Friday, November 2, 2012

欧州連合の組織強化を図る欧州市場と企業業績悪化の米国市場
















1.10月の株式市場
10月の株式市場はギリシャやスペインの経済の混迷が続く一方、欧州連合が108日の理事会で、欧州安定メカニズムの正式な発足を決定したり、1018日の首脳会議で欧州中央銀行の監督一元化で合意するなど、組織や機能の強化の面では前進しました。一方、米国市場はGDPや雇用といったマクロ面での改善は見られたものの、海外市場の低迷、特に欧州の景気後退を反映して、国際的にビジネスを展開する米国大手企業では四半期決算が悪化するところが目立ちました。市場の主要な動きは以下の通りでした。

101日:米サプライマネジメント協会(ISM)発表による9月製造業景況指数が市場予想を上回る前月比1.9ポイント高の51.5となり、ダウ平均価格は78ドル安(0.58%増加)。
102日:スペインの財政問題に対して、すぐには支援を要請しないとのスペイン首相の
方針が伝わり、再び不透明感が意識され、38ドル安(0.24%減少)。
104日:週間の米失業保険申請件数は前週比4,000件増で市場予想ほど増加しなかったことや欧州中央銀行総裁が定例理事会後の記者会見で、南欧諸国の国債買い取り策を確認したことで、81ドル高(0.60%増加)。
105日:米政府発表の9月の雇用増加数は114000人で、前月の上方修正もあり、失業率は8.1%から7.81%に改善(20091月以来の水準)し、35ドル高(0.26%増加)。
109日:IMF201213年の世界経済見通しを下方修正し、世界景気の先行き懸念から、投資家のリスク回避の売りが優勢となり、110ドル安(0.81%減少)。
1010日:アルコアの企業業績の悪化など米企業の先行きに対する懸念と欧州株式市場の大半が下落したことから、129ドル安(0.95%減少)。
1015日:米政府発表の9月小売売上高は前月比1.1%増で、市場予想の0.7%を上回ったことから、95ドル高(0.72%増加)。
1016日:10月の住宅市場指数が20066月以来の高水準になったことや企業業績の悪化懸念が後退し、128ドル高(0.95%増加)。
1019日:マクドナルドなどの米国企業の四半期決算が相次いで市場予想を下回ったことから、IT株などを中心に売りが広がり、205ドル安(1.52%減少)。
1023日:デュポン、スリーエムなど米国の主要企業が収益予想を下方修正したため、投資家の景況感が悪化、243ドル安(1.82%減少)。
1026日:米国政府発表の第3四半期のGDP2%で、市場予想を上回ったものの、アップルなどの企業業績が予想を下回り、4ドル高(0.03%増加)。
1031日:ハリケーン“サンディ”による2日間の休場後の最初の取引日で積極的な買いが控えられ、利益確定のための売りの優勢となり、11ドル安(0.08%減少)。

2.欧州安定メカニズムとスペイン救済問題
108日に開かれた欧州連合理事会で、欧州安定メカニズム(ESM)の正式な発足を決定しました。元来、欧州メンバー国の救済には20106月発足した欧州金融安定ファシリティ(EFSF)がありましたが、3年間の期限付きであったことから、それを受け継ぎ組織が必要とされていました。今回のESMにおける資金枠の規模は5000億ユーロで、EFSFの融資規模である3000億ユーロを大きく上回ります。また、経営不振の金融機関への直接融資が可能になるなど、EFSFなどに比べて権限も強化されています。

一方、S&P1011日にスペイン国債の格付けを2段階引き下げ、最低ランクである投資適格の一つ上としました。これにより、スペインが欧州連合に資金支援の要請をする圧力が高まっています。しかし、ESMが機能するかどうかには依然問題があります。最大の出資国であるドイツなどには支援を受ける国が財政再建計画を徹底化させることを求めているのに対し、スペインは国家主権を制限されかねないとの強い懸念から、ESMからの融資には依然慎重になっています。

ESMの発足と同時に、1018日から開かれていた欧州首脳会議ではユーロ圏の銀行を欧州中央銀行が一括して監督権限を持たせる銀行監督一元化を2013年から段階的に導入することで合意しました。欧州連合メンバーは欧州中央銀行による銀行一元化の推進に合意していましたが、具体的な進め方については意見が分かれていました。フランスや南欧諸国が全銀行の監督に賛成しましたが、ドイツなどは当初は大手銀行だけを対象にすべきとしました。このため、欧州首脳会議では妥協案として、各国金融当局が欧州中央銀行の出先機関として活動することで合意に達することになりました。

10月に起きた一連の動きは、欧州連合が共同体としての組織や機能の強化に向かうことを示したものと言えます(今年のノーベル平和賞は欧州連合が受賞)。しかしながら、欧州連合が各国の政治的な主権を残しながら、共同体として強制力のある決定を実行できるのかは依然疑問があり、支援国と受入国、いずれも其々のメンバーの国内政治情勢によっては危機の再燃があるように思われてなりません。

