Sunday, August 1, 2021

新型コロナウイルスのデルタ株の感染拡大で不安定性が増す市場









1.7月の株式市場

7月の株式市場はコロナウイルス、特に感染力が強いデルタ株の経済に与える影響が懸念されるにつれ、中旬以降は市場の動きも不安定になりました。また、今後連邦政府の債務上限問題が市場に影響を与える恐れがあります。主要な動きは以下の通りでした。

71日:新たな四半期に入り、新規の投資資金が流入するとの期待から、ナイキやアメリカンエキスプレスなと消費関連株が買われ、131ドル高(0.38%増加)。

72日:2日発表の6月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比850,000人増で市場予想の706,000人を上回ったものの、失業率は5.9%と5月から0.1%上昇したため、金融緩和の早期縮小論が後退し、ハイテク株が上昇し、153ドル高(0.44%増加)。

76日:6月のISMの非製造業景況感指数が60.1と前月から3.9ポイント低下し。米景気回復がピークアウトしつつあるとの見方から、金融や資本財は売りが出て、209ドル安(0.60%減少)

77日:米長期金利が一時1.3%を下回り、主力ハイエク株が上げを主導して、104ドル高(0.30%増加)。

78日:世界で新型コロナウイルス感染拡大が収まらず、景気回復が遅れかねねいとの見方が広がり、260ドル安(0.75%減少)。

79日:米長期金利の低下が一服し、金融株など景気敏感株を中心に買い戻され、448ドル高(1.30%増加)。

712日;46月期決算の発表シーズンを前に金融株が中心に先回りの買いが入って、126ドル高(0.36%増加)。

713日:航空機のボーイングが大幅安となったことや4半期決算を発表したJPモルガンなどの大手金融株が売られ、107ドル安(0.31%減少)。

714日:パウエル連銀議長は14日に下院金融サービス委員会で証言し、政策変更には景気回復が一段と進む必要があると述べ、市場では緩和的な金融政策が当面続くと受け取られ、44ドル高(0.13%増加)

715日:ハネウエルなど好材料が出た銘柄や好決算のユナイテッドヘルスなどが買われ、54ドル高(0.15%増加)。

716日:新型コロナウイルス感染拡大への警戒感から投資家心理が悪化し、幅広い銘柄に売りが優勢で、299ドル安(0.86%減少)。

719日:アジアを中心に感染力の強いデルタ株の感染拡大が続き、米国でも新規感染者数が1日当たり3万人に迫り、景気の先行き不透明感から売りが膨らみ、726ドル安(2.09%減少)

720日:前日に今年最大の下落となった反動で、短期的な戻りを機体下買いがボーイングやアメリカンエキスプレスなどの景気敏感株を中心に広がり、550ドル高(1.62%増加)

721日:米長期金利の低下一服を受けて、JPモルガンなどの金融株や化学のダウや航空機のボーイングなどの景気敏感株が買われ、286ドル高(0.83%増加)。

722日:22日発表の週間新規失業保険申請件数が419,000件と市場予想の350,000件を上回ったことで、長期金利が低下、景気敏感株に売りが出たが、来週発表の主力ハイテク株に業績期待の買いが入り、25ドル高(0.07%増加)

723日:経済活動の再開を追い風に市場予想を上回る好決算が相次ぎ、消費関連やハイテク株の上昇が目立ち、238ドル高(0.68%増加)。

726日:主力ハイテク株の決算発表を前に、好決算を期待した買いが優勢となり、アルファベットやフェイスブックなどが上昇いて、83ドル高(0.24%増加)。

727日:前日まで連日で過去最高値を更新、目先の利益を確定する売りが優勢で、かつ中国政府によるインターネット企業への規制強化もあり、86ドル安(0.42%減少)

728日:フロリダやテキサスなど経済規模の大きな州でデルタ株の感染拡大が増加し、経済活動正常化の動きが遅れるとの懸念から、128ドル安(0.36%減少)。

729日:朝方発表の2146月期のGDP速報値は前期比率で6.5%増と市場予想の8.4%増を下回り、早期に量的緩和の縮小に動くとの観測が後退し、株式市場に資金流入が続くとの見方から、景気敏感株が買い戻され、154ドル高(0.44%増加)。

730日:29日夕に四半期決算を発表したネット通販のアマゾンドットコムが急落し、主力ハイテク株に波及した他、月末とあって持ち高調整の売りが景気敏感株の一部に目立ち、149ドル安(0.42%減少)。7月のダウ平均は月間で1.3%高となった。

