Friday, December 2, 2011

負の連鎖が拡大する欧州危機と米国市場の動向












1.11月の株式市場
11月の米国株式市場も欧州市場の混乱を反映して極めて不安定な展開となりました。それと同時に、前半は大きく下落すれば、翌日あるいは翌々日に大きな反騰の動きがあったのですが、感謝祭の週では欧州市場の深刻化を反映して、6、7日間下落が続くという状況に発展しました。その後、11月30日の米国連銀を中心とする6つの中央銀行によるドル資金の安定供給措置は一時的に株式市場に大きな効果をあげましたが、欧州危機の沈静化には至っていません。この点、欧州危機への根本的な対応が早急に求められる事態に変わりはありません。なお、11月中のダウ価格を中心とする株式市場の主な動きは以下のようなものでした。

11月1日:ギリシャのパパンドレア首相が欧州首脳会議の合意に基づく財政緊縮策を国民投票にかけることを内閣で承認させたことで、市場の懸念が高まり、ダウ価格は約297ドル安(2.48%減少)。
11月2日:前日の大幅反落の反動で、約178ドル高(1.53%増加)。
11月3日:ギリシャ首相が野党との話し合いで、国民投票回避で合意したことから、約208ドル高(1.76%増加)。
11月8日:ギリシャ首相の辞任発表に伴ない、約102ドル高(0.84%増加)。
11月9日:イタリア国債の市場金利が危機ラインとされる7%を越えたことから、約389ドル安(3.26%減少)。
11月10日:前日の大幅下落反動と一部米国企業の業績改善で、約113ドル高(0.96%増加)。
11月11日:イタリア議会で財政安定法案を承認したことから、約260ドル高(2.19%増加)。
11月16日:欧州危機の米国金融機関への影響懸念と欧州におけるドイツ国債と他の国々の国債の差拡大から、約191ドル安(1.58%減少)。
11月17日:イタリアとスペインの国債金利が7%に近づいたことから、約135ドル安(1.13%減少)。
11月21日:フランス国債の格下げ懸念や財政赤字削減をめぐる米国の超党派委員会の話し合い決裂などから、約249ドル安(2.11%減少)。
11月23日:ドイツ国債入札で売れ残りが出たことや中国製造業の鈍化などから、約236ドル安(2.05%減少)。
11月25日:下落幅は小さかったものの、感謝祭週の業績としては1932年以来最悪。ナスダックもS&P500も連続7日間の下落で、下落幅は6%以上。
11月28日:感謝祭直後のブラックフライデイでの売り上げ増加と欧州連合メンバー国の財政規律政策への承認制度導入について独仏の合意が進むなどの動きが出て、約291ドル高(2.59%増加)。
11月30日:米国連銀、欧州中央銀行、日銀など6つの中央銀行が市場へのドル資金供給を容易にするための措置を取ったことにより、約490ドル高(4.24%増加)。

2.負の連鎖が拡大する欧州危機
欧州危機については、ギリシャやイタリアで政権交代があり、首班に実務経験者がなったことで期待感が高まりましたが、ギリシャでもイタリアも財政緊縮政策に対する一部野党や国民の反発は依然として強く、それが完全に履行できるかは不透明です。スペインについても、2003年以来政権にあった社会党に変わって国民党が多数を占めましたが、財政緊縮政策への国民の不満は大きく、実効性に問題を抱えています。これに加えて、欧州連合の2大強国の一つであるフランスの国債金利がドイツ国債に比べ、一段と高くなるなどの動きが見られ、フランスに対する市場の懸念も生じています。

こうした状況の中で、市場価格の下落が続く国の国債購入に対する欧州中央銀行のあり方をめぐるドイツ政府とフランスを含む他の国々の政府の考えの対立が目立ってきています。ドイツのメルケル首相は国債価値の下落はその国の財政政策に問題があるからで、そうした国は自国の財政支出削減にもっと強く取り組むべきであるとの従来の立場を変えていません。またメルケル首相は欧州中央銀行によるメンバー国の大幅な国債購入に否定的で、欧州連合条約にはそうした機能は規定されていないとしています。これに対して、民間金融機関がイタリアやギリシャなどの国債を大量に保有するフランスなどは自国の財政赤字問題もあり、欧州中央銀行の機能を拡大させ、メンバー国の国債購入に大きな道を開くべきとしています。

欧州連合創設の経緯からする限り、メルケル首相の主張が正しく、財政悪化に陥った国は自国の努力で改善に努めることが望まれます。しかし、共通通貨ユーロの価値維持が第一の目的とされている現在の欧州連合では、為替価値の下落による市場調整メカニズムに委ねることができず、国の資産売却あるいは公務員の削減や給与や年金の大幅削減と言った政府の人為的財政支出削減策に依存せざるを得ません。しかし、こうした資産売却や財政支出削減策は国の経済活動を縮小させ、その結果更なる税収の減少、そして新たな支出削減が必要になるなど悪循環に陥ることになります。そして、このことがギリシャ、イタリア、スペインのように、全体の経済における財政支出依存が高い国々では国民の現政権への不満が高まり、政権交代を求めるなど政治の不安定化が増すことになります。また、欧州連合内部でメンバー国の民間金融機関が他国の国債を保有する度合いが高い状況では、一国の財務問題が民間金融機関の他国の国債保有を通じて、金融機関が属するメンバー国の財務問題に波及するなど負の連鎖が拡大することになります。

11月21日付けのビジネスウィーク誌は、現在の欧州通貨統合を1930年代の厳格な金本位制に例え、金本位制がもたらした1929年の大不況あるいはドイツやイタリアにおけるファシスト政権誕生等と言った悲劇的な出来事を再び起こさないための提言を行なっています。それによれば、共通通貨の維持が困難な国は欧州連合からの離脱が望ましいものの、それが直ぐに出来ないのであれば、金本位制でもあったように連合内の黒字国は赤字国と同じように負担をすることが必要であるとしています。具体的には欧州金融安定基金に銀行の信用創造機能を拡大し、赤字国に対して一定の条件を付けながら、金額に制限のない融資を行なうべきとしています(現在、欧州連合で議論されているのは欧州中央銀行による重債務国の無制限の国債購あるいは欧州共通債です)。こうした提案は現在財政赤字問題を抱えている南欧諸国の政府などの主張に見られるもので、財政緊縮政策だけでは根本的な経済状況の改善にならず、国民の強い反発から一層の政治不安定化が高まるとの懸念に基づいています。

欧州連合の設立の経緯や通貨統合の目的からすれば、ドイツの主張が正しいと見られるものの、現在のように統一通貨維持のためにメンバー国の間の負の連鎖が生じている状態を放置すれば、欧州連合は完全に行き詰まってしまう恐れがあります。現在、欧州中央銀行の国債購入や欧州共通債の発行に強く反対しているドイツにしても、欧州連合の共通通貨維持が自国経済に多胎のメリットをもたらしてきたことを考えれば、そうした提案を容認せざるを得ないように思われます。但し、欧州中央銀行による無制限の国債購入や欧州共通債の発行はドイツが懸念するインフレ誘発や重債務国の安易な財政政策を導くリスクもあり、メンバー国の財政規律の共通化といった厳しい条件設定が必要になっています。

これに関連して、現在メルケル首相とサルコジ大統領の間で、12月9日の欧州連合首脳会議に合わせてトリプルAの格付けを維持する6カ国(ドイツ、フランス、オランダ、オーストリア、フィンランド、ルクセンブルグ)による財政統合と共通債発行を可能にさせる欧州連合の条約改正を進める話し合いが進んでいるとも伝えられています。しかし、この構想は他の欧州連合メンバー国の反発やフランスの格下げのリスクもあり、それほど容易ではないように見られます。いずれにしましても、欧州中央銀行の国債購入や欧州共通債の発行は重債務国の財政問題を一時的に軽減させるのは事実ですが、重債務国の中には経済実態に合わない共通通貨システムを採用している自体が再建の大きな障害になっている面も否定できません。この点、現在の制度にはないものの、深刻な重債務国は欧州連合を離脱させ、直接IMFの管理下で、為替調整を含めた総合的な再建策を実行させる取り決めを組み込むなど根本的な見直しが必要であるように思われます。

3.政治的な対立が招く米国経済の停滞
次に、米国については、国内の政治的対立が株式市場に悪影響を与えています。特に財政再建をめぐる民主党と共和党のイデオロギー的な対立は本来あるべき米国経済の回復過程に大きな障害になっているように見られます。11月23日までに新たな財政削減措置を目指していた議会超党派委員会の協議は民主党と共和党の代表が其々自分達の従来の立場を変えず、合意に至りませんでした。この背景には財政赤字の改善には富裕層の高率課税復活が必要とする民主党と医療保険や年金などの社会保障費の削減が不可欠であると共和党の根本的な対立があり、加えて来年11月の大統領選挙を控え、双方とも安易な譲歩は支持者の離反を招く恐れがあるとの立場を貫いたことにあります。この結果、トリガー条項により、2013年1月から10年間に渡って1.2兆ドルの歳出削減が強制的に行なわれることになりますが、来年11月の大統領選挙の行方によっては、新たな歳出削減策が出される可能性がないでもありません。むしろ、近い将来にとって、より重要なのは今年12月末に期限が切れる従業員給与の一時的減税措置や失業保険の延長措置で、これらが通らないと米国経済への悪影響が懸念されます。

共和党の大統領選挙候補による争いは、女性問題を抱えるケイン候補の支持率が低下する一方、保守的な姿勢を貫く元下院議長のキングリッチ候補の支持率が上昇、一部のメディアは支持率が伸び悩むトップのロムニー候補に並んだと伝えています。11月22日の夜に開かれたCNN主催の共和党大統領候補による外交問題の討論会でも、ギングリッチ候補はこれまでの保守的な対応策を変え、メキシコからの不法移民で家族と共に25年以上米国に滞在している人達には教会活動などのコミュニティーに同化している限り、恩典を与え米国での滞在を認めるべきと発言し、他の候補者との差を位置づけていました。しかしながら、ギングリッチ候補は政府系住宅金融機関であるFreddie Macより多額の報酬をもらって(一部の報道では約180万ドル)、その機関の存続のために、共和党議員を中心連邦議会の議員達にロビー活動を行なったとの批判を受けています。この批判に対して、ギングリッチ候補は得意の詭弁によって、自分は歴史家としてその機関のあるべき姿を助言したにすぎないとの自己正当化の抗弁を繰り返しています。

また、11月22日の討論会は共催者が共和党のシンクタンクといわれるThe Heritage FoundationやAmerican Enterprise Instituteであったことから、前のブッシュ政権の要人達(例えば、ネオコンの代表者の一人とされるウォルフォウィッツ元国防次官補)が質問を行なっていました。その中で、ある質問者はイスラエルがイラクへの攻撃を始めた時に米国はイスラエルを支持するかを聞いていましたが、これに明確に反対したのはポール議員だけで、多くの候補者は支持を表明していました。ポール議員の立場は国内の経済事情が大変な時期に米国の負担が大きすぎる外国への関与はこれ以上すべきでなく、防衛予算についてもブッシュ政権時にアフガンやイラク戦争で拡大し過ぎた防衛費の大幅な削減は当然であるとして、共和党の他の候補とは一線を画していました。いずれにしましても、共和党の大統領候補の選定は来年1月3日のアイオワ州の党員集会や8日のニューハンプシャーの予備選挙まで本命がないまま、ロムニー候補対反ロムニー候補者達の対立を軸に続いていくものと見られます。
               (2011年12月2日: 村方 清)

Tuesday, November 1, 2011

欧州の包括合意とウォール街占拠(OWS)運動の意義と課題













1.米国の株式市場
米国の株式市場は10月も、27日に欧州首脳会議で包括合意が達成されるまでは、欧州の動向に大きく左右される展開になりました。3日は週末にギリシャの2011年の財政赤字が目標のGDPの7.5%に対して8.5%になるとの見通しが発表されたことから、ダウ平均価格は約258ドル下落(2.36%減少)を記録しました。翌日の4日はアップルの新製品発表の期待感からハイテク銘柄中心に上昇相場となり、加えて欧州財務相会議でギリシャへの融資は11月半ばまでに行うことを決めたことから、ダウ価格は約153ドル高(1.44%増加)となりました。5日と6日は欧州危機が当面遠のいたとの判断から、ダウ価格は其々に約131ドル高(1.21%増加)と約183ドル高(1.68%増加)になりました(アップルの創業者であるジョブズ氏の死去はアップルの株を0.23%下げるだけに留まりました)。しかし、7日は格付け機関フィッチがイタリアの長期債格付けを1段階、スペインを2段階下げたことから、約20ドル安(0.18%減少)を経験しました。10日は週末にベルギーとフランス政府がギリシャ国債保有比率の高い民間金融機関デクシアの解体を決定したことやサルコジ大統領とメルケル首相が民間銀行の資本強化で一致したことを受け、ダウ価格は再び約330ドル高(2.97%増加)となりました。11日は欧州金融安定基金の拡大に最後の承認が必要であったスロバキア議会が否決したためにダウ価格は若干下落したものの、12日にスロバキアの議会で欧州金融安定基金の拡大が最終的に承認されたため、ダウ価格は約103ドル高(0.9%増加)となりました。13日の株式市場は米銀大手のJPモルガンチェースの四半期決算を受け、金融株が軒並み下がり、ダウ価格は約41ドル安(0.35%減少)を経験しました。14日は9月の小売売上高が前月比1.1%の増加となったことやグーグルが業績好調さを反映して市場をリードしたこともあり、ダウ価格は約166ドル(1.45%増加)となりました。なお、この日を終えて、ダウ価格とナスダック価格は再び昨年末を上回る数字となりました。

