Friday, February 1, 2013

独仏の関係強化を確認した欧州市場とオバマ第2期政権がスタートした米国市場
















1.1月の株式市場
1月の株式市場は、欧州については市場に大きな影響を与えるような動きはなかったものの、122日に独仏首脳が独仏友好条約50周年の記念行事を通じて欧州統合の意義を改めて確認したことは重要でした。一方、米国については、121日のオバマ大統領の就任式後に、議会が519日まで連邦政府の借り入れ限度額引き上げを認めることを決定したため、市場に安心感を与えることになりました。市場の主要な動きは以下の通りでした。

12日:“財政の崖”問題が回避されたことから、投資家心理が大幅に改善、201112月以来の上昇幅となる308ドル高(2.35%増加)。
13日:前日の大幅上昇の反動で、目先利益を確定する売りが優勢だったことや連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨で資産購入を13年末に停止あるいは減速させることが適切になる可能性があると指摘したことから、21ドル安(0.16%減少)。
1月4日:米政府発表の12月の雇用増加数は市場予想並みの155000人で(失業率は7.8%で変わらず)、雇用情勢が緩やかに回復との見方から、44ドル高(0.33%減少)。
1月7日:前週末にダウが2ヵ月半ぶりの高値を付けたことから、利益確定の売りが優勢で、51ドル安(0.38%減少)。
19日:米主要企業のアルコアの四半期決算で、売り上げが市場予想ほど減少せず、世界景気や企業業績の先行き懸念が後退して、62ドル高(0.46%増加)。
110日:中国の昨年12月の輸出額が前年同期比で大幅増加し、景気回復への期待感から、投資家の心理が改善、81ドル高(0.60%)。
117日:米労働省発表の週間新規失業申請件数は前週比37千件減の335千件で、市場予想を大幅に下回り、加えて、12月の住宅着工件数も954千戸で4年半振りの高水準になったことから、85ドル高(0.63%増加)。
118日:GEやモルガンスタンレーなどの四半期決算が好調で、米企業の業績改善の期待から、54ドル高(0.39%増加)。
123日:IBMの四半期決算の好調さと米下院が519日までの連邦債務上限の引き上げを認める法案を可決したから、投資家心理が改善し、67ドル高(0.49%増加)。
125日:プロクターギャンブルなど米企業の好決算を背景に、71ドル高(0.51%増加)。
アップル株は前日に続き大きく下落、エクソンが時価相場で20121月以来の首位を奪回。
129日:ファイザーが大幅な増益決算を発表したこともあり、72ドル高(0.52%増加)。
130日:第4四半期のGDPが前期比で0.1%減少したことから、利益確定の売りが優勢で44ドル安(0.32%減少)。
131日:21日の1月雇用統計の発表を控え、様子見ムードが強まり、利益確定の売りが優勢で、50ドル安(0.36%減少)。1月のダウ上昇率は5.8%で、201110月以来。

2.独仏の関係強化と英国の孤立化に向かう欧州連合
1月の欧州市場は、116日にIMFの理事会がギリシャに対する324千万ユーロの追加支援を決定したことを除けば、市場に影響を与えるような大きな動きはありませんでした。しかしながら、欧州連合の将来を見るうえで、重要な出来事が2つほどありました。

その一つは、122日に戦後のドイツとフランスの和解の土台(不戦の誓い)となった独仏友好条約(エリゼ条約)の締結から50周年の記念行事がベルリンで開催されたことです。両国間で経験してきた多くの悲惨な戦争を再び起こさないことを当時のフランスのドゴール大統領とドイツのアデナウアー首相が誓い、両国の友好関係を強めることを目的にしたエリゼ条約が今日の欧州連合の基礎となりました。その意味で、現在、欧州危機の対応をめぐって、財政の規律強化を求めるドイツのメルケル首相と経済拡大のために柔軟な財政・金融政策が求めるフランスのオランド大統領との間には意見の対立があり、両首脳が記念行事を通じて、欧州統合の理念を再び確認できたことは今後の課題の克服に向かって大きな意義があったと思います。

