1.3月の実績
3月の株式市場は3月10日に米中堅銀行のSVBが経営破綻したことで、インフレ抑止のためのFRBの利上げペースに見直しの動きが出て、月末にかけて株式市場の改善傾向をもたらしました。主要な動きは以下の通りでした。
3月1日: FRBの利上げ長期化観測から長期金利が4%台に上昇する場面があり、株式市場の上昇を抑えて、5ドル高(0.02%増加)。
3月2日:1日夕に発表した決算と業績見通しが市場予想を上回ったセールスフォースが大幅高となり、ダウ平均を押し上げ、342ドル高(1.05%増加)。
3月3日:アトランタ連銀の総裁が3月21-22日のFOMCで0.25%の利上げに強く賛成すると発言したことを受けて、大幅利上げへの警戒感が後退、ハイテク株を中心に買いが広がり、389ドル高(1.17%増加)。’
3月6日:7-8日の連銀議長の議会証言を控えて様子見ムードが強く、買いの勢いは弱く、40ドル高(0.12%増加)。
3月7日:パウエル連銀議長が7日の議会証言で利上げの加速や利上げ長期化の可能性を示したことで、金融引き締めの警戒感が強まり、幅広い銘柄に売りが出て、575ドル安(1.72%減少)。
3月8日:前日に大幅に下げた反動でハイテク株や景気敏感株などには押し目買いが入ったが、FRBの利上げ再加速を警戒して買いの勢いは弱く、58ドル安(0.18%減少)。
3月9日:朝方発表の週間新規失業保険申請件数は211,000人で市場予想の195,000人を上回ったことで、FRBの利上げ再加速の懸念が高まり、543ドル安(1.72%減少)。
3月10日:10日発表の2月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比311,000人増で市場予想の225,000人を大きく上回ったものの、米中堅金融機関のSVB傘下の銀行が破綻、金融システム全体への波及への警戒感がら、345ドル安(1.07%減少)。
3月13日:米国で銀行の破綻が相次ぎ、金融システムを巡る不安の高まりを背景に銀行株が中心に売られ、91ドル安(0.28%減少。
3月14日:米銀の破綻を契機に売り込まれた金融株の一角が急反発、投資家心理が改善して、336ドル高(1.06%増加)。
3月15日:スイスの金融大手クレディ・スイス・グループの経営不安から欧州株式市場が大幅安となり、米市場にも金融株を中心に売りが広がり、281ドル安(0.87%減少)。
3月16日:経営不振の米地銀のファースト・リパブリック・バンクを米大手銀行11行が支援するとの観測から金融システム不安が和らぎ、372ドル高(1.17%増加)。
3月17日:米地域銀行の経営不安が続く中、銀行の融資態度の厳格化につながり、景気を冷やすとの見方から、株が売られ、385ドル安(1.19%減少)。
3月20日:経営難に陥っていたクレディ・スイス・グループをスイスのUBSが買収することで合意、金融システムが不安定化するとの懸念が和らぎ、383ドル高(1.20%増加)。
3月21日:米金融当局が金融不安のの拡大防止策を続けるとの観測が強まり、金融株や景気敏感株など幅広い銘柄が買われて、316ドル高(0.98%増加)。
3月22日:3月21-22日に開かれたFOMC会合で0.25%の利上げを決め、従来の引き締め姿勢を維持、景気悪化のリスクが高まったとの見方から、売りが優勢で、530ドル安(1.63%減少)。
3月23日:FRBの利上げ停止が近いとの観測からハイテク株を中心に買われて、75ドル高(0.23%増加)。
3月24日:24日にセントルイス地区連銀の総裁が金融ストレス抑制に前向きの見方を示し、金融システム不安による景気悪化への過度の警戒が和らぎ、ディフェンシブ株を中心に買いが広がり、132ドル高(0.41%増加)。
3月27日:経営破綻したシリコンバレーバンクの引受先が決まり、破綻処理の進展を好感した買いが優勢で、194ドル高(0.60%増加)。
3月28日:金融システムへの過度な不安が後退したものの、ハイテク株やディフェンシブ株への売りが重荷となり、38ドル安(0.12%減少)。
3月29日:米欧の金融システムへの不安が一段と和らぎ、消費財関連や金融株などに買いが入り、323ドル高(1.0%増加)。
3月30日:今週は新たに経営不安に陥る金融機関が出ておらず、金融システム不安が収束しつつあるとの見方が相場の支えとなり、141ドル高(0.43%増加)。
3月31日:朝方発表の2月の米個人消費支出(PCE)物価指数の伸び率が市場予想を下回り、FRBの利上げが長引くとの懸念が和らぎ、415ドル高(1.26%増加)。
2.米国の雇用状況
