Thursday, July 1, 2021

FRBの量的緩和縮小論に揺れる市場


 







1.6月の株式市場

6月の株式市場は61516日に開催されたFOMCで物価の急激な上昇を理由に、量的緩和の縮小(テーパリング)に言及したことから、直後は大幅に下落しました、しかし、その後、FRB内部でも否定的な見方も伝えられ、再び上昇傾向に転じています。主要な動きは以下の通りでした。

61日:米サプライマネジメント協会(ISM)が61日に発表した5月の米製造業景況感指数が61.2と先月から上昇したことや新型コロナワクチンの普及が進み、旅行・レジャーを中心に経済亜活動の再開を後押しするとの見方が強まり、46ドル高(0.13%増加)。

62日:経済活動の正常化への期待が強く、消費関連や石油株など景気敏感株に買いが優勢であったが、過去最高値への警戒感もあり、25ドル高(0.07%増加)。

63日:市場予想を上回る米経済指標が相次ぎ、長期金利が上昇、これを受けて金融株が買われた半面、高株価収益率のハイテク株が売られて、23ドル安(0.07%減少)

64日:4日発表の5月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比559,000人増で市場予想の671,000人を下回り、量的緩和の縮小観測が後退し、米長期金利が低下、ハイテク株など高株価収益率株が買われ、179ドル高(0.52%増加)。

67日:最初は買いが先行したが、次第に景気敏感株の一部が利益確定目的の売りに押されて相場の重荷となり、126ドル安(0.36%減少)。

68日:ダウ平均が過去最高値に近づき、高値警戒感で売りが出て、30ドル安(0.09%減少)。

69日:57日に付けた過去最高値が近づき、高値警戒感から売りが優勢だったことや明日の5CPI発表を控えて持ち高調整の売りが出て、153ドル安(0.44%減少)

610日:10日発表の5月の米消費者物価指数は前月比5%増と加速したものの、特定品目の大幅な上昇の影響が大きく、長期金利の上昇にはつながらなかったことから、ハイテク株の一部に買いが入り、19ドル高(0.06%増

611日:ダウ平均は過去最高値圏にあり、高値警戒感の売りも出て上値は重く、来週のFOMCの結果を待ちたいとの投資家の姿勢もあり、13ドル高(0.04%増加)。

614日:ダウ平均が最高値にあり、1516日のFOMCを前に持ち高調整の売りが出て、85ドル安(0.25%減少)。

615日:16日のFOMCの結果発表を前に、様子見ムードが強まり、過去最高値圏で推移していることから、持ち高調整の売りが優勢で、94ドル安(0.29%減少)。

616日:FOMCが午後に発表したFOMCの結果を受け、金融政策の正常化が予想以上のペースで進むとの見方が広がり、売りが優勢で266ドウ安(0.77%減少)。

617日:前日のFOMC2023年に2回の利上げが予想されるとして、景気過熱やインフレを見込んだ取引を手しまう動きが広がり、210ドル安(0.62%減少)。

618日:FRBが利上げ開始を前倒しするとの観測が強まり、金融緩和の縮小が想定以上のペースが進めば、景気を抑制し、株式市場への資金流入が細くなるとの見方から売りが広がり、533ドル安(1.58%減少)

621日:前週の大幅な下げは過剰反応との見方が出て、世界経済の力強い回復が株高をさ支えるとの見方が広がり、587ドル高(1.76%増加)。

622日:FRBのパウエル議長が議会証言で早期利上げを懸念させる発言がなく、投資家の安心感につながり、主力ハイテク株が買われ、69ドル高(0.20%増加)。

623日:前日のパウエル連銀議長の議会証言を受けて買いが先行したが、今週に入り上昇が目立っていた景気敏感株の一角に利益確定売りが出え、71ドル安(0.21%減少)。

624日:バイデン大統領が上院の超党派議員グループとインフラ投資法案で合意したと表明し、

インフラ支出拡大への期待が高まり、322ドル高(0.95%増加)。

625日:前日に好決算を発表したナイキがダウ平均をけん引、株主還元策強化の期待から金融株も買われ、237ドル高(0.69%増)

628日:物価上昇は一時的との見方が広がり、米長期金利が低下、景気敏感株を中心に売りが優勢で、151ドル安(0.44%減少)。

629日:29日発表の米消費者信頼感指数は前月比7.3ポイント高い127.3で、市場予想を上回り消費関連株が買われたが、ダウは過去最高値圏にあり、上値は重く、9ドル高(0.03%増加)

630日:朝方発表の雇用関連指標が市場予想を上回り、米労働市場の改善に伴う景気回復期待から、景気敏感株や消費関連株の買いが目立ち、211ドル高(0.61%増加) 


2.米国の雇用状況 
米労働省が64日に発表した5月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比559,000人の増加で、市場予想の671,000人の増加を下回りました。3月の雇用者数の確定値は785,000人で15,000 人の増加、4月の改定値は278,000人で、12,000人の減少となりました。なお、5月の失業率は5.8%で、前月より0.3%下がりました。労働参加率は61.6%で、前月から0.1%減少しました。5月の時間当たり賃金上昇率は前月比で15セント増加しました。部門別では観光・ホテル業が292,000人の増加、教育関連サービス業が124,000人の増加、介護や他の社会サービス業が46,000人の増加、製造業が23,000人の増加となりました。  

