1.2月の実績
2月の株式市場は小売り大手の業績不振や見通しの悪化に加え、米個人消費支出も市場予想よりも高く、インフレ収束には時間がかかり、FRBの利上げ継続への懸念が強まり、下落傾向となりました。主要な動きは以下の通りでした。
2月1日: FOMCの結果発表後は利上げ継続が意識され、500ドル超の下げ幅を広げたが、FRBのパウエル議長の会見中に急速に下げ渋り、上げに転じて、7ドル高(0.02%増加)。
2月2日:業績懸念の後退や長期金利の低下でハイテク株が買われた半面、ダウ平均構成銘柄の比重が大きいヘルスケア株などが売られ、39ドル安(0.11%減少)。
2月3日:3日発表の1月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比517,000人増で市場予想の200,000人を上回り、FRBによる利上げ停止の期待が後退し、128ドル安(0.38%減少)。
2月6日:労働市場の需給逼迫を背景にFRBによる早期の利上げ停止や利下げ転換の観測が後退し、売りが出て、35ドル安(0.10%減少)。
2月7日:パウエル連銀議長のインタビューが警戒したほどタカ派寄りではなかったと受け止められ、買い直しが優勢で、266ドル高(0.78%増加)。
2月8日:FRBの高官発言がタカ派寄りと受け取られ、利上げの早期停止観測や年内の利下げ期待が後退、売りが優勢で、208ドル安(0.61%減少)。
2月9日:前週末の強い米雇用統計を受け、米長期金利が上昇し、高株価収益率の銘柄を中心に売りが優勢で、249ドル安(0.73%減少)。
2月10日:雇用の強さは米景気の底堅さを映しており、景気後退は避けられるとの見方から買いを促し、169ドル高(0.50%増加)。
2月13日:14日に発表される1月の米消費者物価指数にインフレ鈍化の期待から、ハイテク株を中心に買われ、377ドル高(1.11%増加)。
2月14日:朝方に発表された1月のCPIは前月比0.5%上昇し、市場予想を上回り、FRBによる利上げ継続の観測が強まり、157ドル安(0.46%減少)。
2月15日:1月の小売売上高は前月比0.3%増と市場予想を上回り、FRBの利上げが続くとの観測から売りが先行したが、その後は米景気は強いとの楽観から買いが入り、39ドル高(0.11%増加)。
2月16日:1月のPPIは前月比0.7%上昇と前月から上昇に転じて、早期の米利上げ休止観測が後退、株売りが優勢となり、431ドル安(1.26%減少)。
2月17日:今週発表の米物価指数がインフレ圧力の根強さを示し、FRBによる早期の利上げ休止観測が後退したものの、指数への寄与度が大きいディフェンシブ株への資金シフトが見られ、ダウ平均は午後にかけて、圧力を強め、130ドル高(0.39%増加)。
2月21日:米小売大手の決算や見通しが市場予想を下回り、米景気や企業業績への先行き不透明感が広がり、697ドル安(2.06%減少)。
2月22日:午後発表のFOMCの議事要旨でFRBの利下げ転換が遠のくとの警戒感から、株式市場の重荷となり、85ドル安(0.26%減少)。
2月23日:2日間で780ドル下げた反動で、自律反発を見込んだ買いが入り、109ドル高(0.33%増加)。
2月24日:1月の米個人消費支出は前年同月比4.7%上昇、市場予想の4.4%を上回り、FRBによる利上げ停止の時期が遠のくとの警戒感から幅広い銘柄に売りが出て、337ドル安(1.02%減少)。
2月27日:前週に1000ドル余り下落した後で、売られすぎと見た押し目買いが入ったことや長期金利が下げに転じたために、72ドル高(0.22%増加)。
2月28日:FRBの利上げが長く続くとの観測から、米長期金利が上昇し、株式の相対的な割高感が意識され、232ドル安(0.71%減少)。ダウは2か月間で1429ドル下落(4.19%減少)。
米労働省が2月3日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比517,000人の増加で、市場予想の200,000人を大きく上回りました。11月の雇用者数の確定値は296,000人で34,000人の減少、11月の改定値は260,000人で37,000人の増加でした。12月の失業率は3.4%で、前月から0.1%減少しました。労働参加率は62.4%で前月より0.1%増加しました。12月の時間当たり賃金上昇率は前月比で10セント増加しました。部門別ではレジャー・観光業が128,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が82,000人の増加、政府部門が74,000人の増加、ヘルスケア業が58,000人の増加、小売業が30,000人の増加、建設業が25,000人の増加となりました。
3.0.25%の利上げを決めたFOMC会合
