増加)。
1月7日:民主党が大統領と上下両院の過半数を取ることが決定し、追加の経済政策の期待と昨年12月のISM非製造業景況感指数が57.2で前月から上昇したことで、212ドル高(0.69%増加)。
1月8日:朝方発表の12月の雇用統計で雇用者数が前月比14万人減となったが、民主党政権が経済支援策実施する可能性が高く、業績期待で主要ハイテク株が買われ、57ドル高(0.18%増加)。
1月11日:主要株指数は前週末まで連日で最高値を更新しており、主力ハイテク株を中心に利益確定売りが優勢で、89ドル安(0.29%減少)。
1月12日:バイデン政権による経済対策への期待などから石油や金融株などの景気敏感株が買われ、60ドル高(0.19%増加)。
1月13日:現在の株価は過去最高値にあり、上昇が目立っていた景気循環株に利益確定売りが出て、8ドル安(0.03%減少)。
1月14日:バイデン次期政権が14日に発表する追加経済対策への期待から買いが先行したが、取引終了にかけて、発表内容を見極めたいムードが広がり、69ドル(0.22%減少)。
1月15日:バイデン次期政権が14日夜に1.9兆ドル規模の追加経済対策案を発表したが、反応は乏しく、12月の小売売上高が前月比0.7%減と予想を下回り、177ドル安(0.57%減少)。
1月19日:バイデン次期政権が掲げる大型の経済政策やワクチン普及への期待から、景気敏感株やハイエク株が買われ、116ドル高(0.38%増加)。
1月20日:バイデン氏が米国大統領に就任し、大型の経済対策の成立や新型コロナウイルスワクチンの普及が進むとの観測から、258ドル高(0.83%増加)。
1月21日:前日に過去最高値を更新したことで利益確定売りが取引終了にかけて強まり、12ドル安(0.04%減少)。
1月22日:バイデン政権が提案する1.9兆ドル規模の経済政策に反対する議員が多くなっているとの報道が伝えられ、早期成立の不透明感が強まり、179ドル安(0.57%減少)。
1月25日:米製薬大手のメルクがコロナワクチンの開発を中止すると発表、ワクチン普及に不透明感が漂い、経済正常化の遅れへの懸念から、37ドル安(0.12%減少)。
1月26日:新型コロナウイルスの新規感染者の急増で世界的に景気回復が鈍るとの見方が広がり、売りが優勢で、23ドル安(0.07%減少)。
1月29日:新興ネット証券のロビンフッドが価格変動の大きい銘柄に対する取引制限を緩和、個人投資家の投機的な取引への警戒感から幅広い銘柄に売りが出て、621ドル安(2.03%減少)。
3.バイデン政権発足
民主党のバイデン氏は1月20日に第46代大統領に就任しました。バイデン政権は優先的な政策課題をコロナ対策、経済再生、気候変動、人種平等、米国の世界的な地位回復などとしており、これらの分野で就任初日から多くの大統領令に署名を行い、トランプ政権からの政策転換を推進しています。初日に大統領令が署名されたのは、世界保健機関からの脱退の撤回、パリ協定の復帰、イスラム諸国を対象の入獄制限の緩和、国境の壁建設の中止などが含まれます。
バイデン政権は1月21日に「新型コロナ対応とパンデミック対策のための国家戦略を発表し、政権発足から100日で1億回分のワクチン接種、公共機関でのマスク着用化や検査拡大による感染抑制、学校再開などの政策目標を掲げました。
また、経済再生には1月14日に発表した米国救済計画には、家計向けの1人当たり1,400ドルの直接給付、州・地方政府に対する財政支援、失業覇権の拡充などを織り込みました。
バイデン政権は上下両院で与党民主党が過半数を占める安定政権ですが、両院とも与野党の議席数が拮抗しているため、政権運営では野党共和党のみではなく、与党民主党の左派にも配慮する必要があり、議会での調整手腕が評価されたバイデン大統領の手腕が問われることになります。
4.FOMCの金利据え置き
FRBは1月26-27日にFOMC会合を開き、金利据え置きと米国債を制限なく購入する量的緩和策などの維持を決めました。会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。FRBはこの試練のときに米経済を支え、雇用の最大化と物価の安定化の目標を推進するためにあらゆる手段を使うことを約束する。新型コロナウイルスの流行は米国と世界中に甚大な人的・経済的困難をもたらしている。経済活動と雇用はここ数カ月は緩やかになっており、パンデミックによる打撃がもっとも大きかった産業に弱さが集中している。弱い需要と先の石油価格の下落が、消費者物価の上昇率を押し下げている。経済および米国の家計と企業の信用の流れを支える政策措置もあり、金融情勢は全般的に依然として緩和的だ。
景気の動向は、ワクチン接種の進捗も含め、ウイルスの拡大状況に大きく左右される。現在続いている公衆衛生の危機は、引き続き、経済活動、雇用、インフレにとって大きな重荷となり、経済見通しにとって深刻なリスクとなる。
FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。物価上昇率がこの長期目標を下回る状態が続いていることから、当面は2%よりやや上のインフレ率を目指す。そうすることで、インフレが長期的に平均2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする。
これらの成果が出るまで金融政策の緩和的なスタンスを維持することを予測している。
FOMCは(政策金利である)フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0~0.25%に据え置くことを決定した。労働市場の情勢がFOMCの雇用最大化の判断と一致する水準に達し、インフレが2%に上昇、当面2%をやや上回るところで軌道にのるまでこの目標レンジの維持が適切と予測する。
雇用最大化と物価安定の目標に向けてさらなる大きな前進を遂げるまで、FRBは国債保有額を少なくとも月800億ドル、ローン担保証券の保有を少なくとも月400億ドル引く続き増やす。こうした資産購入は円滑な市場機能を維持し、緩和的な金融情勢を促進し、家計と企業の信用の流れを支える。
金融政策のスタンスを調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは引き続き、景気見通しについて経済指標が示す意味を注視する。目標達成を妨げるリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する準備がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力・
インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
決定はパウエル議長及びウィリアムズ副議長を含む11人のメンバー全員の賛成による。
今回の決定は、会合後の記者会見でパウエル議長が指摘したように、新型コロナウイルスの拡大で、景気回復のペースを緩やかになっているとの認識で、現状のゼロ金利政策を維持すると同時に、米国債などを大量に買い入れる量的緩和の指針を強化して、米国債などの購入を完全雇用と物価安定に近づくまで継続すると表明したことにあります。市場の反応は前向きであったものの、ボーイングやAMDなどが予想以上に悪化した4半期決算を発表、それが主力ハイテク株にも影響、634ドル安で最大の下げ幅となりました。
(2021年2月1日: 村方 清)