3.金融緩和縮小を示唆したFOMC会合

FOMC会合が61516日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。FRBはこの試練の時に米経済を支え、雇用の最大化と物価の安定の目標を推進するために、あらゆる手段を使うことを約束する。 

新型コロナウイルスの感染は、米国ではワクチン接種の普及で減ってきている。この進捗と力強し政策支援を受け、経済活動と雇用の指標は強さを増している。パンデミックによる打撃が最も大きかった産業は依然弱いが、改善を示している。物価上昇率は、主に一時的な要因を反映して上昇した。経済及び米国の家計と企業の信用の流れを支える政策措置もあり、金融情勢は全般に依然として緩和的だ。景気の動向は、ウイルスの拡大状況に大きく左右されている。ワクチン接種の普及により、公衆衛生の危機が景気に及ぼす影響は引き続き小さくなる可能性が高いものの、経済の先行きへのリスクは残っている。 

FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。物価上昇率がこの長期目標を下回る状態が続いていることから、当面は2%よりやや上のインフレ達成を目指す。そうすることで、インフレ率が長期的に平均で2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする。これらの成果が出るまで、金融政策の緩和的なスタンスを維持すると予測している。 

FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを00.25%に据え置くことを決定した。労働市場の情勢がFOMCの雇用最大化の判断と一致する水準に達し、インフレ率が2%に上昇して当面2%をやや上回るところで軌道に乗るまで、この目標レンジを維持することが適切と予測する。

雇用最大化と物価安定の目標に向けてさらなる大きな前進を遂げるまで、FRBは国債保有を少なくとも月800億ドル、ローン担保証券の保有を少なくとも月400億ドル引き続き増やす。こうした資産購入は円滑な市場機能と緩和的な金融情勢の促進を助け、家計と企業の信用の流れを支える。

金融政策の適切なスタンスを判断するにあたって、FOMCは引き続き、景気見通しについて経済指標が示す意味を注視する。目標達成のリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する準備がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む11人のメンバーの賛成による。

パウエル議長は会合後の記者会見で、FOMCは資産購入策について議論することを決めたとして、量的緩和の縮小(テーパリング)に言及しました。これにより、市場はFRBが緩和的な金融政策の縮小に向けて準備を始めたとの見方が広がり、ダウ平均は266ドル安(0.77%減少)となりました。


4.バイデン政権がインフラ投資計画で上院超党派グループと合意

バイデン大統領は624日に、上院超党派グループとホワイトハウスで会談し、5年間で約9730億ドルを充てるインフラ投資計画で合意しました。バイデン政権が当初提案していた総額2兆ドル規模から大幅に縮小したものの、超党派での法案成立に向けて前進しました。合意したのは民主党10名と共和党11名のグループがまとめた計画で、道路や橋、水道、高速通信網などインフラ事業に5年間で約9730億ドル、8年間で12090億ドルを投じる内容で、約5790億ドルの新規歳出が含まれています。 

今回のインフラ投資計画の財源は米国歳入庁の課税強化や過去に成立した新型コロナウイルス経済対策の未使用分で賄う予定です。バイデン政権は当初、法人税を現行の21%から28%に引き上げることを提案しましたが、共和党は譲れない一線と増税に反対したため、見送った経緯があります。

米国の高速道路の半分以上が建設から50年以上が経過するなど、インフラ網の老朽化が進んでいるものの、従来の政権はインフラ投資計画をが党派対立に阻まれて実現できなかっただけに、今回、バイデン政権が超党派の合意に漕ぎつけた政治的成果は大きいと見られます。 

その一方、法案可決への道のりは険しいものがあります。超党派法案は、道路や橋などの伝統的なインフラ投資に重点を置き、バイデン政権が提案した住宅や地域福祉など人的インフラへの投資は削除しました。環境や福祉政策を重視する民主党左派はこれに反発しており、超党派案が民主党議員の反対で否決される恐れもあります。民主党内の分裂を避けるために、バイデン政権と民主党指導部は超党派安に盛り込まかた気候変動対策や子育て教育支援を柱とする1.8兆ドル規模の格差是正計画を別の大型歳出法案としてまとめる構えです。しかし、大型歳出法案は、法人増税や富裕層増税など財源とする計画のために共和党の賛成は見込めません、このため、法案採決に原則60票の賛成が必要な上院で、過半数での可決が可能となる財政調整措置と呼ばれる特別措置を活用し、50席で成立可能な民主党単独での可決を目指そうとしています。 

但し、民主党の一部穏健派は民主党単独採決には難色を示しており、民主党が上院で50票の賛成票を確保できるかは不透明な情勢です。バイデン氏は必要な票を確保できる保証はないものの、議会や上院がどのように機能するかを理解しており、今後も柔軟な交渉を通じて法案成立を目指す考えを示しています。

          (202171日: 村方 清)