1.10月の株式市場
10月の株式市場は前半において中国不動産会社の経営不安問題の影響があったものの、後半は米国主要企業の四半期業績が好調であったことで、株価の上昇傾向が続きました。主要な動きは以下の通りでした。
10月1日:製薬のメルクが1日に開発中のコロナウイルス経口治療薬の有効性を確認し、早急に使用許可を申請すると発表、経済活動の正常化への期待から、483ドル高(1.43%増加)。
10月4日:朝方に米長期金利が上昇する場面があり、株価収益率が高く、金利上昇時に売られやすい主力ハイテク株が下げを主導、中国の不動産大手の恒大集団の不透明感や米連邦政府の債務上限問題もくすぶり、324ドル安(0.94%減少)。
10月5日:前日の下げを受けた自律反発狙いの買いが主力ハイテク株が入り、9月のISMの非製造業景況感指数が市場より好調であったことが分かると買いが強まり、311ドル高(0.92%増加)。
10月6日:連邦政府の債務上限問題で野党の共和党幹部が債務上限を一時的に停止、12月までの支出をカバーできる範囲で債務拡大容認の提案、投資家心理が改善、102ドル高(0.30%増加)。
10月7日:米与野党が米連邦政府の債務上限問題で、12月までの先送りで合意、デフェルトが回避できるとの見方から、ダウやキャタピラー等の景気敏感株が買われ、338ドル高(0.98%増加)。
10月8日:3日発表の8月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比235,000人増で市場予想の720,000人を大きく下回わり、米国の景気回復が鈍化との懸念から、75ドル安(0.21%減少)。
10月11日:原油など商品相場の上昇を背景とした長期金利の先高観は根強く、午後に入り売りが膨らみ、大手金融も売りが出たことで、250ドル安(0.72%減少)。
10月12日:重要な米経済指標や主要企業の決算発表を13日以降に控えて様子見ムードが強く、またIMFが世界と米国の経済成長率の予想を下方修正、景気敏感株を中心に売りが誘い、118ドル安(0.34%減少)。
10月13日:決算を発表したJPモルガンや悪材料の出たアップルが下落し相場の重荷になったが、一方で朝方発表の9月のCPが前年同期比で4.0%上昇で前月と変わらず、長期金利が低下し、相場の支えになり、53セント安(0.00%)。
10月14日:市場予想を上回る米主要企業の決算発表が相次ぎ、投資家心理が改善、また朝方の米経済指標を受け、過度なインフレや景気減速の懸念が後退、株式の買いが優勢となり、535ドル高(1.56%増加)。
10月15日:金融を中心に米主要企業の好決算の発表が続き、投資家心理が上向き、加えて9月の米小売売上高が前月比0.7%増と市場予想を上回り、382ドル高(1.09%増加)。
10月18日:中国の7-9月期のGDPが市場予想に届かず、嫌気した売りが先行、その後、今週から始める本格的な米主要企業の決算発表の期待による買いが入り、36ドル安(0.16%減少)。
10月19日:四半期決算が本格化する中で、ジョンソンエンドジョンソンなどの好業績銘柄を中心に買いが集まり、199ドル高(0.56%増加)。
10月20日:市場予想を上回る米主要企業の決算発表が続いている中で、ビットコインの最高値更新を受けて投資家心理が強気に傾き、152ドル高(0.43%増加)。
10月21日:前日夕に発表した決算が嫌気されてITのIBMが急落して、ダウ平均の重荷になったが、堅調な米景気指標を支えに買いも入り、6ドル安(0.02%減少)。
10月22日:中国大手不動産の恒大集団がひとまず債務不履行を回避できる見通しとなったことから投資家心理が改善、好決算のアメリカンエキスプレスも大幅上昇し、74ドル高(0.21%増加)。
10月25日:市場予想を上回る米主要企業の決算が続くとの期待から投資家心理を支えたが、一部に短期的な過熱感からの利益確定売りも出て、64ドル高(0.18%増加)。
10月26日:市場予想を上回る米主要企業の今期決算が相次ぎ、好感した買いが入ったことや10月の米消費者信頼感指数が113.8と上昇したことで、16ドル高(0.04%増加)。
10月27日:26日夕に業績見通しを発表したビザが大幅安となったことや米債券市場で長短金利さが縮小し、利ざや悪化懸念から金融株が売られ、266ドル安(0.74%減少)。
10月28日:市場予想を上回る決算を発表した銘柄が買われ、製薬のメルクや建機のキャタピラーなどが指数を推し上げ、240ドル高(0.68%増加)。
10月29日:好決算を発表したシェブロンやメルクなどが高く、一方、売り上げが市場予想を下回ったアップルが売られ、相場の重荷になり、89ドル高(0.25%増加)。
3.米連邦政府の債務上限問題は12月までの暫定合意
