Wednesday, September 1, 2021

量的緩和縮小の年内開始を意識し始めた市場








1.8月の株式市場

8月の株式市場は新型コロナウイルス感染拡大の懸念が続いている中で、FRBによる量的緩和縮小の年内開始も意識され始めて、後半に市場が不安定な動きが目立ちました。主要な動きは以下の通りでした。

82日:米長期金利の低下を受けて景気減速の懸念が高まり、キャタピラーやアメリカンエキスプレスなど景気敏感株を中心に売りが広がり、97ドル安(0.28%減少)

83日:米長期金利の低下を受けて、資本財や金融などの景気敏感株を中心に買いが優勢となり、278ドル高(0.80%増加)。

84日:ADPが発表した7月の全米雇用レポートで、非農業部門の雇用者数が前月比33万人増と市場予想を大幅に下回り、雇用回復の遅れが警戒されて投資家に景気減速を意識させ、キャタピラーやスリーエムなど景気敏感株が売られ、323ドル安(0.92%減少)

85日:新型コロナの感染拡大は依然警戒されているが、入院患者数や死亡者は少なく、経済活動が正常化する流れは続くとの見方が改めて広がり、景気敏感株などを中心に幅広く買い直され、272ドル高(0.78%増加)

86日:6日発表の7月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比943,000人増で市場予想の850,000人を上回わり、失業率も5.4%へ低下、景気回復の期待で、144ドル高(0.41%増加)。

89日:中国など世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、景気の不透明感が増して売りが優勢で、107ドル安(0.30%減少)。

810日:1兆ドル規模の超党派のインフラ投資法案が米議会上院で可決し、景気回復を支えるとの期待が浮上、素材や資本財などの景気敏感株が買われ、163ドル高(0.46%増加)

811日:11日朝発表の7月の米消費者物価指数が前月比0.3%と6月の0.9%上昇を大きく低下、これを受けて米長期金利も低下、FRBのテーパリングの動きが後退、投資家の安心感につながり、220ドル高(0.62%増加)

812日:新型コロナウイルス感染拡大で経済活動の正常化が遅れるとの懸念で景気敏感株に売りが出たが、夏場以降に出遅れていたハイテク株に見直し買いが入り、15ドル高(0.04%増加)

813日:米長期金利の低下を受けて、高株価収益率のハイテク株に一角が上昇、デイズ二ーも買われ、ダウ平均を押し上げ、16ドル高(0.04%増加)。

816日:午前中は中国の景気減速やアフガニスタンの地政学リスクの高まりから売りが先行したが、午後に入り、医療保険やヘルスケア関連株が買われ、110ドル高(0.31%増加)

817日:7月の小売り売上高は前月比1.1%減と市場予想より落ち込み、米景気回復の鈍化が懸念され、小売株や景気敏感株を中心に売られ、282ドル安(0.79%減少)

818日:午後に公表された7月のFOMCの議事要旨で年内の量的緩和縮小の開始が示され、金融緩和の縮小を警戒した売りが優勢で、383ドル安(1.08%減少)

819日:前日に発表されたFRBの議事要旨で量的緩和の縮小の前倒しが、景気後退への警戒を起こさせ、景気敏感株への売りが目立ち、67ドル安(0.19%増加)

820日:業務ソフトの値上げを発表したマイクロソフトが業績期待で高値を更新、消費関連株や景気敏感株の一部にも押し目買いが入り、226ドル高(0.65%増加)

823日:ファイザーとビオンテックが共同開発した新型コロナワクチンがFDAで正式承認され、感染拡大の懸念が軽減され、216ドル高(0.61%増加)。

824日:新型コロナウイルスのワクチン普及で、経済再開が期待され、景気敏感株を中心に買いが優勢となり、31ドル高(0.09%増加)。

825日:新型コロナウイルスのワクチン普及や米政権の大型財政支出による景気拡大を期待した買いが優勢で、39ドル高(0.11%増加)。

826日:高値警戒に伴う利益確定売りが優勢となり、アフガニスタン情勢を巡る地政学リスクの高まりも加わり、192ドル安(0.54%減少)。

827日:パウエル連銀議長のジャクソンホール会議での講演で、当面は緩和的な金融環境が続くとの見方から、投資家の心理が改善し、243ドル高(0.69%増加)