しかしながら、17日にドイツの政府高官が23日予定の欧州首脳会議の合意が容易でないことを伝えたこともあり、ダウ価格は再び約247ドル安(2.13%減少)を記録しました。18日は独政府と仏政府との間で欧州金融安定基金の2兆ドルの拡大に合意との話が伝えられ、ダウ価格は再び約180ドル高(1.38%増加)となりました。しかし、19日は前日発表されたアップルの業績が市場の予想を下回ったことや午後に欧州危機の対応が容易でないとのニュースが伝えられ、ダウ価格は再び約72ドル安(0.63%減少)を経験しました。21日と22日は欧州首脳会議への期待及びとマクドナルドやキャタピラーなど米国企業の好決算を受けて、ダウ価格は其々に約267ドル高(2.34%増加)と約105ドル高(0.89%増加)になりました。25日は米国の消費者信頼感指数が前月に比べて大幅に低下したことや欧州の包括合意の見通しが厳しいとの見方が強まり、ダウ価格は約207ドル安(1.74%減少)を再び記録しました。27日は欧州首脳会議で欧州危機の対応について包括合意が達成したことや第3四半期のGDPが2.5%と予想を上回った水準であったことから、ダウ価格は約340ドル高(2.9%増加)となりました。31日は欧州国債への投資に積極的であったMFグローバルが破産法申請したことや欧州包括合意の実効性への懸念から、ダウ価格は約276ドル安(2.26%減少)を記録しました。しかし、10月全体としては株式相場が大きく上昇、ダウ価格も月間増加率で約9.5%と2002年9月以来の高さになりました。

2.欧州危機と包括合意
欧州危機の問題はギリシャが政府の緊縮政策にもかかわらず、財政赤字拡大から債務負担軽減に結びつかず、不履行の懸念が高まっていること、同時にスペインやイタリアなども財政赤字の縮小が予定通り進まず、これらの国々の国債価値が低下するなどの状態が続いています。その結果、既にギリシャ国債を大量に保有していたフランス・ベルギー系民間金融機関デクシアの解体が10月9日に決められました。また、財政赤字の改善ができないギリシャについて、民間金融機関は今年7月に第2次支援で自発的に約21%の元本削減を受け入れましたが、依然として過大との見方が多く、民間金融機関の損失負担の増加が必要になっていました。

こうした中で、10月23日と27日に欧州首脳会議が開かれ、長時間の議論の末に、今後の進め方に関する包括合意が成立しました。主要内容は(1)ギリシャが民間金融機関に対して抱える債務の50%を民間金融機関は自発的に削減、(2)欧州連合は民間金融機関に1000億ユーロの資本増強を求め、2012年6月までに自己資本比率9%の達成、(3)欧州金融安定基金の拡大策として、イタリアやスペインなどの新たな国債購入する投資家の損失を一部保証する債務保証案と特別目的会社(SPC)を使って外部の投資資金を呼び込む案の併用を実行するとの3つになっています。包括合意に対する市場の反応は極めて良好で、28日は欧州市場だけでなく、ニューヨーク市場でもダウ価格が一時400ドルを越える程の上昇となりました(最終的には約340ドル高)。

しかしながら、今回の包括合意は今後の実行段階で、いずれも大きな問題を抱えています。第一にギリシャの債務の50%削減については、7月合意の21%でも参加率は90%に達していないことからすると、50%の削減に民間金融機関がどの程度参加するのかという懸念があります。もし、参加する金融機関が少なければ、ギリシャの負担軽減問題は大きく挫折することになります。第二に民間金融機関で自力による資本増強ができるところはギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリアなどの南欧の銀行では極めて少なく、公的資金の流入が不可欠になります。しかし、これらの国々は政府の債務比率自体が増加しており、新たな公的資金の負担には限界があります。

第三に中国などの外部の国々に新たな資金を出してもらう方法として、米国の1990年代初めのCMBS(商業不動産抵当証券)や2000年代後半のサブプライムローンの証券化で活用されたSPCを使う債権証券化の方法が考えられています。しかし、証券化は裏づけとなる投資対象商品の価値が上昇し続けていることが必要で、価値の下落があればレベレッジを伴っている商品は損失が加速度的に増大するリスクを含んでいます。現在、欧州連合は多くの低成長と債務負担に悩む国々を抱えており、そうした国を対象にした証券化商品をリスクと利回りの面で外部の投資家に魅力のあるスキームで作ることができるかという問題があります。

いずれにしましても、包括合意は欧州連合のメンバー国が自国の負担を極力少なくさせ、救済を外部に求めたものと言ってもよく、本当の意味の解決にはなっていません。欧州連合の本質的な問題は経済力が十分とは言えない国々に対して、統一通貨維持に必要な条件の加盟審査が厳密に行われることなく、政治的な思惑を優先して連合への加盟が認められ、しかもメンバー国に共通な財政政策の履行を強制させる能力を欠いていることにあります。そして、財政赤字や債務増加に陥った国で取られるべき経済実態に応じた為替政策が欧州連合の統一通貨維持という目的のために実行できないことにあります。この点、ギリシャなどの問題国が欧州連合に留まる限り、今後も欧州連合の不安定さは続かざるを得ないと見られます。

3.米国経済とオバマ政権
米国については9月の失業率が前月と同じく9.1%の高水準に留まっていることもあり、米国上院の民主党は10月11日にオバマ大統領が9月8日に提案した総額4,470億ドルの雇用創出法の修正案の議決を求めました。しかし、共和党議員全員の反対で承認に必要な60票に達せず、廃案となりました。これを受けて、オバマ大統領は雇用創出包括法案に代えて、年収100万ドル以上の高所得者に対する0.5%の増税で、教員、警官、消防士などの地方公務員の解雇を防止しようとする350億ドルの分割法案を10月20日に上院へ提出しました。しかし、これも共和党議員の反対で承認が得ることができませんでした。オバマ大統領としては、雇用法案成立のための遊説ツアーを続けていますが、野党である共和党はティーパーティーグループの影響を強く受けており、現在の米国議会構成ではオバマ大統領の雇用創出案が成立する可能性は低くなっています。米国経済の回復が鈍っている状況で、しかも低金利政策や量的緩和策といった金融政策の効果が限界になっている以上、財政支出による追加の刺激策が強く求められています。しかし、共和党が本来中・長期に解決すべき財政赤字の改善問題を全面に出して、オバマ政権による経済回復・雇用対策に悉く反対しており、財政面でも有効な政策が取れない状況にあります。

なお、オバマ政権は住宅ローンを持っている米国人の4割近くがローン残高より住宅価値が下回っている現在の深刻な不動産不況については、10月24日に議会承認が必要ない大統領令で現在のThe Home Affordable Refinance Program(HARP)を拡大し、ローン残高が住宅価値の125%を越えないという条件を外し、約2百万人はいると見られる借入人を現在のFannie MaeあるいはFreddie Macの対象となるリファイナンス・プログラムに加える措置を取りました。この措置により、住宅ローンで遅滞がない借入人は安い金利のリファイナンスを受けられ、連銀が9月に発表したツイスト・オペに比べ、恩恵が直接借入人に及ぶことになります。

4.共和党大統領候補の討論会
共和党大統領候補による討論会は10月も、11日と18日の両日に開催されました。特に、11日は米国の経済問題がテーマで、ビジネス界出身のケーン候補が提案した新たな税金政策である9-9-9が注目されました。所得税、法人税、売上税をいずれも一律に9%にするという考え方は新鮮でケーン候補の支持率を上げるのに役立ちました。しかし、現在の米国の深刻な経済問題への対応については、どの候補者も具体的な提案がない状況に変化はありませんでした。 

18日の討論会ではケーン候補の9-9-9に対する批判が相次ぎ、特に、現在州税である売上税を新たに連邦税に含めることには税負担が大きくなるとの理由で他の候補者から多くの反対意見が出されました。また、ペリー候補が初めて米国の経済回復策として、米国内のエネルギー開発を進めることを提案しましたが、テキサス州のように資源がある州はよいにしても、資源のない他の多くの州にどの程度の適用性があるのかに疑問を残しました。一方、米国の現在の不況の主因である不動産不況の対応策について、ポール議員はブッシュ政権から続いている連邦政府や連銀の過剰な関与がもたらしたものであり、市場経済に委ねるべきという提案が出されました。しかし、彼の提案は今の状況が正常であれば検討の余地があるかも知れませんが、現在のような深刻な不動産不況では市場経済に委ねれば住宅価値が更に減少し、事態が一層悪化しかねないという問題への解決策にはなっていませんでした。また、この日の討論会では共和党候補者の中で一番リードしているとされたロムニー候補に対し、他の候補者達から不法移民問題や健康保険問題で厳しい質問があり、再び本命が不在となるような結果になりました。

5.ウォール街占拠(OWS)運動
最後に、9月17日に始まったウォール街占拠(Occupy Wall Street:OWS)運動は全米の各都市(あるいは世界の主要都市)に広がりを見せています。その背景には学校を出た後あるいは失業した後、すぐに就職口が見つからない若い人達の不満が中心となっています。同時に米国で長期間続けられてきた所得格差の拡大やリーマン破綻後の対応策がウォール街の大手金融機関の救済が優先され、経済状況が悪化している多くの中間所得層に向けられていないことへの政府への不信も重なっています。OWS運動で見逃すことができないのはこの運動を起こしたカル・ラスン氏(バンクーバー拠点のアドバスターズ共同創業者)が述べているように、この運動が反ティーパーティー運動の性格を持っていることです。現在、米国では全人口の1%の富裕層が米国全体の資産の25%近くを保有していると言われ(ニューヨーク市ではこの比率が40%以上)、しかも富裕層が献金やロビー活動によって、政府の政策に大きな影響を与えている状況を放置すべきでないということがあります。OWSが現在The 99% Movementと呼ばれるようになっているのもこのためです。この点、ティーパーティ運動が政府の関与を極力少なくさせた市場経済重視の旧来型の資本主義の復活を求めているのに対し、The 99% Movementは行過ぎた市場経済型資本主義を民主主義の理念に基づいて政府の適切な介入による修正を求めていると言えるかも知れません。

しかし、The 99% Movementは多くの参加者を集め, 一般の人達の関心を得ていながら、現時点ではティーパーティ運動と異なり、組織化の点でかなり遅れています。ティパーティー運動は政府の介入を好まない富裕層や企業の資金支援を受けて、全米的な政治活動組織を作り、これが2008年の中間選挙で共和党の中に大きな存在感を確立することに成功させました。The 99% Movementもこの運動に参加する人達が本当に彼らの目的を少しでも実現しようというのであれば、そのための政治活動組織を作ることが必要であり、もし組織化ができなければ単に現状に不満を抱く人達の抗議の集まりで終わってしまう恐れもあるように思います。
                
(2011年11月1日: 村方 清)

Sunday, October 2, 2011

混迷続く欧米経済と株式市場の不安定化











9月の米国株式市場も欧州危機の混乱と米国経済回復に対する政策面の遅れから、全体的に悪化が目立つ月となりました。9月1日に米国の行政管理予算局が2011年成長率の鈍化や失業率の高止まりの見通しを伝えたことや9月2日に8月の失業率も前月の9.1%の水準に留まったとの政府発表があったことから、ダウ平均価格は2日連続で約120ドル安(1.0%減少)と約253ドル安(2.2%減少)を記録しました。翌週になると、9月7日にドイツの連邦憲法裁判所がドイツ政府によるギリシャ支援や欧州金融安定基金の機能拡充措置を合憲としたことから(但し、今後は連邦議会の承認を得ることが必要)、市場が落ち着きを取り戻し、ダウ価格は約276ドル高(2.5%増加)となりました。しかし、9月8日夜にオバマ大統領が景気・雇用対策のために総額4470億ドルの雇用法案を提案し、市場も前向きの評価を与えたものの、9月9日に欧州中央銀行の専務理事が辞任したことやギリシャの債務不履行の懸念が伝えられ、ダウ価格は再び約304ドル安(2.7%減少)を経験しました。翌週になると、Moody’sによるフランス商業銀行の格下げやオーストリア議会の欧州安定基金への拠出への混乱などが伝えられましたが、9月14日にドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領がギリシャ首相との電話会談で、ギリシャが7月21日のユーロ圏首脳会議の決定を実行する限り、ギリシャが欧州連合に留まるための支援を行なうことを確認したことで、ダウ価格は再び約141ドル高(1,27%増加)となりました。9月15日には日米欧の中央銀行が欧州におけるドル資金の供給を強化し、民間商業銀行の資金繰りを支援することを確認したこと、さらに16日に欧州財務相会議で10月にギリシャへの追加融資実行の方針を確認したことで、両日のダウ価格は186ドル高と76ドル高となりました。 なお、この週は2ヵ月半振りに5日間連続でダウ価格の続伸となりました。9月19日はオバマ大統領が先の雇用法案に必要な金額を差し引いた今後10年間における3兆ドルの財政削減計画を発表しましたが、ギリシャ支援を巡るトロイカ(欧州連合、IMF’、欧州中央銀行)とギリシャ政府の話し合いが難航しているとの話が伝えられ、ダウ価格は約108ドル安(0.94%減少)を記録しました。また、9月20日と21日に開かれた連銀の公開市場委員会で、連銀は21日の午後に4000億ドル規模で長期国債の保有比率を高めるツイスト・オペを発表しましたが、市場を驚かせる効果が少なかったことやMoody’sが米国の3つの商業銀行の長期債格付下げをしたことから、ダウ価格は約284ドル安(2.5%減少)を経験しました。更に翌日は連銀の世界経済の見通しが厳しいとの受止め方から、欧州やアジアの株式市場が警戒感を深め、ダウ価格は一時500ドル以上の下落となり、最終的に約391ドル安(3.9%減少)を記録しました。26日の週も前半は欧州金融安定基金の機能拡充など欧州危機に一段と踏み込むなどのニュースがあり、26日のダウ価格は約272ドル高(2.5%増加)に転じたものの、9月30日にはギリシャの財政赤字改善の困難さや中国経済の鈍化のニュースが伝えられ、ダウ価格は約241ドル安(2.2%減少)を経験しました。なお、9月末で終わる第3四半期のダウ価格は約12%の下落で、2009年第1四半期以来最悪の四半期となりました。

