Tuesday, October 1, 2013

不安定要因が増大する高値の米国株式市場

















19月の株式市場
9月の株式市場は8月が約4%の下落となったこともあり、前半は買い戻しが優勢でした。しかし、917日と18日に開かれたFOMCで、予想されていた量的緩和策の縮小が見送られたこともあり、市場が混乱、19日以降は連邦政府の暫定予算や借り入れ限度引き上げ問題も重なり、売りが優勢となる下落相場となりました。主要な動きは以下の通りです。

93日:米サプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数が7月の55.4から8月の55.7へ上昇、投資家心理が改善したが、オバマ政権のシリア攻撃要請に下院共和党幹部が賛意を示したことから、ダウ価格の上昇は24ドル高(0.16%増加)に留まった。
95日:米政府発表の失業申請件数が前週より9000件減少の323,000件で市場予想を下回ったことやISMの非製造業景況感指数が先月の56から58.6になるなど良好な経済指標が相次いだが、6日発表の雇用統計を見極めたいとの姿勢が強く、7ドル高(0.04%増加)。
96日:政府発表の非農業部門の雇用者数の伸びが前月比162,000人の増加で、市場予想(170,000人)を下回ったものの、失業率は7.3%に低下、量的緩和策縮小の見方が強く、15ドル安(0.10%減少)。
99日:中国の輸出などの経済指標が改善したことや米国のシリア攻撃には時間がかかるとの見方から、141ドル高(0.94%高)。
910日:米国によるシリア攻撃の可能性が後退したことから、128ドル高(0.85%増加)。
911日:シリア情勢の緊張感が和らいだことから、136ドル高(0.89%増加)。
916日:サマーズ元財務長官が連銀議長の指名を辞退したため、連銀の緩和的な金融政策が長期化するとの見方から、119ドル高(0.77%増加)。
918日:連銀のFOMCが多くの予想に反して量的緩和策の縮小を見送り、余剰資金の流入が続くとの期待から、147ドル高(0.95%増加)。
919日:前日のFOMCの量的緩和策縮小見送りの決定による株価急伸を受けて、利益確定を目的とする売りが優勢で、40ドル安(0.26%減少)。
920日:FOMCの量的緩和策縮小見送り決定に関する地区連銀理事のコメントや連邦政府の暫定予算をめぐる与野党の対立から、185ドル安(1.19%減少)。
924日:米国の予算や金融政策の不透明感から、67ドル安(0.43%減少)。
925日:米国の予算問題や債務上限引き上げ問題に加え、最大の小売業であるウォルマートの在庫調整による個人消費の低迷懸念から、61ドル安(0.4%減少)。
926日:暫定予算や債務上限引き上げ問題が続いているものの、週間の新規失業申請件数が減少したこともあり、55ドル高(0.36%増加)。
927日:暫定予算を巡る与野党対立で政府機関閉鎖の恐れから、70ドル安(0.46%減少)。
930日:暫定予算の合意が成立せず、政府機関の閉鎖で、129ドル安(0.84%減少)。

2.米連銀による量的緩和措置縮小の見送り
917日と18日に開かれた米国の連銀のFOMCは、市場の多くが予想していた量的緩和措置の縮小を見送る決定をしました。この理由として、①雇用情勢が十分に回復したとは言えないこと、②最近数ヶ月金融情勢が引き締まってきており、これが続くようであれば米国経済や雇用の回復が遅らせる可能性があることを挙げました。この決定の前提となったFOMCの米経済見通しは2013年のGDPが6月時点の2.3%-2.6%から2.0%-2.3%へ引き下げ、2014年も6月時点の3.0%-3.5%から2.9%-3.1%へ下方修正しました。一方、失業率の見通しについては、13年が6月時点の7.2%-7.3%から7.1%-7.2%へ、14年が6月時点の6.5%6.8から6.4%-6.8%へ下限を変更しました。

FOMC後の記者会見で、バーナンキ議長は縮小を見送った理由に連邦政府の暫定予算や借入限度引き上げ問題に伴う市場の不安定さを見守る必要性があることも付け加えました。しかし、今後の量的緩和策の方向性については、年内に縮小を開始し、来年半ばまでに終了させるという5月に示した枠組みに変更がないものの、具体的措置は全て経済活動の進展次第とし、それまで市場に伝えてきたこととは異なる連銀の立場を説明しました。