830日:米長期金利の低下を受けて、金融株が売られた一方、高株価収益率のハイテク株は上昇し、減少幅が限られて、56ドル安(0.16%減少)。

831日:8月の米消費者信頼感指数が113.8と前月から大きく低下し、個人消費の伸びが懸念され、また月末で利益確定売りも出やすく、39ドル安(0.11%)。



2.米国の雇用状況 
米労働省が86日に発表した7月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比943,000人の増加で、市場予想の850,000人の増加を上回りました。5月の雇用者数の確定値は614,000人で31,000 人の増加、6月の改定値は938,000人で、88,000人の増加となりました。なお、7月の失業率は5.4%で、前月より0.5%下がりました。労働参加率は61.7%で、前月より0.1%上がりました。7月の時間当たり賃金上昇率は前月比で11セント増加しました。部門別では観光・ホテル業が380,000人の増加、教育関連サービス業が261,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が60,000人の増加、輸送・倉庫業が50,000人の増加、その他のサービス業が39,000人の増加、そして製造業が27,000人の増加となりました。 


3.米インフラ投資法案が上院で可決

米議会上院は810日に1兆ドル規模の超党派インフラ投資法案を可決しました。与党民主党と野党共和党の議席が50ずつで拮抗する中、共和党の一部議員が同調し、賛成票は69票になりました。増税に反対する共和党との合意を優先し、企業増税で財源を賄う政権の構想はこの法案では見送られ、超党派法案は新型コロナウイルス対策の未使用財源などを財源に見込んでおり、CBDは財政赤字が10年間で約2560億ドル拡大する恐れを指摘しています。

上院民主党は別途、教育や子育て支援、気候変動対応などに10年間で3.5兆ドルの財政を投じる枠組みを固める予算決議の民衆党単独での可決を目指しています。しかし、9月に本格化する下院での審議は、政府債務上限の引き上げ・凍結問題も絡んで、見通しにくし状況です。

 

4.量的緩和縮小は年内開始が適当が大勢

FRB818日に72728日のFOMC会合での議事要旨を公開しました。その中で、大半の参加者が、経済が彼らの予想通りに幅広く発展するなら、年内に資産購入ベースの縮小を始めるのが適切になるだろうと明記されました。一部の参加者は労働市場の回復が量的緩和の縮小開始の条件である更なる著しい進展にはほぼ遠いとして、量的緩和の開始は2022年初めが適当との緩解を表明しました。この点、9月初めに公表される8月の雇用統計で労働市場の着実な増加が確認できれば、9月下旬の次回FOMCで量的緩和縮小の開始決定に結びつく可能性があります。また、多くの参加者は量的緩和縮小の環境が整うこと利上げ時期の開始との間には、機械的な関連性はなく、量的緩和縮小の開始時期を早めれば、資産購入額の減額ペースをより緩やかにできるため、金融環境が過度に引き締まることを妨げることとの見解を示しました。なお、この日は金融緩和の縮小を警戒した売りが優勢で、ダウ平均は383ドル安(1.08%減少)となりました。

パウエル連銀議長は827日の経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」の冒頭で講演しました。その中で、「ここ数か月、労働市場の見通しはかなり明るくなった」と指摘、インフレの加速は「一時的な影響を受けているものの、インフレは更なる進展を満たしている」と明言し、量的緩和縮小の開始への条件が整いつつあることの認識を示しました。その一方で、「5%台の失業率を依然として高すぎる」と指摘、加えて感染が拡大するデルタ株を「直近のリスク」として注視する姿勢を示しました、このため、量的緩和の縮小を今後のFOMCの会合のどの時期に決断するかは明言しませんでした。また、FRBが急激に金融引き締めに動くのではないかという市場の懸念を和らげるために、今後の資産購入の縮小の時期とペースは、利上げの時期に関する直接的なシグナルを伝えることを意図したものではないと語りました。その上で、量的緩和の縮小時期について、年内に開始するのが適当であろうとの見解を表明しました。

           (202191日: 村方 清)