1.2月の株式市場
2月の株式市場はバイデン政権による追加経済対策の期待もあり、2月の終わりの週まで株高基調が続きましたが、2月22日と25日に米長期金利が急上昇したことから、両日とも高い株価収益率の銘柄を中心に売りが広がる展開になりました。主要な動きは以下の通りでした。
2月1日:前週まで市場の混乱を招いていた個人の投機的な売買が弱まり、買いが優勢であったことやISMの米製造業景況指数が58.7と50を上回ったことで、ダウは229ドル高(0.76%増加)
2月2日:ゲームストップなど個人投資家の投機的な買いで高騰していた銘柄が大幅に続落、相場が安定化すると同時に、追加の経済対策への期待も高く、476ドル高(1.57%増加)。
2月3日:バイデン政権が財政調整法を活用して単独で追加経済対策を成立させる手続きを進めており、米長期金利が上昇し、金融株が買われ、36ドル高(0.12%増加)。
2月4日:新規失業保険申請件数は779千人で市場予想の830千人を下回ったことや下院が2021会計年度の予算議案を可決したことで、上院で単独で追加経済対策を成立する道が開かれたことで金融などの景気敏感株が上昇、332ドル高(1.08%増加)。
2月5日:5日発表の1月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は49,000人で市場予想に届かなかったが、米上下両院が予算決議案を可決したことで、バイデン政権の追加経済政策が成立に向けて前進したとの見方で、92ドル高(0.30%増加)。
2月8日:米国の追加経済対策が早期に成立し、景気回復を後押しするとの期待から買いが優勢で、景気敏感株を中心に上昇し、238ドル高(0.76%増加)。
2月9日:前日に過去最高値を更新したことから、景気敏感株に利益確定売りが出たが、一方で、民主党が単独で大型の経済対策を成立させるとの観測で、10ドル安(0.13%減少)。
2月10日:インフレ圧力の弱さから。金融緩和の長期化が予想されることや米企業決算の好調さから、62ドル高(0.20%増加)。
2月11日:前日に過去最高値を更新しており、年初から上昇が目立っていた景気敏感株の一角に利益確定売りが出て、7ドル安(0.02%減少)。
2月12日:新型コロナウイルスのワクチン普及や米政府による追加経済対策の成立で、景気回復が早まるとの期待から買いが優勢で、金融や素材等の景気敏感株が上昇、28ドル高(0.09%増加)。
2月16日:追加経済政策の早期成立や新型コロナウイルスのワクチン普及への期待から買いが優勢であったが、長期金利の上昇を受けて主力ハイテク株の一角が売られ、64ドル高(0.20%増加)。
2月19日:米政府の追加経済対策や新型コロナウイルスワクチンの普及が景気回復の後押しするとの期待の中で、長期金利が上昇し、1ドル高(0.00%)。
2月22日:米長期金利の上昇で売りが先行したが、米国の追加経済対策や経済活動正常化期待で、27ドル高(0.09%増加)。ナスダックは341ドル下落(2.46%減少)。
2月23日:米長期金利の上昇を受けてハイテク株を中心に売りが先行したが、パウエル連銀議長が午前の議会証言で金融緩和の長期化を示唆したことで、上げに転じ、16ドル高(0.05%増加)。
2月24日:J&Jの開発するコロナウクチンがFDAの承認を受け経済が正常化するとの期待から、金融や石油株などの景気敏感株を中心に買いが広がり、425ドル高(1.35%増加)。
2月26日:投資家の慎重姿勢が強まり、持ち高調整や利益確定目的の売りが優勢で、金融や日用品などの景気敏感株が売られ、470ドル安(1.50%減少)。
この見方に反論したのがクルーグマン博士で、新型コロナウイルスによって破壊された経済の需給ギャップはあまりに大きく、バイデン政権による追加経済対策の規模への懸念は当たらないとしています。また、イエレン新財務長官も就任以来、何百万人もの失業者が溢れている現状への危機感から、財政政策で大きく動く必要性を唱え、連邦議会に速やかな行動を呼びかけています。
こうした意見の違いに加えて、最近の金融市場で気になるのはの長期金利が急上昇していることで、2月25日には10年物米国債利回りは上昇の目安とされた1.25%を一気に超え、1.61%まで上昇しました(その日のダウは560ドル安)。また、30年物米国債利回りも上昇を続け、FRBのインフレターゲットとされる2%を超え、2.19%まで上昇しました。その影響は株式市場にも影響を与え、株価収益率(PER)が高すぎるとされるハイテク株を中心に市場での売り圧力が強まっています。
一方、連銀のパウエル議長は2月23日の上院銀行委員会での公聴会で、最近の長期金利上昇は経済再開や経済成長への市場の期待の表れであるとして、当面は静観する姿勢を示しました。また、一部のエコノミストによるインフレ懸念についても、2020年に急低下した反動で今年は上振れする可能性があるものの、長続きするようなものではないとの1月末のFOMCでの結論を強調しました(下記の議事録参照)。
4.FOMCの長期金融緩和策維持の背景
FRBは2月17日に、1月26-27日に行われたFOMCの会議議事要旨を公表しました。それによると、執行部が2021年4-6月期にインフレ率が2%を超えるとの予測を提示、理由として新型コロナ危機が深刻になった2020年4月にインフレ率は大幅に鈍化しており、2021年にはその反動が予想されるとしました。しかしながら、同時に、インフレ率は2021年末には再び2%を下回って終わるとの見通しを示しました。パウエル連銀議長などの会議参加者も一時的なインフレと、底流としての物価の動向を区別することが重要として、物価の上昇は長続きしないと結論づけました。そして、FRBは一定期間、緩やかにインフレ率が2%を上回ることを当面の目標とするが、その時期は2023年以降と分析しています。このために、金融政策面でも、全ての会議参加者が現行の低金利政策と資産購入ベースの維持を支持したとしています。FRBが金融緩和縮小論を警戒するのは長期金利の上昇を招くことを警戒していることがあり、金利の急上昇は景気回復に水を差さないように、慎重に出口論に対応していくものと見られます。
(2021年3月1日: 村方 清)