9月の欧州市場はギリシャの財政赤字問題が改善の見通しが少ない中で、市場におけるギリシャ債務不履行の懸念の高まりとそれを回避したい欧州連合の主要国や欧州中央銀行の対応措置の繰り返しになりました。それと同時に、従来と異なっていることは支援側のドイツの一部や北欧諸国の一部からギリシャなどの問題国は欧州連合から離脱させるべきとの意見が出てきたり、受け入れ側のギリシャ国内でも現在要求されている財政緊縮政策の厳しさからこれに反対する国民や野党の中より欧州連合からの離脱を主張するグループが出てきたことだと思います。しかしながら、昨年初めにギリシャ債務問題が顕在化した時期であればとも角、それ以降欧州連合やIMFによる支援の取り決めが拡大し、欧州連合内の経済運営が相互に密接な関係を持っている以上、債務不履行や一方的な離脱は2008年のリーマンブラザーズ破綻と同じか、それ以上の混乱を欧州だけでなく、世界経済に与える恐れがあります。これに関連して、9月16日までに合意する予定だった80億ユーロの貸出実行条件をめぐるトロイカ{欧州連合、IMF、欧州中央銀行}とギリシャ政府の話し合いが10月初めまで引き延ばされました。その背景には欧州連合内部で欧州金融安定基金拡大について17カ国の加盟国全てが自国議会の承認など必要な手続きを完了できるか(9月末までにドイツを含めて12カ国が承認済み)と同時に、9月27日の固定資産課税強化法の議会承認に続き、ギリシャ政府による3万人の公務員削減や年金20%の減少等についても国民の理解を得て議会で承認されるかを見極めたいとの判断があったものと見られます。いずれにしても、実質的には債務不履行に近い状態のギリシャの債務問題が改善される見通しは少なく、今後は債務不履行や離脱に伴う市場の混乱をどのように抑えていくかが欧州連合の主要国や関係機関における検討課題になってきているように思います。

一方、米国については、ギリシャなどの欧州危機と異なり、長期に解決すべき財政赤字問題が議会における政治的なイデオロギーの争いになってしまい、経済回復や失業問題に対して必要な財政措置や金融政策が積極的に取れないことに最大の障害があります。オバマ大統領が9月8日に大胆な雇用法案や9月19日に大規模な財政削減案を発表したにもかかわらず、議会下院で多数を占める共和党からの協力姿勢が見られないことから市場に与える動きも限界となっています。また、9月20日と21日に開かれた連銀の公開市場委員会で示されたツイスト・オペも昨年秋に実行されたQE2の量的金融緩和策に比べ、即効性が少なく、市場の反応は芳しいものではありませんでした。ツイスト・オペは深刻な状態にある米国の住宅不動産市場に対して、長期間の低金利ローンを供与する点では意味がありますが、住宅市場の活性化のためには米国の雇用増加や安定収入確保に基づく住宅需要の増加が必要であり、単に低金利のローンを供与するだけでは解決策になりません。米国にとって景気回復が遅れている最大の理由は米国議会の中に現在の米国経済の深刻さの度合いについて共通の認識がなく、イデオロギー的な政治理念の対立を優先させるために、経済回復措置の実行が進まないことにあります。現在の財政赤字の主因であるブッシュ政権時代の政策、大規模減税、アフガンやイラクでの戦争参加による軍事費の大幅増加、持ち家促進のための金融優遇や規制緩和による行過ぎたサブプライムローンの大量不良債権化等はいずれも大胆な見直しと改善策が必要になっており、オバマ大統領はこのために様々な提案を行なっています。しかし、共和党、特にティーパーティーグループは来年11月の大統領選挙でオバマ大統領の再選阻止が第一の目的となり、財政赤字を理由にオバマ政権の財政支援策を悉く批判、米国の深刻な経済問題の解決に向かって超党派的な協力姿勢を示さないことに大きな問題があります。ギリシャの例でも見られるように、共和党が主張する財政赤字改善を優先させる緊縮財政政策だけでは現在の米国経済のような深刻な不況にある時には、経済規模が縮小、結果として債務が増加する悪循環に陥る恐れがあります。

共和党の大統領候補による討論会が、9月7日にロサンゼルス郊外シミバレーのレーガンライブラリーを皮切りに、9月12日にフロリダ州タンパと9月22日にフロリダ州オーランドで、3回に渡って開かれました。ソーシャルセキュリティーの扱い、不法移民への対応、宗教教育の取り扱い、外交政策等については支持率数で第1位のペリー・テキサス州知事に対し、第2位のロムニー・元マサツセッツ州知事やその他の候補者との間で顕著な違いが見られましたが、米国経済低迷や高失業率問題については、いずれの候補もオバマ政権の政府指導型の不況克服を批判、1980年代初めに故レーガン大統領が行なった小さな政府による減税と規制緩和による民間指導型の政策が必要であることを提案していました。しかしながら、レーガン第一期政権は大型減税と巨額軍事支出で財政赤字が大幅に増加、第二期政権の1986年の税制改正で大幅減税や優遇税制措置を悉く廃止し、それが結果的にクリントン政権における財政再建の達成に結ぶついたことについての言及はありませんでした。また、2008年9月のリーマンブラザーズの破綻以降、現在の米国経済不況の最大の要因となっている不良債権急増の住宅不動産市場をどのように立ち直させるかについても、どの候補者からも具体的な提案はありませんでした。

いずれにしましても、欧州危機が更に深刻さを増す中で、米国経済の回復は世界経済の健全な発展のためにも不可欠となっています。しかし、昨年秋の中間選挙の結果、小さな政府による極端な自由市場経済を掲げるティーパーティーグループが共和党支配の下院で大きな影響を与えるようになって以来、一切の妥協を認めない彼等の主張が障害となり、大統領と議会の対立だけでなく、議会内部の対立が悪化し、米国経済の円滑な運営が著しく妨げられるようになっています。現在も10月1日から11月18日までの暫定予算が両院の対立を起こし、合意が得られず(ハリケーン被害による一時的な救援資金法は9月29日に合意)、8月初めのように政府機関閉鎖の恐れが出てきています。このような2大政党間のイデオロギー的対立が来年11月の大統領選挙まで続くことは米国だけでなく、世界にとっても不幸なことであり、米国議会がイデオロギーの対立を超えた米国の経済再生のために、生産的な議論や行動を取っていくことが強く求められているように思われます。
                     (2011年10月2日: 村方 清)

Thursday, September 1, 2011

“日本病”に陥り始めた米国経済と株式市場への影響













8月の株式市場は、8月2日に連邦政府の借入限度が議会で承認されたにもかかわらず、それ以降は下降局面の中で、上下の揺れが極めて大きな値動きを経験しました。8月2日のダウ平均価格は前日の製造業生産に加え、6月の消費支出もマイナス0.2%であったことなどの不振が伝えられ、今年3月以来最大の約266ドル安(2.2%の減少)を、8月4日も欧州中央銀行による欧州危機の懸念表明から約513ドル安(4.3%の減少)を記録しました。加えて、8月8日は前週の金曜日午後に米国の格付け機関の一つであるS&Pが米国政府の財政再建取り組みが不十分との判断から米国債の格付けをAAAからAAプラスに引き下げたことから、株式市場は大きく下落、ダウ価格は約635ドル安(5.6%の減少)となりました。この下落は2008年12月1日の679ドルに次ぐ大きなものでした。但し、翌日の8月9日に開かれた連銀の市場公開委員会後の記者会見で、バーナンキ連銀議長が現行の低金利政策を2013年半ばまで続ける用意があること、景気動向を見ながら追加の金融緩和策を取る用意があることを表明したことから、ダウ価格は再び約430ドル高(4.0%の増加)となりました。しかし、8月10日は欧州、特にフランス国債の格付け引き下げ懸念が出たこともあり、ダウ価格は再び約520ドル安(4.6%の減少)の下落となりました。それ以降は逆に、翌日の8月11日は先週の新規失業保険申請者数が5万人減少したことが原因で、ダウ価格は約424ドル高(4.0%の増加)を、12日は7月の小売額が0.5%上昇したこともあり、約126ドル高(1.1%の増加)を記録しました。さらに、8月15日はグーグルがモトローラの買収を決めたことやECBによるイタリアやスペイン国債の購入により欧州市場が安定を取り戻したことにより、ダウ価格は約214ドル高(1.9%の増加)となりました。なお、この日のダウ終値は11,483ドルで、S&Pによる米国債の格下げ決定前の水準まで戻ったことになりました。しかし、8月18日には大手金融機関の世界経済見通しが厳しかったこと、失業保険申請者が市場予測より増加したこと、さらに7月のCPIが0.5%に増加し、連銀の追加金融緩和措置が遠のいたとの観測などから、ダウ価格は一時500ドルを越す下落を再び経験、終値は約420ドル安(3.7%の減少)となりました。翌週の8月22日には株価が下がり過ぎた株を買い戻す動きと8月26日に予定されるバーナンキ連銀議長による新たな金融緩和策の期待から、ダウ価格は再び約322ドル高(3.0%の増加)を記録しました。8月26日の連銀議長の講演も追加の金融緩和策の余地を確認するものであったため、ダウ株価は更に約135ドル高(1.2%の増加)となりました。加えて、8月29日はギリシャの2つの商業銀行の合併が発表されたことで、ダウ価格は約255ドル高(2.3%の増加)となりました。いずれにしましても、8月のように株価が日毎に(時には1日の中で)、大きく変動を繰り返す月は最近においては例のないものでした。この背景には不安定性が一層増している欧州経済や景気の鈍化が目立つ米国経済や財政赤字問題を実際以上に政治化させてしまった米国議会における混乱があります。

欧州危機について見れば、欧州安定基金により、ギリシャ、ポルトガル、アイルランドへの資金供与が実行され、さらにこの基金の2500億ユーロから4000億ユーロの拡大も決定されました。それにも拘らず、8月も欧州危機の問題が米国の株式市場に大きな影響を与えたのはこれら3国以外に欧州連合の第3位と第4位の経済力を保有するイタリアとスペインの経済が低迷し、財政赤字拡大の懸念に伴う両国の国債信用低下問題が起こったためでした。欧州中央銀行は8月15日に両国の国債を流通市場から購入する措置を取ったことにより、投資家の不安は一時的に収まりましたが、両国の経済が直ちに好転する状況にはないだけに、再燃する恐れはあります。これに関連して、欧州中央銀行による問題国の国債購入では一時的な解決にすぎず、欧州連合の共通国債(欧州債)を発行すべきとの意見も出てきています。確かに、欧州債は問題国の国債に比べ、経済力が強いドイツやオランダなどを含む欧州連合全体としての債券であり、信用力が高く、金利も安くなることが期待されます。しかしながら、経済力の強い国の立場からすれば、欧州債の発行は自国の信用力の低下を招き、自分の国債発行コストにマイナスになりかねないだけに、それを相殺するメッリトがない限り、認められる状態にはありません。その意味で、欧州債は現在の欧州危機を解決する可能性はあっても、その是非は欧州連合のあり方に関係する問題になっています。ユーロという共通通貨を前提にした欧州連合は各国の主権を前提にしている経済統合であり、それを超える超国家形態ではありません。しかし、欧州債の債務返済が担保されるには各国の主権を超えた共通の財政・金融政策の実行が条件となります。8月16日の独仏の首脳会議でメンバー国独自の財政改善努力の必要性で一致したものの、欧州債に言及しなかったのも現在の欧州連合では困難との判断があったためと見られます。加えて、最近では欧州連合の最大経済国であるドイツを含めてメンバー国の景気後退が出始めており、今後も暫くは欧州危機が米国の株式市場に悪影響を与えるのは避けられません。

一方、米国については、8月5日の午後にS&Pが米国債の格付けを引き下げたことが8月8日以降の株式市場に大きな混乱を与えることになりました。S&Pの格下げ評価については、他の格付け機関がAAAの評価を変えていないこと、米国政府の債務不履行リスクという点では、2008年9月のリーマン破綻時期の方がより大きかっただけに、今回の判断には多くの批判が出されています。実際の債券市場でも彼等の格下げ判断にも関わらず、米国債の金利が低下しているという状況が起きています。米国の3つの格付け機関は現在の不動産不況の主因となっているサブプライムローンの証券化商品のリスク判断で、大きな評価の間違いをしており、それが格付け機関に対する批判ともなりました。8月8日のMSNBCで、ライシュ・UC バークレー大教授(クリントン第一期政権の労働著官)が今日の大不況の理由の一つは、格付け機関がサブプライムローンの証券化商品にトリプルA の格付けをしたことにあると述べていましたが、適切な指摘であると思います。いずれにしても、S&Pが格下げ評価の理由として、本来一時的であったブッシュ減税の取り扱いについて未だに適切な措置が取られていない点は正しいとしても、現在のように不履行の懸念が全くないと見られる米国債について格下げを行う必要があったかは大きな疑問とされます。

また、現在の米国の厳しい経済状態について、来年の大統領選挙に立候補予定の共和党候補者から相次いで、過去2年間のオバマ政権の取り組みへの批判が出されています。しかしながら、今回の米国の不況は2008年にリーマンブラザースを始め、多くの金融機関を破綻させた過剰なサブプライムローンに基づく深刻な不動産不況に主因があるとの認識がいずれの候補者から出されていません。株式市場については企業のリストラ化やグローバル化、あるいは連邦政府の金融安定化法や連銀による質と量面における金融緩和措置により、一時的に回復しましたが(少なくとも今年第2四半期までは)、7月以降は連邦政府の借入限度引き上げに関連して、財政収支の改善のあり方が議会の与野党間の激しい対立を起こしたため、株式市場は再び混迷することとなりました。それと同時に、不動産不況の深刻さは商業不動産のみならず、住宅不動産でも今でも続いています。 最近のS&Pの報告によれば、通常の中古住宅物件の在庫(現在は9か月分程)に加えて、金融機関が差し押さえたものの、価格の低迷から市場に回されていない“Shadow Inventory(隠された在庫)”の住宅物件が依然47か月分(約4年分)があるとしています。こうしたことが住宅市況の改善を著しく阻害しており、もし、金融機関が大量の差し押さえ物件を一挙に市場に出せば、急激な価格下落が生じる恐れがあります。こうした厳しい不動産不況は地方銀行を中心に年間100行以上の倒産が続いたり、米国最大の商業銀行であるBank of America(全米最大手の住宅モーゲージレンダーであったCountrywideや住宅モーゲージ証券化ビジネスの大手投資銀行であったMerrill Lynchを買収)の著しい業績悪化や株価の急激な下落を招いています(Bank of Americaの8月24日の株価は2009年3月以来の低水準である6.99ドルで、翌日の25日に世界最大の投資持株会社であるBerkshire Hathawayの会長兼CEOであるウォーレン バフェットが50億ドルの資本増強に応じました)。また、不動産不況は従来このビジネスに従事していた不動産、建設、金融関係の雇用を大きく失わせているだけでなく、一般の米国人にとっても株投資と並ぶ健全な資産形成であった不動産投資ができず、全体の個人消費の低迷の原因を作っています。8月26日のバーナンキ連銀議長の演説も今回の深刻な不況は従来の景気循環型と異なり、住宅市場の長期低迷化と経済のグローバル化が大きく影響しており、その回復には金融面の緩和策だけでなく、財政政策も合わせて取られる必要があることを強調しました。共和党のブッシュ政権による安易な持ち家促進政策や行過ぎた金融の自由化がもたらした今回の不動産不況の克服に共和党候補者はブッシュ政権やそれを引き継いだオバマ政権の金融安定化法による支援措置を批判するだけで、何一つ具体的な解決策を示していません。ティーパーティーグループの支援を期待するペリー候補は不況克服のために導入すべき連銀による量的金融緩和策を批判しましたが、インフレ懸念がない時でもそれに反対するのであれば、不況克服のためには他にどのような具体的な方策があるのかを示すことが求められているはずです。

