1.9月の株式市場
9月の株式市場はFRBによる金融引き締めの長期化への警戒感から株価の下落傾向が一層強まりました。主要な動きは以下の通りでした。
9月1日: FRBの金融引き締め長期化への警戒感から売りが先行したが、8月の雇用統計の発表を2日に控えて持ち高調整の買いが入り、146ドル高(0.46%増加)。
9月2日:2日発表の8月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比315,000人増で市場予想並みであったが、金融引き締めの長期化が景気を冷やすとの観測自体は変わらず、338ドル安(1.07%減少)。
9月6日:FRBを含む世界の主要中央銀行による積極的利上げへの警戒感が相場の重荷となり、173ドル安(0.55%減少)。
9月7日:相場下落が続いた後で、短期的に売られすぎたと見た買いが幅広い銘柄に入り、436ドル高(1.40%増加)。
9月8日:このところ相場が大きく下落した後で、短期的な戻りを見込んだ買いが優勢で、193ドル高(0.61%増加)。
9月9日:FRBによる大幅利上げ観測の織り込みが進み、8月中旬以降下げがきつかったハイテク株や景気敏感株を中心に買われ、377ドル高(1.17%高)。
9月12日:8月中旬以降の調整局面で下げがきつかったハイテク株や景気敏感株を買い直す前週の流れが続いて、230ドル高(0.71%増加)。
9月13日:朝方発表の8月の米国消費者物価指数が市場予想を上回る8.3%の水準となり、FRBの利上げ加速を警戒した売りが強まり、1276ドル安(3.94%減少)。
9月14日:前日に今年最大の下げを記録したとあって、押し目買いも入りやすく、30ドル高(0.10%増加)。
9月15日:FRBが利上げを加速するとの警戒感からハイテク株を中心に売られ、173ドル安(0.56%減少)。
9月16日:RBの急激な金融引き締めが米景気を一段と悪化させるとの見方が強まり、景気敏感株や消費関連株を中心に売りが優勢で、139ドル安(0.45%減少)。
9月19日:FRBが金融引き締めを長期化するとの見方から米長期金利が一時。11年振りの高水準を付けて売りが先行したが、売り一巡後は前週の反動で短期的な戻りを見込む買いが優勢で、197ドル高(0.64%増加)。
9月20日:FRBの金融引き締め観測を受けて、米長期金利が11年振りの高値を付け、株売りを促し、313ドル安(1.01%減少)。
9月21日:FRBは21日のFOMCで0.75%の利上げを決定、一段と金融引き締めが米景気の悪化を招くとの懸念から、景気敏感株を中心に売りが拡大し、522ドル安(1.70%増加)。
9月22日:FRBによる大幅利上げの継続が米景気を冷やすとの警戒感から売りが続いて、107ドル安(0.35%減少)。
9月23日:FRBの大幅利上げが米景気後退を招くとの懸念が強まり、加えて米欧の長期金利上昇もあり、486ドル安(1.62%減少)。
9月26日:欧米の中央銀行の大幅利上げ方針を背景に、米長期金利が一時3.9%と12年振りの水準に上昇し、幅広い銘柄に売りが出て、330ドル安(1.1%減少)。
9月27日:世界的な金融引き締め観測から、米長期金利が4%に迫り、相対的な割高感を意識した売りが株式市場に出て、126ドル安(0.43%減少)。
9月28日:英中央銀行が英長期国債を購入すると発表し、欧米の長期金利が大幅に低下、株式の割高感が薄れ、幅広い銘柄に買いが入り、549ドル高(1.88%増加)。
9月29日:米長期金利が再び上昇して、ハイテク株を中心に売りが広がって、458ドル安(1.54%減少)。
9月30日:世界の中央銀行による急速な金融引き締めが景気を冷やし、企業収益を圧迫するとの見方から幅広い銘柄に売りが出て、500ドル安(1.71%減少)。9月の下落率は2784ドル(8.8%)。
米労働省が9月2日に発表した8月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比315,000人の増加で、市場予想の範囲内に留まりました。6月の雇用者数の確定値は293,000人で105,000人の減少、7月の改定値は526,000人で、2,000人の減少となりました。8月の失業率は3.7%で、前月より0.2%悪化しました。労働参加率は62.3%で前月より0.2%上昇しました。8月の時間当たり賃金上昇率は前月比で10セント増加しました。部門別では専門・ビジネスサービス業が68,000人の増加、へルスケア業が48,000人の増加、小売業が44,000人の増加、製造業が22,000人の増加となりました。
3.インフレの持続とFRBによる利上げ加速懸念
9月13日公表の8月消費者物価指数は前年同月比8.3%上昇と前月の8.5%から減速しましたが、市場予想の8.0%を上回りました。特に、エネルギーと食品を除くコア指数の上昇率は6.3%と7月の5.9%から加速し、市場予想の6.0%を上回りました。家賃などの住居費が上昇幅を拡大した他、医療サービスや教育サービス、自動車整備なども軒並み加速しました。労働力不足がサービス業の人件費コスト上昇を招き、それが消費者向けの価格に転嫁されています。
FRB関係者の参加者の多くは9月20-21日に開くFOMCの利上げ幅について具体的に言及していませんが、市場関係者の多くは0.75%の利上げを確実視しています。同時に、参加者の政策金利見通しも上方修正される公算が大きくなっています。6月段階の見通しは22年末が3.4%、23年末が3.8%でしたが、9月に0.75%の利上げをすれば年内に2つの会合を残して、3.0-3.25%に達するため、上方修正は必至になっています。一部では年内に4%を超える予測になっています。
いずれにしても、急速な利上げ効果は時間差で実体経済にマイナスの影響を与えることになると見られるだけに、今後の利上げにより株式市場が一層の不安定さを増すことが懸念されます。
FOMC会合が7月26-27日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。
最近の消費と生産の指標は緩やかな伸びを示している。雇用はこの数か月堅調に増加し、失業率は低いままだ。物価上昇率はパンデミックに関連した需給の不均衡、食品・エネルギー価格の高騰、広範に及ぶ物価上昇圧力を反映して、高止まりしている。
ロシアによるウクライナ侵攻が人々と経済に甚大な苦難をもたらしている。侵攻と関連する事象が更なる物価上昇圧力をもたらし、グローバルな経済活動の重荷となっている。FOMCはインフレリスクを強く注視している。
FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレを目指している。これらの目標を支えるために、FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを3.0-3.25%に引き上げることを決定した。誘導目標レンジの引き上げの継続が適切になると予測している。加えて、5月に発表した「バランスシートの規模削減のための計画」に述べた通り、国債、機関債、ローン担保証券の保有を削減を継続する。FOMCはインフレを2%目標に戻すことを強く注力している。
金融政策の適切なスタンスを評価する上で、FOMCは引き続き、経済指標が景気見通しについて与える影響を注視する。目標達成を妨げるリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する用意がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力やインフレ期待、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮する。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む12人のメンバー全員の賛成による。
FOMCの決定は0.75%の利上げで事前予想通りの内容でした。しかし、パウエル議長がFOMC会合後の記者会見で、仕事が終わるまで金融引き締めを続けるとの考えを改めて強調したことで、市場では金融引き締め長期化で経済的ダメージが今後強まるとの見方を改めて意識し、522ドル安(1.70%減少)になりました。
(2022年10月1日: 村方 清)