Sunday, December 1, 2013

調整が必要な米国の株バブル市場



 











1.11月の株式市場
11月の株式市場は、次期連銀議長の指名を受けたイエレン副議長が14日の上院銀行委員会で金融緩和策継続の必要性を強調したことから、株価の上昇傾向が続きました。同時に、史上最高値を更新する株価高騰の警戒感も強まっています。主要な動きは以下の通りです。

111日:米サプライマネジメント協会(ISM)の10月製造業景況感指数が56.420114月以来の高水準になったことから、ダウ価格は70ドル高(0.45%増加)。
115日:米サプライマネジメント協会(ISM)の10月の非製造業景況感指数が市場予想に反して改善したことから、量的緩和策の継続期待が後退し、21ドル安(0.13%減少)。
116日:欧州の株式市場が上昇、米国での投資家心理が改善、8日の10月米雇用統計が政府機関閉鎖で低調のために連銀の緩和策が長期化との見方から、129ドル高(0.82%増加)。
117日:前日の株価が過去最高を更新したことの反動と、79月期のGDP2.8%と市場予想を上回ったが、個人消費は減速、景気回復は鈍く、153ドル安(0.97%減少)。
118日:政府発表の非農業部門の雇用者数の伸びが前月比204,000 人の増加で、市場予想(120,000人)を大きく上回り(失業率は政府機関閉鎖の一時帰休者を含めて7.3%に増加。除けば7.1%に低下)、米景気の勢いが増加との見方が強く、168ドル高(1.08%増加)。
1113日:イエレン米連銀副議長の次期FRB議長就任のための14日の公聴会を控えて、米国の金融緩和が長期化するとの見方が強くなり、71ドル高(0.45%増加)。
1114日:イエレン連銀副議長の上院公聴会での発言を受けて、米国の金融緩和策が長期に続くとの見方から、55ドル高(0.35%高)。
1115日:ニューヨーク連銀の製造業景気指数が前月比マイナス2.21となったことから、連銀の金融緩和策が長引くとの見方から、85ドル高(0.54%増加)。
1120日:10月のFOMCの議事要旨が発表され、量的緩和策が早期に縮小されるとの見方が広がり、売りが加速、66ドル安(0.41%減少)。
1121日:米政府発表の週間失業申請件数が323,000件で市場予想を下回り、連銀の量的緩和策が縮小しても、超低金利政策は継続との見方から、幅広い銘柄に買いが入り、109ドル高(0.69%増加)。ダウの終値が16,000ドルを超えるのは史上初めてとなった。
1122日:米国の超低金利政策が長期間継続するとの見方から、55ドル高(0.34%増加)。
1127日:消費者信頼度指数が速報値から上方修正、週間の新規失業保険申請件数も減少し、投資化心理が改善、25ドル高(0.15%増加)。
1128日:感謝祭直後の年末商戦への期待が高まったが、取引終了時に利益確定売りが高まり、11ドル安(0.07%減少)。11月全体で、ダウは3.5%の増加。

2.イエレン議長候補の上院公聴会証言とバーナンキ議長の講演内容 
米連銀議長の後任に指名されたイエレン副議長は1114日に、上院銀行委員会の公聴会で証言、米国が経済活動や雇用などで景気回復するには道のりが長いとして、引き続き積極的な金融緩和策を継続する必要があることの意向を示しました。また、経済回復が十分でない中で、性急に金融緩和策を止めれば悪い結果をもたらしかねないとして、バーナンキ議長が年内の量的緩和策縮小を予定していた出口シナリオに拘らない考えを示しました。こうしたイエレン副議長の発言を受けて、ダウ価格は14日に55ドル高、15日に85ドルと連日の上昇を続けました。更に、21日にはダウの終値が史上初めて16,000ドルを越える状況になりました。なお、今回のイエレン副議長の発言は量的緩和策が株バブルを起こすに至っていないとの認識であり、急激な株価上昇による金融不安定化を懸念する市場アナリスト達との間で意見の相違を起こしているように見られます。

