1.8月の株式市場
8月の株式市場は25日のジャクソンホール会議でのFRB議長の講演以降、インフレ低下傾向に基づく追加利上げの観測が後退し、株式市場の改善が進みました。主要な動きは、以下の通りでした。
8月1日:四半期決算を発表したキャタピラーが大幅高となり、ダウ平均を押し上げたが、長期金利が上昇したことで投資家心理が悪化、上昇幅は限られ、71ドル高(0.20%増加)。
8月2日:大手格付け会社の米国債の格下げに加え、市場予想を上回る雇用指標の発表もあり、米長期金利が上昇し、株式の相対的な割高感が意識され、348ドル安(0.98%減少)。
8月3日:米長期金利の上昇基調が強まり、株式の相対的な割高感が意識されて、67ドル安(0.19%減少)。
8月4日:4日発表の7月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比187,000人増で、市場予想の200,000人を下回ったものの、平均時給は前年同月比の4.4%増で市場予想の4.2%を上回り、インフレ圧力の警戒感から150ドル安(0.43%減少)。
8月7日:米連邦準備理事会(FRB)高官が一段の利上げに慎重な見方を示したことや一部銘柄に業績を評価した買いが続いたことで、408ドル高(1.16%増加)。
8月8日:ムーディーズによる一部米地銀の格下げを受けて、金融株に売りが広がったことや中国景気の弱さが意識されて、159ドル安(0.45%減少)。
8月9日:明日10日朝の7月の米消費者物価指数の発表を前に、買い控えムードが広がり、主力のハイテク株を中心に売りが優勢で、191ドル安(0.54%減少)。
8月10日:朝発表の7月の米消費者物価指数は前年同月比の4.7%で、市場予想の4.8%を下回り、FRBの追加り上げへの警戒感が和らぎ、株買いを誘って、52ドル高(0.15%増加)。
8月11日:11日発表の7月の米卸売物価指数の上昇率が0.3%上昇、市場予想を上回ったものの、ディフェンシブ株と石油株を中心に買いが入り、105ドル高(0.30%増加)。
8月14日:業績拡大への期待から、半導体やハイテク関連銘柄に買いが入り、相場を支えて、26ドル高(0.07%増加)。
8月15日:中国景気の減速懸念が強まったことや米金融セクターを取り巻く不透明感が米株式相場全体の重荷となり、361ドル安(1.02%減少)。
8月16日:FRBが午後に公表した7月のFOMCの議事要旨でインフレ次第で追加利上げの可能性があることが示しており、米金融引き締め長期化への警戒感から、’181ドル安(’0.52%減少)。
8月17日:朝方に決算を発表した大手小売りが下げに転じて、消費財関連の売りに波及、長期金利も上昇し、ハイテク株も下がり、291ドル安(0.84%減少)。
8月18日:中国経済の先行き不透明感から売りが先行したものの、値ごろ感の出た銘柄に次第に買いが優勢となり、26ドル高(0.07%増加)。
8月21日:FRBの金融引き締めが長期化するとの懸念から、株式の相対的な割高感が意識され、37ドル安(0.11%減少)。
8月22日:大手格付け会社が一部の米銀を格下げし、金融株の売りを誘い、大手百貨店のメーシーズも四半期決算で示した23年8月―10月の業績見通しが市場予想を下回り、175ドル安(0.51%減少)。
8月23日:8月の米購買担当者景気指数(PMI)が50.4と半年ぶりの水準に低下し、金融引き締めが長引くとの過度の懸念が和らいだことで、投資家心理が改善し、184ドル高(0.54%増加)。
8月24日:FRBのパウエル議長がジャクソンホール会議での講演で、金融引き締めの長期化につながる発言をすることへの警戒感から、週初から上昇したハイテク株を中心に売りが膨らみ、374ドル安(1.08%減少)。
8月25日:パウエル連銀議長がジャクソンホール会議でタカ派的な内容の講演をしたが、今の利上げサイクルが終わりに近いとの見方が強まり、247ドル高(0.73%増加)。
8月28日:パウエル連銀議長のジャクソンホール会議での発言で、追加利上げへの過度な警戒心が和らぎ、米長期金利の上昇も一服し、213ドル高(0.62%増加)。
8月29日:同日発表の米経済指標が労働市場の過熱感の和らぎを示し、FRBによる追加利上げ観測が後退し、幅広い銘柄が買われて、293ドル高(0.85%増加)。
8月30日:同日発表の米経済指標が労働市場の過熱感の緩和を示したことで、FRBの追加利上げ観が一段と後退し、株買いを誘い、38ドル高(0.11%増加)。
8月31日:9月1日の雇用統計の発表を前に、ディフェンシブ株や景気循環株を中心に利益確定や持ち高調整の売りが出て、168ドル安(0.48%減少)。
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2.米国の雇用状況
米労働省が8月4日に発表した7月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比187,000人の増加で、市場予想の200,000人を下回りました。5月の雇用者数の確定値は281,000人で25,000人の減少、6月の改定値は185,000人で24,000人の減少でした。7月の失業率は3.5%で、前月から0.1%減少しました。労働参加率は62.6%で前月と同水準でした。7月の時間当たり賃金上昇率は前月比で14」セント増加しました。部門別ではヘルスケア業が63,000人、ソーシアル・アシスタンス業が24,000人、金融業が19,000人、卸売り業が18,000人の増加となりました。
3.過度の引き締めに警戒論も出た7月のFOMC議事要旨
FRBは8月16日に、7月25-26日に開いたFOMCの議事要旨を公表しました。今回の議事要旨では3月以降に相次いだ銀行破綻の影響は落ち着いてきたとの認識で一致したが、商業用不動産向けに融資する金融機関は物価下落による影響が経営に悪影響を及ぼす可能性への指摘が出ました。
また、従来は6月会合まで、23年後半から緩やかな景気後退に入る経済予測を示してきましたが、今回の要旨では個人消費などの動向が想定を上回っているとしてもはや年後半の景気後退入りを予測して明記しました。
インフレ率も、なお目標の2%を大幅に超えた水準で推移している。FOMCの大半の参加者はインフレ率が予想より上振れするリスクがかなりあると見ており、その場合はさらなる金融引き締め毛必要になるかも知れないと指摘しました。
今回のFOMC会合では、引き締めが不十分に終わるリスクと、引き締め過ぎて景気を失速させるリスクがこれまで以上に分かれてきているとの指摘がありました。
(2023年9月1日: 村方 清)