米労働省が3月10日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比311,000人の増加で、市場予想の225,000人を大きく上回りました。12月の雇用者数の確定値は260,000人で21,000人の増加、1月の改定値は504,000人で13,000人の減少でした。2月の失業率は3.6%で、前月から0.2%増加しました。労働参加率は62.5%で前月より0.1%増加しました。2月の時間当たり賃金上昇率は前月比で8セント増加しました。部門別ではレジャー・観光業が105,000人の増加、小売業が50,000人の増加、政府部門が46,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が45,000人の増加、ヘルスケア業が44,000人の増加、建設業が24,000人の増加となりました。
3. 米銀の金融破綻とクレディスイス問題
3月10日に米国のシリコンバレーバンクの経営破綻が伝わり、この前日から米欧の金融市場の様相は大きく変わりました。12日には米政府・財務省などが例外措置として、破綻銀行の預金全額保護などの緊急対策を実施しました。その後、他の中小銀行にお預金流出が及ぶとの懸念がくすぶり、米国の株式市場では中小銀行の大幅下落が続きました。この影響は欧州にも及び、スイス大手銀行のクレディスイスにも波及して同行の株価か急落、そして、スイス政府と中銀による強権が発動され、19日にはUBS銀行が救済合併するに至りました・
今回の金融問題が2008年のリーマンブラザースの破綻に端を発する金融危機と異なるのは、当時の金融危機は2009年3月に米政府による大手銀行の資本への政府資金の投入が実現して、米政府が金融システムを守る政府対応が実現するまで収まらず、経済活動にも大きな影響が及びました。
スイス政府はUBS銀行との合併に金融システムを保つ決断を早々に行いました。この意味で、金融システムを麻痺させる対応が回避されたという点で、2008年の金融危機とは大分異なっています。
FOMC会合が3月21日と22日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。最近の指標では消費と生産が緩やかに増加している。ここ数か月、雇用の増加は堅調で、失業率は低水準にとどまっている。インフレ率は鈍化したが、依然として高い水準にある。
米国の銀行システムは健全で回復力がある。最近の動向は家計や企業の信用状況を厳しくし、経済活動や雇用、インフレに影響を及ぼすと見られる。これらの影響の度合いは不透明だ。FOMCはインフレリスクを引き続き注視している。
FOMCは最大雇用とインフレ率2%を長期的に達成することを目指している。これらの目標を支えるために、FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを4.75-5%に引き上げることを決定した。今後入ってくる情報を注視し、金融政策を評価する。
インフレ率を長期的に2%に戻すのに十分な金融政策スタンスを達成するために、いくらか追加の政策決定が適切かもしれない。将来の目標レンジの引き上げ幅を決めるにあたり、金融政策の累積的な引き締め、金融政策や経済活動がインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する。さらに、以前計画に示されているように、国債、機関債、ローン担保証券の保有量の削減を継続する予定だ。FOMCはインフレを2%目標に戻すことを強く注力している。
金融政策の適切なスタンスを評価する上で、経済指標が景気見通しについて与える影響を注視する。目標達成を妨げる可能性のあるリスクが現れた場合、金融政策のスタンスを適切なものに調整する用意がある。労働市場の状況、インフレ圧力やインフレ期待、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮する。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む12人のメンバー全員の賛成による。
米銀の相次ぐ破たんを受けていったん政策金利を据え置くとの見方もあったが、高インフレの抑制を優先させました。記者会見したパウエル議長は銀行不安への対応策に言及した上で、銀行システムは健全で強靭であると強調、その上で、前回会合以降に出てきた労働市場や物価の指標が想定以上に強かったことから利上げの継続を決定したと説明しました。こうして、FRBが従来の引き締め政策を維持したことで、市場では景気悪化のリスクが高まったとして、景気敏感株や消費財関連株への売りが目立ち、ダウ平均は530ドル安(1.63%減少)となりました。
(2023年4月1日: 村方 清)