14日の公聴会でも共和党議員より、連銀による量的緩和策のマクロ経済への影響や資産バブルの懸念に関する質問も出ましたが、一人当たりの持ち時間の制約から、十分な議論が展開されずに終わってしまいました。但し、クロッカー上院議員がイエレン副議長に対して、現在の連銀は市場のプリズナー(過熱市場の否定的反応を恐れ、適切な金融政策が出せない囚人のような状況)になっていないかとの質問は興味あるものだったと思います。なお、上院銀行委員会は21日にイエレン副議長を次期FRB議長にするかどうかの議決を行い、148の票数で承認されました。民主党の11人に加え、共和党の3人も支持に回りました。これにより、上院本会議での採決になりますが、多くの共和党議員が連銀の過度な金融緩和策に反対しており、承認されるにしても票差は僅かになると見られます。

翌日の22日にバーナンキ連銀議長は、量的緩和策よりもフォワードガイダンス(政策金利をいつまで超低金利で維持すべきかといった今後の金融政策の指針)の方が望ましいことを示唆しました。特に量的緩和策の欠陥として、従来から金融専門家が指摘しているように、連銀のバランスシートの規模が大きくなりすぎること(現時点で、対GDP22%まで拡大)、企業業績を前提とする証券市場の機能を損なうリスク、連銀のオペレーションがより複雑になることなどを挙げました。その上で、雇用市場の見通しがかなり改善したと判断される前にも、量的緩和策の終了の可能性を述べたことが注目されました。

3.米国連銀の量的緩和策の評価
前述のバーナンキ議長の講演内容にあったように、今年の米国株式市場はS&P500の株価指数が最高値を更新するのは11月末で38回となっており、 既に1999年の35回を上回り、ITバブル期の1998年の47回以来の頻度になっています。米国経済の改善が緩やかな状況の中で、株式や不動産だけが高値相場を形成していく最大の理由は5年に渡る連銀の大規模な量的緩和策にあります。もちろん、ここまで株式市場が高値になっている状況で、量的緩和策縮小を実行すれば、株式市場の一時的な下落は避けられませんが、その一方、このまま量的緩和策を実行し続ければ、株バブルが強まり、その反動として急激な株暴落が起こる事態になりかねません(1118日に巨額投資家のアイカーン氏が現在の株式市場における企業収益の改善は超緩和的な金融環境に支えられたものであり、大幅な下落もあり得ると発言し、その日の株価は大きく変動しました)。

それと同時に、連銀による量的緩和策が現在のようなグローバルな経済環境の中で、雇用問題の改善にどの程度役立つのかも検証されることが必要になっているように思われます。112日付の英国エコノミスト誌は、米国における労働分配率が1990年代から2000年代にかけて低下している要因について、2つの研究を紹介しています。一つは英国エディンバラ大学のElsby教授、サンフランシスコ連銀のHobijn氏、ニューヨーク連銀のSahin氏の共同研究で、グローバル化による外国との競争で、米国内での労働比率が過去25年間で3.9%低下したことを明らかにしました。もう一つはシカゴ大学のKarabarbounis教授とNeiman教授の共同研究で、過去35年間で技術革新による投資財のコストが25%安くなり、労働比率の低下が起きていることを示しました。マネタリストの研究成果が広く受け入れた30年前の米国は国内経済のウエートが高く、コンピューターなど技術革新も限定的でしたが、現在の米国経済は構造的に変化を遂げており、マネーサプライの増加によって雇用を改善させる試み自体に相当無理があるように思われてなりません。

上記に述べた量的緩和策のマクロ経済に対する限定的な効果は、企業経営と言ったミクロ経済への観点においても問題が生じます。量的緩和策はマネーサプライを増加させる点で、現在のような低成長下の経済であっても、確実に企業の株価を押し上げる効果は持っています。しかし、株価上昇が続く中で、経営者が株主や投資家を満足させるために従来と同じような株価利益率や配当率を維持しようとすれば、経費の中心である従業員への労働分配率を低くせざるを得なくなるはずです。労賃の安い海外移転の加速だけでなく、米国内でも正規社員の数を減らしたり、非正規社員を増加させたりして、一人当たり従業員の労働生産性向上が不可欠になります。こうした点を考えるならば、現在のように株価が高騰している状況で、量的緩和策を続ければ米国内の雇用状況がよくなるなどと言ったことは、ミクロ面でも正当性を欠いているように思われてなりません。