加えて、米国内の雇用面の対応においても、企業のグローバル化に伴って、多くの米国大手企業が国内の雇用を増加させていない状況の中で、共和党候補が政府の介入を少なくさせ、市場原則に委ねれば、民間企業は国内雇用を増加できると主張するのであれば、その根拠を明示するが必要だと思います。例えば、テキサス州知事のペリー候補はテキサス州の雇用増加が多かったことを強調しますが、テキサス州における最近3年間の純雇用拡大は連邦政府の財政支援による政府職員の増加だったり、民間企業における最低賃金以下の従業員比率が全米で最も高いなどの問題が出ています。米国が現在直面している不況は、1990年代初め以降、日本が経験してき不動産バブル崩壊と高すぎる外需依存による過度なグローバル化がもたらした長期の構造不況(いわゆる失われた10年)という“日本病“に酷似するものであり、深刻な不況克服には何が必要であるかを与党のオバマ政権だけでなく、野党の共和党候補も具体的な方策を提案し、議論を戦わせることが強く求められています。

”日本病“に関連して、7月30日付けのエコノミスト誌は表紙に和服姿のドイツのマルケル首相と米国のオバマ大統領の似姿絵を並べて、両指導者はいずれも、長期に渡る国内の政治的対立から効果的な政策が取れない日本化に罹り始めていると風刺しています。それは欧州危機の問題にドイツ国内の政治事情から適切な対応が取れないマルケル首相と共和党が多数派となった下院の政治事情からリーダーシップが発揮できないオバマ大統領の状態を示したものです。その一方、経済的な”日本病”とは2008年ノーベル経済学賞を授賞したクルーグマン・プリンストン大教授が説明しているように、デフレ経済の進行により、積極的な金融緩和策を取っても、企業や個人の借入需要が増加せず、景気改善が図れないケインズ経済学の”Liquidity Trap (流動性の罠)に陥った状況を指しています。シカゴ連銀のエバンズ議長も8月30日のCNBCのインタビューで、米国経済が流動性の罠に陥っているとの見方を示しました。

最後に、現在の米国の政治状況について、CNNが8月7日から9日まで行なった調査によれば、8月2日に決められた借入限度の引き上げ問題に対する議会の対応に不満を持つ人が多く、2012年での下院選挙で再選を望むのはわずか41%に留まりました。特に、共和党を支持する人の割合は41%から33%へ減少、不支持者は1992年以降最大の59%に増加しました。その中で、ティーパーティー支持者は37%から31%に減少しました。一方、民主党は支持者と不支持者の割合はいずれも47%で従来と変化がありませんでした。なお、8月2日の与野党の財政削減合意に関連して、12名からなる議会の特別委員会に望むものとしては63%の人達が富裕層や企業への減税廃止を、歳出面では軍事費の削減が必要としたのは47%で、ソーシャルセキュリティーやメディケアの削減には3分の2が反対となっていました。野党の共和党はこうした世論の結果を踏まえた現実的な行動を取っていくことが必要になっていると見られます。
                (2011年9月1日:  村方 清)

Monday, August 1, 2011

ギリシャ等の欧州危機と異なる米国の債務問題













7月に入り、6月の製造業景況感指数が全米で拡大しているとのデータが発表されたこともあり、7月1日のダウ平均価格は168ドルの上昇(1.36%)を記録しました。また、この週はダウ平均価格が5.4%の増加となり、過去2年間で最善の週となりました。しかしながら、7月11日には米国連邦政府の借入限度引き上げに関する大統領と議会関係者の話し合いが難航していることに加え、欧州でイタリアの銀行不安と財政赤字問題が伝えられ、ダウ平均価格は151ドルの下落(1.20%)を経験しました。その後、7月19日に米国政府の借入限度引き上げに関し、上院の6名の議員(Gang of Six)による妥協案にオバマ大統領が前向きの反応を示し、明るい見通しが出てきたとの市場の観測から、ダウ平均価格は今年最大の202ドル(1.63%)の上昇となりました。しかしながら、7月25日の週に入ると、借入限度の引き上げをめぐって、昨年11月の中間選挙で躍進したティーパーティーグループの影響を受けた共和党が、借入限度の引き上げにはそれを上回る歳出削減が必要であることを強硬に主張、これに全面的に反対する民主党との間での合意の見通しが立たず、ダウ平均価格は5日連続で下落、合計で538ドル(4.2%の減少)という今年最悪の週となりました。本来、7月は米国の多くの企業が四半期の業績を発表することもあり、株式市場は比較的安定していますが、今年に関してはアナリストの業績予想を大きく上回ったGoogleやAppleの業績発表時期を除き、欧州問題や米国政府の借入限度引き上げ問題のために、株式市場は極めて不安定な状態が続きました。

欧州経済については、7月3日の欧州財務相会議でギリシャに対する第1回金融支援の第5回融資実行条件が承認された後、7月21日に欧州首脳会議で、民間金融機関からの支援500億ユーロを含む総額約1590億ユーロに達するギリシャへの第2回金融支援が合意に達しました。これに加えて、ギリシャ以外の国への支援増加に備えて、欧州金融安定基金(EFSF)の強化策として、融資枠の拡大や民間金融機関が保有する国債の買取りも可能とさせました。この結果、7月22日以降はユーロへの信頼が取り戻されています。しかしながら、こうした合意について、格付け機関の一つであるFitch社は民間金融機関が保有するギリシャ国債の繰り延べや新たな国債とのスワップが実行されるのであれば、ギリシャをトリプルC(Junk bondの中で、下位の位置づけ)から限定的な債務不履行(“Restricted Default”)に下げざるを得ないと表明しました。いずれにしても、今回の第2回金融支援では民間の金融機関にも参加することを求めている点で第一回とは異なっていますが、こうした金融支援によってギリシャが立ち直るかどうかは依然として不透明です。一層厳しい財政緊縮政策はギリシャの経済成長を更に鈍化させ、そのことが税収の減少や失業者の増加になってくる可能性は否定できません。その意味で、昨年5月の合意と同じように、ギリシャが自国経済の実態と合わないユーロの価値維持に制約され、緊縮政策だけが求められている以上、時間の経過と共に再び問題が顕在化するリスクがあると言えます。

一方、米国の財政赤字問題に関連して、米国債がMoody’sやStandard & Poor’s等の格付け機関からトリプルAの評価見直しの警告を受けたこともあり、ギリシャ等の問題と同じように捉える見方が出てきています。しかし、欧州危機と米国の財政赤字問題では基本的に大きな違いがあります。第一にギリシャ、ポルトガル、あるいはスペインにも一部は該当するかも知れませんが、経済の競争力が弱いために輸出できる製品が少なく、外貨の獲得能力には限界があります。この背景にはこれらの国はいずれも社会主義政党が政権を長く担当していたこともあり、従業員の労働生産性が低くなっていることがあげられます。第二に対外債務が増加し、国際競争力をつけることが必要な場合には、通常は自国通貨の価値を引き下げることが求められますが、共有通貨ユーロの価値維持が欧州連合加盟国の義務であるため、これらの国ではその選択がありません。第三に、特にギリシャの場合、過去180年間を通じて国の借り入れ比率が高いことが多く、債務不履行についても幾つかの経験があることです。これに対し、米国は最先端のIT、医療、航空機産業の分野で世界をリードする企業が多くあり、しかも、ドルの価値を管理できる立場にあります。また、米国は債務不履行をしたことは一度もありません。ギリシャの問題は経済力の弱さが主因ですが、米国の問題は経済力というより、政治理念の差による政党間の対立が事態を悪化させています。
 
今回、米国の財政赤字問題が連邦政府の借入限度引き上げ問題に強引に結び付けられた背景には、昨年11月の中間選挙で議員数を急増させたティーパーティーグループ(下院共和党の約25%)の影響がありました。このグループの目的は小さな政府を掲げて、市場経済原則による経済活動の重視と増税を一切認めないことに大きな特徴がありますが、その手段として使われたのが、8月2日に上限がくる連邦政府の借入限度引き上げ問題でした。米国の財政赤字をこれ以上増加させないためには、借入限度の引き上げ額を上回る歳出削減額が必要であるとして、民主党だけでなく、共和党穏健派との妥協も全て拒む姿勢を貫きました(本来、借入限度の引き上げは歳出削減だけでなく、経済の拡大や税制変更による歳入増加の可能性を含めるべきですが、ティーパーティグループは一切の増税に反対する立場から、歳出削減だけを対象にさせました)。そして、7月31日には大統領も民主党幹部も米国政府による債務不履行を何としても回避したいとの配慮が働き、最終的にティーパーティーグループの主張を入れた共和党案を受け入れました。この結果、今後10年間に総額で2兆4000億ドル以上の歳出削減を実行することを条件に、2兆4000億ドルまでの借り入れ枠の引き上げが合意され、議会の承認待ちとなりました(最初に9170億ドルの削減を条件に、4000億ドルと5000億ドルの2回の引き上げ、残りは11月末までに特別委員会の勧告による1兆5000億ドル以上の削減を条件に、1兆5000億ドルの引き上げを12月末までに認める。もし合意ができなければ、1兆2000億ドル以上の削減を条件に、1兆2000億ドルまでの引き上げを認める)。しかし、米国政府の債務不履行は避けられるものの、今回の合意は歳出削減を前提とする財政緊縮政策であるため、現在米国が直面する1929年の大恐慌以来最悪の不況からの克服にはマイナスで、成長や雇用面で悪影響を与えかねないとの懸念が市場関係者やエコノミストから出されています。

もし、米国の財政赤字問題を本格的に取り組むのであれば、2つの問題を区別して検討することが必要になっています。一つはクリントン民主党政権の終わりに年間黒字を達成した米国の財政収支が8年間のブッシュ共和党政権の終わりには年間1兆ドル以上という大きな赤字になってしまった原因は何かということです。二つはベービーブーム世代がシニアになってくるに連れ、政府負担が増大するソーシャルセキュリテイーやメディケア等の社会保障プログラムを今後どのような方向に持っていくかということです。最初の点はブッシュ前大統領が再選戦略のために第一期政権中に取られた幾つかの政策によるところが少なくありません。その1は2001年と2003年に導入された大幅減税(いわゆる“ブッシュ減税”)で、個人所得税率の低減が実行されたことでした。特に、累進の最高税率が39.5%から35%に引き下げられた効果は富裕層には大きなものでした。また、投資所得に対してもキャピタルゲインに対する課税が20%から15%に引き下げられました。景気刺激という目的のためにとられたこうした減税の歳入面に与えた影響は大きく、ブッシュ第二期政権を通じて総額で数兆ドルの減収になったと見られています。このため、ブッシュ大統領自身もこの減税を恒常的なものにするとの考えはなく、2010年末で終了するとのSunset条項を付けていました(しかし、2010年11月の中間選挙でティーパーティーグループの躍進で下院の多数派となった共和党はブッシュ減税の延長を強く主張、オバマ大統領は政治的な妥協の必要性から、2012年末までの延長に応じました)。その2は2003年2月以降に実行されたアフガンとイラクへの介入戦争で、ブッシュ第二期政権では軍事費の年間増額は4000億ドルから5000億ドルに達しました。その3は財源の裏づけがなかったメディケアにおける処方箋薬代への補助で、現在このための政府負担が年間で数百億ドル近くになっていると言われています。

加えて、ブッシュ大統領が掲げた持ち家促進政策のために取られた金融優遇策があり、これが行過ぎた規制緩和の下で大手金融機関による新たな投機金融商品の濫用に結び付けられ、巨額なサブプライムローンの焦げ付き問題を起こさせることになりました。全体の規模で5兆ドルとか6兆ドルとされる不良債権問題に対して、ブッシュ大統領は2008年10月に多くの共和党議員の反対がある中で、民主党議員の協力を得て、約7000億ドルの金融安定化法を成立させ、オバマ大統領も2009年2月にその内容を修正・拡大させた安定化法を成立させました。こうした連邦政府による金融支援策や連銀による質と量の両面における金融緩和策がなければ、米国経済は未だに深刻な状態が続いていたものと見られます。そして、現在は再び米国経済の回復が鈍化する兆候を見せ始めています。

こうした点からすれば、米国の財政赤字問題への対応には、最初にブッシュ前政権で取られた諸政策が現在の赤字増加に及ぼしている要因を全面的に見直す必要があります。同じようなやり方は、歴史的にも1981年から1988年まで二期続いたレーガン共和党政権で実行されました。レーガンの第一期政権では現在のティーパーティグループの主張のように小さな政府が目標とされ、景気刺激のためにラッファー理論に基づく大規模の減税や多くの税優遇措置が導入され、しかもソ連に対抗すべく大幅な軍事費拡大が行なわれました。しかし、その結果は景気回復の前に財政収支が大幅に悪化、第2期目の1986年の税制改正で減税や税の優遇措置が悉く廃止され、その後ソ連との軍縮協定も成立させました。加えて、昨年12月に財政赤字削減のために”The Moment of Truth“(決断の時)”という報告書をまとめた超党派の国家委員会の共同議長であったシンプソン元共和党議員も、歳出削減の重要性と同時に、GDPの15%という戦後最低の水準まで落ちこんだ現在の歳入額について、その増加が不可欠であることを強く主張しています。もし、ティーパーティグループを含めて共和党が早期の財政の均衡化を強く望むのであれば、現在のような厳しい経済停滞期(第2四半期のGDP成長率は1.3%に低下)には景気や雇用に悪影響を及ぼしかねない連邦政府の歳出削減だけでなく、重点的な新規投資に必要な歳入増加にも焦点を与えることが重要になっています(オバマ政権や民主党が求めているのは、年間所得25万ドル以上の富裕層に対する減税措置の廃止と国内での税支払い回避を図る大手企業に対する課税強化などです)。

