Friday, November 1, 2013

財政問題先送り後の高値警戒が続く米国市場













110月の株式市場
10月の株式市場は16日に財政問題に一時的解決を図られるまでは極めて不安定な展開となりました。その後は量的緩和策縮小のタイミングが少し延びたとの見方が強くなり、株式市場は上昇しましたが、同時に高値警戒の動きも出てきました。市場の主要な動きは以下の通りです。

101日:暫定予算が成立せず、一部の政府機関が閉鎖されたものの、米サプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数が8月の55.7から9月の56.2へ上昇、投資家心理が改善で、ダウ価格は62ドル高(0.41%増加)。
103日:政府機関の一部閉鎖が長期化するとの見方や米サプライマネジメント協会(ISM)の非製造業景況感指数が8月の58.6から9月の54.4へ低下、週間失業申請件数も増加したことなどから、137ドル安(0.90%減少)。15,000ドルを割るのは96日以来。
104日:暫定予算を巡る与野党の歩み寄りの期待から、76ドル高(0.51%増加)。
107日:暫定予算と債務上限引き上げに関する米国財政問題に関する与野党の交渉難航による警戒感の高まりから、136ドル安(0.90%減少)。
108日:米国財政問題をめぐる議会の交渉が進展せず、160ドル安(1.07%減少)。
109日:オバマ大統領がバーナンキ連銀議長の後任にイエレン副議長を指名、市場も好感したが、財政問題の見通し難から、上昇は限定的で、26ドル高(0.18%増加)。
1010日:週間新規失業申請件数が前週比66,000件増の374,000件で市場予想を大きく上回ったが。下院多数派の共和党が連邦政府の債務上限引き上げを一時的に容認する方針を示したことから、323ドル高(2.18%増加)。
1011日:連邦政府の債務上限引き上げの協議の進展期待から、111ドル高(0.73%増加)。
1015日:連邦政府の暫定予算と債務引き上げ問題で、上院は前者を来年115日まで、後者を2月まで容認する法案を用意との報道が伝えられたが、下院過半数の共和党が外部の圧力を受け、オバマケアの見直しを検討中とされ、133ドル安(0.87%減少)。
1016日:米国上院の与野党が、来年115日までの暫定予算と27日までの債務上限引き上げを認める法案で合意、下院も上院案の議決に同意、206ドル高(1.36%増加)。
1022日:政府発表の非農業部門雇用者数の伸びが前月比148,000人増で市場予想を下回ったため(失業率は7.2%に低下)、量的緩和策継続の期待から、75ドル高(0.49%増加)。
1024日:主要企業による好調な四半期業績が発表され、96ドル高(0.62%増加)。
1029日:9月の小売売上高が減少、更に10月の消費者信頼度指数が71.2と先月から大幅に低下、連銀の量的緩和策が継続するとの見方から、111ドル高(0.72%増加)。
1030日:FOMCは量的緩和策の現状維持を決定したが、米景気に市場の想定ほど慎重でなかったことから、目先の利益確定売りが優勢となり、62ドル安(0.39%減少)。
1031日:昨日のFOMCの声明で今後の量的緩和策の不透明感が増したことから、前日と同じく利益確定売りが優勢で、73ドル安(0.47%減少)

2.暫定予算と債務上限引き上げ問題
101日から新年度が始まったにもかかわらず、暫定予算が成立せず、一部の政府機関が閉鎖されることになりました。また、1017日には連邦政府の債務が上限に達するため、その引き上げが必要になっていました。2012年の中間選挙の結果、下院で躍進を遂げた共和党保守派のティーパーティーグループは外部のヘリテージ財団の指示を受け、この機会に101日から実施中のオバマケアの廃止に向けて、あらゆる手段をとることになりました。これに伴い、下院で多数派の共和党は暫定予算の期限付き財源措置及び債務上限の一時的引き上げを認める代わりに、オバマケアの廃止、資金凍結、1年間延長などの条件を次々と要求しました。

しかし、既に法案となっているオバマケアを廃止、あるいは修正することは上院では共和党議員を含めて多くの支持を得ることができず、完全に失敗しました。そして、債務上限期限前日の16日に上院で与党民主党と野党共和党の妥協案が成立(2014115日までの暫定予算と27日までの債務上限引き上げ、更に超党派の予算協議会の設置)、上院は81票対18票の圧倒的な差で承認されました。一方、下院ではティーパーティーグループを中心に前日までは独自の法案を用意する動きがありましたが、最後はベイナー下院議長が上院案をそのまま議決することを決めました。採決では約87名の共和党議員が民主党議員全員と共に賛成に回り、285票対144票で承認されました。この間の株の動きを見ると、101日のダウは15,191ドルで、108日に14,776ドルまで下落しましたが、1015日に15,170ドルまで戻り、妥協案が成立した16日に205ドルの上昇となりました。

