Monday, October 1, 2012

前進を示した欧州財務問題と連銀の追加緩和策が導入された米国市場



 













1.9月の株式市場
9月の株式市場は、欧州が96日に欧州中央銀行理事会が南欧国債の買い取りに大筋の合意に達したことや米国が913日に連銀による量的緩和第3弾(QE3)を決定したことで、市場にとって好ましいものとなりました。この結果、通常下落相場となる9月が今年はダウ平均価格で約2.7%上昇、第3四半期の実績も4.7%の増加で、2010年以来の上昇相場となりました。市場の主要な動きは以下の通りでした。

94日:米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した8月の製造業景況指数が市場予想に反し、20097月以来の低水準となり、ダウ平均価格は55ドル安(0.42%減少)。
96日:欧州中央銀行(ECB)の理事会で南欧国債の無制限買い取りに大筋の合意が達したこと、ADP雇用レポートで8月の非農業部門の民間雇用者数が大幅に改善したことなどから、245ドル高(1.87%増加)。20071228日以来、4年8ヶ月ぶりの高水準。
97日:米政府発表の8月の雇用増加数は市場予想を下回る9万6千人に留まったものの(但し、失業率は労働市場への参加率が低下し、8.3%から8.1%に改善)、123日の米連銀公開市場委員会(FOMC)での追加的緩和策への期待から、15ドル高(0.11%増加)。
912日:ドイツの憲法裁判所で欧州安定メカニズムの合憲判決が出たものの、FOMCの結果を見極めたいとの姿勢から、10ドル高(0.07%増加)。
913日:FOMCで、量的緩和第3弾(QE3)として、14日から月額400億ドルの住宅ローン担保証券の購入することを決定、米国景気を支える市場の期待感から、207ドル高(1.55%増加)。96日の高値を更新。
917日:欧州株式相場の下落やニューヨーク連銀発表の9月の製造業景況感指数が市場予想より悪化したことから、40ドル安(0.30%減少)。
919日:米中古住宅販売件数が年率ベース482万戸で、市場予想の456万戸を上回ったことから、13ドル高(0.10%増加)。
925日:フィラデルフィア連銀総裁が米連銀の追加金融緩和政策(量的緩和第3弾)に懐疑的な見方を示したことから、利益確定の売りが優勢となり、101ドル安(0.75%減少)。
926日:政府の緊縮策に反対するスペインの大規模ストやギリシャのゼネストの動きから、南欧の債務危機への警戒感が再燃、利益確定の売りが広がり、44ドル安(0.33%減少)。
927日:スペイン政府が歳出削減を含む2013年度予算案を提示したことで、72ドル高(0.54%増加)。
928日:シカゴの購買管理協会が発表したPMI(購買管理インデックス)の景気指数が49.750を割ったことや9月の消費者態度指数の速報値が下方修正されたことから、49ドル安(0.36%減少)。但し、9月全体では約2.7%の上昇(第3四半期で4.7%上昇)。

2.欧州債務危機問題
欧州中央銀行は9月6日の理事会で南欧国債の無制限買い入れの仕組みで大筋合意しました。欧州中央銀行による国債購入について、当初はンデスバンク総裁だけでなく、フィンランドやオランダの中央銀行総裁も反対しました。しかし、最後はドイツだけの反対となり、理事会の承認となりました。これを受けて、スペインの10年物国債利回りが低下、6%に近づくなどの効果が現れ、欧米の株式市場でも株価が大きな値上がりをしました(ダウ価格は245ドル高となり、リーマン・ショック後につけた20071228日の高値を更新)。

しかしながら、今回の合意を実行するに際しては幾つかの問題が指摘されています。一つは欧州安定メカニズム(ESM)の稼動時期の見通しがまだ立っていないことにあります。12日にドイツの憲法裁判所はESMを合憲の判断を下しましたが、フィンランドやオランダ国内ではこれ以上の支援のための拠出に強い反対が起こっており、メンバー国がESMによる支援の枠組みを決定するにはまだ障害があります。更に、申請国がESMECBの支援を受けるには財政再建を公約することが義務付けられています。しかし、それらの具体的な内容について、支援国と受入国の意見を一致させることは容易でありません。特に、メンバー国が財政再建を後退または放棄させたりすれば、欧州中央銀行は国債購入を停止することになりますが、そのようなメカニズムをどのように織り込むかが課題となります。