米国連邦政府の債務上限問題に関連して、米議会与党の民主党は米国債の債務不履行リスクを避けるために、野党の共和党が提案した政府の債務上限を12月3日までの政府資金を賄える分に当たる4800億ドルだけ引き上げることで民主党も合意しました。この合意を受けて、株式市場では、ダウ平均は一時500ドル強の上昇を示しました。この結果、民主党は問題を約2か月間先送りできるものの、本格的な債務上限の引き上げに向けた民主党内の調整が引き続き課題となります。
民主党内では、リベラル色の濃い3.5兆ドル法案を推す左派と財政膨張を嫌う中道派が強く対立しており、債務上限問題までに党内調整が遅れれば、デフォルトリスクが再び高まることになります。民主党が法案を通すには1人の造反も許されず、厳しい状況が12月3日の期限まで続くことになります。
4.FRBの量的緩和縮小(テーパリング)の時期と方向性
FRBが10月13日に公表した9月分のFOMCの議事要旨によれば、次回11月会合での決定を前提にテーパリングの開始時期を11月中旬か12月中旬としました。FRBはコロナウイルス危機が深まった20年3月に量的緩和を再開し、現在は月間で米国債を800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)も400億ドルベースで保有残高を積み増し続けています。テーパリングは月々の資産購入額を少しずつ減らしていき、最終的に保有資産の拡大を止める作業を指しています。FRBの事務局では毎月、米国債を100億ドル、MBSを50億ドルの幅で購入額を縮小する案を示しています。
資産残高の拡大を止めた後は資産購入を償還分の再投資のみにとどめ、資産規模を一定する。その上で政策金利の引き上げの機会をうかがうことになります。そして、利上げが軌道に乗る要であれば、正常化の総仕上げとして保有資産を削減する段階に進めることになります。
前回の金融危機後の量的緩和第3弾を幕引きした過程を振り返ると、テーパリングは13年5月に開始予告の段階で市場の混乱を招いたあと、14年1月に始まり、同10月に終えました。利上げは15年12月にずれ込みました。そして、資産削減に踏み出したので17年10月になってからでした。しかし、利上げ継続やトランプ政権の減税路線も重なって長期金利に強い上昇圧力が加わり、18年には米中貿易摩擦も生じて、米国の株式市場が不安定になりました。
今回はテーパリング開始に際し、市場での深刻な混乱は起きていません。問題はテーパリングの工程表が定まっていないことです。最初に、利上げの開始時期について、緩和縮小に積極的なタカ派はインフレ圧力を一時的とみなさず、テーパリング完了直後の利上げ開始を主張します。これに対して、引き締めに慎重なハト派はインフレ圧力はなお一時的として、23年以降の利上げ開始を求めます。加えて、FRBの資産残高は前回の緩和局面のピークをはるかに上回っており、資産削減は極めて困難が予想されます。
利上げを含めた正常化を急ぎすぎると、金利急騰を通じて、株価急落やクレジット市場の急収縮を招く恐れがあります。また、ドル高が進行して新興国からの資金流出やドル建て債務の返済負担の増大から、債務危機を誘発する恐れがあります。その一方で、市場の混乱を恐れて金融引き締めに及び腰になると、インフレ圧力が一時的な現象に収まらず、将来急激な引き締めに踏み切らざるを得ない可能性も出てきます。いずれにしても、今回の正常化は前回に比べて、長く厳しいものにならざるを得ないと見られます。
5. バイデン政権による規模半減の経済政策
バイデン大統領は10月28日に、看板政策の一つである気候変動・社会保障関連歳出法案を巡り、規模を従来の3兆5千億ドルから1兆7500憶ドルに減額した新たな枠組みを発表し、全面的な支持の獲得に自信を示しました。新たな枠組みでは気候変動対策や就学前教育支援などの支出は確保していますが、家族有給休暇や超富裕層を対象とする増税は含まれていません。しかも、現在、1兆ドル規模の超党派のインフラ投資法案の早期成立を望む党内の穏健派と、大規模な歳出法案を巡る採決を同時に実施しないのであれば、インフラ法案を支持しないという進歩派との間ではすれ違いが続いています。ペロシ下院議長は当初28日に超党派インフレ投資法案の採決を目指していましたが、進歩派の強硬意見を懸念して、同日の採決を断念した経緯があります。
バイデン大統領は28日にローマでのG20首脳会議に出発するのに先立ち、下院民主党議員と面化した際に、採決結果によって今後の下院と上院の多数派優位と大統領職が決定されると言っても大げさではないと訴えたとしていますが、この法案の行方が今後のバイデン政権への米国民の支持率に大きな影響を与えることは確実と思われます。
(2021年11月1日: 村方 清)