今回のFOMCの予想外の決定については、従来から連銀は政策の透明性を重視し、バーナンキ議長自身も市場とのコミュニケーションの重要性を強調していたにも拘らず、今回の決定では5月末に市場に示した量的緩和策の方向性を無視するような結果になり、多くの批判を受けることになりました。 具体的には、5月末では量的緩和策の縮小時期について、年内に開始し、来年半ばで終了させるとの大筋のスケジュールを示したにもかかわらず、今回は全てが経済活動の進展次第としてしまったことです。また、量的緩和策変更の基準についても、従来は失業率を重視し、量的緩和策の終了時には7%になるとの基準を示したにもかかわらず、今回は失業率だけでなく、経済成長、物価上昇率、財政問題などを列挙し、何が重要であるかの焦点が曖昧になってしまいました。議長の記者会見後、CNNのインターネットニュースに、Fortune誌のSenior EditorであるGandel氏が“The Fed has lost all credibility”という記事を寄せていますが、恐らく、多くの市場関係者は同じような否定的な反応を持ったように思います。

また、記者会見で、量的緩和策の効果が限界になっているのではないかとの質問についても、雇用状況は金融緩和策だけで改善できるものではないことを認めながら、今後も量的緩和策を続ければ目標とされる6.5%に近づくことになるのかということの明確な説明が殆ど示されませんでした。議長は従来から失業には景気循環による失業と経済の構造変化による失業があり、金融政策で対応できるのは前者であることを繰り返し述べています。しかし、そうであれば、グローバル化による米国経済や企業の構造変化による雇用状況の悪化、あるいは多くの州で財政削減の影響で政府職員が削減されているような状況に対して、量的緩和策がどの程度有効であるのかを明確に説明する必要があると思われました。

加えて、量的緩和策は株や不動産資産を持つ富裕層の所得増加をもたらしていても、賃金所得者である大半のミドルクラスには殆ど恩恵がなく、米国内の所得格差の増大と米国全体の消費が低迷しているとの批判の増加にも注意を払う必要があると思われました(921日付の英国エコノミスト誌はUCバークレーのSaez教授による量的緩和策が富裕層の所得増加に貢献したが、米国経済全体の影響は限定的であったとの見方を紹介しています)。

いずれにしましても、過去2回の量的緩和策に比べ、昨年9月から始められた量的緩和策第3弾の雇用や成長などマクロ経済への影響は限定的であり、同時に株価の急激な上昇が株バブルや所得格差の増加をもたらしていることを考えれば、量的緩和策の出口戦略を明確に打ち出し、それを実行できる連銀の体制確立が急務になっているように思われます。

3.連銀議長最有力候補サマーズ氏の指名辞退
917日から始まったFOMCの前に、次期連銀議長の最有力候補とされ、オバマ大統領が指名する意向を固めていたといわれるサマーズ元財務長官が15日に指名辞退を大統領に伝え、大統領も了承したことが明らかになりました。サマーズ氏については連銀の量的緩和策による雇用や景気回復と言ったマクロ経済の改善の有効性に疑問を持っているとされていました。同時に量的緩和策が長期に大規模に行なった結果、オバマ大統領自身も株価の異常な高騰や所得格差の増加をもたらしていることに懸念を抱いており、FOMCの会合が終了する18日直後に、オバマ大統領がサマーズ氏を指名発表すると見られていました。

サマーズ氏が辞退を決めた背景には上院本会議での承認に先立ち、必要とされる上院銀行委員会(民主党12名、共和党10名で構成)で、与党民主党の内、4名がサマーズ氏の承認に反対し、委員会での承認が不透明になってしまったことが上げられています。反対の民主党議員はサマーズ氏が2008年の金融危機の原因を作った1990年代の金融規制緩和に深く関わっていたことやサマーズ氏の強引な手法を問題にしていたと言われています。

サマーズ氏の辞退で、連邦議長後任有力候補に現在副議長を務めるイエレン氏が上がっていますが、イエレン氏はバーナンキ議長の路線を継承するものと見られており、路線の継承に必ずしも賛成でないオバマ大統領は他の候補も検討していると言われています(候補としてはKohn連銀前副議長やFerguson 連銀元副議長など)。