FOMC会合が1月31日と2月1日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。最近の消費と生産の指標は緩やかな伸びを示されている。ここ数か月、雇用の増加は堅調で、失業率は低水準にとどまっている。インフレ率はやや鈍化したが、依然として高い水準にある。
ロシアによるウクライナ侵攻が甚大な人的・経済的苦境を引き起こし、世界の不確実性を高める要因っている。
FOMCは最大雇用とインフレ率2%を長期的に達成することを目指している。これらの目標を支えるために、FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを4.5-4.75%に引き上げることを決定した。
インフレ率を長期的に2%に戻すのに十分な金融政策スタンスを達成するために、誘導目標レンジの継続的な引き上げが適切になると予測している。
将来の利上げペースを決めるにあたり、金融政策の累積した引き締め、金融政策や経済活動がインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する。さらに、以前計画に示されているように、国債、機関債、ローン担保証券の保有を削減を継続する。FOMCはインフレを2%目標に戻すことを強く注力している。
金融政策の適切なスタンスを評価する上で、経済指標が景気見通しについて与える影響を注視する。目標達成を妨げる可能性のあるリスクが現れた場合、金融政策のスタンスを適切なものに調整する用意がある。労働市場の状況、インフレ圧力やインフレ期待、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮する。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む12人のメンバー全員の賛成による。
FOMCの決定は0.25%の利上げで事前予想通りの内容でした。声明では、継続的な引き上げが適切との前回の表現を維持したために、500ドル強の下げ幅を広げましたが、パウエル議長の記者会見でこれまでの金融引き締めの効果で、昨年の米経済の伸びは大幅に減速したの認識を示しました。加えて、質疑応答で、インフレ鎮静化のプロセスが始まったといえると述べたことで、ダウは上昇に転じて、7ドル高(0.02%増加)になりました。
4. バイデン大統領の一般教書演説
バイデン大統領は2月7日午後9時に連邦議会の上下両院合同会議で内政・外交方針を示す一般教書演説に臨みました。バイデン氏は演説で、格差是正や財政再建に向けて富裕層に最低税率を設けることを提案しました。1月から1%の税率導入された企業の自社株買いへの課税を4倍にする考えを示しました。加えて、アップルやグーグルなどの巨大IT企業への規制強化も訴えました。反トラストの執行を強化すると同時に、IT大手が自社製品を不当に有利にすることを防止するための超党派の法案を可決するように呼びかけました。共和党内には政府が企業活動に介入することに慎重な考えが多く、ねじれ議会で法整備を実現する道は険しいと思われます。
バイデン氏は気候変動対策について言及するなか、我々は少なくとも10年は石油を必要とするとの原稿にない一文を入れました。これについて、エネルギー業界に近い共和党に歩み寄る姿勢を見せたと受け止める声もあります。
また、政府債務の上限引き上げ問題についても、野党の共和党に協力を求めました。
一方、外交面では2月24日にロシアによる侵攻から1年になるウクライナへに支援継続を約束しました。共和党内に米国経済を優先させるためにウクライナへの巨額予算を見直すべきとの意見があることについて、会場に招いたウクライナ大使に対して、米国は結束してウクライナを支援することを約束しました。加えて、中国との競争に勝つには米国が結束しなければならないとして、与野党が一致して中国に対峙すべきことを促しました。
バイデン大統領は2024年の大統領選挙に立候補するかどうかを明確にしていませんが、今回の一般教書演説は再選出馬に意欲が示す内容で会ったことは間違いありません。
2月24日に発表された1月の米個人消費者支出(PCE)は変動が大きい食品とエネルギーを除くコア指数が前年同月比で4.7%上昇し、市場予想の4.4%を上回りした。
この結果、米債券市場では長期金利が上昇し、一時は前日比0.09%高い3.97%を付けました。これにより、長期金利の上昇の影響を受けやすい高株価収益率のハイテク株への売りが目立ち、ソフトウェアのマイクロソフトとオンラインショッピングのアマゾンが2%以上の下落となりました。
一方、市場では今回、インフレ率が高まったことで、高インフレの沈静化にはまだ時間がかかり、FRBによる利上げ停止の時期が遠のくとの警戒感から幅広い銘柄に売りが出て、ダウは337ドルの下落(1.02%の減少)となりました。
(2023年3月1日:村方 清)