1.1月の実績
1月の株式市場は、昨年12月の米小売売上高が予想以上に落ち込むなどのマイナス面はあったも のの、1月12日に発表した12月のインフレ率が6.5%で6カ月連続で鈍化したことで金融引き締めが緩むとの見方に加え、企業業績は現在のところ底堅い決算が目立っており、株式市場の先行きへの期待感が支えました。主要な動きは以下の通りでした。
1月3日: スマートフォンのアップルと電気自動車のテスラが大幅に下げ、投資家心理を冷やして、11ドル安(0.03%減少)。
1月4日:中国経済の回復への期待が一定の支えとなり、景気敏感株や消費関連株に買いが入り、133.40ドル高(0.40%増加)。
1月5日:昨年12月のADP全米雇用レポートで非農業部門の雇用者数は前月比23万5千人増と市場予想の15万3千人を大きく上回り、週間の失業保険申請件数も昨年9月以来の低水準となり、米利上げが長期化するとの見方から売りが優勢で、340ドル安(1.02%減少)。
1月6日:6日発表の12月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比223,000人増で市場予想の200,000人を上回ったものの、平均時給は前月比0.3%増と市場予想の0.4%増を下回り、FRBによる金融引き締めの長期化への懸念が和らぎ、幅広い銘柄が買われ、701ドル高(2.13%増加)。
1月9日:前週末に700ドル高と大きく上昇した反動で、午後には目先の利益を確定する目的の売りが優勢となり、113ドル安(0.34%減少)。
1月10日:FRBのパウエル議長が同日の講演で金融政策について踏み込んだ発言をしなかったことで、投資家の安心感につながり、186ドル高(0.56%増加。
1月11日:12日に予定される12月の米消費者物価指数の発表に先回りし、一段のインフレ減速が示されると期待した売りが入り、268ドル高(0.80%増加)。
1月12日:12日発表の12月の米消費者物価物価指数が前月比で0.1%下落、前年同月比で6.5%上昇と11月の7.1%から低下、FRBが利上げペースを更に緩めるとの見通しが強まり、217ドル高(0.64%増加)。
1月13日:朝方に発表された主要銀行が先行きに慎重な見方を示し、売りが先行したが、FRBの利上げ減速観測は根強く、売り一巡後は主力株を中心に買い直されて、113ドル高(0.33%増加)。
1月17日:朝方に市場予想を下回る決算を発表したゴールドマンサックスが大幅安となり、景気敏感株を中心に売りが波及して、392ドル安(1.14%減少)。
1月18日:12月の米小売売上高が市場予想以上に減少し、米鉱工業生産指数も市場予想を下回ったことで、景気懸念が意識され、614ドル安(1.81%減少)。
1月19日:19日発表の週間の米新規失業保険申請件数が19万件と市場予想の21万5千件に反して下回り、労働市場の強さを示したためFRBの利上げが続くとの警戒感から売りが出て、252ドル安(0.76%減少)。
1月20日:前日夕に四半期決算を発表したネットフリックスが急伸、ハイテク株全般への買い波及、株価上昇をけん引し、331ドル高(1%増加)。
1月23日:FRBが近く利上げを停止するとの観測から、幅広い銘柄に買いが入り、254ドル高(0.76%増加)。
1月24日:米景気の減速懸念の後退を受けた買いが続いたが、ハイテク大手の決算発表を前に利益確定目的の売りが出て、104ドル高(0.31%増加)。
1月25日:前日夕に決算を発表したマイクロソフトが嫌気され、ハイテク株の一部に売りが出たものの、売り一巡後は主力銘柄に買いが入り、10ドル高(0.03%増加)。
1月26日:朝方発表のGDPが2.9%増と市場予想を上回り、米景気の減速が和らぎ、投資家心理が改善し、206ドル高(0.61%増加)。
1月28日:朝方に発表された2022年12月の米個人消費支出物価指数は食品とエネルギーを除いて前年同月比4.4%上昇し、市場予想と一致、インフレ率が落ち着きつつあるとの見方で、29ドル高(0.08%増加)。
1月30日:前週まで相場上昇が続いたこともあり、短期の利益確定売りや持ち高調整の売りが優勢で、261ドル安(0.77%減少)。
1月31日:取引開始前に発表された2022年10月から12月の米雇用コスト指数が1.0%上昇と市場予想の1.2%ほど上昇せず、インフレ鈍化につながるとの見方から、369ドル高(1.09%増加)。