2.米国経済の現状と米企業の業績悪化
今年の大統領選挙の最大の争点とされている雇用問題に関連して、105日に米国政府は9月の非農業部門の雇用者増が前月に比べ114000人増となり、失業率も8.1%から7.8%に低下したことを発表しました。同時に8月の雇用増は96000人から142000人へ上方修正しました。米国の失業率が7.8%となったのは20091月以来であり、現職のオバマ大統領としても、共和党関係者が主張していた失業率が8%以上で、再選された大統領はいないとの批判に反発することができます(112日発表の10月失業率も7.9%)。

また、1026日に、米商務省が第3四半期のGDPを発表しましたが、第2四半期の1.3%増から2.0%増へ改善を示しました。特に、GDPの7割を占める個人消費が2.0%増であったことや政府部門の支出・投資がプラスになったことが貢献しました。しかし、企業の設備投資は先行きの不確実性もあり、1.3%減と6四半期振りのマイナスとなりました。

その一方、10月は米国主要企業の四半期業績発表がありましたが、半分近くで純利益が前年同期比で1.2%減となっています。これは業種を問わず、海外事業比率が高いIBM, マクドナルド、グーグル等など多くの企業に共通しており、欧州市場での業績不振に加え、ドルに対するユーロ安による為替差損が大きかったのが原因とされています。株式市場でもこの影響が出て、1021日の週はダウ価格が1.8%の減少となりました。また、第3四半期の結果に伴ない、第4四半期の見通しを下方修正する企業が多くなっています。

3.米国大統領候補による討論会
10月の大統領候補による3回のテレビ討論会前までは、現職のオバマ大統領の再選の可能性が高いとの調査が大半でした。しかし、第1回のテレビ討論会でロムニー候補が戦略を変えたことにより、ロムニー候補が支持率を大きく上げることになりました。その後、副大統領候補同士のテレビ討論さらに第2回と第3回のテレビ討論会で、オバマ大統領候補がかなり巻き返したと見られていますが、第1回の討論会の影響は大きく、現時点では互角との調査結果が多いようです。以下は各討論会における議論の特徴です。

1回の討論会(103日):オバマ大統領は、就任時において戦後最大の不況であったにもかかわらず、経済回復を実現、5百万人の民間雇用が増加したことや失業率が7.8%に低下したことなど過去4年間の実績を強調しました。これに対し、ロム二―候補はオバマ政権の実績を全く評価することなく、問題点だけを取り上げ、米国の財政赤字が半分にできなかったことや失業率が7.8%と依然高止まりにあることを指摘しました。一方、オバマ大統領はロムニー候補の経済政策について、選挙期間中に主張してきたこと踏まえ、ミドルクラスを中心とする多くの税控除廃止をしない限り、米国民への一律20%の追加減税で5兆ドル、軍事費の増加などで2兆ドルの財源不足は、ミドルクラスを中心とする多くの税控除廃止をしない限り、現在の財政赤字を一層悪化すると強く批判しました。しかし、ロムニー候補はこうした批判に対して、カメレオンのように従来の主張を変え、財政赤字を悪化させるような一律減税を行なわず、税率の引き下げは優先度の低い政府補助金の見直しで対処するなどを伝え、オバマ大統領の批判を巧妙にかわしました。こうした相手候補の問題点だけを強く批判し、自分の主張は有権者に受けのよい新たな提案を並び立てるというロム二―候補のカメレオン戦略は第1回テレビ討論までロム二―候補を知らなかった有権者に好印象を与えることになりました。CNNは討論会後の調査によればロムニー候補の65%に対し、オバマ大統領は27%で、ロム二―候補に多くのポイントが上がりました。

2回の討論会(1016日):第1回の討論会でロムニー候補のカメレオン戦略に適切に対応できなかったオバマ大統領が今回の一般参加者との討論会では反転攻勢に出て、ロムニー候補の主張の矛盾点を鋭く批判、激しい論戦となりました。経済問題では、ロムニー候補が7.8%の失業率では強い経済とはいえず、自分が大統領になれば強い経済を再生させ、多くの雇用を創出すると主張したのに対し、オバマ大統領はロムニー候補の経済政策は中間層を犠牲にして、富裕層を富ませる経済を繰り返すことになるとの批判を行いました。一方、エネルギー政策では、ロムニー候補はオバマ政権が過剰な規制で石油や天然ガスの生産量が低下したとするのに対し、オバマ大統領は米国内の石油生産は過去のどの政権よりも増加したこと、更にロムニー候補は再生可能エネルギーの計画が欠けていると批判しました。さらに、外交・安全保障問題についても、ロムニー候補が9月のベンガジ米国領事館襲撃事件をオバマ政権の危機管理能力の欠如と批判したのに対し、オバマ大統領は最終的な責任は自分にあり、全容解明中の事件を政争の具にすべきでないと反論しました。討論会後の調査ではCNNはオバマ大統領が46%に対し、ロムニー候補が39%で、オバマ大統領が僅少さで巻き返しに成功したとしました。