いずれにしましても、今回の理事会決定は724日のドラギ総裁の声明よりは理事会の合意を得たことで、一歩進んだことは間違いありません。しかし、欧州中央銀行の権限とメンバー国の主権の調整問題が依然としてあり、欧州中央銀行による実際の国債購入に至るまでにはまだ少し時間がかかるように思われます。

3.米連銀のQE3決定
米連銀の公開市場委員会(FOMC)は913日に、量的緩和第3弾(QE3)として住宅ローン担保証券(MBS)を毎月400億ドル買い入れること、さらに現在の低金利を2014年末から2015年半ばまで延長することを決定しました。MBS買い入れは914日から実施し、ツイストオペも今年末まで継続、これらにより、FOMCの長期証券保有は今年末まで毎月850億ドルの増加があることになりした。また、今回のQE3の実行期間については具体的な期限を定めず、雇用情勢の改善の兆候が出るまでとしました。

連銀議長は記者会見で、QE3を実施する背景として、最近の数ヶ月間の米国経済は失業率が低下していく水準の成長を実現していないことから(第2四半期のGDPは前年比1.7%増に留まる)、今回の措置が米経済の支えとなり、特に低迷する住宅市場に良い効果を与えるとの期待感を伝えました。市場の反応は極めて前向きで、その日のダウ価格は約207ドル高(1.55%増加)で、96日につけた約48ヵ月半振りの高値の更新となりました。

今回の措置が米国経済にどの程度の効果を上げるかについては専門家の評価は分かれています。確かにこうした金融政策がただちに景気回復や雇用改善に効果が出るわけではありません。しかし、バーナンキ連銀議長が記者会見で述べたように、量的緩和は米国債の金利だけでなく、住宅ローンや社債などの金利を引き下げ、それが株式市場や住宅価格の上昇となれば、消費者の資産価値を引き上げることに結びつき、消費の拡大や需要の増加を通じて、最終的に企業の雇用増加をもたらす間接的な効果は期待できると見られます。

また、量的緩和に対する批判として、一部のエコノミストや共和党議員が懸念するインフレ圧力について、連銀議長は過去数年間に渡り、目標水準の2%に近い水準となっていること、さらに今後も中期的に安定したインフレ率が見込まれており、今回の措置がインフレ圧力を高めるとの一部の見方を否定しました。

いずれにしましても、現在米国経済の回復が緩慢な状態になっている時には、金融政策よ
り財政政策の方が効果的ですが、連邦議会、特に共和党支配の下院ではオバマ再選阻止と言う政治的な意図から、オバマ大統領の追加財政政策が採択されていません。こうした状況からすれば、連銀による金融政策しか期待するものはなく、その意味で、今回の連銀の決定は評価されるべきものと思われます。

4. オバマ大統領のリードをもたらした民主党全国大会
94日から6日まで、民主党の全国大会がノースカロライナのシャーロットで開かれました。第1日目に党の政策綱領として、ミドルクラスの経済的安定を目指した米国経済の復活、アジア太平洋地域の重視、持続可能なエネルギー自給体制の確立等が採択されました。

2日目にクリントン元大統領は、約50分のスピーチを通じて、オバマ大統領が取り組んでいる経済再生・失業問題は過去80年の歴史の中で最も難しいものであるが、着実に成果を上げており、更なる改善のために大統領への支持を訴えました。その一方、共和党のロムニー候補が提案する減税、特に富裕層減税や規制緩和による経済政策では、過去のレーガン元大統領やブッシュ前大統領と同じく、財政赤字が拡大、更なる不況に陥る可能性があることを伝えました。彼のスピーチで興味深かったのは、1960年からの52年間で、共和党政権が28年間、民主党政権が24年間であったものの、雇用創出では共和党政権が24百万人であったのに対し、民主党政権は42百万人であり、民主党が政府依存の経済を志向しているという指摘は正しくないとしました。また、ロムニー候補側がオバマ政権の誤った措置としてあげているメディケアの7160億ドルの節約については、この節約は病院や保険会社に支払うべき金額を削減したもので、メディケアの長期存続のために必要であったことを説明しました。