一方、今後10年間における財政赤字問題への対応という観点では、人口構成の多いベービーブーマー世代がシニアになってくる時に社会保障関係の支出がどの程度になるかを正確に見積もり、それに対応して社会保障関係費のあり方を検討する必要性があると思います。このままでは社会保障費関係の義務的支出がGDPの20%以上になることが予想されますが、その対応には北欧諸国のように高福祉・高負担のような仕組みもあれば、現行制度の基本を維持しながら、ベネフィットを減額あるいは対象年齢の引き上げといった調整も考えられます。あるいは共和党のライアン議員が提案したようなメディケアの民営化といった極端な意見も理論的にはあるのかも知れません。しかし、最も重要なことは1929年の大恐慌の経験を経て、ルーズベルト大統領によって導入された社会保障プログラムは自由市場経済の不安定さを補うために、社会的に必要なセーフティネットを提供するという大きな役割を担っていることです。そうした観点からすれば、社会保障プログラムの今後の方向性は、ティーパーティグループや共和党保守派が主張するように財源難を理由に廃止といった極論ではなく、安定性と効率性を備えた社会的セーフティネットをいかに確保するかであり、その議論に多くの米国民が参加して決めていくことが求められています。

いずれにしましても、現在オバマ政権が1929年の大恐慌以来初めて経験している米国最悪の不況からの克服を試みている時に、共和党が主張する財政健全化のために歳出削減を極端に優先させた緊縮政策だけを導入すれば、それは景気や雇用への悪化となり、結果として財政健全化が一層遠のいてしまう可能性があります。さらに、共和党の中でティーパーティーグループによる小さな政府の主張は観念的には存在意義はあっても、これだけグローバル化している今日の世界では、米国を時代錯誤的な内政重視の孤立主義に向かわせるリスクを含んでいるように見られます。その意味で、来年11月の大統領と議会の選挙で、米国民がティーパーティーグループに対してどのような評価を下すかが鍵になるように思います。
             (2011年8月1日: 村方 清)

Friday, July 1, 2011

先進国債務問題の深刻化と株式市場の不安定化













6月に入り、失業保険申請者の減少数が予想よりも下回るなど雇用情勢の悪化が伝えられたこともあり、6月1日のダウ平均価格は昨年6月以降最大の約280ドルの下落(2.23%の減少)を記録しました。更に、その後も米国経済の改善が遅れている指標が報告され、株式市場の下落傾向は連日続き、6月10日には3月18日以来の12,000ドル割れとなりました。また、後半になると、米国の株式市場はギリシャ危機を巡る動きで大きく変動しました。6月15日にギリシャの追加の緊縮財政措置をめぐって、ギリシャ国内で全国的なストライキや首相が内閣改造を行なうことを表明するなど混乱が広がり、再び180ドル近い下落(1.48%の減少)を記録しました。しかし、その後は6月17日に外国民間銀行のギリシャ向けローンの繰り延べの必要性を強く主張していたドイツが軟化したこと、6月21日に内閣改造を行なった首相が信任投票で辛うじて承認されたこと、更に6月29日と30日にギリシャ議会が昨年5月の総額1560億ドル(1100億ユーロ)の第5回融資170億ドル実行の条件として(これは7月中旬に決定される次の総額1120億ドルの金融支援融資の条件でもある)、今後5年間における更なる緊縮財政措置と公営企業を含む国有財産の売却提案を承認したことなどから、6月末におけるダウ平均価格は12,261ドルまで回復、当面の危機は回避されました。但し、その一方で、厳しい条件を受け入れた政府や議会へのギリシャ国民の反発は強く、ストライキや過激なデモが繰り返されています。

米国経済については、6月22日にバーナンキ連銀議長がFOMC後の記者会見で、現在の米国経済の停滞は日本の震災による自動車部品不足やエネルギーコストの上昇などの一時的な要因で起きており、今年後半にはGDPは年率2.7%から2.9%程度には回復するものと見込んでいると述べました(但し、4月時点での今年後半の見通しであった3.1%から3.3%は下方修正)。そして、雇用状態の改善には暫く低金利政策を続ける必要があるものの、追加の量的緩和策(QE3)を行う必要はないことを改めて伝えました。しかし、最近における経済指標の悪化を受けて追加の金融緩和策を期待していた市場の反応は否定的で、6月23日と24日の2日間ではイタリア商業銀行の資本不足問題も重なり、ダウ平均価格は約175ドルの下落を経験しました。なお、8月2日に限度に到達する連邦政府の借入枠の引き上げについては、6月29日のオバマ大統領の国民向け記者会見での強い要請があったにもかかわらず、財政赤字の改善には富裕層から増税が必要とする民主党と増税は一切認められないとする共和党との意見の対立が続いており、合意の見通しは依然立っていません。

これに関連して、米国では6月13日の夜、CNN主催による共和党の大統領候補とされる7名による討論会が行なわれました。この討論会には、2008年の共和党副大統領候補であったPalinアラスカ州元知事や中国大使を辞任したHuntsmanユタ州元知事は参加しなかったものの、有力候補と見られるRomneyマサツセッツ州元知事、Gingrich元下院議長、テーパーティグループの代表であるBachmann下院議員、極端な市場経済主義者で知られるPaul議員等が参加しました。議題は多岐に渡っていましたが、経済問題については参加者の間で大きな差はなかったものの、いずれの候補者もオバマ政権が取り組んでいる雇用問題と財政赤字への対応について厳しく批判する意見を述べました。特に、最初の雇用問題については過去2年間のオバマ政権による財政支出の拡大による雇用創出は大きな政府を作るだけで効果を上げておらず、規制緩和と民間企業への減税によって市場経済に戻すことが重要であること、また、米国の財政赤字についてはRyan下院議員が提案したようにMedicareを含む財政支出の大幅な削減が重要であると主張しました(Gingrich元下院議長は当初、Ryan提案をあまりに過激な右派の社会エンジニアリングと批判しましたが、当日は賛意を示していました)。そして、いずれの候補者も財際赤字改善の実行計画の見通しがない限り、8月2日に期限が来る連邦政府の借入限度の引き上げは認められないとしました。

しかしながら、バーナンキ連銀議長は6月14日の講演会で、財政赤字を削減させる重要性を認めながらも、財政赤字の大きな理由は高齢化社会に向かっていることや医療費が急速に上昇しているという社会の変化に基づくものであるとの見解を伝えました。そして、財政赤字の削減問題への対応は長期的な視点で検討されるべきであること、現時点で急激な財政支出の削減を行なえば、回復の兆しを見せている米国経済に悪影響を与えるものであるとして、借入限度の引き上げが早期に必要であることを訴えました。バーナンキ議長は6月22日のFOMC後の記者会見でも、質問に答えて、財政支出の削減は長期的な観点で行なうべきことの意見を繰り返しました。

恐らく、共和党議員の多くあるいは米国民の中にも、2008年9月のリーマンの破綻以降に生じた経済不況について、従来起きたような景気循環的なものとの位置づけから、市場経済原則の下に民間企業の自立的な運営に任せれば、無駄な政府支出を抑えられ、より効率的な回復に結びつくとの考え方があるように見られます。しかしながら、今回のサブプライムローンによる基づく不良債権額は5兆ドルとか6兆ドルと言われ、日本が失われた10年を経験した不良債権額100兆円の5倍か6倍に達しています。その結果、今年も米国の銀行の倒産件数が過去2年間と同じように、年間100行以上のペースで進んでいる状況を見れば、米国が抱える不動産不況の克服のためには総合的な財政・金融政策が必要であるとの認識が弱いように感じられます。これに関連して、6月13日の討論会に出席した共和党候補者の中にはPaul議員やBachmann議員はリーマンショック後にブッシュ政権によって取られ、オバマ政権で拡大した金融救済措置は不要であり、市場経済原則の下で処理されるべきであったとの意見を持っています。しかし、米国政府の金融救済措置がなければ米国経済は、より深刻な不況を長く経験、企業倒産数と失業者数は過去2年間の数字を遥かに上回ったものと見られます。こうした点に関連して、国際問題評論家のZakaria氏はTimes誌の6月27日号で、今の共和党保守派は現実を踏まえずに、観念的な政策を提案するだけで、具体的な実効性に欠けていることを指摘しています。

加えて、改善ペースが遅い雇用問題については、経済のグローバル化やビジネスのIT化が進んでいる今日の状況では、多くの米国企業は労賃の安い中国やインドなどの発展途上国を生産拠点あるいは重要な消費市場として位置づけているのが実情です。こうした点からすれば、米国内の法人税減少や規制緩和を行なえば民間企業は米国内の雇用を直ちに増加させるという共和党議員達の主張は現在のグローバル化時代の競争を十分に理解していないように感じられます。ちなみに6月20日付けのTimes誌は、2001年のノーベル経済学賞授賞のMichael Spence教授の調査結果として、1990年から2008年の間、グローバルなビジネスを展開している米国の製造業、銀行業、輸出会社、エネルギー等の会社における米国内の雇用増加は殆ど無かったこと、増加があったのは医療、政府機関、小売やホテルなど国内向けビジネスの会社での低賃金労働であったことを指摘しています。更に、6月27日付けのBusiness Week誌によれば、共和党のHuntsman大統領候補の場合、彼の父親が経営する大手化学会社では全世界の従業員12,000人の内、米国内の従業員は僅か約18%で、大半は中国やインドを中心とする海外従業員であることを伝えています。こうした状況は経済停滞による雇用問題とその克服のために財政負担の増加問題を抱える欧州の一部諸国や日本にもいえ、自国の民間企業のグローバル化がもたらした負の部分への対応策を転嫁された先進国政府は解決策を容易に見つけられず、財政赤字を拡大させているのが現状だと思われます。

先進国が現在の状況を克服するには、国内面の財政・金融政策だけでなく、対外的な通商・通貨政策が不可欠であり、日本のように均衡化を欠いた貿易政策やそれによる通貨価値の上昇は自国経済への悪影響を一層大きくさせています。現在、対外的な経済政策面で成功していると見られるのはドイツと韓国で、国際競争力が高いドイツは欧州連合を通じて大きな経済的恩恵を受け、また韓国は同一産業内の集約化と同時に、積極的な貿易自由化を進めることにより、国際ビジネスにおける存在感を増しています。また、オバマ大統領が今年1月25日に行なった一般教書演説で掲げたグローバル化時代に向けた教育投資は極めて重要だと思いますが、それが良い結果を生んでいくためには、時代の要請に応えた専門教育の質の高さと共に、そうした人材のグローバルベースでのコスト競争力が不可欠になっています。

一方、欧州経済については当面のギリシャ危機は回避されたことになりました。しかし、根本的な問題は欧州連合が政治統合ではなく、各国に依然主権が委ねられていること、更に欧州連合の共通通貨の価値維持のために、問題を抱えた国に対して支援国及び被支援国はどこまで自国の経済を犠牲にすべきであるかについて、加盟国の間で、あるいは政府と国民の間で共通の認識がないことにあります。今回のギリシャ危機問題でも為替切り下げが認められない状況下での財政再建には、より厳しい緊縮財政措置や国有資産の売却が必要となっていますが、それを実行すればギリシャ経済は規模が縮小し、税収の減少や失業の増加を招くなどの新たな経済問題を抱えるようになっています(ギリシャの失業率は昨年3月の11.6%から現在は16.2%以上に上昇、特に失業率が高い若年層の不満が拡大)。また、支援国側も新たな資金協力をしても被支援国の経済が悪化していく状況では、追加支援することへの不満が一層強まるという結果をもたらしています。欧州連合の歴史を見ると、欧州連合はメンバー国の数を増加させるために、メンバー国間の経済力の差異(国際競争力の差)を軽視し、加盟を促進していった経緯があり、加盟後も共通通貨を維持しようとすれば、国際競争力が低い国は債務が加盟前よりも拡大してしまうという矛盾を抱えています。この点、欧州連合がメンバー国の主権を弱めた政治統合に発展することへの合意が得られず、現在の通貨統合に留まる限り(あるいは問題国が欧州連合から離脱しない限り)、ギリシャ、更にアイルランドやポルトガルまで対象が広がっている債務救済問題は、今後も再燃されていく可能性が高いように見られます。

いずれにしても、7月から8月にかけて先進各国とも債務問題が政治的要因に大きく左右される状況になっており、米国の株式市場も不安定な状態が続いていくものと見られます。
                (2011年7月1日: 村方 清)

Wednesday, June 1, 2011

欧州危機の再燃と米国株式市場への影響















米国経済は5月に入り、一部の経済指標では改善が見られるものの、4月の失業率は8.8%から9.0%へ悪化、更に5月16日には連邦政府の借り入れ限度額の14兆294億ドルに達するなど、不安定な状態が続いています。しかし、それ以上に深刻な状況にあるのは欧州で、昨年5月に欧州連合とIMFによる総額1100億ユーロの支援措置が実行されたギリシャの経済は改善どころか、悪化の一途を辿っています。緊縮財政政策による税収の落ち込みも有り、2010年の財政赤字は当初目標の8.1%から10.5%へ大きく増加、2010年末のGDPに対する公的債務残高は前年末の約113%から約144%に増加しました(ちなみに、日本は約192%から約226%に増加)。こうした状況下で、ギリシャの債務不履行の懸念が伝えられ、加えて、緊縮財政政策を実施中のスペインでも与党が地方選挙で大敗を喫するなどの要因もあり、5月23日のダウ平均価格は1.1%の下落を経験しました。