3回の討論会(1022日):第2回と同様に、オバマ大統領が過去4年間の実績を背景に攻勢に出たのに対し、ロム二―候補は再びカメレオンのように従来の主張を変え、オバマ政権の対応を肯定する場面も多く、防御的な姿勢が目立ちました。イランの核開発問題をめぐって、ロム二―候補が未だにイランが核兵器保有を放棄していないことを批判したものの、オバマ政権がイランに対する厳しい経済制裁は正しく、武力攻撃は最後の手段であると同意しました。また、アフガンからの米軍の撤退を2014年末までに行うことについても、ロム二―候補はオバマ政権の政策が正しい方向と肯定しました。一方、軍事費の削減については、ロム二―候補は世界に対する強い米国のプレゼンスを示すために正しくないと主張しましたが、オバマ大統領は現在軍事的な戦略が変化しており、従来のように船舶を多く保有することは必要ではなく、軍の能力を高めることが必要と反駁しました。また、中国政策についても、ロム二―候補はオバマ政権の対中政策が弱すぎると批判しましたが、オバマ大統領は中国とは敵対関係にあるが、一方で国際的なルールに従う限り、パートナーになる可能性もあるとして、問題に応じた適切な措置が必要としました。討論後の調査では、CNNがオバマ大統領の48%に対し、ロム二―候補が40%、CBSがオバマ大統領の53%に対して、ロム二―候補の23%で、いずれもオバマ大統領の優勢でした。

なお、109日に行なわれたバイデン副大統領とライアン候補のテレビ討論会は、ライアン候補がロム二―候補とは異なり、伝統的な共和党の政策や党大会の綱領に従った主張をしたために、民主党と共和党の政策の違いが明確に出て、実のある討論会となりました。ライアン候補はオバマ政権の大きな政府による景気回復は成功しておらず、民間企業主体の経済回復が中心で、このためには税の20%引き下げや規制緩和が重要としました。これに対し、現職のバイデン副大統領は米国の財政赤字が続く中で、20%の減税を実施した場合、10年間で5兆ドルの減収になるにもかかわらず、どのようにして黒字化を達成するかを示していないと批判しました。また、外交について、ライアン候補はアフガンが安全でない以上、米国は撤退すべきでないと主張しましたが、バイデン副大統領は米国と同盟国との間では彼らの撤退後はアフガン政府による自立的防衛力の強化で補うとい合意があると反論しました。討論後の調査で、CNNはほぼ互角としましたが、3大ネットワークの一つであるCBSはバイデン候補が50%で、ライアン候補が31%としました。

4.116日の大統領選挙を控えて
116日の大統領選挙について、本来比較されるべきはオバマ大統領の4年間の実績とロムニー候補の18ヶ月間の主張であったと思われます。しかし、第1回討論会で、ロム二―候補はオバマ大統領の問題点に焦点を当てる一方、従来の自分の主張を否定し、有権者に受け安い新たな提案を行なうというカメレオン的な戦略を使いました。そして、現在、共和党や彼等に近いメディアは第1回討論会におけるロム二―候補の予想外の善戦という結果を踏まえ、支持率で両候補が大接戦であることを強調しています。しかし、大統領選挙は両候補が各州で獲得した代議員の総数で決まるものであり、どちらが過半数である270票を得るかにかかっています。代議員数の大きなカリフォルニア州、ニューヨーク州、イリノイ州はいずれもオバマ大統領が圧倒的に優勢であり、焦点は接戦州と言われる中西部のコロラド州、オハイオ州、ウィスコンシン州、南部のフロリダ州やバージニア州など8つの州の票の行方にあります。現状ではロム二―候補はこうした州で殆ど全てに勝利することが必要であるのに対し、オバマ候補はオハイオ州とウィスコンシン州の2州で勝利するだけで代議員の過半数を獲得できると見られており、優勢さを保っている状況です。

なお、今回の大統領選挙に関連して、10月に入り、ビジネス界のCEO経験者は大統領職に適切でないとないとの識者の意見に接しました。彼は現在プリントン大学のブライドン教授(元連銀副議長)で、101日付のウオールストリートジャーナル紙に記事を掲載しました。彼が理由に上げているのはビジネスの世界では効率主義を重んじるが、政治の世界ではできる限り多くの人に恩恵が公平に行くような平等主義が必要であること、CEOは部下に命令を下すだけですむが、政治家は対等である国民に対して、理解し、実行してもらうことの説得が必要であり、行動基準が異なることを上げています。そして CEO出身で大統領の仕事に失敗した例としてフーバー元大統領やブッシュ元大統領があるとしています。現時点で、Bain CapitalCEO兼オーナーであったロム二―候補が大統領に選ばれる可能性は少ないと見られますが、もし彼が大統領になるようなことがあれば、こうした識者の意見を参考に注意深く見守っていくことが必要になると思います。
                (2012年11月2日: 村方 清)