3日目の現職のオバマ大統領が指名受託演説では、最悪期にあった米国経済の立て直しや自動車産業の復活といった実績はあったものの、当初の目的が達成されたわけではなく、次の4年間はミドルクラスの経済的な安定を目指した米国経済の力強い復活を図りたいと訴えました。オバマ大統領とロムニー候補との経済政策の違いは以下の点にあります。

1.ロムニー候補は規制緩和と減税、特に富裕層の減税を行うことによって、民間部門による自立的回復を主張するのに対し、オバマ大統領は製造業の復活、エネルギー、インフラ、教育投資等の分野において政府が積極的な役割を担う必要があることを強調しました。
2.メディケアなどの社会保障関係プログラムについて、ロムニー候補は民間の医療保険制度を前提に、国はバウチャーを支給することを提案するのに対し、オバマ大統領は政府によるメディケアなどの制度の維持を前提に、経費の抑制を図ることが重要としています。

こうした違いは、オバマ大統領も指摘するように、米国が目指すべき価値観の違いにあります。ロムニー候補は政府の介入を少ない、個人の自由な権利が最大限尊重される社会を重要とするのに対し、オバマ大統領は個人の権利の尊重と共に、個人の社会的負担が共有されるべき社会が望ましいとしています。そして、オバマ大統領は、今回の選挙において、米国民はどちらを望むのかの選択をすべきとしています。

ちなみに、両党の全国大会を終えた後に取られた99日のGallup社の支持率調査で、それ以前は均衡していた数字が、オバマ大統領が49ポイントでロム二―候補の44ポイントを5ポイントリードする形になりました。また、オバマ大統領の仕事を評価すると回答したものが50%で、評価しないの44%を6%上回ることになりました。

5.ロムニー候補の47%発言が共和党に悪影響を与えかねない議会選挙
民主党全国大会以降も、イスラム教預言者ムハマドを侮辱した米国で製作された映画がイスラム圏で反米デモを拡大させたことに対して、ロムニー候補はオバマ大統領の非難を急ぐあまり、政権批判の中で、その直後にリビアの米国大使がデモ隊に殺害されたことに言及しませんでした。こうした性急なロムニー候補のオバマ政権批判は、民主党関係者だけでな共和党の一部から非難を受けました。さらに918日に公開されたテープで、ロムニー候補が今年5月にフロリダ州での非公開の資金集めパーティーで、米国の約47%の人達の経済生活は何らかの形で政府に依存しており、彼らに自立が期待できない以上、自分の責任ではないとのスピーチが明らかにされ、ロムニー候補のイメージを急速に悪化させることになりました。924日付のNew York Times紙の調査では、116日の大統領選挙で、オバマ大統領が勝つ可能性は77.7%になっているとしています(270名が必要とされる選挙人ベースでは、オバマ大統領の309.3名に対して、ロムニー候補の228.7名)。

こうしたロムニー候補のイメージの悪化は大統領選挙だけでなく、議会の上院選挙でも野党の共和党が苦戦していることを920日付のNew York Times紙が伝えています(同様な記事は926日付のLA Times紙も掲載)。その記事によれば、共和党全国大会が開かれる以前の819日の週では、民主党が現在多数を占めている上院で再び多数を占める確率は39%であったものの、現在は接戦州とされたバージニア州やウィスコンシン州などで、民主党候補がリードしていることもあり、79%に上昇したとしています。民主党候補が支持率を増加している理由として、ロムニー候補の好感度が低いことに加え、彼が具体的な政策を示さないこと、さらに副大統領候補にライアン候補を選んだことで、彼が共和党のより保守的なイデオロギーに影響されているとの印象を与えていることを上げています。

いずれにしましても、共和党の大統領予備選では資金力や組織力で他の候補を圧倒したロムニー候補でしたが、大統領選挙では現在の状況を見る限り、彼の特殊なビジネス世界での経験がプラスとはならず、逆に国をリードする大統領という政治家の資質に大きな疑問を投げかける結果になっています。この点、10月に予定される3回の大統領候補者の討論会で、ロムニー候補がよほど大きなポイントを上げない限り、オバマ大統領の優位性は変わらないものと思われます。
               (2012101日: 村方 清)