Friday, July 1, 2022

高率インフレと0.75%の利上げに揺れる株式市場








1.6月の株式市場

6月の株式市場は610日発表のCPIが前年同月比8.6%の上昇となったや1415日に開催されたFOMCで通常の3倍にあたる0.75%の利上げを決めたことで、大きく下落、202012月以来の3万ドル割れとなりました。主要な動きは以下の通りでした。

61: 米長期金利が2週間ぶりに2.9%台に上昇、FRBの金融引き締めへの警戒感が意識されて、177ドル安(0.54%減少)。

62日:2日発表の米雇用指標が市場予想を下回り、FRBが積極的に金融を引き締めるとの懸念がやや和らぎ、436ドル高(1.33%増加)。

63日:3日発表の5月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比390,000人増で市場予想の328,000人を上回り、FRBの積極的な金融引き締めへの警戒感から、349ドル安(1.05%減少)。

66日:午前中は中国の経済正常化の期待から大幅に上昇したが、米長期金利が3%台になると、嫌気をさした売りでダウ平均は伸び悩み、16ドウ高(0.05%増加)。

67日:米長期金利の上昇が一服し、ハイエク株への買い直しが優勢となり264ドル高(0.80%増加)。

68日:欧州の金融大手クレディスイスが202246月期に赤字に転落すると発表し、銀行株を中心に企業収益への警戒が広がり、269ドル安(0.81%減少)。

69日:ECB9日に7月に量的緩和を終了すると決め、同月中に0.25%の利上げに踏み切ると方針を示し、金融正常化による欧州景気の減速が世界景気を下押しするとの警戒感が高まり、639ドル安(1.74%減少)

610日:朝方発表のCPIが前年同月比8.6%上昇と市場予想の8.3%を上回り、インフレ加速を背景にFRBが積極的な利上げを進めるとの見方が強まり、幅広い銘柄に売りが膨らみ、880ドル安(2.73%減少)

613日:インフレ抑制のためにFRBが積極的に金融引き締めを進めることから、米景気や企業収益を冷やすとの警戒感から幅広い銘柄に売りが優勢で871ドル安(2.79%減少)。

614日:15日にFOMCの会合を控え、積極的な米金融引き締めを警戒した売りが優勢となり、152ドル安(0.50%減少)。

615日:FRB615日まで開いたFOMC会合で、市場の予想通りに通常の3倍にあたる0.75%の利上げを決め、大幅な利上げがインフレ抑制につながるとの見方から買いが優勢で、304ドル高(1.00%増加)

616日:FRB15日のFOMCで通常の3倍にあたる0.75%の利上げを決定、急激な金融引き締めが景気後退を招くとの警戒が強まり、741ドル安(2.42%減少)。

617日:原油相場が大幅に下落しインフレ懸念がやや和らぎ、買いが優勢になる場面もあったが、FRBの急激な金融引き締めの懸念は強く、38ドル安(0.13%減少)。

621日:米株式相場が前週末にかけ大幅に下落、短期的な自律反発を見込んだ買いが優勢で、ハイテクや消費関連株を中心に幅広い銘柄に買いが入り、641ドル高(2.15%増加)。

622日:米連邦準備理事会(FRB)の積極的な利上げに伴う景気懸念から売りが優勢で、47ドル安(0.15%減少)。

623日:FRBの積極的な金融引き締めが景気悪化を招くとの懸念から相場の上値は重かったが、銘柄選別が進み、ハイテク株の一角やディフェンシブ株が買われ、194ドル高(0.64%増加)。

624日:ミシンガン大学発表の6月消費者態度指数は50.0と統計開始以来最低となり、消費者の期待インフレ率低下を受け、FRBの急速な利上げ観測がやや和らぎ、823ドル高(2.68%増加)

627日:米長期金利が前週末に比べ0.08%上昇し、相対的な割高感が意識されやすい高株価収益率のハイテク株が売られ、62ドル安(0.20%減少)。

628日:米コンファレンスボードが28日に発表した米消費者信頼感指数は98.75月から低下、インフレ懸念の高まりが景況感の悪化に繋がり、491ドル安(1.56%減少)。

629日:四半期末と会って機関投資家の資産配分見直しに伴う買いが入るとの期待から、82ドル高(0.27%増加)。

630日:5月の米個人消費支出は前月比0.2%増と4月から減速し、FRBの積極的な利上げ見通しの中で、一段と景気減速の懸念が高まり、214ドル安(0.82%減少)。上半期の下落率は15.3%という60年振りの高さとなった

 

2.米国の雇用状況

米労働省が63日に発表した5月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比390,000人の増加で、市場予想の328,000人の増加を上回りました。3月の雇用者数の確定値は398,000人で30,000 人の減少、3月の改定値は436,000人で、8,000人の増加となりました。5月の失業率は3.6%で前月と同じ水準でした。労働参加率は62.3%で前月より0.1%上昇しました。5月の時間当たり賃金上昇率は前月比で10セント増加しました。部門別ではレジャー・観光業が84,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が75,000人の増加、輸送・倉庫業が47,000人の増加、建設業が36,000人の増加、政府教育関係が36,000人、民間教育関係が33,000人の増加、へルスケア業が28,000人の増加、製造業が18,000人の増加となりました。

 

3.  米国の高インレーションの原因

米国は先月、過去40年間で最大となる8.6%のインフレーションを経験しましたが、この原因について、Moodyの首席エコノミストはその内、3.5%はロシアによるウクライナへの侵攻がもたらしたのであることを分析しました。特に、ガソリン価格の高騰が大きな要因となったことを伝えました。その一方、コロナウイルスの感染症拡大がグローバルなサプライチェーンの障害となったことは2%程度の影響しかなかったとしました。

それに加えて、ラリーサマーズなどのエコノミストが主張するバイデン政権が実施した19兆ドルの米国救済計画(American Rescue plan)がインフレーションに与えた影響は僅か0.1%しかの貢献しなかったことも分析しました。いずれにしても、供給サイドに多くの原因があるにも関わらず、金融引き締めで事態を打開しようとするFRBの政策にはどこか疑問を抱える状況になりそうです。


4.0.75%の利上げを決めたFOMC会合

FOMC会合が6145日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。全般的な経済活動は13月にわすかに縮小した後で持ち直したようだ。雇用増はこの数か月堅調で、失業率は低いままだ。物価上昇率はパンデミックに関連した需給の不均衡、エネルギー価格の高騰、広範に及ぶ物価上昇圧力を反映して、高止まりしている。

ロシアによるウクライナ侵攻が、人々と経済に甚大な苦難をもたらしている。侵攻とそれに関する事象が更なる物価上昇圧力をもたらし、グローバルな経済活動の重荷となっている。加えて、中国の新型コロナウイルス関連の都市封鎖が、供給網の乱れを更に悪化させる可能性がある。FOMCはインフレリスクを強く注視している。

FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。これらの目標を支えるために、FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.501.75%に引き上げることを決定した。さらに誘導目標レンジの引き上げの継続が適切になると予測している。加えて、5月に発表した「バランスシートの規模削減のための計画」に述べられている通り、国債、機関債、ローン担保証券の保有を削減を継続する。

金融政策の適切なスタンスを判断するにあたって、FOMCは引き続き、景気見通しについて経済指標が示す意味を注視する。目標達成のリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する準備がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む9人のメンバー全員の賛成による。

FOMCの決定は事前予想通りの内容で、大幅な利上げがインフレ抑制につながるとの見方から、買いが優勢で、ダウ平均は304ドル高(1.00%増加)となりました。

           (202271日: 村方 清)