4.ドイツの大連立合意
メルケル首相が率いる政権与党のキリスト教民主・社会同盟(CDUCSU)と最大与党の社会民主党(SPD)は1027日に連立政権樹立で合意しました。合意内容ではSPDが要求していた1時間あたり8.5ユーロの最低賃金を段階的に受け入れると同時に、現在の法定退職年齢を67歳から63歳に引き下げるなど厳しい条件も含まれています。一方、欧州政策ではメルケル首相が主張する緊縮政策の推進が維持され、更に現在提案されている銀行同盟については各加盟国が銀行の破綻処理に一義的な責任を負うことで一致したとされています。なお、この合意には12月中旬に予定されるSPD党員全員による投票が必要で、一部のSPD党員の中には200509年の大連立の失敗から懐疑的な見方もあるようですが、否定されれば欧州連合に対するドイツの威信の問題もあり、最終的には承認されるものと見られます。
           (2013121日: 村方 清)

Friday, November 1, 2013

財政問題先送り後の高値警戒が続く米国市場













110月の株式市場
10月の株式市場は16日に財政問題に一時的解決を図られるまでは極めて不安定な展開となりました。その後は量的緩和策縮小のタイミングが少し延びたとの見方が強くなり、株式市場は上昇しましたが、同時に高値警戒の動きも出てきました。市場の主要な動きは以下の通りです。

101日:暫定予算が成立せず、一部の政府機関が閉鎖されたものの、米サプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数が8月の55.7から9月の56.2へ上昇、投資家心理が改善で、ダウ価格は62ドル高(0.41%増加)。
103日:政府機関の一部閉鎖が長期化するとの見方や米サプライマネジメント協会(ISM)の非製造業景況感指数が8月の58.6から9月の54.4へ低下、週間失業申請件数も増加したことなどから、137ドル安(0.90%減少)。15,000ドルを割るのは96日以来。
104日:暫定予算を巡る与野党の歩み寄りの期待から、76ドル高(0.51%増加)。
107日:暫定予算と債務上限引き上げに関する米国財政問題に関する与野党の交渉難航による警戒感の高まりから、136ドル安(0.90%減少)。
108日:米国財政問題をめぐる議会の交渉が進展せず、160ドル安(1.07%減少)。
109日:オバマ大統領がバーナンキ連銀議長の後任にイエレン副議長を指名、市場も好感したが、財政問題の見通し難から、上昇は限定的で、26ドル高(0.18%増加)。
1010日:週間新規失業申請件数が前週比66,000件増の374,000件で市場予想を大きく上回ったが。下院多数派の共和党が連邦政府の債務上限引き上げを一時的に容認する方針を示したことから、323ドル高(2.18%増加)。
1011日:連邦政府の債務上限引き上げの協議の進展期待から、111ドル高(0.73%増加)。
1015日:連邦政府の暫定予算と債務引き上げ問題で、上院は前者を来年115日まで、後者を2月まで容認する法案を用意との報道が伝えられたが、下院過半数の共和党が外部の圧力を受け、オバマケアの見直しを検討中とされ、133ドル安(0.87%減少)。
1016日:米国上院の与野党が、来年115日までの暫定予算と27日までの債務上限引き上げを認める法案で合意、下院も上院案の議決に同意、206ドル高(1.36%増加)。
1022日:政府発表の非農業部門雇用者数の伸びが前月比148,000人増で市場予想を下回ったため(失業率は7.2%に低下)、量的緩和策継続の期待から、75ドル高(0.49%増加)。
1024日:主要企業による好調な四半期業績が発表され、96ドル高(0.62%増加)。
1029日:9月の小売売上高が減少、更に10月の消費者信頼度指数が71.2と先月から大幅に低下、連銀の量的緩和策が継続するとの見方から、111ドル高(0.72%増加)。
1030日:FOMCは量的緩和策の現状維持を決定したが、米景気に市場の想定ほど慎重でなかったことから、目先の利益確定売りが優勢となり、62ドル安(0.39%減少)。
1031日:昨日のFOMCの声明で今後の量的緩和策の不透明感が増したことから、前日と同じく利益確定売りが優勢で、73ドル安(0.47%減少)

