1.11月の株式市場
11月の株式市場はインフレ鈍化の経済指標を受けて、FRBの利上げ局面が終了したとの見方が出て、株式市場の改善が続きました。主要な動きは、以下の通りでした。
11月1日:11月1日までのFOMC会合で政策金利を5.25-5.5%に据え置いたことから金融引き締めの長期化への警戒が一時薄れて、買いが入り、222ドル高(0.67%増加)。
11月2日:11月2日発表の週間新規失業保険申請件数が217,000人で、市場予想の214,000人を上回り、7月から9月期の米労働生産性指数も単位労働コストは前期比年率で0.8%低下するなど賃金インフレの鈍化を示したことから、米長期金利が低下し、株式の買いが強まり、564ドル高(1.69%増加)。
11月3日:3日発表の10月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比150,000人増で、市場予想の170,000人を下回り、失業率も3.9%に上昇、賃金上昇も0.2%増で市場予想の0.3%増を下回り、米長期金利の低下が続き、株式市場の相対的割高感が薄れ、222ドル高(0.66%増加)。
11月6日:FRBの金融引き締めが長期化するとの見方が後退したが、前週に大幅に上昇した反動で主力銘柄の一部に利益確定の売りが出て、35ドル高(0.10%増加)。
11月7日:前週に米国のインフレ鈍化の兆候を示す経済指標が相次いだことで、FRBによる追加利上げの観測が後退し、57ドル高(0.16%増加)。
11月8日:前日までの急ピッチの上昇で加熱感が意識され、利益確定や持ち高調整の売りが優勢で、40ドル安(0.11%減少)。
11月9日:パウエル議長の発言を受けて、米長期金利が4.6%台に上昇、相対的な割高感が強まった株式に売りが出て、220ドル安(0.64%減少)。
11月10日:金利上昇を背景に前日に進んだ株売りが落ち着き、買い直す動きが優勢で、週末を控えた持ち高調整の買いも入りやすく、391ドル高(1.15%増加)。
11月13日:米国のインフレに対する過度な警戒感が和らぎ、株式市場の支えとなったが、14日にCPIの発表を控えて、積極的な買いは広がらず、55ドル高(0.15%増加)。
11月14日:朝方発表の10月のCPIは前月比で横ばいで、市場予想の0.1%上昇を下回り、米追加利上げ観測が一段と後退したことで買いが広がり、490ドル高(1.42%増加)。
11月15日:15日発表の10月の米卸売物価指数が市場予想に反して低下し、インフレの鈍化から、FRBの利上げ局面が終わったとの見方から、164ドル高(’0.46%増加)。
11月16日:決算発表で市場予想を下回る見通しを発表したシスコシステムズやウォルマートなどの銘柄を中心に売られ、ダウ平均の重荷となり、46ドル安(0.13%減少)。
11月17日:FRBの利上げ局面が終了したとの見方が相場を支え、一方で前日の反動で利益確定売りも出て、2ドル高(’0.01%増加)。
11月20日:マイクロソフトなどの個別銘柄の材料を手掛かりに買われた銘柄が相場を支えて、204ドル高(0.58%増加)。
11月21日:前日に8月中旬以来の高値を付けていたため、ハイテク株などに利益確定売りが出て、63ドル安(0.17%減少)。
11月22日:FRBの追加利上げ観測の後退が株式市場を支え、米長期金利も水準を切り下げ、株式の相対的な割高感が薄れて、185ドル高(0.52%増加)。
11月24日:FRBによる利上げ局面が終了したとの見方が引き続き相場を支えて、117ドル高(0.33%増加)。
11月27日:前週末にかけて大きく上昇し、8月に付けた年初来高値に近づいたことから、主力株に利益確定売りが出て、57ドル安(0.16%減少)。
11月28日:FRB高官の金融政策に関する発言を受け、米国の利上げ局面が終了するとの観測が一段と強まり、米長期金利も低下、株買いが優勢で、84ドル高(0.23%増加)。
11月29日:FRBによる利上げ局面が終了したとの観測が一段と強まり、米長期金利が低下し、株式の相対的な割高感が和らぎ、13ドル高(0.03%増加)。
11月30日:FRBの利上げ局面が終了したとの見方が相場の支えとなり、29日夕に決算を発表したセールスフォースが大幅高で、ダウ平均を押し上げ、520ドル高(’1.46%増加)。11月の上げ幅は2898ドル(上昇率は8.77%)で、昨年10月以来の大きさとなった。