もう一つは、123日に英国のキャメロン首相がロンドンで、2015年総選挙以降、2017年までに英国が欧州連合に残留するか離脱するかを問う国民投票を実施する意向を表明したことです。英国はこれまでも、欧州連合が合意した財政規律強化の政府間協定の署名を拒否したり、欧州委員会が提案した金融取引税も反対してきました。また、最近では英国民の間で脱退への賛同が半数を超えたとされています。その一方、英国の経済界には輸出機会が増加している欧州連合に留まるべきとの意見も強く、キャメロン首相としても、欧州連合問題に何らかの行動を取らざるを得ない立場に追い込まれていました。キャメロン首相の真意は、国民投票の実施計画を示すことにより、国民に2015年の総選挙で与党支持を呼びかけると同時に、他の欧州連合加盟国に連合離脱を仄めかすことにより、欧州連合における英国の特別な地位を認めさせることにあるとされています。しかし、ここ数年、欧州連合内で英国と他の加盟国との対立点が多くなってきており、キャメロン首相が望むような方向で、事態が展開できるかは疑問が残されます。

更に、来月の24日と25日に総選挙を迎えるイタリアでは、辞任したモンティ前首相が選挙のために中道穏健派を形成したものの、財政再建の優先により景気後退が続き、失業率も増加していることから、支持率の低迷が続いています。これに対して、支持率を伸ばしているのが欧州連合離脱を仄めかすベルスコーニ元首相の中道右派とコメディアンのグリッロ氏が率いる五つ星運動で、中道左派の民主党との差を縮めています。現在の見通しでは、労働組合の強い支援を受ける民主党の優位は動かないものの、過半数を獲得できなければ、モンティ前首相の中道穏健派との連立政権になる可能性が高いと見られます。国際金融社会では、モンティ前首相の財政再建路線を維持してもらいたいとの強い希望があり、次期の連立政権でモンティ前首相が財務相等のポストを占めればイタリアへの信頼感に繋がるものと思います。

3.米国経済の一時的な成長鈍化と連銀の金融緩和策維持
米国政府は130日に昨年第4四半期のGDPが前期比で年率換算マイナス0.1%となったことを発表しました。成長率がマイナスとなったのは金融危機時の2009年第2四半期以来のことであり、一部に米国の景気後退を懸念する意見も出てきました。しかし、内訳を見ると、米国GDP7割を占める個人消費は前期比2.2%増加で、また住宅投資や民間設備投資も前期比で各々15.2%と8.4%の増加で民間部門の好調さは続いていることになります。逆に減少となったのは国防費減少などの影響を受けた政府部門と欧州危機などの世界的な成長鈍化から不振であった輸出部門であり、一時的な要因との見方が一般的となっています。

同日に開かれた米国公開市場委員会(FOMC)も、米国景気が一時的な要因で成長が鈍化しているものの、住宅市場や雇用状況は改善傾向にあるとの認識を示しました。その上で、12月に決定した事実上のゼロ金利政策を失業率が6.5%程度に定着するまで継続することを確認しました。また、前回の会合で決定した毎月450億ドルの長期国債買い入れと住宅ローン担保証券と合わせて毎月850億ドルの買い入れを継続することを伝えました。加えて、雇用状況に改善が見られない場合には、必要に応じて追加の緩和措置を講じることを明らかにしました。

4.米国政府の借入限度額引き上げ問題
当初、3月初めに上限を超える可能性が出てくると見られていた米国政府の借入限度額引き上げ問題が、米国政府が予想するキャッシュフローの見通しから、早ければ215日に財源が枯渇する状況になってきました。共和党は当初、今回の借り入れ限度額の引き上げにはメディケアやソーシャルセキュリテイーなどの社会保障関係費の大幅な削減が不可欠であり、最悪の場合でも、借り入れ限度の引き上げ額と同額の歳出削減が伴わない限り、借り入れ限度額の引き上げは認められないとしていました。これに対して、オバマ大統領は114日の第1期政権最後の記者会見で、将来の歳出削減の議論には応じる用意はあるものの、借り入れ限度額の引き上げは過去の連邦政府の債務支払い義務に応じるためで、将来の歳出削減と結びつけるのは正しくないと述べました。