ギリシャの財政状態が改善を見ていない最大の理由は、支援計画の前提である緊縮財政政策が多くの国民の理解を得られていないことや、国有資産の売却も反対が多く十分に進んでいないことが挙げられます。このため、ギリシャ国債の利回りは10年債で過去最高の16%まで上昇しています。また、米国の大手格付け会社であるスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)はギリシャ国債に関する格付けを「BBマイナス」から「B」に2段階引き下げています。ギリシャ政府としては、こうした状況下ではEUの他の国々に新たな支援を求めざるを得ない状況ですが、EU内部にも追加の支援や支援条件に意見の一致があるわけではなく、混乱が続いています。現在、最も厳しく対立しているのは、ドイツとヨーロッパ中央銀行といわれ、ドイツは新たな資金供与にはギリシャの国有資産の売却金担保などのローン条件の変更が必要であると主張しています。これに対して、ヨーロッパ中央銀行は現在のローン条件を変更するのは市場がギリシャの債務不履行と認識する恐れがあるとして、現行条件下での新たな資金供与の見返りにギリシャ政府の一層の緊縮政策を求めたいとしています。

欧州連合はユーロという統一通貨を前提にした国家を超える共同体組織ですが、各国の経済政策はそれぞれの国の主権に基づく独自の経済政策に委ねられており、通貨の価値維持のために各国が取るべき共通の政策はありません。この結果、ユーロという通貨の価値維持のために各国が自国の経済をどこまで犠牲にすべきかについての国民的合意が得にくいという問題があります。そして、このことが、一方で供与国側であるオランダ政府の支援反対やフィンランドにおける支援反対の野党勢力の伸長があり、他方で受入国側のギリシャにおいても過度な負担を求める欧州連合への国民の不満から、連合を脱退すべきとの強硬意見が出てくる背景になっています。それに加えて、IMFからの借り入れであれば、過剰債務国が取るべき方法は緊縮財政政策だけでなく、自国通貨の切り下げなど価値の適正化による改善手段がありますが、欧州連合では加盟国による共通通貨の価値維持が前提であるために、緊縮財政政策や国有資産売却などへの依存度合いが大きくならざるを得なくなっています。

こうした状況の中で、追加の金融支援が絶対的に必要となっているギリシャに対して、どのような形で支援を行なうかは、欧州連合においても過去の実績がないだけに、支援国や支援機関の間で意見が別れる結果になっています。加えて、ギリシャへの支援のあり方は現在同様な問題を抱えているアイルランドやポルトガル、更により多くの支援の必要が出てくる可能性のあるスペインまで影響が及ぶことを考えると、欧州連合内部での合意の形成が一層難しくなっています。欧州連合としては、当初は支援のあり方については連合内部の問題として対応したかったにもかかわらず、昨年5月以降はIMFとの密接な協議を行なっているのはIMFにはメンバー国の債務問題や対外不均衡問題への対応で十分な実績があることに基づいています(これに関連して、現在空席のIMF専務理事のポストについては、欧州経済危機問題の深刻さと指導力のあるIMFとの連携の重要性からして、従来通り、欧州から選任される見通しが強いように思われます)。いずれにしましても、現在の欧州危機の問題は、昨年初めにギリシャで最初で起きた時より、規模や問題の性格から一層深刻度を増しており、解決の方向性が出てくるには暫く時間がかかるものと見られます。

欧州の経済危機が長期化することは、米国の株式市場においても不安定さが高まることは避けられなくなっています。一方、米国固有の問題としても、経済回復の動きが鈍くなっていることに加えて、前述したように、連邦政府の借り入れが限度に達したために、財政面での景気刺激策に限界が与えられることになりました(借り入れ限度の引き上げは、税収の伸びが顕著であるところから、実質的な借入限度引き上げが8月2日までに行われればよいとの見込みですが)。もし、こうした欧州の不安定さや米国経済の不透明さが6月以降も続くような場合、4月28日にバーナンキ連銀議長が声明したように、金融面の量的緩和策ともいうべきQE2(Quantitative Easing 2:2010年11月3日に連銀が発表した量的金融緩和策第2弾で、2010年11月から2011年6月までの8ヶ月間、毎月約750億ドルのペースで合計6000億ドル分の国債を市場から購入する政策)を6月末で終了することになれば、低金利政策の継続があったとしても、米国の株式市場に対してマイナス面の影響が大きくなるのではないかと見られます。
(2011年6月1日: 村方 清)


Sunday, May 1, 2011

第1四半期の実績と財政赤字の削減問題



2010年第4四半期のGDPはクリスマス商戦の好調さを反映して3.1%でしたが、2011年第1四半期は1.8%に減少しました。当初は2.5%程度が予想されていましたが、気候の厳しさ、原油価格や一部の食料品価格の上昇による個人消費の低下、低迷する住宅不動産ビジネス等が重なり、予想を下回る水準になりました。また、この期における物価上昇率は前年同期比で3.8%となり、昨年第4四半期の1.7%を大きく上回る結果となりました。しかしながら、今回の停滞が米国経済の更なる悪化につながるとの見方は少なく、連銀による金融緩和策の継続もあり、第2四半期以降は再び回復基調に戻ることが期待されています。なお、雇用情勢は著しく改善し、3月の失業率は8.8%まで低下、2009年3月以来の低い水準となりました。これはこの期に新たに仕事を失った従業員の数が過去2年間で最小であったことの影響と見られます。

一方、米国の株式市場の動向で大きな影響を与えたのは4月18日に格付け機関のStandard & Poor’sが米国債について、トリプルAの評価は変えなかったものの、長期見通しを“Stable”から“Negative”に変えたことでした。その日はギリシャの現行再建策が行き詰まり、新たな再建プランが必要になることや中国がインフレ懸念から金融引き締めを強めることなどのニュースが合わせて伝えられ、ダウ平均株価は140ドル(1.14%)という大きな下落を経験しました(但し、その後ダウ価格は好調な米企業の業績を反映し、4月28日に2年11ヶ月振りの高値である12,763ドルを記録)。格付け機関が米国債の見通し評価を変えた最大の理由は巨額な米国財政赤字削減の方向性や5月16日に連邦政府の借入限度である14兆294億ドルに達すると見られる事態への対応措置について、民主党のオバマ政権と下院多数派の共和党との間で合意に至る可能性が依然見えていないことにあります(米国の2010年末公的債務残高はGDPの約97%で、最大国日本の約227%の半分以下)。

2011年度予算については、民主党と共和党の各代表および大統領との間で4月8日の真夜中に、380億ドルの財政支出削減を行なうことで最終的に合意、その後両院で承認され、危ぶまれていた連邦政府機関の閉鎖が回避されました。しかし、2012年度予算については、昨年11月の中間選挙の結果、下院の多数派となった共和党が下院予算委員会委員長のライアン議員より“The Path to Prosperity” (繁栄への道)という提案が4月5日に出され、4月15日に下院本会議で承認されました。

ライアン議員が提案した主要な内容は以下の通りです。
1. オバマ大統領が昨年3月に成立させた医療保険改革法を無効として、雇用者が税優遇措置によって行なう健康保険制度を廃止、誰もが民間の健康保険の購入を支援あるいは可能にするために税控除の恩典を与えるようにする。
2. Medicareに代えて、受益者に対して民間の健康保険の購入に補助金を与える制度とする。但し、この措置は2021年までは実行せず、適用は55歳以下の人に限定される。
3. Medicaidを廃止し、民間の健康保険の購入に補助金を与える制度とする。その方式は連邦政府と州政府の折半ではなく、州政府に一定の補助金を与え、州政府はMedicaidの受益者にその補助金を供与するものとする。これにより、Medicaidの受益者が増加しても、州政府のコストを減少させることができる。
4. ブッシュ減税を恒久的なものとし、所得税の簡素化、及び個人と企業の最大税率を25%まで引き下げる。これによる税収の減少は税の抜け道やビジネスに対する付加価値税(実質的には売上税)で補うものとする。
5. 政策的な財政支出は2008年のレベルに5年間凍結する。税率の増加変更や新たな税については議会の3分の2の賛成を必要とする。継続経費の増加については自動的な上限を与える。ヘルスケア関連の増加はCPIやヘルスケアの年間上昇率までとする。こうした支出削減により、全体の経費をGDPの20%に抑えるようにする(現在は25%)。
6. この結果、今後10年間における財政支出削減額は合計で6.2兆ドルとなり、連邦政府の債務残高を4.4兆ドル減少させるものとなる。

これに対して、オバマ大統領は4月13日に以下の点を主内容とする財政赤字削減策を提案しました。
1. 今後12年間における財政赤字の改善額を、昨年12月に財政責任と改革に関する国家委員会が答申した4兆ドルとする。
2. 上記4兆ドルの内、3兆ドルは財政支出の削減から、残り1兆ドルは現在一時的に実行している富裕層への減税措置の廃止により達成する。
3. 財政支出削減の内、750億ドルは一般経費の削減から、400億ドルは防衛支出の削減から、480億ドルは医療費コストの上昇の抑制から、プラス昨年3月の医療保険改革法の実行により、更に500億ドルで合計2兆ドル強を削減する。
4. 更に、財政赤字額の縮小による金利支払いの減少額として1兆ドルを見込む。

財政赤字削減をめぐる共和党案とオバマ大統領案では、以下の2点に大きな差があります。
1. 富裕層減税(ブッシュ減税)への対応
共和党案では、ブッシュ減税の恒久化が提案されていますが、そこには共和党の保守派や小さな政府を求めるティーパーティの影響を強く受けています。市場経済を重視する共和党には1980年代初めに、第1期のレーガン大統領がラッファー・カーブ理論に基づき実行したような、減税をすれば市場の投資活動が盛んになり、ひいては所得の増加が起こり、税金収入も増加するという基本的な考え方があります(しかし、レーガンの減税措置は結果的に、財際赤字の一層の拡大をもたらし、レーガン大統領は第2期目の1986年に第1期に導入した減税措置の殆どを廃止することになりました)。加えて、2001年にノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学のStiglitz教授は、米国の所得や資産分配は著しくバランスを欠いており、現在富裕所得層の上位1%が米国の全所得の25%、全資産の40%を保有していることを指摘しています。こうした行過ぎた米国の富の分配構造からする限り、オバマ大統領が提案するように、年間所得25万ドル以上の富裕層に対する減税の廃止は、米国の財政赤字減少のための財源確保(約1兆ドルの歳入増加)という経済的効果だけでなく、社会的公正さの観点からも望ましいように思われます(4月22日付のCNNニュースでは、米国人の約72%が富裕層への増税を支持することを伝えています)。

2.MedicareやMedicaidの取り扱い
共和党がMedicareの廃止を主張する背景には、今後も連邦政府の負担が増加する一方の保険医療費を放置する限り、財政赤字の健全化は不可能となり、ベービーブーマーが引退を向かえる前に根本的に制度を変える必要があるというものです(特に、現在、Medicare予算の約28%が末期状態にあるシニア患者の治療費や薬代に使用されているといわれます)。また、Medicaidの廃止は、現在のように多くの州で財政赤字が深刻さを増す中で、同率負担を必要とする制度が行き詰まっているという背景があります(加えて、現在のMedicaidには受益者の悪用が多すぎるという指摘もあります)。これに対し、オバマ大統領は、共和党が提案するようなMedicareやMedicaidの廃止はこれまで米国がルーズベルト大統領以来、守り続けてきたシニアや貧困者への社会福祉政策の考えを逸脱するものであり、絶対に受け入れられないと反論しました。両者の考え方にはこのような基本的な違いがありますが、共和党案の問題点として、現在のように医療費や一部薬代の高騰が続く中で経営維持のために保険料を上げ続ける民間保険会社の健康保険に、病気治療がより必要で、しかも収入に限界のあるシニアが連邦政府から一定の補助金を受けても、差額は全て自己負担とするような保険に加入し続けることができるかという点があります。米国の健康保険制度の問題は医療費や一部薬代が一般物価よりはるかに高い水準で増加しており、現在のMedicareでは政府機関の関与により、医療費や薬代の上限が設定されるなどの措置によって成り立っています。もし、ここに政府機関の関与のない、一般の従業員健康保険のような制度を導入すれば、多くのシニアは自己負担の大きさに耐えられないという問題を抱えることになります。以前、ブッシュ前大統領が2005年にソーシャルセキュリテイの民営化を提案しましたが、年金収入の不安定化を懸念するシニアの強い反対を受け、それ以上の無理な導入追求はしませんでした。この点、現在のような共和党下院のMedicare廃止案では多くのシニア予備軍から強い反対を受けざるを得ないものと見られます。

いずれにしましても、米国の財政赤字削減に関する共和党と民主党のオバマ政権の違いは、両者とも財政規律を守ることの重要性は認識しながらも、削減は市場経済機能に多くを委ねるべきとする共和党と社会費用の増加は社会全体として新たな公平さによる分担が望ましいという民主党の考え方の差異にあると見られます。そして、Medicareについて見れば、ベービーブーマー世代が対象になる時期以降は経営的に困難になる危険性が高い以上、現行制度の基本を維持するにしても、高騰する医療費や薬代に対する一定の規制、受益者向けサービス内容の一部削減、受益者負担の増加等による内容の変更や制度の効率的運営が一層求められていると思います。


                    (2011年5月1日    村方 清)

Friday, April 1, 2011

中東の政治的混乱と米国市場への影響












3月11日に起きた東北関東大震災と福島原発事故は中東の政治的な混乱や欧州危機と同じように、米国の株式市場に大きな悪影響を与え、3月16日のダウ平均株価は昨年8月11日以来最大の下げとなる約242ドル(2.08%減)を記録しました。現在でも、原発事故解決への見通しが立たないことや計画停電が続けられるなど根本的解決には至っていませんが、一方で、地震や津波の被害者に対する救援や復旧に向けた動きは活発化しており、3月末におけるダウ株価は大震災前の12,000ドルを越える水準まで戻っています。この点、日本経済に対する米国投資家の懸念は次第に薄らいできているように見られます(但し、日本企業、特に輸出企業にとっては原発事故の収束や計画停電の廃止までは、当面厳しい状況が続くことは避けられません)。