2.暫定予算と債務上限引き上げ問題
101日から新年度が始まったにもかかわらず、暫定予算が成立せず、一部の政府機関が閉鎖されることになりました。また、1017日には連邦政府の債務が上限に達するため、その引き上げが必要になっていました。2012年の中間選挙の結果、下院で躍進を遂げた共和党保守派のティーパーティーグループは外部のヘリテージ財団の指示を受け、この機会に101日から実施中のオバマケアの廃止に向けて、あらゆる手段をとることになりました。これに伴い、下院で多数派の共和党は暫定予算の期限付き財源措置及び債務上限の一時的引き上げを認める代わりに、オバマケアの廃止、資金凍結、1年間延長などの条件を次々と要求しました。

しかし、既に法案となっているオバマケアを廃止、あるいは修正することは上院では共和党議員を含めて多くの支持を得ることができず、完全に失敗しました。そして、債務上限期限前日の16日に上院で与党民主党と野党共和党の妥協案が成立(2014115日までの暫定予算と27日までの債務上限引き上げ、更に超党派の予算協議会の設置)、上院は81票対18票の圧倒的な差で承認されました。一方、下院ではティーパーティーグループを中心に前日までは独自の法案を用意する動きがありましたが、最後はベイナー下院議長が上院案をそのまま議決することを決めました。採決では約87名の共和党議員が民主党議員全員と共に賛成に回り、285票対144票で承認されました。この間の株の動きを見ると、101日のダウは15,191ドルで、108日に14,776ドルまで下落しましたが、1015日に15,170ドルまで戻り、妥協案が成立した16日に205ドルの上昇となりました。

今回、問題が複雑化した背景には本来財政改善のための議論をすべき共和党がティーパーティーグループの影響でオバマケアの廃止に向かって、強硬な手段を取ったことが上げられます。今後も、もし12月半ばまでに提案をまとめる超党派の予算協議会での進展がなければ、ティーパーティーグループの動きによって来年115日以降に再び米国の財政問題が危機に直面する恐れがあります。既に世論では今回の責任が共和党にあるとする意見が53%に及んでおり、彼等への支持率も史上最低の28%まで下がっています。こうした状況にもかかわらず、下院のティーパーティーグループの議員に危機感が薄いのは2年毎に行われる下院選挙の区割りに現役議員の意向が強く反映されるためと言われています。この点、105日付けの英国エコノミスト誌が指摘しているように、こうした下院における選挙制度の改革まで行わない限り、同じような問題が繰り返される懸念があるといえます。

3.イエレン氏の連銀議長指名とFOMCの量的緩和策継続
109日の午後に、オバマ大統領は来年1月末に任期が切れるバーナンキ連銀議長の後任にイエレン副議長を指名しました。オバマ大統領としては915日に本命であったサマーズ元財務長官が候補辞退したこと、更に暫定予算や連邦政府の債務上限引き上げ問題で議会との対立が続いていたこともあり、与党民主党が多数の上院での承認が円滑と見られるイエレン氏を議長に指名したとされています。市場はイエレン氏が量的緩和策の継続を主張していることから、この指名を歓迎、一時的に上昇相場となりました(その日は財政問題の見通し難から、その後は下落)。但し、イエレン氏にはサンフランシスコ連銀総裁時代の1996年に当時のグリーンスパン連銀議長に適正なインフレが必要として金融緩和策の継続を強く主張、これが連銀の長期の低金利政策となり、その後の金融危機の下地を作ったとされるなどの問題点も指摘されています。

