Wednesday, November 1, 2023

根強いインフレ懸念と中東情勢の悪化による市場の不安定化









1.10月の株式市場

10月の株式市場は後半になり、根強いインフレ懸念による長期金利の上昇と中東情勢の悪化で、株式市場は不安定な動きとなりました。主要な動きは、以下の通りでした。

102日:9月のISM製造業景況感指数が49.0と市場予想を上回り、FRBの金融引き締めが長期化するとの見方から、74ドル安(0.22%減少)。

103日:3日発表の米刑事指標が労働市場の需給引き締まりを示したことで、FRBの金融引き締めが長引くとの観測が強まり、431ドル安(1.29%の減少)。

104日:4日朝発表の9月のADP全米雇用レポートで非農業部門の雇用者数が前月比89,000人増で市場予想の16万人増を大きく下回り、労働市場の緩和を示したものと受け止められ、127ドル高(0.39%増加)。

105日:9月の米雇用統計の発表を6日に控え、様子見姿勢が強く、内容次第では米金利上昇につながるとの警戒感から、10ドル安(0.03%減少)。

106日:6日発表の9月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比336,000人増で、市場予想の170,000人を大きく上回ったものの、失業率は8月と同じの3.8%で、市場予想の3.7%を上回ったことや平均時給も前月比で0.2%に留まり、賃金インフレへの過度な警戒が和らぎ、288ドル高(0.86%増加)。

109日:FRBの金融引き締めが長期化することへの過度な警戒感が後退し、投資家の買いを誘い、197ドル高(0.58%増加)。

1010日:FRBの追加利上げ観測が後退したとの受け止めから、米長期金利が大幅に低下、株式の相対的な割高感が和らぎ、株式の買いが進み、135ドル高(0.40%増加)

1011日:朝発表の9月の米卸売物価指数は0.5%で、市場予想を上回ったものの、前月の0.7%から減少、米長期金利が低下し、66ドル高(0.19%増加)。

1012日:朝方発表の米消費者物価指数は同月比で8月と同じく3.7%で、市場予想の3.6%を上回り、長期金利が上昇、株式の相対的割高感を意識した売りが出て、174ドル安(0.51%減少)。

1013日:朝方発表の四半期決算が好調な金融株などを中心に買いが入ったが、中東情勢を巡る緊張が一段と高まり、39ドル高(0.11%増加)。

1016日:米主要企業の決算発表が本格化するなか、内容が市場の想定より上振れすることを見込んだ買いが入り、314ドル高(0.93%増加)。

1017日:9月の小売売上高が前月比0.7%増と市場予想の0.3%以上となり消費関連株や景気敏感株を中心に買いが入ったが、米長期金利も上昇し、株式の相対的な割高感が意識され、13ドル高(0.03%増加)

1018日:18日発表の9月の住宅着工件数は前月比で7.0%増と市場予想の6.8%増を上回り、米長期金利が上昇し、ハイテク株や景気敏感株に売りが出て、333ドル安(0.98%減少)。

1019日:朝方発表の週間の米新規失業保険申請件数が市場予想を下回り、今週発表の9月の米小売売上高や米住宅着工件数が市場予想以上の伸びとなり、FRBの金融引き締めが長期化するとの観測から251ドル安(0.75%減少)。

1020日:米長期金利の上昇は一服したものの、中東の地政学リスクの高まりが相場の重荷となり、287ドル安(0.86%減少)。

1023日:米長期金利が朝方に5%を超えた後、低下に転じ、ハイテク株が買い直される反面、ディフェンシブ株の一部に売りが出て指数を押し下げ、191ドル安(0.58%減少)。

1024日:通信のベライゾンや事務用品のスリーエムなど市場予想を上回る四半期決算を発表した銘柄を中心に買いが入り、205ドル高(0.62%増加)。

1025日:前日夕に決算を発表したネット検索のアルファベットを中心にハイテク株に売りが広がり。米長期金利も上昇して、105ドル安(0.32%減少)。

1026日:朝方発表の79月期の米国GDPが前年比4.9%増と市場予想を上回ったもの、金融引き締めが続く中で、高成長が続くと見る向きは少なく、一方でメタやアルファベットなどの大型ハイテク株の割高感が意識され、251ドル安(0.76%減少)。

1027日:中東情勢が一段と悪化するとの警戒感から、投資家のリスク回避の目的の売りが優勢で、367ドル安(1.11%減少)。

1030日:ダウは直近2週間の下げ幅が1200ドルを超えており、ナイキやゴールドマン・サックスなどを中心に自律反発狙いの買いが入り、511ドル高(1.58%増加)

1031日:11日にFOMCの結果公表を控え、景気敏感株を中心に持ち高調整の買いが続き、124ドル高(0.38%増加)。10月平均では454ドル下落(1.35%減少)、下落は3か月間連続で、20201月から3月まで以来となる。

 

2.米国の雇用状況

米労働省が106日に発表した9月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比336,000人の増加で、市場予想の170,000人を大きく上回りました。7月の雇用者数の確定値は236,000人で79,000人の増加、8月の改定値は227,000人で40,000人の増加でした。9月の失業率は3.8%で、前月と同じ水準でした。労働参加率は62.8%で前月と同じ水準でした。8月の時間当たり賃金上昇率は前月比で7セント増加しました。部門別ではレジャー・観光業が96,000人の増加、政府部門が47,000人、ヘルスケア業が41,000人、専門・科学・技術職業が29,000人、ソーシアル・アシスタンス業が25,000人の増加となりました。

 

3.米長期金利、16年振りに5%を突破

1019日夕の債券市場で長期金利の指標になる10年物国債利回りが一段と上昇、16年振りに5%を突破しました。5%の大台に乗せたのは20077月以来で、直近3カ月間の上昇幅は1.3%程度に達し、急ピッチの上昇を見せています。

19日にニューヨーク市内で講演したパウエル議長は底堅い経済成長や労働市場の強さが続けば、「インフレの進展がリスクにさらされ、更なる金融引き締めが正当化されうる」と語りました。1031日―111日の次回のFOMC会合では利上げ見送りの可能性が高まっていますが、その後の追加利上げの選択肢は残す意向をにじませました。

今夏以降の長期金利の上昇は米国債の格下げや政府閉鎖を巡る米議会の混乱など、財政運営の信認低下に根差している部分もあります。パウエル議長は財政不安が金利上昇の要因になりうると指摘しており、長期金利の動向を注意深く見守っていくと述べています。

            2023111日:村方 清)