一方、チュニジアの青年の死の抗議で始まった北アフリカの民主化運動の高まりはエジプトでのムバラク長期政権の崩壊に結びつきましたが、その後はリビアでのカダフィ政権の巻き返しや中東のバーレーンでの反政府運動抑圧へのサウジアラビアの協力もあり、混迷を深めました。しかし、3月18日に国連決議に基づくリビア上空での飛行禁止区域の設定を目指した米英仏等多国籍軍の攻撃や反政府組織の国民評議会への支援で、新たな展開が広がる状況になっています。 北アフリカや中東における政治的混乱は原油の安定供給に対する懸念を増加させ、3月4日には米国産標準油種(WTI)の4月渡しの終値が1バーレル当たり102.23ドルと2年5ヶ月振りに100ドル台の大台を突破しました。そして、現在も1バーレルが100ドル以上となっており、2008年9月のリーマンブラザーズ破綻の直前の水準と同じになっています。なお、原油価格の高騰が世界経済に与える影響については、1バーレルが100ドル前後で推移した場合、石油関連支出は世界経済の5%程度で対応可能であるものの、120ドルで長期化した場合には6%となり、深刻な影響が出てくることが予想されています。加えて、今回の高騰の背景には供給不足の懸念による需給バランスの逼迫化だけでなく、金融緩和で市場に溢れるマネーの一部がヘッジファンドなどを通じて商品先物相場へ流れ込んでいる要因も否定できません。

北アフリカと中東の国々で民主化の動きが強まっている背景には、経済的要因と政治的要因の二つがあるように思われます。経済的要因としては、この地域が原油や天然ガスの埋蔵量で其々世界の2分の1と3分の1を抱えながら、クウエート、バーレーン、オマーン、サウジアラビア、リビアを除けば一人当たりGDPは10,000ドル以下の国が大半です。世界最大の産油国であるサウジアラビアの場合、1980年には一人当たりGDPは世界4位でしたが、30年後の2010年では世界の39位にあります。原油や天然ガスが豊富にもかかわらず、それらからの収入を産業の多角化や高度化に活用する点では著しく遅れています。そして、このことが支配層と一般国民との間の所得格差を広げ、急増する若者世代を中心に失業率が極めて高い原因となっています。一方、政治的要因としては、この地域の多くの国で長期政権が続いていること、国民の政治参加が制限されていること、そして言論の自由が抑圧されていることがあげられます。特に、今回政治的な混乱があった北アフリカのチュニジア、エジプト、及びリビアは其々23年、29年、41年の長期政権であり、唯一選挙制度があったエジプトでも野党勢力の活動は限られており、言論の自由が保証されていませんでした。また、サウジアラビアなど世界有数の産油国を抱える中東も、独裁政権や限られた王族によって支配されている国が多く、一般国民による民主政治の普及の上では著しく遅れています。

それと同時に、歴史的な経緯もあり、欧米諸国は石油や天然ガスの安定確保の見地から、北アフリカや中東の政治的安定を強く望んでおり、国の統治が一般国民に言論の自由がない独裁政権によって行われていても、そのことを明確に反対しない態度を貫いてきました。チュニジアの政変後、予想をはるかに超えるスピードで進んだエジプト国内のムバラク独裁政権に反対する民主化の動きに対して、オバマ政権が前向きの反応を直ちに示すことができなかったのは、中東の安定に不可欠な大国エジプトではムバラク政権の協力が必要であったからでした。また、リビアのカダフィ政権に反対する民主化の動きに対して、欧州職国、特に英国の反応が当初段階で鈍かったのは2003年春のイラクのフセイン政権崩壊後、ブレア政権とカダフィ政権との間で石油や天然ガスの供給を受ける代わりに、武器を引き渡す取り決めがあったためと言われています。現在、キャメロン政権は過去のブレア政権のリビア政策を批判、フランスと共に飛行禁止地域の確立を目指した多国籍軍における重要な役割を占めています。また、今回のリビア制裁に最も積極的な国はフランスであり、2003年3月の米軍によるイラク侵攻及び統治で、イラクで従来保持していた多くの利権を失ったことに対する反省もあり、リビアの国民評議会を正式な政府組織として最初に承認したことも大変興味深いことです。

北アフリカや中東のように、一般国民が経済発展の恩恵を受ける機会があまりに少ない状態で、従来のような非民主的な政治体制がいつまでも続くことは、インターネット等の情報手段の発展・普及によって、厳しい現実が直ちに国民の多くに伝わる現在の状況では不可能になってきています。しかし、その一方で、民主化運動の拡大により、現在の長期独裁政権を代える動きには多くの国民の支持が得られるものの、作り上げられた新しい政権の目指す方向性に一致点は乏しく、新政権が混乱した状態になりかねないリスクを備えているという現実もあります。こうした点からすれば、欧米諸国に求められていることは国民不在の状態にある現在の政権に対して民主化のプロセスを段階的に認めるように働きかけ、国民が自らの意思で参加できる新たな政治体制へ円滑に移行するように見守っていくことが重要になっています。

そうした観点で、特に注目されるのは世界最大の産油国で、米国とも密接な関係を有するサウジアラビアの動向です。サウジアラビアの現在の原油生産量は1日当たり8.4百万バーレルですが、更に1日当たり3.5百万バーレルの生産余力があるといわれています。この量は政治的な混乱が起きるリビアの1日あたりの生産量であった1.6百万バーレルの2倍以上に相当します。サウジアラビア政府は既に、2月22日にはリビアの原油生産低下に伴う供給を補うための生産増加を表明しています。また、貧困者救済策として、公務員給与の引き上げや債務不履行者の救済を含む約350億ドルの景気刺激策も導入しました。また、若者の失業率が30%と高いことから、国営石油会社であるAramcoは東部の原油生産地域における少数派であるシーア派の大量採用も発表しています。さらに、サウジアラビア政府は穏健な民主改革者であるアブドラ国王を通じて、今年初めて市議会議員の選挙を行なうことを約束しています。北アフリカや中東の中では、サウジアラビアは最も一般国民の経済的な不満が少ない国とされますが、一方でアルカイーダの主要メンバーにサウジアラビア出身者が多かったという過去の経緯もあり、いかに多くの一般国民が納得できる政治体制を作っていくかが大きな課題となっています。

いずれにしましても、北アフリカや中東の政治的混乱が米国経済や株式市場に与える影響は混乱する国の原油生産量によって異なっており、最大の産油国であるサウジアラビアに急激な政変が起きない限り、大きな混乱はないと見られます。その一方、米国を含め西欧諸国にとって重要なことは、経済困難を抱える北アフリカや中東の国々の政治的不安定性が短期的に解消されるものではないことからすれば、石油依存を減らす工夫や新技術の開発、さらに石油に代わる他のエネルギー源の開発を一層進めることが求められています。但し、原子力発電については今回の福島原発事故が、原子炉における冷却機能の安定確保と使用済み燃料棒の処理の面で、再び世界に安全の問題を提起することになりました。                       
(2011年4月1日: 村方 清) JIPANGU

Tuesday, March 1, 2011

米国における不動産金融の現状と課題













好調であった米国の株式市場に中東の民主化革命の影響が現れ始めています。2月22日には原油生産で世界第8位にあるリビアの政治的な混乱から、昨年11月16日以来、最大の下げとなる178.46ドル(1.4%)の下落を経験しました。今後も中東における主要産油国での政治的な不安定性が発生すれば、米国株式市場に悪影響を与えていくものとみられます。

米国内では回復が目立つ株式市場に対して、不動産市況は依然として低迷状態にあります。2010年第4四半期における全米平均住宅価格は前年同期に比べ、4.1%の下落となり、こうした下落傾向は全米主要20都市の18に及んでいます。価格の下落は新規建設の減少となって表れ、2010年はリーマンショックのあった2008年の約100万戸に比べ、4割減の約60万戸となっています。また、オフィス、倉庫、ホテル、ショッピングセンターなど商業不動産の新規建設も例年を大きく下回っており、このことが建設業や関連産業に従事する人達の高失業にも繋がっています。不動産市場の低迷が続いている背景には、不動産ビジネスを支える金融機能の低下があります。昨年、全米で業績不振でFDICの管理下に入った銀行数は157行で、2009年の140行から17行増加しました。今年も2月半ばの時点で22行がFDICの管理下に入っています。こうした銀行の多くは資本力が不足しており、金額の大きな不動産向けローンからの返済が滞った場合、業務の続行が難しくなります。

通常、不動産取引の大半は金額が大きなことから、住宅と商業物件を問わず、ローンを前提としてビジネスが成立しています。また、米国市場ではローンは物件の市場価値に基づくノンリコースローンが一般的で、借入人の保証や他の担保を必要とされません。このため、ローンを供与する金融機関の立場からすれば、物件価値の客観的な市場評価、価値下落に伴なうローン元本の安全性確保のための適切なエクイティ額、元利支払いを可能にさせる借入人の支払能力や物件の収益性の算定が重要となります。さらに、不動産市場が拡大するにつれ、金融機関は金額の大きな不動産ローンを証券化して投資家に売却することで自己のバランスシートに計上しないオフバランスシート化が一般的になりました。

商業用不動産で本格的なローンの証券化ビジネスが行なわれたのは1990年代初めで、ウォール街の投資銀行がCMBS(商業不動産モーゲージ担保証券)の金融商品を作りました。CMBSは1980年代後半に債務不履行に陥った金融機関の不良債権を低価で買い入れ、さらに不良債権をプールしたものを利回りとリスクの大きさによって幾つかのカテゴリーに分けて、投資家の関心度に応じて売却するという商品でした。CMBSがビジネスとして成立するためには、仕入れた金融債権の金利コストが販売する金融債権の利回りより低いことが必要で、1990年代半ばまでは順調に発展しましたが、1998年夏のロシア金融危機を契機に大きな逆ザヤ現象が発生し、CMBSビジネスは一時的に破綻しました。

一方、住宅不動産のローンの証券化はCMBSよりも早く、1970年代にFennie Mae及びFeddie Macを通じて、金融機関の住宅ローンの保証や買い取りにより、MBS(住宅モーゲージ担保証券)を発行する形で行なわれました。米国の住宅ローンは政府機関の関与により、ローン供与に必要な条件も定型化されており、長い間信用性の高い証券化商品としての位置づけが行なわれていました。しかしながら、2000年代初め、世界的な金余り現象の中で、ウォール街の投資銀行が住宅ローン証券化ビジネスに、サブプライムローン(低所得者向けの住宅ローン)を組み込み、米国内外の投資家に売却し始めたことにより、大きなリスクを抱える高利回り金融商品となりました。低所得者向け住宅ローンにおいては、エクイティ分である借入人への頭金支払いを必ずしも求められず、かつ最初の数年間は変動型金利の金利分だけの支払いでよいというものが多く、住宅不動産の価値が上がり続けることを前提に供与されていました。当時は共和党のブッシュが大統領の時代で、政府の持ち家奨励政策や連銀による低金利政策が支えとなり、住宅価格の上昇が続いていたため、サブプライムローンの証券化のリスクが顕在化しませんでした。しかし、インフレ懸念から、連銀が金利を引き上げた2006年前半以降は変動金利型のサブプライムローンの延滞率やデフォルト率が急激に増加、住宅価格の下落、証券化された不良債権の拡大が世界市場へと広がっていきました。

2008年9月の大手投資銀行リーマンブラザーズの破産までの今回の金融危機の原因に関し、2009年5月に議会によって承認され、大統領も署名した10名の委員会メンバー(委員長はカリフォルニア州の元財務長官であったPhil Angelides)によって作成された「金融危機調査報告書」(”The Financial Crisis Inquiry Report”)が本年1月27日に発表されました。この委員会の構成メンバーは民主党推薦者が6名と共和党推薦者が4名であったこともあり、金融危機の原因について委員会としての統一的な結論はなく、民主党推薦者6名の多数意見に加えて、全体450ページの中に約40ページの共和党推薦者4名の少数意見が併記されることになりました。多数意見は今回の金融危機は避けられたものであったとして、金融機関の内部統制やリスク管理面での大きな誤り、そうした金融機関による過剰借り入れと高リスク投資さらに透明性の欠如が重なったこと、ワシントンの財務省、連銀、ニューヨーク連銀、SEC等政府機関の危機に対する準備不足と金融市場の不確実性やリスクに対する矛盾した対応、格付機関のモーゲージ証券に対する評価の甘さ等が主要な原因としました。これに対し、3名の共和党推薦者の意見は今回の危機は金融機関や政府機関の責任を越えるもので、世界的な金融バブルや住宅バブルの結果であるとしました。もう一人の共和党推薦者は政府による持ち家奨励政策やこれに対応するための政府金融機関の融資基準の緩和措置が原因であるとしました。なお、この委員会の報告より6ヶ月前の7月21日に両院とも民主党が多数派であることを踏まえ、議会は昨年7月22日に金融規制改革法案(Dodd・Frank法)を成立させ、財務省による金融システムの監視、連銀による金融機関の監督強化、銀行の自己取引勘定の禁止(いわゆるVolcker条項)、金融商品に対する消費者保護のための消費庁の創設などを決めました。

「金融危機調査報告書」とは別に、今回の金融危機について分析を行なった経済学者で大きな評価を得たのはニューヨーク大学のNouriel Roubini教授とシカゴ大学のRaghuram Rajan教授でした。Roubini教授はサブプライムローンの問題が顕在化する前の2006年に米国の住宅バブルの崩壊と住宅モーゲージ証券の混乱による世界金融システムの機能停止を予測、さらに2008年初めには大手投資銀行2社の破綻を予想したことで有名になりました。一方、Rajan教授は前職のIMFのチーフエコノミストであった2005年に主要国の中央銀行幹部が集まった会議で、高い利回りと同時に大きなリスクの取引を誘発している投資銀行の従業員報酬制度の問題点を指摘したことで注目されました。また、Rajan教授は昨年米国のビスネス書でベストセラーになった”Fault Lines: How Hidden Fractures Still Threaten the World Economy”(翻訳は「フォールト・ラインズ:大断層が金融危機を招く」)を出したことでも著名です。Rajan教授はその著書の中で、現在、金融の世界は3つの大断層を抱えているとして、米国における所得格差の不満を和らげる金融優先の動き、貿易収支不均衡に基づく過剰消費国と過剰輸出国との間の金融不均衡の拡大、米英とその他の国々との間の金融取引の透明性の大きな差異を上げています。そして、これらの断層による影響を少なくさせない限り、再び金融危機が起こる可能性を示唆しています。いずれにしても、米国の景気は現在連銀の金融緩和策や多くの企業のリストラ策等により、株式市場を中心に回復傾向を示していますが、それと同時にRajan教授が指摘する幾つかの大断層が依然として存在していることを忘れるべきではないと思います。
                            (2011年3月1日:村方 清)