4.連邦政府の暫定予算と借り入れ限度引き上げ問題
918日の米国株価はダウが約185ドルの大幅な下落となりましたが、その一因が野党・共和党が多数を占める下院で、政府機関の閉鎖を回避するための暫定予算案を可決したことがありました。この予算案では101日から1215日までの政府機関の予算を手当てする一方、オバマ政権が進める医療改革保険制度改革の実行に必要な予算措置を打ち切る内容となっていました。下院の予算案に対して上院は927日に101日から1115日までの予算を手当てし、医療保険制度改革に必要な予算措置を織り込んだ新たな暫定予算案を可決、下院に送付しました。一方、下院は29日に医療保険制度改革の実行を1年間延期させる内容の再修正案を上院送りましたが、上院は下院案を再び拒否、930日までに両院が合意する予算案の成立は困難となりました。これにより、国防や安全などに影響を与えない国立公園、博物館、教育省の一部などの政府機関が一時的に閉鎖に追い込まれる事態に発展しました。

下院共和党で影響力を持つティーパーティグループの目的は、暫定予算を使ってオバマ大統領が進めた医療保険制度の廃止を狙うことにあるとされていますが、その背景には今年1月に上院議員を任期途中で辞任し、共和党系シンクタンクのヘリテージ財団理事長になったDeMint氏が組織的に動いていることが伝えられています(930日付けのブルムバーグ/ビジネスネスウィーク誌)。しかし、昨年11月の大統領選挙で、オバマ大統領が進める医療保険制度について廃止を主張したロム二―候補が敗れ、かつ最高裁判所でも合憲とされたことからすれば、こうしたグループの戦略は全く正当性を欠いていると思われます。

これに加えて、財務省は1017日に連邦政府の借入限度が到達する見通しを発表しました。ここでも、共和党はオバマ政権が財政赤字を根本的に改善する措置を示さない限り、限度額の引き上げに応じないとの立場を取っています。しかしながら、連邦政府の財政赤字はGDP比で、2012年度の7%から2013年度及び2014年度は4%以下になる見通しであり、共和党の主張は妥当性を欠いているように見られます。また、議会が過去に承認した支出内容について、実際の支払い段階で借入限度の引き上げに応じられないというのも無理のある主張のように思えます。いずれにしても、与野党の対立から米国議会で限度額の引き上げが承認されない場合、政府機関の閉鎖だけでなく、公的年金の支払いも停止されることになり、米国経済に多くの悪影響が懸念されるだけに今後の進展が注目されます。

5.メルケル首相の3選やイタリア連立政権崩壊で再燃する欧州債務問題
922日に行なわれたドイツの連邦議会総選挙は、保守系与党のキリスト教民主・社会同盟(CDUCSU)が41.5%と大幅に得票率を伸ばし、第1党の地位を維持しました。しかしながら、従来の連立パートナーであった自由民主党(FDP)が議席確保に必要な5%の得票率に達せず、政権維持のためには新たな連立の枠組みが求められることになりました。

メルケル首相としては25.7%の得票率を獲得した最大野党の社会民主党(SPD)と連立を模索する意向とされていますが、SPDは対ユーロ圏対策で南欧支援に積極的であり、国内対策面でも中高所得者への増税政策を掲げるなど、政策面の調整が必要になっています。

現在、CDUCSUの中では大連立政権樹立のためには、SPDが掲げる所得格差の是正の容認論が出てきていることが伝えられていますが、保守派を中心に増税への反対論も強く、
彼等は脱原発で一致できる緑の党(8.4%の得票率)との連立交渉に入るべきとの意見を主張しています。いずれにしましても、今後、CDUCSUがどの野党と連立を組むかによって、国内問題だけでなく、対ユーロ政策にも影響を与えていくことになり、進展が注目されます。

これに加えて、4月に連立政権が発足したイタリアで、10月に予定する付加価値税(VAT)の税率引き上げをめぐり、凍結を唱える自由国民党の5閣僚が928日に辞任することを表明、連立政権の崩壊の危機が強まっています。この背景には裁判で有罪となり、議員資格剥奪の可能性が高まっている自由国民党のベルスコー二党首の意向があると言われています。もし、連立政権が崩壊すれば、現在イタリアが進めている財政改革の実行が難しくなることは避けられず、欧州危機の再燃に繋がる事態になりかねないことが懸念されます。
           (2013101日:  村方 清)

No comments:

Post a Comment