米労働省が1月6日に発表した12月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比223,000人の増加で、市場予想の200,000人を上回りました。10月の雇用者数の確定値は263,000人で21,000人の減少、11月の改定値は256,000人で7,000人の減少でした。11月の失業率は3.5%で、前月から0.2%減少しました。労働参加率は62.3%で前月より0.2%増加しました。11月の時間当たり賃金上昇率は前月比で9セント増加しました。部門別ではレジャー・観光業が67,000人の増加、ヘルスケア業が55,000人の増加、建設業が28,000人の増加、ソーシアルサービス業が20,000人の増加、他のサービス業が14,000人の増加となりました。
3. 高インフレが想定より根強い可能性を示唆した12月のFOMC要旨
FRBは1月4日に12月13-4日に開いたFOMC会合の議事要旨を公開しました。この会合では参加者は高インフレが想定より根強くなる可能性に言及、早期の利下げ転換には慎重な考えを示しました。この会合では利上げ幅を0,5%として、従来4会合連続で続いた0.75%から圧縮しました。利上げペースを鈍らせたのは高インフレが沈静化する見通しが立ったのではなく、政策金利が十分に引き締まった水準に近づいたためで、利上げの効果は実体経済に遅れて反映されるために、その効果を見極めるたいとするものでした。
さらに、参加者は労働市場の逼迫が長引けば、物価の上昇圧力は想定を超えて根強くなる可能性があると指摘しました。11月の消費者物価指数は前年同月比で7.1%と5カ月連続で鈍っており、特に10月以降は市場予想を下回る水準が続いています。この点、市場では高インフレの収束に楽観的な見方が増えていますが、FOMCはより慎重な見方を示していることになります。
4.インフレ率の鈍化と米国経済指標の悪化
1月12日に米労働省が発表した2022年12月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比の上昇率が6.5%となり、6カ月連続で鈍化しました。7%を割り込むのは1年1カ月振りとなります。
インフレ鈍化は市場では好感されていますが、懸念される経済指標も相次いで発表されています。
18日に発表された12月の米国小売り売上高は年末商戦期にかかわらず、前月比1.1%減と2カ月連続で減少しました。ガソリンや自動車など幅広い項目で減少しました。12月の米鉱工業生産指数も前月比0.7%低下し、市場予想の0.1%低下以上の落ち込みとなりました。昨年11月分も0.2%低下から0.6%低下に下方修正されました。
加えて、17日にニューヨーク連銀が発表した1月の製造業景況感指数もマイナス32.9と12月のマイナス11.2から急激に悪化しています。
こうした経済指標の悪化を受けて、18日の株式市場は幅広い銘柄に売りが出て、ダウ平均は614ドル安(1.81%減少)となりました。
5.日米首脳会談の成果
バイデン大統領は1月13日にワシントンのホワイトハウスで訪米中の日本の岸田首相と会談しました。岸田首相は会談冒頭、日米はかってないほどの厳しい複雑な安全保障環境にあると指摘し、昨年末に国家安全保障戦略を改定し、防衛力の抜本強化と防衛費増額を決めたことを説明しました。
これに対し、バイデン大統領はこれほど日米関係が緊密になった時はなかったと述べて、全面的に支持しました。
両首脳は、国際秩序に挑戦する中ロの動きなどを踏まえ、法の支配に基づく自由では開かれた国際秩序が重要であるとの認識を共有、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて連携することを申し合わせました。
中国が軍事的な威圧を強める台湾に関しては、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、平和的解決を促しました。米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約5条の沖縄県・尖閣諸島への適用も確認しました。
ウクライナ情勢では、対ロ制裁とウクライナ支援を継続することを確認しました。両首脳はロシアによる核の威嚇、使用は受け入れられないとの認識で一致しました。両首脳は更に、核兵器のない世界に向けて協力する認識を共有しました。
経済安全保障分野では人工頭脳(AI)、量子、バイオを含む重要技術の育成・保護の協力を確認しました。宇宙に関する包括的な協力も申し合わせました。
岸田首相は、広島サミットで法の支配に基づく国際秩序の維持やインド太平洋地域の情勢を議論する考えを示しました。
日米両政府は会談後、こうした成果を盛り込んだ日米共同声明を発表しました。
(2023年2月1日: 村方 清)