今回、問題が複雑化した背景には本来財政改善のための議論をすべき共和党がティーパーティーグループの影響でオバマケアの廃止に向かって、強硬な手段を取ったことが上げられます。今後も、もし12月半ばまでに提案をまとめる超党派の予算協議会での進展がなければ、ティーパーティーグループの動きによって来年115日以降に再び米国の財政問題が危機に直面する恐れがあります。既に世論では今回の責任が共和党にあるとする意見が53%に及んでおり、彼等への支持率も史上最低の28%まで下がっています。こうした状況にもかかわらず、下院のティーパーティーグループの議員に危機感が薄いのは2年毎に行われる下院選挙の区割りに現役議員の意向が強く反映されるためと言われています。この点、105日付けの英国エコノミスト誌が指摘しているように、こうした下院における選挙制度の改革まで行わない限り、同じような問題が繰り返される懸念があるといえます。

3.イエレン氏の連銀議長指名とFOMCの量的緩和策継続
109日の午後に、オバマ大統領は来年1月末に任期が切れるバーナンキ連銀議長の後任にイエレン副議長を指名しました。オバマ大統領としては915日に本命であったサマーズ元財務長官が候補辞退したこと、更に暫定予算や連邦政府の債務上限引き上げ問題で議会との対立が続いていたこともあり、与党民主党が多数の上院での承認が円滑と見られるイエレン氏を議長に指名したとされています。市場はイエレン氏が量的緩和策の継続を主張していることから、この指名を歓迎、一時的に上昇相場となりました(その日は財政問題の見通し難から、その後は下落)。但し、イエレン氏にはサンフランシスコ連銀総裁時代の1996年に当時のグリーンスパン連銀議長に適正なインフレが必要として金融緩和策の継続を強く主張、これが連銀の長期の低金利政策となり、その後の金融危機の下地を作ったとされるなどの問題点も指摘されています。

1030日に開かれたFOMCの会合では、経済活動は穏やかなペースで拡大を続けており、雇用市場も改善傾向を示しているものの、失業率は依然高い水準にあるとの認識を示しました。その上で、量的緩和策のペースを調整する前には、米国経済と雇用市場の改善が持続的だとする証拠が必要として、現行の量的緩和策(1ヶ月当たり450億ドルの米長期国債と400億ドルの住宅担保証券の購入)の継続を決定しました。また、フェデラルファンド金利の誘導目標の範囲を0.00.25%に維持する事実上のゼロ金利政策の継続も決めました。しかしながら、こうした連銀の量的緩和策の継続決定にも拘らず、市場では高値の株式市場への警戒感もあり、その日のダウ平均価格は62ドルの下落となりました。

連銀の量的緩和策については、元財務長官のサマーズ氏を始めとして幾つかの専門家より、疑問が出されていますが、最近では、それに加えて連銀が保有する債券保有額が3.8兆ドルになっていることや連銀の準備預金残高が法定準備金額の19倍になっているなど連銀の財務内容の不健全さの問題が指摘されるようになっています。LA Times紙は1025日付に”Storm clouds for the Fed”と題するOliner氏(UCLA不動産研究所のシニアフェローで、元連銀調査統計局次長)の論文記事と1029日付けのビジネス版に”Fear grow the Fed may bailout”と題する解説記事で、連銀が現在続けている量的緩和策が連銀の財務内容に深刻な問題を抱えていることを詳細に分析しています。連銀が現在保有する債券は既に長期国債の3分の1と政府保証付け住宅抵当証券の4分の1になっており、もし量的緩和策を継続すれば、2014年末に長期国債の半分と政府保証付け住宅抵当証券の3分の1に達すると予想しています。この結果、連銀の金融政策に大きな制約が出てきていること、更に将来金利が上昇すれば連銀は多額の損失を蒙ることになる恐れがあることを踏まえ(1029日の記事は損失が最終的に米国民の税負担になる可能性に言及)、早晩量的緩和策を続けられない事態が出てくると見ています。また、連銀のこうした過度な金融政策についてはイエレン氏の上院承認の際に、ポール上院議員等の共和党議員が問題にするとの報道も伝わっています。

4.ドイツの連立協議の見通し
923日の総選挙で、第1党の地位を維持したメルケル首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDUCSU)はクリスマスまでの新政権発足を目指し、1023日から最大野党の社会民主党(SPD)との連立協議を始めました。連立協議の課題としては、SPD側が要求する最低賃銀制度の導入、エネルギー費用の高騰を招いている再生可能エネルギー法の見直し、インフラや教育・研究分野への公共投資などで、CDUCSU側は10年以内に公的債務のGDP比率を60%以内に削減することにあるとされています。

SPDが要求する最低賃金制度の導入や再生可能エネルギー法の見直しなどは、CDUCSU内には反対があるものの、最終的には合意できるものと思われるものの、公共投資の増加と公的債務の削減とは相互に相容れないものであり、両党が協議を通じてどのように合意に達するかが注目されます。なお、対ユーロ政策について、SPDは南欧諸国に対して穏健な路線を望んでいますが、ドイツの財政負担増加には慎重であり、合意には問題がないものと見られます。
         (2013111日: 村方 清)