1030日に開かれたFOMCの会合では、経済活動は穏やかなペースで拡大を続けており、雇用市場も改善傾向を示しているものの、失業率は依然高い水準にあるとの認識を示しました。その上で、量的緩和策のペースを調整する前には、米国経済と雇用市場の改善が持続的だとする証拠が必要として、現行の量的緩和策(1ヶ月当たり450億ドルの米長期国債と400億ドルの住宅担保証券の購入)の継続を決定しました。また、フェデラルファンド金利の誘導目標の範囲を0.00.25%に維持する事実上のゼロ金利政策の継続も決めました。しかしながら、こうした連銀の量的緩和策の継続決定にも拘らず、市場では高値の株式市場への警戒感もあり、その日のダウ平均価格は62ドルの下落となりました。

連銀の量的緩和策については、元財務長官のサマーズ氏を始めとして幾つかの専門家より、疑問が出されていますが、最近では、それに加えて連銀が保有する債券保有額が3.8兆ドルになっていることや連銀の準備預金残高が法定準備金額の19倍になっているなど連銀の財務内容の不健全さの問題が指摘されるようになっています。LA Times紙は1025日付に”Storm clouds for the Fed”と題するOliner氏(UCLA不動産研究所のシニアフェローで、元連銀調査統計局次長)の論文記事と1029日付けのビジネス版に”Fear grow the Fed may bailout”と題する解説記事で、連銀が現在続けている量的緩和策が連銀の財務内容に深刻な問題を抱えていることを詳細に分析しています。連銀が現在保有する債券は既に長期国債の3分の1と政府保証付け住宅抵当証券の4分の1になっており、もし量的緩和策を継続すれば、2014年末に長期国債の半分と政府保証付け住宅抵当証券の3分の1に達すると予想しています。この結果、連銀の金融政策に大きな制約が出てきていること、更に将来金利が上昇すれば連銀は多額の損失を蒙ることになる恐れがあることを踏まえ(1029日の記事は損失が最終的に米国民の税負担になる可能性に言及)、早晩量的緩和策を続けられない事態が出てくると見ています。また、連銀のこうした過度な金融政策についてはイエレン氏の上院承認の際に、ポール上院議員等の共和党議員が問題にするとの報道も伝わっています。

4.ドイツの連立協議の見通し
923日の総選挙で、第1党の地位を維持したメルケル首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDUCSU)はクリスマスまでの新政権発足を目指し、1023日から最大野党の社会民主党(SPD)との連立協議を始めました。連立協議の課題としては、SPD側が要求する最低賃銀制度の導入、エネルギー費用の高騰を招いている再生可能エネルギー法の見直し、インフラや教育・研究分野への公共投資などで、CDUCSU側は10年以内に公的債務のGDP比率を60%以内に削減することにあるとされています。

SPDが要求する最低賃金制度の導入や再生可能エネルギー法の見直しなどは、CDUCSU内には反対があるものの、最終的には合意できるものと思われるものの、公共投資の増加と公的債務の削減とは相互に相容れないものであり、両党が協議を通じてどのように合意に達するかが注目されます。なお、対ユーロ政策について、SPDは南欧諸国に対して穏健な路線を望んでいますが、ドイツの財政負担増加には慎重であり、合意には問題がないものと見られます。
         (2013111日: 村方 清)

Tuesday, October 1, 2013

不安定要因が増大する高値の米国株式市場

















19月の株式市場
9月の株式市場は8月が約4%の下落となったこともあり、前半は買い戻しが優勢でした。しかし、917日と18日に開かれたFOMCで、予想されていた量的緩和策の縮小が見送られたこともあり、市場が混乱、19日以降は連邦政府の暫定予算や借り入れ限度引き上げ問題も重なり、売りが優勢となる下落相場となりました。主要な動きは以下の通りです。