2.米国の雇用状況
米労働省が72日に発表した6月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比850,000人の増加で、市場予想の700,000人の増加を上回りました。4月の雇用者数の確定値は269,000人で9,000 人の減少、5月の改定値は583,000人で、24,000人の増加となりました。なお、6月の失業率は5.9%で、前月より0.1%上がりました。労働参加率は61.6%で、前月と同じ水準でした。6月の時間当たり賃金上昇率は前月比で10セント増加しました。部門別では観光・ホテル業が343,000人の増加、教育関連サービス業が155,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が72,000人の増加、その他のサービス業が56,000人の増加、介護や他の社会サービス業が32,000人の増加、卸売り業が21,000人の増加、そして製造業が21,000人の増加となりました。


3.米政府債務上限問題

米議会予算局は721日に議会が対策を講じなければ10月にも資金が枯渇すると警告しました。連邦政府の借入限度は法律で定められており、現在はトランプ前大統領と議会が20197月に2年間の停止で合意しました。米政府としては8月から借金を増やせなくなるために、政府閉鎖や米国債の債務不履行を避けるには、議会の承認を得て上限を引き上げるか、適用を停止する必要があります。もし、議会が対策を講じずに上限が復活した場合、財務省は公的年金基金への拠出を制限するといった緊急措置でやりくりをしなければならなくなります。

これに関連して、イエレン財務長官も723日にペロシ下院議長や与野党指導部に書簡を送り、議会が82日までに連邦政府債務上限の引き上げ、もしくは一時停止に動かなかければ、緊急措置として、730日正午に州・地方政府向け特別国債の発行を停止するとして、この停止は債務上限停止もしくは引き上げられるまで継続すると警告しました。

連邦議会は伝統的に歳出関連法案に追加する形で債務上限を設けてきました。20197月の債務上限は約22兆ドルで、債務上限は上限復活時の債務残高に合わせて設定される仕組みで、現在は上限となる債務総額は28兆ドル台に膨らんでいます。過去には適用停止で対応したこともあります。

米政府は超党派で進めているインフラ投資法案に債務上限の適用停止を盛り込んだり、民主党単純過半数で法案を可決する道を開く財政調整措置を活用する中で債務上限を引き上げたりするシナリオを想定しますが、これらの重要法案の審議が滞れば、債務上限問題の解決が長引いて市場の動揺も避けられなくなります。

 

4.量的緩和縮小への議論を継続したFOMC会合

FOMC会合が72728日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。FRBはこの試練の時に米経済を支え、雇用の最大化と物価の安定の目標を推進するために、あらゆる手段を使うことを約束する。

新型コロナウイルスワクチン接種の進捗と力強い政策支援を受け、経済活動と雇用の指標は引き続き強さを増している。パンデミックによる打撃が最も大きかった産業も改善を示しているが、完全には回復していない。物価上昇率は、主に一時的な要因を反映して上昇した。経済及び米国の家計と企業の信用の流れを支える政策措置もあり、金融情勢は全般に依然として緩和的だ。

景気の動向は、依然としてウイルスの拡大状況に左右されている。ワクチン接種の普及により、公衆衛生の危機が景気に及ぼす影響は引き続き小さくなる可能性が高いものの、経済の先行きへのリスクは残っている。

FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。物価上昇率がこの長期目標を下回る状態が続いていることから、当面は2%よりやや上のインフレ達成を目指す。そうすることで、インフレ率が長期的に平均で2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする。

これらの成果が出るまで、金融政策の緩和的なスタンスを維持すると予測している。

FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを00.25%に据え置くことを決定した。労働市場の情勢がFOMCの雇用最大化の判断と一致する水準に達し、インフレ率が2%に上昇して当面は2%をやや上回るところで軌道に乗るまで、この目標レンジを維持することが適切と予測する。

FOMCは昨年12月、雇用最大化と物価安定の目標に向けてさらなる大きな前進を遂げるまで、国債保有を少なくとも月800億ドル、ローン担保証券の保有を少なくとも月400億ドル増やし続けると表明した。その後、経済はこれらの目標に向けて前進しており、今後複数の会合で進捗の評価を続ける。こうした資産購入は円滑な市場機能と緩和的な金融情勢の促進を助け、家計と企業の信用の流れを支える。

金融政策の適切なスタンスを判断するにあたって、FOMCは引き続き、景気見通しについて経済指標が示す意味を注視する。目標達成のリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する準備がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む11人のメンバーの賛成による。

FRBは今回のFOMCで金融政策の現状維持を決め、会合後の記者会見で、パウエル連銀議長は量的緩和の縮小(テーパリング)に開始に向けて、今後複数の会合で経済情勢の進捗を確認すると表明しました。これについては想定の範囲内であったものの、新型コロナウイルスのインド型の感染拡大による世界経済の先行き懸念から、売りが優勢で、ダウ平均は128ドル安(0.36%減少)となりました。

              202181日: 村方 清)