JIPANGU

Tuesday, February 1, 2011

大統領の一般教書演説と米国経済の課題














オバマ大統領は1月25日に、上下両院の合同会議で一般教書演説を行ないました。今年の一般教書演説は2年後の大統領選挙での再選を目指すオバマ大統領にとって、昨年11月の中間選挙で示された共和党優位の流れを変える契機にしたいという大きな意味を持っていました。演説の中で、彼が強調したのは米国が置かれている危機対応への党派を超えた国民的な合意と行動及びグローバルな競争におけるルールの変化の認識でした。そして、“未来を勝ち取る”ための方法として、競争に勝ち抜くためのクリーンエネルギーなどの技術革新、科学や数学教育の充実、未来インフラのための次世代無線通信や高速鉄道の整備、法人税改革の実行と税率の引き下げ、自由貿易と規制緩和の促進などを訴えました。また、財政再建についても、政策支出の増加を5年間凍結し、10年間で4,000億ドルの財政支出削減を目指すことなどを提案しました。

大統領の演説に対するティーパーティグループを含む共和党の評価は、オバマ政権のこれまでの大規模景気刺激策が雇用の改善面で効果を上げず、政府債務を更に増大させたとの位置づけから、これ以上の政府の財政支出や権限の拡大によって経済問題の解決を図るべきではないというものでした。しかし、国民全体としては未来志向のオバマ大統領の演説に対して、9割以上が好意的反応を示したことを3大ネットワークのCBSが報じました。

こうした国民の前向きの反応は、米国経済が最悪期を脱し、2010年第4四半期のGDPが3.2%(個人消費部門は4.4%の増加)となるなど更なる改善を示していること、株式市場がダウジョーンズで2008年6月以来の高水準である12,000ドルに近づいていることなど、回復の足取りが確実に現れていることにあると思います(1月末に起きたエジプトの政治的混乱が米国株式市場に与える悪影響は、今後の展開を注意深く見守る必要があります)。

その一方、こうした回復が目立つ経済指標にも拘らず、高失業率が続く雇用問題の改善は容易ではありません。12月における米国の雇用状況は103,000人の新規雇用で、失業率は9.8%から9.4%へ減少しましたが(逆に、カリフォルニア州では12.4%から12.5%に増加)、今回の失業率減少は就職活動を断念した求職者の減少によるものとの見方もあり、雇用問題が必ずしも改善傾向にあるとはいえない状況です。不況の克服策としてオバマ政権は、1929年の大恐慌直後に、ルーズベルト大統領が経済学者ケインズの理論に基づき、実行したような一時的な公共事業支出を中心とする財政刺激策を取っていますが、現時点でそれが民間部門の雇用増加に直ちに結びついていません。しかしながら、現在の米国の高失業率は単に国内の景気循環だけではなく、世界経済のグローバル化による構造変化も大きな影響を与えています。そうした観点からすれば、共和党保守派やティーパーティグループが信奉する経済学者ハイエクの提言した自由市場主義に任せれば、政府の財政支出に依存しなくても、自然に改善されるという主張も説得性の高いものではありません。

オバマ大統領が演説で述べているように、今日のグローバル化時代における競争はかっての先進自由市場主義国間の競争だけではなく、政府に集中的な財源や権限が与えられ、かつ安価な労働力が豊富にある旧社会主義国や発展途上国を含めた世界的な規模の競争であり、これまでとは競争のルールが異なってきています。また、以前は先進国から発展途上国への技術移転の困難さが先進国に優位性を与えていましたが、今日のIT関連技術の急速な進歩の中では、先進国の技術優位性の確保や維持が長期に続く状況になっていません。

しかも、グローバル化の初期段階では、先進国の大手企業の多くはコスト削減のために、旧社会主義国や発展途上国への生産やサービス機能 の一部を移転させましたが、その後、リーマンショック後の先進国の景気低迷とそうした新興国市場の急速な拡大は、先進国企業による現地の生産やサービス体制を加速化させています。欧州諸国だけでなく、米国や日本でも構造的な高率失業問題が起きているのは、こうした先進国の企業の行動と無関係ではありません。一般教書に先立ち、1月21日にオバマ大統領は新しく発足する雇用と競争力の向上に関する大統領諮問会議の議長にGEの会長兼最高経営責任者であるイメルト氏を任命しました。オバマ大統領が就任した2009年初め当時は米国の金融危機の最中で、再び同じような金融危機を起こさせないことが最大の関心事であり、元連銀総裁であったボルカー氏を委員長とする経済回復諮問委員会が立案した金融規制改革法案を昨年7月に成立させました。そして、米国の大手金融機関の業績も、最近では顕著な改善傾向を示してきていますので、オバマ政権としては政策の重点を金融の安定から雇用と米国の競争力確保の問題に移したことになります。今後イメルト氏の諮問委員会は企業経営者の立場から、米国の雇用や競争力の問題について具体的な提言を行なっていくものと見られます。

これに加えて、オバマ政権は米国の最大貿易相手国で、しかも年間2,000億ドル以上の貿易赤字を生み出している中国に対して、元の引き上げあるいは変動相場制の採用を強く要求しています。自由市場主義の国々とは異なり、政府統制下での限定的な市場主義を取っている中国の企業との競争に対抗し、かつ米国の雇用を維持していくには、かって米国の最大貿易赤字国であった日本に対する政策と同じように、通貨政策が最も有効な手段と考えており、これはオバマ政権も米国議会も共通の認識を持ちながら対応しています。

次に、財政赤字問題については、今年3月末か4月中には政府の借入れ限度額である14兆3,000億ドルに達することもあり、オバマ政権としてもこの問題への取り組みにも強い関心を示しています。一般教書演説では今後5年間の政策支出の増加凍結に加えて、国防や医療保険等での無駄の削減、行政組織の効率化、さらに税収の増加の面では、共和党との間で一時的な妥協が成立した最富裕層に対する2%減税の将来的見直しや税率の簡素化などを提案しました。しかし、米国の雇用問題を最大の課題とする民主党のオバマ政権に対し、米国の財政再建を最優先させる共和党との間では考え方に本質的な違いがあります。そこには、1929年の大不況に対して、当時のルーズベルト大統領が実行した政府の雇用や福祉対策は米国においても不可欠とする民主党に対して、1980年のレーガン革命でも示されたような米国は建国以来、個人や企業の自由な経済活動に任せ、政府の関与は極力少なくあるべきとする共和党との政治哲学の違いが横たわっているように思われます。

両党の考え方の違いは、オバマ政権が昨年3月に成立させた医療保険改革法についても対立を続けています。共和党は今回の医療保険改革法は国民の選択の権利を侵し、強制的な加入を前提とする点で違憲であると主張するのに対して(一部の州の連邦地裁で違憲判決、オバマ政権は控訴)、民主党は国民の誰もが望めば加入できる医療保険制度は設けることは違憲ではなく、政府の任務であるとしています。また、一度成立した医療保険改革法を無効とさせる動きは、昨年11月の中間選挙で過半数を獲得した共和党支配の下院で既に今年1月に可決された実績があり、今後、民主党が多数を占める上院との間でどのような議論が展開されるかが注目されます。但し、大統領が演説の中で指摘したように、既往症者への保険会社による保険加入拒否や大学卒業後も就職できない若い人達への親の医療保険適用の無効は従来の医療保険制度の本質的な欠陥であり、絶対に認められないとする彼の立場は議会でも広く受け入れられるものと見られます。

いずれにしましても、今回のオバマ大統領の一般教書演説は1957年にソ連が人工衛星「スプートニク」の打ち上げに成功した後、米国が遅れていた科学の研究と教育の分野で積極的な投資を行い、ソ連を追い越した具体的な経験を踏まえながら、米国競争力の再生と雇用問題の解決を約束した点で、多くの米国民の共感と支持を得ることになりました。
                          (2011年2月1日:村方 清)




JIPANGU

Tuesday, January 4, 2011

米国経済の見通し(株式市場の好調さと雇用・財政問題)













先進国の景気低迷と発展途上国の高成長が並存する世界経済の中で、米国経済に改善の兆しが見え始めています。 2008年9月のリーマンショックに起因した米国経済の低迷は2009年6月末までGDPが4四半期間連続してマイナスを記録するなど最悪でした。しかし、それ以降はプラス成長に転じ、2010年に入ってからは3.7%、1.7%、2.6%となっています。第4四半期についても、クリスマス商戦が好調であるところから前四半期の2.6%を越えるものと見られます。また、物価上昇率もCPIは現在年率1.1%の状態で推移しており、インフレ懸念は少ない状態です。経済の改善を反映して株式市場も好調であり、ダウ平均株価は昨年12月末まで過去2年4ヶ月で最高の水準を更新しています。しかしながら、改善が見える米国経済でありながら、雇用と財政赤字の2つの面で依然厳しい状態にあることに変わりはありません。

まず、雇用について、失業率は昨年中も高い水準に留まっており、11月は10月よりさらに悪化し、9.8%となりました。米国企業の業績改善が続く中で、雇用情勢が改善しないのは米国企業のグローバル化およびコスト圧縮のためのリストラ化が原因と見られます。業績改善が目立つ企業には海外売り上げの比率が高い大手の製造業やサービス業、加えて連銀による金融緩和の影響を受ける大手金融機関があります。現在、成長が著しい新興国への輸出拡大にはコスト競争力向上の観点から、新興国での生産やサービス拠点の拡大が不可欠であり、米国内での雇用増加に結びついていません。一方、リーマンショックで多額の不動産関連の不良債権を抱えた金融機関でも、景気回復の基調の中で、貸出し損失金や引当金の減少もあり、業績改善が見られるようになっています。しかし、引き続きリストラ化によるコスト圧縮に努めており、新規雇用を増やす状態にはなっていません。これに加えて、グローバル化により、従来に比べ品質が向上した中国など新興国からの製品輸入が急増しており、米国内の製造業従事者の減少に拍車をかけています。

このため、雇用の拡大はオバマ政権にとって最大の課題となっており、米国連銀は一層の金融緩和を進めるべく、昨年11月3日に今後8ヶ月間で6,000億ドルの追加国債購入計画を発表しました。これに加えて、財政面では昨年2月の米国回復再投資法に続き、12月18日にオバマ大統領が共和党との間で妥協が成立し、所得減税の2年延長を含めた8,580億ドルの追加景気刺激法が成立しました。しかしながら、連銀の量的金融緩和策が雇用に与える影響については、デフレ傾向下での企業の新規設備投資のための借り入れ需要はそれほど大きいとは言えず、限界的と見る見方も多くなっています。むしろ、連銀の金融緩和は証券市場への新たな資金供給となることから、株価の上昇を後押しし、その結果資産インフレによる消費拡大に結びつくことが期待されます。加えて、金融緩和は石油などの資源商品の高騰ももたらしています。しかし、不動産市場への影響については住宅も商業物件も未だに多くの不良債権が残っており、金融緩和の恩恵を受けていません。一方、公共事業や失業保険の延長等の財政刺激策は一時的な雇用確保や雇用救済となっていますが、それが民間部門での雇用増加に結びつくかどうかは見方が分かれています。中間選挙で下院における多数派となった共和党からは、そうした財政措置が一層の財政赤字の拡大になることの懸念が出され、市場でも国債の長期金利が上昇、債券市場の悪影響が出ています。

米国の財政赤字についてみると、2010年度(2009年10月から2010年9月まで)は前年度に比べて9%減少の約1兆3000億ドルとなり、対GDP比率も前年度の10%から8.9%へ減少しました。しかしながら、米国の公的債務残高は9月末で約13兆5600億ドルとなり、対GDPの94%に達しています(米国連邦政府だけの債務であれば約9兆ドルで、対GDPで63%になっています)。こうした深刻な事態を受けて、大統領の諮問を受けた“財政責任と改革に関する国家委員会は昨年12月に”The Moment of Truth“(決断の時)”という報告書を提出し、財政赤字解消のための以下のような方策を提言しています。

1.2020年までに、4兆ドルの赤字額を減少させること。
2.年間赤字額を、大統領の目標である2015年までにGDPの3%に対し、GDPの2.3%(ソーシャルセキュリテイを除けば2.4%)まで減らすこと。
3.歳入は対GDP比率21%、歳出は対GDP比率22%とし、最終的に21%とすること。
4.ソーシャルセキュリテイについて、2037年までに22%の削減を行なうこと。
5.公的債務の比率を2014年までに安定させ、その上で対GDP比率を2023年までに60%、2035年までに40%まで低下させること。

この提言に対する議会の反応は大方前向きですが、与党民主党の一部からはソーシャルセキュリテイの大幅削減には強い反対意見が出されています。しかしながら、オバマ大統領としても、今年1月からは下院で共和党が過半数を占めることから、財政赤字削減に向かった具体的な方策が求められることになります。

2008年に始まったサブプライムローンの不良債権額は、米国全体として5兆ドルとか6兆ドルの規模で、日本の不良債権額の5倍以上の大きさといわれました。そして、日本の場合、不良債権問題は1990年代の日本経済を“失われた10年”と言われるほど長期に渡り深刻な状態でした。しかし、米国はこれまでの推移からするかぎり、雇用や財政赤字の問題は続いているにしても、2年数ヶ月で株式市場では強い回復の兆しが見え始めています。この背景には金融機関を中心に不良債権問題を先送りせず、問題を抱えた組織の自立可能性に関する厳しい査定によって、それに適した対応措置を導入しました。早期の回復は自立化できない組織は市場から退出させ、自立化が可能な組織には市場に戻させるという金融面の市場経済原則を前提とした米国のダイナミズムによるところが少なくありません。


JIPANGU