1.2月の株式市場
2月の株式市場は、米国主要企業の昨年第4半期の業績が予想を上回り、ダウ平均価格が一時的に14,000ドルを回復するなど好調でした。しかし、月末になり、イタリアの総選挙後の政治的混乱と米国における歳出の強制削減をめぐる与野党の対立から、再び不安定な市場展開となりました。市場の主要な動きは以下の通りです。
2月1日:米政府発表の1月雇用増加数は15万5000人で(10万人を超えるのは3ヶ月連続)、雇用情勢の回復基調が顕著との見方から(失業率は7.9%に増加)、ダウ平均は149ドル高(1.08%増加)。1万4000ドルを超えるのは2007年10月17日以来、5年4ヶ月振り。
2月4日:スペインの首相や与党幹部の不正資金疑惑を受け、財政再建の不透明感が強まったことから、欧州相場が下落、米国でも株式を売る動きが優勢で、130ドル安(0.93%減少)。
2月5日:ユーロ圏の景況感指数が改善、買いが優勢で99ドル高(15.58%増加)。
2月7日:欧州連銀のドラギ総裁が欧州景気の不透明感を示したことから、利益確定売りが優勢で、42ドル安(0.30%減少)。
2月8日:米政府発表の12月米貿易収支で、赤字幅が前月の改定値の455億ドルから385億ドルへ大幅に改善し、49ドル高(0.35%増加)。
2月12日:オバマ大統領の一般教書で触れる経済政策の期待から、47ドル高(0.34%増加)。
2月14日:ユーロ圏の2012年第4四半期のGDPが0.6%マイナスで、3四半期連続のマイナス成長となったことから、運用リスクを避ける売りが優勢で、10ドル安(0.07%減少)。
2月19日:ドイツの景気予測指数が2010年4月以来の高水準を回復し、欧州の主要株式相場が上昇したこともあり、54ドル高(0.39%増加)。
2月20日:午後に発表された1月29日-30日のFOMCの議事録要旨で、参加した委員が現行の量的緩和策の縮小や停止を議論したことが判明、これを契機に利益確定の売りが優勢となり、108ドル安(0.77%減少)。
2月22日:HPやAIGなどの4半期決算が市場予想を上回り、米企業の業績改善の期待から、120ドル高(0.86%増加)。
2月25日:イタリアの総選挙による政治的混迷や米国の歳出削減のための与野党協議がまとまらないとの見方から、216ドル安(1.15%減少)、昨年11月7日以来の下げ幅。
2月26日:1月の米新築住宅反米件数が大幅に増加したことやバーナンキ連銀議長の上院証言で、現行の金融緩和策の継続が確認されたことから、116ドル高(0.84%増加)。
2月27日:イタリアで実施された国債入札で一定の需要を集め、資金調達懸念の後退やバーナンキ連銀議長の下院証言で、量的緩和策の継続が確認され、175ドル高(1.26%増加)。
2月28日:連邦政府の歳出の強制削減措置の発動が避けられず、取引終了間際で利益確定売りが優勢となり、21ドル安(0.15%減少)。
2.欧州経済の低迷とイタリアの政治的混乱
欧州中央銀行のドラギ総裁は2月7日の理事会終了後に記者会見を開き、ユーロ圏経済は2013年の早い時期は下向きリスクが存在するが、それ以降は緩和的な金融政策、金融市場への信頼回復、世界的な需要の高まりで、経済活動は緩やかに回復していくとの見通しを述べました。その上で、主要政策金利のリファイナンス金利を0.75%に据え置き、下限の中銀預金金利をゼロに、上限の限界貸出金利も1.5%に据え置く決定をしたことを説明しました。また、必要に応じ、銀行システムに流動性を供給する用意があることも伝えました。
一方、欧州連合(EU)統計局が2月14日に発表した第4四半期におけるユーロ圏域内GDP速報値は前期比0.6%減でとなり、第3四半期の0.1%からマイナス幅が拡大しました。これにより、2012年通年のユーロ圏GDPは0.5%減で、2012年は1995年以来初めて、四半期全てが全く成長しなかったことになります。
最大の要因はユーロ圏のリード役であるドイツとフランスがいずれも0.6%減と0.3%減になったことにあります。ドイツの場合、成長に欠かせない輸出が大きな打撃を受け、輸入を大きく上回る落ち込みとなりました。一方、フランスは第1と第2四半期のGDPが0.1%減に下方修正され、一時的なリセッションに陥っていたことが響きました。
更に、2月22日に欧州委員会は2013年の成長率見通しを昨年11月のプラス0.1%からマイナス0.3%に引き下げる予想を発表しました。これはユーロ圏最大の経済規模を持つドイツの経済成長見通しが昨年11月の0.8%から0.5%へ下方修正されたことが大きく影響しています。いずれにしましても、財政面で大きな制約を抱えるユーロ圏の経済回復は2014年まで待たざるを得ない見通しとなっています。
なお、注目されていたイタリアの総選挙は2月24日と25日に行われましたが、下院は民主党などの中道左派連合の得票率が29.5%で、第1党となり、多数派(340議席)となりました。しかし、上院は中道左派が第1党になったものの、過半数には大きく届きませんでした。新政権の発足には上下両院の信任が必要となりますが、中道左派が政権を確立するには中道右派を含めた大連立が条件となります。しかし、緊縮策による財政再建の改革継続を唱える中道左派と反緊縮策を主張する中道右派が連立を組むことは極めて難しく、再選挙となる可能性も出てきました。こうしたイタリアの政治的混迷は市場に債務問題が再燃しかねないとの懸念を起こさせ、2月25日のダウ価格は216ドルの下落となりました。