93日:米サプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数が7月の55.4から8月の55.7へ上昇、投資家心理が改善したが、オバマ政権のシリア攻撃要請に下院共和党幹部が賛意を示したことから、ダウ価格の上昇は24ドル高(0.16%増加)に留まった。
95日:米政府発表の失業申請件数が前週より9000件減少の323,000件で市場予想を下回ったことやISMの非製造業景況感指数が先月の56から58.6になるなど良好な経済指標が相次いだが、6日発表の雇用統計を見極めたいとの姿勢が強く、7ドル高(0.04%増加)。
96日:政府発表の非農業部門の雇用者数の伸びが前月比162,000人の増加で、市場予想(170,000人)を下回ったものの、失業率は7.3%に低下、量的緩和策縮小の見方が強く、15ドル安(0.10%減少)。
99日:中国の輸出などの経済指標が改善したことや米国のシリア攻撃には時間がかかるとの見方から、141ドル高(0.94%高)。
910日:米国によるシリア攻撃の可能性が後退したことから、128ドル高(0.85%増加)。
911日:シリア情勢の緊張感が和らいだことから、136ドル高(0.89%増加)。
916日:サマーズ元財務長官が連銀議長の指名を辞退したため、連銀の緩和的な金融政策が長期化するとの見方から、119ドル高(0.77%増加)。
918日:連銀のFOMCが多くの予想に反して量的緩和策の縮小を見送り、余剰資金の流入が続くとの期待から、147ドル高(0.95%増加)。
919日:前日のFOMCの量的緩和策縮小見送りの決定による株価急伸を受けて、利益確定を目的とする売りが優勢で、40ドル安(0.26%減少)。
920日:FOMCの量的緩和策縮小見送り決定に関する地区連銀理事のコメントや連邦政府の暫定予算をめぐる与野党の対立から、185ドル安(1.19%減少)。
924日:米国の予算や金融政策の不透明感から、67ドル安(0.43%減少)。
925日:米国の予算問題や債務上限引き上げ問題に加え、最大の小売業であるウォルマートの在庫調整による個人消費の低迷懸念から、61ドル安(0.4%減少)。
926日:暫定予算や債務上限引き上げ問題が続いているものの、週間の新規失業申請件数が減少したこともあり、55ドル高(0.36%増加)。
927日:暫定予算を巡る与野党対立で政府機関閉鎖の恐れから、70ドル安(0.46%減少)。
930日:暫定予算の合意が成立せず、政府機関の閉鎖で、129ドル安(0.84%減少)。

2.米連銀による量的緩和措置縮小の見送り
917日と18日に開かれた米国の連銀のFOMCは、市場の多くが予想していた量的緩和措置の縮小を見送る決定をしました。この理由として、①雇用情勢が十分に回復したとは言えないこと、②最近数ヶ月金融情勢が引き締まってきており、これが続くようであれば米国経済や雇用の回復が遅らせる可能性があることを挙げました。この決定の前提となったFOMCの米経済見通しは2013年のGDPが6月時点の2.3%-2.6%から2.0%-2.3%へ引き下げ、2014年も6月時点の3.0%-3.5%から2.9%-3.1%へ下方修正しました。一方、失業率の見通しについては、13年が6月時点の7.2%-7.3%から7.1%-7.2%へ、14年が6月時点の6.5%6.8から6.4%-6.8%へ下限を変更しました。

FOMC後の記者会見で、バーナンキ議長は縮小を見送った理由に連邦政府の暫定予算や借入限度引き上げ問題に伴う市場の不安定さを見守る必要性があることも付け加えました。しかし、今後の量的緩和策の方向性については、年内に縮小を開始し、来年半ばまでに終了させるという5月に示した枠組みに変更がないものの、具体的措置は全て経済活動の進展次第とし、それまで市場に伝えてきたこととは異なる連銀の立場を説明しました。