そして、共和党の下院幹部は1月21日のオバマ大統領就任式後に、519日までの支払いに必要とされる借り入れ限度額の引き上げを認め、その時までは借り入れ限度額と歳出削減の結びつきを求めないことで合意、議会でそのための法案が通過しました。この背景には共和党のカンター下院院内総務が述べたように、借り入れ限度の引き上げが認められなければ、米国政府の債務不履行の可能性が高まり、共和党の行動が市場や米国民の支持が得られなくなるという現実的な判断があったものと見られます。

5.オバマ第1期政権の評価と第2期の課題
(第1期の評価)
4年前の2009年1月21日に就任したオバマ政権にとって、米国の経済状況は1929年の大恐慌以来最悪の状態にありました。2008年9月のリーマンブラザース倒産後の米国経済の先行きが完全に不透明であり、株価の急激な落ち込みだけでなく、景気悪化が企業の倒産や失業率を急増させていました。しかし、第2期を迎えるオバマ政権を取り巻く経済環境は当時とは比べられないほど改善されています。 株価は就任時に比べ7割近く上昇、2010年以降は年率2%のプラス成長が続いた結果、失業率も昨年12月には7.8%まで低下するようになりました。但し、財政収支はブッシュ減税の継続と景気刺激のための財政支出の負担が増加した結果、毎年の財政赤字は1兆ドル以上続いたため、累積赤字額のGDP比率は36.8%から69.4%に上昇しました。

1期オバマ政権がそれなりの業績を上げた最大の理由は連銀が金融緩和策を実施してきたことに加え、200811月の選挙で上院、下院とも与党の民主党が過半数を取ったことが大きく、20092月の包括的金融安定化法と米国再生・再投資法、20103月の医療保険改革法、20107月の金融規制改革法を相次いで成立させることができました。しかし、201011月の中間選挙で下院がティーパーティーグループの躍進により、野党の共和党が過半数を占めることになったため、後半2年間は20118月の連邦政府の借り入れ限度額の引き上げ問題を含めて、オバマ政権にとって多くの政策が実行できずに終わってしまいました。

(第2期の課題)
オバマ大統領は121日にワシントンで行われた第2期目の就任式に臨みました。演説の冒頭、1776年の独立宣言などの建国の精神に触れながら、個人の自由や平等の実現し、時代の変革や新たな挑戦に対応するために、今こそ一つの国家、国民として共に行動することの必要性を広く国民に呼びかけました。また、そして米国は少数の人達の成功によるものではなく、米国の繁栄は成長する中間層が大きな責任をもつことによって成り立たなければならないとして、あらゆる米国人が仕事において独立性と尊厳を持ち、同時に仕事からの報酬によって困窮から救われるようにすべき必要性を説きました。財政再建についても赤字削減への厳しい選択が必要である同時に、税制改革が必要であることを求めました。さらに、対立が続く議会に対しては絶対主義を原則と間違えるのではなく、政治を見世物にしたり、中傷を妥当な議論と扱ったりすべきではなく、取り組みが完全でないことを認識しながら、行動すべきことを呼びかけました。最後に、外交については、他国との違いを戦争ではなく、平和的に解決し、世界中の強固な同盟の要として、アジア、アフリカ、中東の民主化を支援していくことを表明しました。

こうしたオバマ大統領の演説に見られるのは米国の内外の変化に応じた柔軟性のある新たな対応であり、リベラルな価値感に基づいた政策の徹底化にあると言ってよいと思います。現在、興味深いのは、オバマ大統領の再選に大きく貢献したキャンペイン組織メンバーが、選挙後も解散されることなく、オバマ政権の政策実現(中間層の充実・拡大だけでなく、新たに銃規制、移民問題、地球環境の変化に対応した法的措置等)に向かって動き出していることであり、米国政治の中でも初めての現象として、注目されています。
            (201321日:  村方 清)