米労働省が11月3日に発表した10月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比150,000人の増加で、市場予想の170,000人を下回りました。8月の雇用者数の確定値は165,000人で62,000人の減少、9月の改定値は297,000人で39,000人の減少でした。10月の失業率は3.9%で、前月より0.1%増加しました。労働参加率は62.7%で前月より0.1%下がりました。9月の時間当たり賃金上昇率は前月比で7セント増加しました。部門別ではヘルスケア業が58,000人の増加、政府部門が51,000人、ソーシアル・アシスタンス業が19,000人の増加となりましたが、製造業は35,000人の減少となりました。
3.金利据え置きを決めたFOMC会合
FOMC会合が10月31日-11月1日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。最近の指標は第3四半期の経済活動が力強いペースで拡大していることを示している。ここ数か月、雇用の増加は年初から緩やかになっているが、依然として力強い状態だ。失業率は低水準にとどまっている。インフレ率は依然として高い水準にある。
米国の銀行システムは健全で回復力がある。家計や企業の信用環境の引き締まりは、経済活動や雇用、インフレに影響を及ぼすとみられる。これらの影響の度合いは依然として不透明だ。FOMCはインフレリスクを引き続き最新の注意を払っている。
FOMCは最大雇用とインフレ率2%を長期的に達成することを目指している。これらの目標を支えるために、FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを5.25-5.5%で据え置くことを決めた。今後入ってくる情報と金融政策の影響を注視する。
インフレ率を長期的に2%に戻すのにどの程度追加の政策が適切であるかを決める際、FOMCは金融政策の累積的な引き締めや、経済活動がインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する。さらに、以前は発表された計画に示されているように、国債、機関債、住宅ローン担保証券の保有を削減を継続する。FOMCはインフレを2%目標に戻すことを強く注力している。
金融政策の適切なスタンスを評価する上で、経済指標が景気見通しについて与える影響を注視する。目標達成を妨げる可能性のあるリスクが出現した場合、金融政策のスタンスを適切調整する用意がある。労働市場の状況、インフレ圧力やインフレ期待、金融や国際情勢に関する広範な情報を考慮に入れる。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む12人のメンバーの賛成による。
FRBは政策金利を5.25-5.50%に据え置きました。市場の想定通りの結果で、株式市場では発表後に買い安心感が広がりました。パウエル議長はFOMC後の記者会見で、今後の金融政策方針について,「今後の経済データに基づいて注意深く進める」などと従来の見解を繰り返しました。物価上昇率を目標の2%に戻すには経済と労働市場がある程度鈍化する必要があるとの見方を示したもので、一段の利上げに対する警戒は薄れて、222ドル高(0.67%増加)となりました。
米国のホワイトハウスは11月17日に一部が来年1月19日までのつなぎ予算案にバイデン大統領が署名したと発表しました。新たなつなぎ予算は農業や退役軍人関連などが1月19日まで、その他が2月2日までで、2024年会計年度の本予算の審議時間を確保すのが目的になります。今回のつなぎ予算ではウクライナやイスラエルへの支援は含まれていません。
政府閉鎖は回避されましたが、下院で過半数を占める野党共和党は歳出削減を主張し、与党民主党は大企業や富裕層への課税強化を進める意向で、与野党の隔たりは大きいままです。また、補正予算で対応するウクライナ支援に関しては、共和党の保守強硬派が反対しており、審議の難航は続く見込みとなっています。
2023年12月1日: 村方 清