今回のFOMCの予想外の決定については、従来から連銀は政策の透明性を重視し、バーナンキ議長自身も市場とのコミュニケーションの重要性を強調していたにも拘らず、今回の決定では5月末に市場に示した量的緩和策の方向性を無視するような結果になり、多くの批判を受けることになりました。 具体的には、5月末では量的緩和策の縮小時期について、年内に開始し、来年半ばで終了させるとの大筋のスケジュールを示したにもかかわらず、今回は全てが経済活動の進展次第としてしまったことです。また、量的緩和策変更の基準についても、従来は失業率を重視し、量的緩和策の終了時には7%になるとの基準を示したにもかかわらず、今回は失業率だけでなく、経済成長、物価上昇率、財政問題などを列挙し、何が重要であるかの焦点が曖昧になってしまいました。議長の記者会見後、CNNのインターネットニュースに、Fortune誌のSenior EditorであるGandel氏が“The Fed has lost all credibility”という記事を寄せていますが、恐らく、多くの市場関係者は同じような否定的な反応を持ったように思います。

また、記者会見で、量的緩和策の効果が限界になっているのではないかとの質問についても、雇用状況は金融緩和策だけで改善できるものではないことを認めながら、今後も量的緩和策を続ければ目標とされる6.5%に近づくことになるのかということの明確な説明が殆ど示されませんでした。議長は従来から失業には景気循環による失業と経済の構造変化による失業があり、金融政策で対応できるのは前者であることを繰り返し述べています。しかし、そうであれば、グローバル化による米国経済や企業の構造変化による雇用状況の悪化、あるいは多くの州で財政削減の影響で政府職員が削減されているような状況に対して、量的緩和策がどの程度有効であるのかを明確に説明する必要があると思われました。

加えて、量的緩和策は株や不動産資産を持つ富裕層の所得増加をもたらしていても、賃金所得者である大半のミドルクラスには殆ど恩恵がなく、米国内の所得格差の増大と米国全体の消費が低迷しているとの批判の増加にも注意を払う必要があると思われました(921日付の英国エコノミスト誌はUCバークレーのSaez教授による量的緩和策が富裕層の所得増加に貢献したが、米国経済全体の影響は限定的であったとの見方を紹介しています)。

いずれにしましても、過去2回の量的緩和策に比べ、昨年9月から始められた量的緩和策第3弾の雇用や成長などマクロ経済への影響は限定的であり、同時に株価の急激な上昇が株バブルや所得格差の増加をもたらしていることを考えれば、量的緩和策の出口戦略を明確に打ち出し、それを実行できる連銀の体制確立が急務になっているように思われます。

3.連銀議長最有力候補サマーズ氏の指名辞退
917日から始まったFOMCの前に、次期連銀議長の最有力候補とされ、オバマ大統領が指名する意向を固めていたといわれるサマーズ元財務長官が15日に指名辞退を大統領に伝え、大統領も了承したことが明らかになりました。サマーズ氏については連銀の量的緩和策による雇用や景気回復と言ったマクロ経済の改善の有効性に疑問を持っているとされていました。同時に量的緩和策が長期に大規模に行なった結果、オバマ大統領自身も株価の異常な高騰や所得格差の増加をもたらしていることに懸念を抱いており、FOMCの会合が終了する18日直後に、オバマ大統領がサマーズ氏を指名発表すると見られていました。

サマーズ氏が辞退を決めた背景には上院本会議での承認に先立ち、必要とされる上院銀行委員会(民主党12名、共和党10名で構成)で、与党民主党の内、4名がサマーズ氏の承認に反対し、委員会での承認が不透明になってしまったことが上げられています。反対の民主党議員はサマーズ氏が2008年の金融危機の原因を作った1990年代の金融規制緩和に深く関わっていたことやサマーズ氏の強引な手法を問題にしていたと言われています。

サマーズ氏の辞退で、連邦議長後任有力候補に現在副議長を務めるイエレン氏が上がっていますが、イエレン氏はバーナンキ議長の路線を継承するものと見られており、路線の継承に必ずしも賛成でないオバマ大統領は他の候補も検討していると言われています(候補としてはKohn連銀前副議長やFerguson 連銀元副議長など)。

