Monday, August 1, 2022

FRBによる金利再引き上げと景気後退への懸念









1.7月の株式市場

7月の株式市場はFRBがインフレへの警戒から727日に2度目の0.75%の金利引き上げを決定しました。しかし、同時に景気後退への懸念から過度な引き上げはないとの見方が強まり、市場も好感、株式市場は月末は回復基調となりました。主要な動きは以下の通りでした。

71: 米長期金利が低下し、ハイテク株の一部が買われた他、景気動向に業績が左右されにくいディフェンシブ株が上昇し、322ドル高(1.05%増加)。

75日:米景気が後退局面に入るとの懸念が強まり、資源や金融など景気敏感株を中心に売りが広がり、129ドル安(0.42%減少)。

76日:FRBが午後に公表したFOMC'の議事要旨は新たな材料に乏しく、タカ派的な内容を警戒していた投資家の安堵感から、70ドル高(0.23%増加)。

77日:前日に3カ月ぶりの安値を付けた原油相場が大幅に反発するなど、リスク資産全体が膨らみ、中国が景気対策として巨額のインフラ投資に動くとの観測も改善につながり、347ドル高(1.12%増加)

78日:8日発表の6月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比372,000人増で市場予想の250,000人を上回り、FRBの金融引き締めへの警戒感から、46ドル安(0.15%減少)。

711日:中国の新型コロナウイルスの感染再拡大による行動規制の強化とロシアからの欧州への天然ガス供給の停止が相場の重荷となり、164ドル安(0.52%減少)。

712日:13日の6月の米消費者物価指数の発表を控えて、取引終盤にかけてインフレ警戒の売りが強まり、193ドル安(0.62%減少)。

713日:朝方発表の6月の米消費者物価指数の上昇率が9.1%と市場予想を上回り、FRBの金融引き締め加速を警戒した売りが出て、209ドル安(0.67%減少)。

714日:前日の6月の消費者物価指数に続き、14日発表の6月の卸売物価指数も前月比1.1%上昇と市場予想を上回った。FRB7月のFOMC1.0%の利上げを決めるとの観測がくすぶり、急速な金融引き締めが景気を冷やすとの見方が先行、143ドル安(0.62%減少)。

715日:朝方発表の米小売売上高は前月比1.0%増と予想以上に増え、ミシガン大学の消費者期待インフレ率も低下しFOMC7月末のFOMC会合で1%の利上げを決めるとの見方が後退、幅広い銘柄に買いが入り、658ドル高(2.11%増加)。

718日:アップルが経済下振れに対応するために、複数部門で人材採用と支出を抑えると発表したことで企業業績への警戒が強まり、他の大手のIT株も下落、全体で216ドル安(0.69%減少)

719日:FRBの急激な利上げが米景気を冷やすとの警戒感が後退、景気敏感株やハイエク株など幅広い銘柄に短期的戻りを見込む買いが入り、754ドル高(2.43%増加)。

720日:6月の米中古住宅販売件数が2年ぶりに低水準になるなど米経済指標の悪化が続き、FRBの急激な利上げ観測が後退、主力ハイテク株が前日に続き大幅に上昇、48ドル高(0.15%増加)。

721日:市場予想を上回る米主要企業の決算発表が多く、売り一巡後は企業業績の好調さを意識した買いがハイテク株を中心に入り、ダウ平均は162ドル高(0.51%増加)。

722日:欧米の景気悪化を示す経済統計の発表を受け、リスク資産である株式を売る動きが強まり、138ドル安(0.43%減少)。

725日:FRBの急激な利上げへの警戒感が薄れ、株が買われた先週までの流れを引き継ぎ、91ドル高(0.28%増加)。

726日:ウォールマートが25日に業績見通しの引き下げを発表し、消費を巡る懸念から消費財関連株に売りが広がり、229ドル安(0.71%減少)。

727日:FRB27日のFOMC会合で0.75%の利上げを決めたが、記者会見で先行きの金融引き締めペースの鈍化を見込む発言をしたことで、市場は好感し、436ドル高(1.37%増加)。

728日:202246月のGDPがマイナス0.9%で、2四半期連続のマイナスとなり、FRBが利上げペースを緩めるとの期待が強まり、幅広い銘柄が買われ、332ドル高(1.03%増加)。

729日:前日夕発表のアップルとアマゾンのなどの決算が好調で、投資家心理が改善、加えて大幅増収増益の石油のシェブロンも買われて、316ドル高(0.97%増加。

 

 