3.オバマ大統領の一般教書演説
オバマ大統領は2月12日に新年度の一般教書を発表しました。最初に現在党派間の対立から行き詰まっている議会に対し、51年前のケネディ大統領の演説の言葉を引用しながら、“合衆国憲法は議会が権力のためのライバルではなく、進歩のための仲間の集まりである”として、具体的な行動の必要性を訴えました。また、今回の一般教書は第2期目の最初の年ということもあり、ミドルクラスの雇用創出、移民法改正、銃規制強化など野心的な目標を掲げました。
まず、雇用創出について、米国経済は雇用を増やしつつあるが、依然多くの人がフルタイムの職を見つけられず、企業利益は過去最高水準に達したにもかかわらず、賃金所得はここ10年間殆ど変わっていないことを指摘しました。その上で、最低賃金の現行7.25ドルから9ドルへの引き上げ、更に老朽化した橋梁の補修などのインフラ整備に500億ドルの支出を議会に要請しました。次に、移民問題については、国境の警備強化、不法移民の雇用者の処罰、そして1100万人といわれる移民者への市民権付与などを提案しました。
更に、現在米国民の関心が最も高い銃規制については、12月のコネチカット州の小学校乱射事件の家族や最近銃の犠牲になったシカゴの15歳の少女の家族を連邦議会に招きながら、全ての銃販売に身元調査の義務付け最近の全ての銃販売に身元調査の義務付け、殺傷能力の高いアサルト・ウエポンや大量の弾丸を装填できる弾倉の販売禁止を提案、議員に対して、法案の是非についての参加を求めました。
一方、財政問題については、追加的な措置で財政赤字を増やすことなく、1年半前に与野党で合意した財政の枠組みを順守しながら、大きな政府ではなく、優先事項を設定し、広範な成長に投資するスマートな政府を目指す方針を示しました。また、税金については、法人税を現行の35%から28%へ引き下げると共に、減税措置を撤廃し、富裕層に増税を求めました。なお、製造業については、それ以外の企業に課される税率よりも低い特別税率を適用するとしています。
貿易については、欧州首脳が先に合意した欧州連合と米国の包括的な自由貿易協定(FTA)締結に向けて正式な交渉を開始することを呼びかけました。外交問題では、アフガニスタンに展開する6万6000人の内、3万4000人を2014年初めまでに撤収する方針を示しました。最後に、一般教書演説まで24時間弱というタイミングで核実験を行なった北朝鮮を厳しく非難すると同時に、北朝鮮からの脅威を対応するため、ミサイル防衛を強化する方針を示しました。
なお、一般教書発表後のCNNの調査では、オバマ大統領の一般教書演説を大変よかったとするものが53%、よかったものが24%で、合わせて77%が前向きの反応を示しました。
一般教書発表後、共和党はフロリダ州選出のルビオ上院議員がオバマ大統領の提案は政府依存度を高めるだけで、民間部門の発展が損なわれかねないとの反論演説を行ないました。しかし、ルビオ議員は反論演説の中で、キューバからの移民の子として、自分も親が米国政府の様々なプログラムの恩恵を受けてきたミドルクラスの一員であることを強調しながら、そうした政府のプログラムを軽視するのは論理性に欠けているとのコメントがMSNBCの政治解説者であるChris
Matthews氏から出されました。
4.連銀議長の議会証言と米国歳出の強制削減
バーナンキ連銀議長は2月26日に上院銀行住宅都市委員会で半期に1度の金融政策報告を行ないました。その中で、米国経済は緩やかなペースで回復を続けており、昨年第4四半期の実質GDPが停滞したのは一時的な要因であり(政府は28日にプラス0.1%に上方修正)、今年の経済成長は再び上向く見通しを示しました。しかし、失業率は長期的に正常な水準を大きく上回っており、依然弱い水準にあるとの認識を伝えました。
また、現在実施されている月額850億ドルの債券購入による量的緩和策について、その効果は潜在的コストを上回っており、今後も雇用状況の著しい改善が見られるまでは、この政策を続けることを表明しました。一方、1月29日と30日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、一部の委員から雇用状況の改善の前に量的緩和策の縮小や廃止が必要になると指摘されたこともあり、適切な時期に金融緩和策を修正するために必要なあらゆる手段を備えていると言明しました。同時に、現在の状況に対処するリスク・フリーの手段はなく、何の措置も講じないことのリスクもまた深刻であり、これらのバランスを取りながら最善を尽くしていく必要があることを主張しました。
更に、3月1日から予定されている約850億ドルの政府歳出の強制削減(防衛関連支出と非貿易関連支出で半分づつ)については、バーナンキ議長は回復を示している米国景気に悪影響を与えるものとして、削減は短期的には緩やかに、長期的に大幅な財政削減を目指す政策を検討すべきことを議会に提案しました。議長の提案は現在議会で増税による歳入増の取り扱いで行き詰まっている与野党の議論に何らかの進展を与えることが期待されましたが、両党のイデオロギー的な対立は根深く、3月1日からの強制削減措置が避けられなくなりました。今後の見通しについては、現在実施中の暫定予算は3月末が期限であり、加えて強制削減措置の悪影響が次第に強まっていくことから、3月末までには両党による何らかの合意が達成されるのではないかと見られています。
(2013年3月1日: 村方 清)