4.連邦政府の暫定予算と借り入れ限度引き上げ問題
918日の米国株価はダウが約185ドルの大幅な下落となりましたが、その一因が野党・共和党が多数を占める下院で、政府機関の閉鎖を回避するための暫定予算案を可決したことがありました。この予算案では101日から1215日までの政府機関の予算を手当てする一方、オバマ政権が進める医療改革保険制度改革の実行に必要な予算措置を打ち切る内容となっていました。下院の予算案に対して上院は927日に101日から1115日までの予算を手当てし、医療保険制度改革に必要な予算措置を織り込んだ新たな暫定予算案を可決、下院に送付しました。一方、下院は29日に医療保険制度改革の実行を1年間延期させる内容の再修正案を上院送りましたが、上院は下院案を再び拒否、930日までに両院が合意する予算案の成立は困難となりました。これにより、国防や安全などに影響を与えない国立公園、博物館、教育省の一部などの政府機関が一時的に閉鎖に追い込まれる事態に発展しました。

下院共和党で影響力を持つティーパーティグループの目的は、暫定予算を使ってオバマ大統領が進めた医療保険制度の廃止を狙うことにあるとされていますが、その背景には今年1月に上院議員を任期途中で辞任し、共和党系シンクタンクのヘリテージ財団理事長になったDeMint氏が組織的に動いていることが伝えられています(930日付けのブルムバーグ/ビジネスネスウィーク誌)。しかし、昨年11月の大統領選挙で、オバマ大統領が進める医療保険制度について廃止を主張したロム二―候補が敗れ、かつ最高裁判所でも合憲とされたことからすれば、こうしたグループの戦略は全く正当性を欠いていると思われます。

これに加えて、財務省は1017日に連邦政府の借入限度が到達する見通しを発表しました。ここでも、共和党はオバマ政権が財政赤字を根本的に改善する措置を示さない限り、限度額の引き上げに応じないとの立場を取っています。しかしながら、連邦政府の財政赤字はGDP比で、2012年度の7%から2013年度及び2014年度は4%以下になる見通しであり、共和党の主張は妥当性を欠いているように見られます。また、議会が過去に承認した支出内容について、実際の支払い段階で借入限度の引き上げに応じられないというのも無理のある主張のように思えます。いずれにしても、与野党の対立から米国議会で限度額の引き上げが承認されない場合、政府機関の閉鎖だけでなく、公的年金の支払いも停止されることになり、米国経済に多くの悪影響が懸念されるだけに今後の進展が注目されます。

5.メルケル首相の3選やイタリア連立政権崩壊で再燃する欧州債務問題
922日に行なわれたドイツの連邦議会総選挙は、保守系与党のキリスト教民主・社会同盟(CDUCSU)が41.5%と大幅に得票率を伸ばし、第1党の地位を維持しました。しかしながら、従来の連立パートナーであった自由民主党(FDP)が議席確保に必要な5%の得票率に達せず、政権維持のためには新たな連立の枠組みが求められることになりました。

メルケル首相としては25.7%の得票率を獲得した最大野党の社会民主党(SPD)と連立を模索する意向とされていますが、SPDは対ユーロ圏対策で南欧支援に積極的であり、国内対策面でも中高所得者への増税政策を掲げるなど、政策面の調整が必要になっています。

現在、CDUCSUの中では大連立政権樹立のためには、SPDが掲げる所得格差の是正の容認論が出てきていることが伝えられていますが、保守派を中心に増税への反対論も強く、
彼等は脱原発で一致できる緑の党(8.4%の得票率)との連立交渉に入るべきとの意見を主張しています。いずれにしましても、今後、CDUCSUがどの野党と連立を組むかによって、国内問題だけでなく、対ユーロ政策にも影響を与えていくことになり、進展が注目されます。

これに加えて、4月に連立政権が発足したイタリアで、10月に予定する付加価値税(VAT)の税率引き上げをめぐり、凍結を唱える自由国民党の5閣僚が928日に辞任することを表明、連立政権の崩壊の危機が強まっています。この背景には裁判で有罪となり、議員資格剥奪の可能性が高まっている自由国民党のベルスコー二党首の意向があると言われています。もし、連立政権が崩壊すれば、現在イタリアが進めている財政改革の実行が難しくなることは避けられず、欧州危機の再燃に繋がる事態になりかねないことが懸念されます。
           (2013101日:  村方 清)