2.米国の雇用状況

米労働省が78日に発表した6月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比372,000人の増加で、市場予想の250,000人の増加を上回りました。4月の雇用者数の確定値は368,000人で68,000人の減少、5月の改定値は384,000人で、6,000人の増加となりました。6月の失業率は3.6%で前月と同じ水準でした。労働参加率は62.2%で前月より0.1%下落しました。6月の時間当たり賃金上昇率は前月比で10セント増加しました。部門別では専門・ビジネスサービス業が74,000人の増加、レジャー・観光業が67,000人の増加、ヘルスケア業が57,000人の増加、輸送・倉庫業が36,000人の増加、製造業が29,000人の増加となりました。

  

3.米消費者物価大幅上昇                                                                

米労働省が713日に発表した6月の消費者物価指数は前年同月比で9.1%上昇、市場予想の8.8%を上回りました。前月比でも1.3%上昇と伸びは加速しており、米連銀制度理事会(FRB)が3月以降3回に渡って実施してきた利上げは、景気過熱を抑えるまでに至っていません。また、景気減速もしくは後退も、物価面からはまだ確認されていません。

なお、外的要因に左右されやすい食料・エネルギーを除くコア指数は前年同月比59%の上昇で、6カ月ぶりに6%を割り込みました。但し、賃金の動きを反映しやすいサービス価格が加速を続けている以上、金融政策についてはさらなる引き締めが必要であることに変わりはない。

こうした消費者物価の動向を受けて、米連邦公開市場委員会(FOMC)が7月会合で従来想定されていた0.75%ポイントではなく、歴史的水準の1ポイントの引き上げになるのではないかとの見方も一部に出てきました。

 

4.0.75%の利上げを決めたFOMC会合

FOMC会合が72627日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。

最近の消費と生産の指標は鈍化している。ただ雇用はこの数か月堅調に増加し、失業率は低いままだ。物価上昇率はパンデミックに関連した需給の不均衡、食品・エネルギー価格の高騰、広範に及ぶ物価上昇圧力を反映して、高止まりしている。

ロシアによるウクライナ侵攻が、人々と経済に甚大な苦難をもたらしている。侵攻と関連する事象が更なる物価上昇圧力をもたらし、グローバルな経済活動の重荷となっている。加えて、中国の新型コロナウイルス関連の都市封鎖が、供給網の乱れを更に悪化させる可能性がある。FOMCはインフレリスクを強く注視している。

FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレを目指している。これらの目標を支えるために、FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.252.50%に引き上げることを決定した。さらなる誘導目標レンジの引き上げの継続が適切になると予測している。加えて、5月に発表した「バランスシートの規模削減のための計画」に述べた通り、国債、機関債、ローン担保証券の保有を削減を継続する。FOMCはインフレを2%目標に戻すことを強く注力している。

金融政策の適切なスタンスを評価する上で、FOMCは引き続き、経済指標が景気見通しについて与える影響を注視する。目標達成を妨げるリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する用意がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力やインフレ期待、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む12人のメンバー全員の賛成による。

FOMCの決定は0.75%の利上げで事前予想通りの内容でした。パウエル議長がFOMC会合後の記者会見で、金融引き締めの効果が経済とインフレにどう影響しているかを評価しながら、利上げペースを緩めることが適切になるだろうとして、秋以降の利上げ幅縮小を期待した買いが広がり、ダウは436ドル高(1.37%増加)となりました。

 

5.米国のGDP2四半期連続のマイナス成長                                              
米商務省が728日に発表した46月期のGDPは年率換算で0.9%減少し、2四半期連続のマイナス成長となりました。マイナス成長が続いた最大の要因はGDP7割を占める個人消費の減速が強まったことで、46月期の個人消費は1.0%増と13月期の1.8%増に比べて減速しました。景気の回復で賃金は上がっていたが、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギーや食料品が値上がりし、購買力が低下している。コンファレンスボードの消費者信頼度指数も子の1年余りでリーマン危機に次ぐ落ち込みを記録している。

FRBは相次ぐ利上げで、インフレの沈静化を狙うが、落ち着く兆しは見えていません。

その一方で、急激な利上げはGDPの主要項目である住宅投資や設備投資の逆風になっています。13月期の住宅投資は0.4%増であったのに対して、46月期の住宅投資は前期比14.0%減の大幅の落ち込みとなりました。設備投資も、13月期は10.0%増であったのに対し、46月期は0.1%の減少に転じました。銀行融資の金利上昇や人手不足などを理由に、企業が生産設備の建設プロジェクトを延期している例が多くなっています。

米国での景気後退の懸念が高まったことで、11月に中間選挙を控えるバイデン政権やFRBは難しい立場に置かれています。個人消費を冷やすインフレを抑制するために利上げを急げば、景気の悪化を一段と深刻にさせる恐れがあります。一方で財政出動や金融緩和といった景気刺激策は高い水準にあるインフレを一段と加速しかねません。インフレ抑制を優先させながら、景気後退に陥らない政策が必要になっています。

      (202281日: 村方 清)